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防衛の空
 三五〇〇〇フィート(一〇六七〇メートル)の空にはもう雲はない。比較対象物のない空間にはスピード感がなく、時間がゆっくり流れるようで穏やかだ。見上げれば上空は青空というより黒に近い紫の空が広がっている。太陽の日差しがまぶしい。その痛いような太陽光が肌を刺して心地よい。眼下は一面灰色の雲が広がっている。柔らかい絨毯のようで雲に切れ間が見えない。
 現在、大気速度マッハ〇.九五で宮城県気仙沼市より東に六〇キロの太平洋上空を南南西に向かって飛行している。F-15Jパイロット川嶋紀之二等空尉は本日、山下登三等空尉を二番機として編隊を組んでいる。二機の距離は一八〇〇メートル離れ、二番機は一番機の約一〇度後方、二二〇メートル上方に位置している。
 約三〇分前、北海道千歳市に基地を置く北部航空方面隊第二〇一飛行隊にホットスクランブルが発令された。
 北海道襟裳町、続いて、岩手県山田町に設置された警戒管制レーダーが突然防空識別圏内に高々度より侵入する国籍不明機を捕らえた。情報はすぐに防空指令所に送られる。この機影は日本領空に近づく驚異な状況であると判断された。すでに岩手県釜石市東二四〇キロの位置にあり太平洋上を南南西に移動している。速度マッハ〇.六。領空侵犯のおそれがある。一刻の猶予もない。バトルステーション態勢もコクピットスタンバイ態勢も飛び越え、最上位アラートのホットスクランブルに、アラート待機中の川嶋、山下は大慌てになった。
 国籍不明機はアンノウンと呼ばれる。敵なのか味方なのか緊急に確認することが必要だ。このままではすぐに日本本土に接近する。
 川嶋紀之。タックネーム、カーキー。タックネームとは各パイロットが持つコールサイン。川嶋の”カ”と紀の”キ”を取ってカーキー。カーキーのMFD(マルチ・ファンクッション・ディスプレイ)にはアンノウンの情報が表示されている。地上レーダーサイトと遙か彼方で探索中のE-2C早期警戒機からデータリンクで送られてくる情報だ。僚機山下のコクピットにも同じ情報が表示されているだろう。情報では約三十マイル(四八.二八キロ)前方にいると表示されている。カーキー、山下のレーダーは現在オフ状態。VFR(有視界飛行)で飛行。データリンクの情報を頼りにターゲットを追尾中。ターゲットからはレーダーサーチを行なっている様子がうかがえない。自分のレーダー波を探知されるのを恐れてのことか? しかし探知を恐れてレーダーを出していないのならば無意味だ。こちらはすでにデータリンクで確認ずみだ。こちらを無視しているのか? もしくはこちらの位置を知るためにレーダー照射を待っているのか? アンノウンが敵でレーダー照射を待っているとすれば、うかつに照射するのは危険だ。レーダーサーチを行なった瞬間、こちらの居所を教えることになる。そのままロックオンされてミサイルを発射されたら危機的状況に陥る。距離三十マイルはAMRAAM(アムラーム)の射程距離に入る。アムラールはレーダー波を受信することで目標を追尾するミサイルで、ターゲットから出るレーダー波を一度捕らえれば、自ら持つレーダーシーカーによってロックオンが可能だ。したがって母機はアムラーム発射以降、レーダーを使用して見守る必要はない。目標とされた機は突如現れたミサイルに発射した機体を確認することもなく追われることになる。もし今レーダーを使いアンノウンから攻撃されたらF-15には対抗策がない。スクランブルで上がったF-15には中距離ミサイルの装備がない。あるのは射程三五キロの短距離ミサイルAAM-5と二〇ミリバルカン砲だけだ。
 アンノウンはすでに宮城県仙台市の東二〇〇キロに迫った。方面隊境界線を越え、北部航空方面隊の防空ブロックから中部航空方面隊のブロックへと移った。データリンク上に新たな機影が映り込んだ。百里三〇五から上がった自衛隊機二機だ。

