ハーバード大学の歴史学者ニアール・ファーガソン教授が、最近の安倍政権主導の円安政策を擁護すると読める寄稿をFTに寄せていた。
日本の円安政策についてはドイツ連銀のウィードマン総裁が為替戦争を引き起こすと警鐘を鳴らすと、甘利経済産業大臣が「ドイツはユーロという域内単一通貨のメリットを輸出を通じて最大に享受している。彼は批判する立場ではない」と反論するなど応酬が続いている。
ファーガソン教授は4つの点から日本の立場を援護するような意見を述べていた。
第1は為替をめぐる争いの歴史は古く今に始まった話ではない。例えば大恐慌後英国は金本位制を廃止し、金融政策を国内需要に焦点をあてたものとした。これは各国の平価切下げ競争を招いたが、英国は金利を下げたことで住宅市場を回復させ景気回復に結びつけた。もう少し近い所では米国のいわゆるニクソンショックがある。
第2の論点は「日本は1980年代の終わり頃から静止状態にある。円ベースの名目GDPは20年前と変わらず、公的債務は持続不可能なほどに大きく、人口動態は世界最悪。だから少し大目に見てやれ」というもの。
第3の論点は「日銀の新たな金融緩和政策は規模の上では、米連銀の緩和策に較べると小さい」というものだ。日銀が2014年度に購入するのは満期が近い国債が中心で純増額は10兆円、GDPの約2%だ。
一方米連銀はリーマンショック以降もっと積極的な金融緩和策を取り、先週連銀のバランスシートは史上初めて3兆ドルを超えた。もし連銀がこの勢いで今年中資産購入を続けるとその額はGDPの6-7%に相当する1兆ドルに達すると同教授はいう。
最後の論点は短期的な為替の動きだけでなく、長期的な動きや実質実効為替レートに注目するべきだと同教授は述べる。
実質実効為替レートについてはBISや日銀などが計算を行なっている。計算主体により若干の違いはあるが、傾向はほぼ同じだ。円は1994年に最高値をつけた後(ドル円レートでは95年4月に79.75円をつけた)、デフレ効果で実効為替レートは低下を続け、2007年には94年比3分の2程度まで下がった。リーマン・ショック後11年10月まで実行為替レートが27%上昇するという急速な円高が進んだ。最近の日本の政策はこの急速な円高を是正しようとするものに過ぎない、と同教授は述べる。
ついでにいうと過去5年半の間で活発な為替戦争を行ったのは韓国と英国だった。韓国ウォンの実効為替レートは07年8月以降19%下落し、ポンドは17%下落した。
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コラムニスト。元三井アセット信託銀行執行役員
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