 府中・総隊司令部 中央指揮所

「百里より要撃機上がりました。コールサイン・アスター01、02」地下指令室のスピーカを通し、部屋全体に伝わる。
 薄暗い司令室内に超大型情報表示ディスプレイが明るく輝いている。
 先任司令官の青山一樹二佐は、通話用のヘッドセットを通し、前に座る管制官の一人に話しかけた。「アンノウンの進路は変わらないか?」
「変わりません」すぐにヘッドフォンへ声が帰る。
 前面に広がる超大型ディスプレイに百里の二機と千歳の二機の緑の三角形、それにアンノウンを示すオレンジの三角形の位置が東北関東地区をズームアップにした地図上に表示されている。日本上空にはその他多くの機が飛行中だが、五つの表示以外の情報はディスプレイ上から消してある。民間航空機や他の機体など、識別されている航空機は表示していないだけでモニターは続けている。
「会敵はまだか」
「追ってるモールがあと二分で接触します」
「音速を超えさせろ。確認急げ」
 アンノウンが確認されない今はまだ音声通話無線の封鎖が行なわれている。音声を使用し通信すると、それを相手に傍受される可能性があり、作戦内容を見抜かれてしまう。そのため、音声信号は送らず、データリンクで指示情報を飛ばしている。
 青山一樹はこくこくと本土に迫るオレンジの三角形をにらみつけた。
「あの不明機はなんだ。想像がつくか」
「現時点では判断つきません」管制官が正直に答える。
「本土近郊に突然現れた。それも太平洋側だ。これが北ならロシア、北朝鮮。西なら中国と想像が付く。しかし、東から来た。なぜだ。東は隣接する国はない。太平洋の先はアメリカだ。まさか米軍がフライトプランなしで単独飛行は考えられない。レーダーをかいくぐり日本本土まで来た? そんなことが可能なのはステルス機? F-22? もしF-22なら、もしF-22が本気で攻撃を企てたらどうなる。F-15で勝てるのか? 模擬戦で一度も勝てていないんだぞ」
 青山はそんな不安を抱きながらも慎重だった。
 F-22Aラプター。アメリカが開発した第五世代戦闘機で現存する戦闘機の中で運動性、ステルス性など最強の能力を持っている。F-15と模擬戦で戦ったときは一四四戦して無敗と完全勝利を収めている。
 距離五〇キロでアムラームを打たれたら、F-15は応戦できない。振り切るしかない。しかし、音速を超えるエネルギーを持って接近すれば交わせる可能性はでてくる。ターゲットの進行方向から考えて今はテール側を向けていると想像できる。オフボアサイト発射が可能だとしても、一瞬のタイムラグはあるはずだ。一気に接近して相手の懐へ飛び込む。そうすれば勝算はある。
 管制官から情報が伝わる。「米軍からF-22の発進は確認されていません。保有数も確認ずみです」
 青山は答えながら腕を組んだ。「政治が絡む問題だ。報告をそのまま鵜呑みにするな」

 千歳二〇一、宮城県気仙沼市東六〇キロ上空

 データリンク指示を確認したカーキーは迷うことなく左手に握るスロットルを前に押し込みアフターバーナーに点火した。
 山下の機体からもアフターバーナーの輝きが空に伸びる。
 二機のポジションが乱れることはない。お互いに癖を知り尽くし信頼をしている。すぐに音速を超えた。軽い揺れを感じた後、衝撃波を置き去りにして加速を続けた。マッハ一.二。二機のF100-IHI220Eエンジンにストレスは感じない。マッハ一.四。マッハ一.五。マッハ一.五は増槽を搭載しているときの限界速度だ。スロットルを数ミリ手前に引きアフターバーナーを緩めた。データリンク情報ではアンノウンに対し三五キロまで迫った。アンノウンはミサイルを発射した様子はない。カーキーは顔を締め付けるマスクの中で大きく息を吐いた。速度マッハ一.五を維持。アンノウンとの距離は一気に狭まった。

 府中・総隊司令部 中央指揮所

「アンノウンからの攻撃はありません。あと数十秒で会敵します」モニターを続ける管制官が報告をする。
 緑とオレンジの三角形シンボルは福島県南相馬市の東一五〇キロの位置で急接近する。
 すでに目視確認できる距離にある。ここまで接近すればアンノウンとの優劣はない。ドッグファイトにも勝算はある。青山は音声無線封鎖を解いた。
「レーダーの使用を許可する。ターゲットに接近して正体をつきとめろ」
 青山の指示を受け管制官はヘッドセットのスイッチを入れた。
「モール01、02通信回線開け。音声封鎖終了。火気管制レーダーの使用を許可。ターゲットに接近して報告せよ」

 千歳二〇一、福島県南相馬市東一五〇キロ上空

 カーキーの耳に指示の声が届く。緊張のベールが一枚はがれた。もう一度深呼吸をして指示を復唱した。
「了解。無線封鎖終了。データリンクを切り、レーダーでターゲットをサーチする」
 カーキーは無線を使い山下に交信する。
「アプダ。ターゲットに接近する。フォーメーションを組め」
 アプダは山下のタックネーム。山下登の名前から、下に降りたり登ったりで、アップダウン。しかし、アップダウンではコールが長いので、縮めてアプダ。カーキーが勝手に付けて、以後隊員たちからもそう呼ばれるようになった。山下も気にいっている。
「了解」アプダは操縦桿を軽く左に倒した。一八〇〇メートルはなれていた両機の距離が一気に狭まる。
 カーキー機、ターゲットまで三〇キロたらず。このままではターゲットを追い抜いてしまう。スロットルをさらに緩め速度調整。その後すぐにアプダの二番機が横に付く。翼端の間隔は横に一メートル、上方一メートルに接近し編隊を組む。
 カーキーはアプダ機のコクピットに目を送った。アプダは親指を立てて挨拶してくる。カーキーも親指を立てて答える。
 カーキー機のMFDの表示は、すでにデータリンクから離れ、火気管制レーダー表示へ切り替わっている。エアーサーチモードは六〇度で探知範囲を広くとっている。探知範囲を広げると探知距離が短くなるが、ターゲットまでは三〇キロを切っているはずなので十分探知できるはずだ。
 レーダー上に未確認機を示す四角いシンボルが表示された。右に約五度。距離約二七キロ。高度三三〇〇〇フィートと表示。目が良ければ目視で確認できるはずだ。カーキーはレーダーが示す方向に目を向ける。ターゲットは戦闘機か? 偵察機か? 神経を集中するが見つけられない。カーキーはアプダに確認した。「見えるか?」
 アプダから通信が返る。「いや、見えない」
 アプダにも見えないことを確認するとカーキーは会敵を急いだ。「近づくぞ」
 スロットルを軽く前へ押し込み速度を上げる。一メートルの距離を維持しながらアプダも後に付いた。
 HUD(ヘッド・アップ・ディスプレイ)を空対空戦闘モードに表示する。ウエポンスイッチをSRMに選択。大気速度、高度計のほかに、目標を囲む四角いTDボックス、目標距離を示すDLZのスケールが伸びている。これらの情報はMFDと一致する。目標を捕らえたことによりASEサークルが表示されている。TDボックスをASEサークルの円の中へ捕らえるように機首を調整する。
 HUDにIN RANGEと表示。ミサイルに指令を与えればターゲットに命中するはずだ。
 ターゲットまでの距離二〇キロを切った。正面に見えなければおかしい。会敵までの時間は一分もない。
 そのときアプダから通信が入った。
「いました。見えます。正面」
 アプダ機に一瞬目をやると、上体を前に倒しながら、ひとさし指で前を指していた。
 さすがにアプダ、目だけは飛行隊一と言われるだけのことはある。カーキーはアプダに感謝し親指を立てて答えた。
 カーキーはアプダを信じ、そのまま直進加速を続けた。ターゲットが短距離ミサイルを搭載していたら一〇キロ前後の距離で打ってくる可能性もある。ターゲットを目視できるかは極めて重要だ。今、目視できればミサイルからも逃げ切れる。
 ターゲットまでの距離がさらに縮まった。DLZには一五キロと表示。
 HUDごしにターゲットをさがすカーキーの目に白い物体が飛び込んできた。「見つけた。あいつだ」

 府中・総隊司令部 中央指揮所

「モール01、02会敵します」管制官の声が青山の耳に伝わる。
 アンノウンを示すオレンジの三角と千歳のFを示す緑の三角がディスプレイ上で交わろうとしている。
距離にして一五キロ。福島県いわき市から東へ一二〇キロの位置をさらに南下中。このまま直進を続ければ茨城県上空を通過し、その先は東京につながる。
 ディスプレイ上には別の緑の三角も表示されている。百里から上がったアスター01、02だ。
 アンノウンに対し、進行方向正面から接近するため会敵は早い。予想時刻まで後二分を切っている。ディスプレイ上はアンノウンをモールとアスターで挟み撃ちをする格好となる。
 そのとき、アンノウンの動きが遅くなった。速度表示が〇.六から〇.五へ。
「どうした。速度を落としたぞ」青山は腕をほどき、身を乗り出した。
 慌てた管制官は千歳のFに呼びかける。「モール、コンタクトはまだか!」
 アンノウンがアスターに対してミサイルを発射することも考えられる。一刻も早くアンノウンの正体を明らかにしなければならない。
 そのとき、オレンジの三角が進路を変えた。ほぼ直角に曲がり本土へ向かうコースを取った。
「アンノウン変針します。福島です。領空までの距離九五km。このままの速度では九分で到達します」
 青山は腕を組み直しディスプレイを凝視した。
「なぜ急に進路を変えた。挟み撃ちされたからか。なら、なぜ、南東に逃げない」
 青山は、本土ヘ迫るオレンジの三角を見ながらテロを予感した。管制官に問いかけた。
「領空侵犯された先にはなにがある」
 管制官は一瞬考えた。振り向いて青山の目を見たとき、何を言いたいのかを悟った。
「福島第一、第二原子力発電所」
 青山はうなずいた。「そうだ。絶対に領空に入れるな」
 オレンジの三角をモールの緑が追う。アスターの緑も同じ一点に迫ろうとしていた。

 福島県いわき市東一二〇キロ上空

「ターゲット、本土ヘ向けて速度を上げた」アプダが叫んだ。
 カーキーは、そんなことは分かっていると言わんばかりに操縦桿を操作しターゲットに向かった。
 ターゲット、速度マッハ〇.六から〇.七へ。さらに加速していく。
 カーキーはアプダに叫んだ。「来い!」
 猶予はない。カーキーはアフターバーナーを使い最接近を試みる。さっきからターゲートは攻撃してこない。ならば、一気に横についても攻撃は仕掛けてこない。そう、信じる。
 アプダも後に続いた。二機編隊、エレメントで飛ぶ以上エレメントリーダーの指示は絶対だ。排気ノズルから青白い炎を吹き出した。
 その瞬間別のF-15と交差する。アスター01、02のエレメントだ。
 交差した瞬間、アスター両機は左翼を下げ急旋回を掛ける。モール編隊の後ろに着くための高G機動旋回。主翼上面の急激な気圧変化で空気中の水蒸気が飽和してベイパーと呼ばれる白い水滴が伸びる。
 モール編隊は先にアフターバーナーを掛け加速したため、数秒先にターゲットへ向かっていた。
「モールリーダー、こちらアスターリーダー。カーキー聞こえるか。タイガーだ」
 カーキーの耳にタイガーの声が届く。しかし、今はアンノウンを追うのが先だ。アフターバーナーの加速Gに耐えるため顎に力を入れているので返答できない。
 タイガーはカーキーに話し続けた。「レーダーだ。ターゲットはレーダー波から逃げようとしている。追えば追うほどやつは加速するぞ!」
 何を言っているとカーキーは思った。レーダーを切ればターゲットを補足できない。カーキー機は音速を超えた。しかし、ターゲットとの距離が縮まらない。ターゲットも音速を超えた。領空まで60km。3分半で到達する。
「レーダーを切れ!」タイガーの叫びがカーキーの耳を刺す。
 カーキーは加速に耐えながらタイガーの叫びに応えた。「どういう事だ」
 すかさずタイガーが話す。「ターゲットは襟裳のレーダー、山田のレーダーを感じ、本土進行を躊躇した。モールがレーダーを使いターゲットを追った。アスターも正面からターゲットを追った。お互いのレーダーで挟み込んだからやつは逃げ道を失って横に回避したんだ。ターゲットにとってレーダー波自体が外敵なんだ。近づかないんじゃない近づけないんだ。レーダーを止めろ! やつを止められないぞ!」
「なぜそうだと分かる。タイガーは、やつの正体が分かっているのか!?」
「アスターが正面から近づいたとき、やつは速度を緩めた。そのまま直進すれば交差して振り切れるものをそうしなかった。やつはレーダーに挟まれて、はじかれたんだ。だから真横に逃げたんだ」
「レーダーはただの電磁波だ。VHFもUHFも電磁波は無数に飛び交っている。なぜ、レーダーの電磁波だけを嫌う」
「軍事用レーダーを嫌っている。理由はわからない。だが、確かだ!」
 カーキーは納得がいかなかった。
「会敵を急ぐように指示されている。司令部からの指示は……」
 府中より二人に割り込むように通信が届く。「レーダーを切れ」
 カーキーは耳を疑った。府中はタイガーの話しをそのまま鵜呑みにして指示するのか。理解出来ない。しかし、命令は絶対だ。
「了解。レーダーオフで追尾を続行する。アプダレーダー切れ!」
「了解」アプダはすぐに従った。しかし、不安要素が増える。ターゲットの位置はもちろん、味方機の位置も目視で確認しなければならない。もし、ターゲットから攻撃された場合、回避防戦の対処ができない。
 タイガーから無線が入る。
「大滝根山のレーダーを感じて必ず減速する。モールはそのままターゲットを追い越し、急旋回してターゲットの前へ頭を向けろ。そこでレーダーを掃射すればターゲットは必ず逃げる。俺を信じろ」
「信じられるか!」
 カーキーのタイガーへの怒鳴り声に、府中からの命令がまた割り込んだ。
「モール、実行しろ」
 操縦桿を握るカーキーの右手の握力が高まった。
「了解。ターゲットの前に出て、レーダー誘導を試みる」
 無線をアプダに繋ぐ。
「ターゲットの前へ出る。やつを抜いたらスプリット・エスだ。いくぞ」
 モール01、02、最大加速。
 そのとき、ターゲットの動きが鈍足になった。音速を遙かに超えていたモールは一瞬のうちにターゲットの前へ飛び出した。一瞬のことでターゲットの機種確認ができなかった。ただ、羽根もない球体にしか見えなかった。
 後方が気になった。攻撃は受けていないのか、追尾されてはいないのか。レーダーを切り、敵の前へ出るなど自殺行為だ。
「アプダ。指示したら急上昇だ。付いてこい。……ナウ!」
 カーキーはスロットルを戻しながら、強く操縦桿を引いた。機首が立ち上がり、軌道を上に向ける。機体が立ち上がったことで空気抵抗が増し減速。上昇による位置エネルギーの減少でさらに速度を落とす。操縦桿を左に倒す。機体は左に横転して背面飛行。天地が逆転する。操縦桿を戻し、すぐに操縦桿を引き直す。機体は急降下しながら旋回。太陽の光が足下から頭上へ流れる。Gメーターは七Gを指す。体重の七倍の力に体を押さえつけられ自由を奪う。それでもレーダー操作パネルに左手を伸ばし、必死にレーダーのスイッチをオンにした。MFDに情報が表示される。HUDにTDボックスが表示される。ターゲットの位置、味方機の位置が確認できる。アプダは後方六〇〇メートルに付いてきている。アスターはターゲット後方一五〇〇メートル。ターゲットまでの距離四五〇〇メートル。現在の相対速度では秒速三〇〇メートルで接近する。あと一五秒しかない。
 急降下姿勢から徐々に水平飛行にもどる。レーダーをボアサイトモードへ。ウエポンスイッチをガンモードへ。HUDには円形の照準のレティクルが現れ、照準点にTDボックスが重なる。ターゲットとまでの距離を示すレティクルの円周部分の目盛が減少する。ターゲットまでの距離がないことを示している。エアーブレーキを立てて減速。けしてターゲットを正面から逃がさない覚悟があった。速度は一気に下がり、時速三〇〇キロを切った。このまま減速を続けたら失速する。ターゲットまでの距離一五〇〇メートル。あと五秒ですれ違う。エネルギーを失ったモールは動きが緩慢になる。急な回避行動はとれない。白い物体が目の前に迫った。操縦桿を握る手が小刻みに振るえる。トリガーに乗せる人指し指に力が入る。弾けば二〇ミリバルカン砲が火を噴く。緊張はピークに達した。
 そのとき、ターゲットは左横に跳ねた。モール01のレーダーが目標を失った。レティクルの表示が消える。
 カーキーはターゲットを目で追った。レーダーを嫌って本当に逃げたのか?
「アプダ、追尾を続ける」
「了解、ハァー……」アプダの荒れた呼吸が耳に残る。
 アスター二機がモールの横に付いた。四機の編隊飛行の形になる。
「カーキー、大丈夫か?」タイガーから無線が入る。
「あー大丈夫だ。しかし、生きる感じがしなかった」カーキーの呼吸は少しづつ落ち着いてきた。
 カーキーの声を聞いて安心したタイガーは話しを続けた。
「言った通りターゲットはレーダーを嫌って逃げただろう。俺の言っていることが証明されたわけだ。これでやつを誘導することは容易になった。後ろに付いてレーダーで外洋まで押し出してやればいいんだ」
 カーキーはムッとした。「タイガー! 俺はおまえの説を証明するための囮か!」
 タイガーは含み笑いをしながら、カーキーに話しかける。
「対領空侵犯処置を手順通りに行なうぞ。無駄なような気もするけどな」
「だれがやるんだ」カーキーが聞いた。
「カーキー、頼む」タイガーが応える。
 カーキーは、やっぱり俺かと思ったが、だれがやっても同じなのでタイガーの言うことを聞いた。
 自機のレーダーを切りターゲットまで六〇〇メートルの距離に近づいた。アプダはカーキーを援護するように後方上空に付く。ターゲットを刺激しないようにアプダ機もレーダーを切った。
 カーキーは国際緊急周波数一二一・五メガヘルツを通しターゲットに通信を送る。
「貴機はこのまま飛行を続けると日本の領空を侵犯する。直ちに進路を変えなさい」
 カーキーは返信を待った。しかし、なんの返答もない。通告を繰り返した。日本語、英語、ロシア語、中国語、韓国語。やはり返答はない。カーキーの声を無視するようにターゲットは飛行を続けている。最初から返信があるなど期待はしていなかった。
 カーキーはタイガーに通信する。
「やはり、なんの反応もない。現状を府中に報告する」
 タイガーは、うなずきながら軽い言葉で返す。「了解」

 府中・総隊司令部 中央指揮所

 管制官の一人からヘッドセットを通し青山に通信が入る。「モール01より通信です。スピーカーに流します」
 青山は耳のヘッドフォンをはずしスピーカーに耳を傾けた。
「モール01より報告。追尾中のアンノウンは福島県いわき市六〇キロの海上を南南西に向け飛行中。こちらからの通告は無視。飛行物体の国籍は不明。機影に記憶なし。機体特徴。全長約一〇メートル。正五角形十二面による正多面体。コクピット、排気口、確認できず。外部に武装らしきもの存在せず。動力不明。飛行原理不明。完全な正十二面体」
 青山の目が曇った。通信の内容が理解できない。
「なにが飛んでるだと。もう一度説明してくれ」
 青山の声を管制官を通してカーキーに伝える。カーキーからすぐに返信が届く。
「UFOですよ。真っ白いUFO」
 青山はモール01の説明を信じられなかった。
「UFO? つまり未確認飛行物体?」
「そうです」
 少しの沈黙の後、青山は冷静な声で指示を伝えた。
「未確認ではないだろう。すでに四名は確認ずみのはずだ。正確に情報を伝えろ。写真を撮れ。」
 ディスプレイ上には、アンノウン表示のオレンジの三角を、左にモール編隊、右にアスター編隊で挟み込む形で表示されている。

 福島県いわき市東六〇キロ上空

 カーキーはアンノウンの白いボディーを横に見ながら報告を続けた。
「モール01より詳細報告。現在飛行中の物体は我々四名の記憶にあるデータにはありません。国籍マークが無いだけでなく、注意表記らしきものもありません。表面には継ぎ目もなく、きれいな純白の正五角形による正十二面体です」
 アプダは片手で操作できるように改造された一眼レフカメラを握り、その正十二面体に向けてシャッターをきっている。
 カーキーは報告を続ける。
「どこかの研究機関が飛ばした実験機の報告はありませんか? 我々はこの物体をコントロールすることができません。次の指示を願います」
 モール、アスターはさっきまでの戦闘の緊張からは離れたが、想像の付かない相手に対しての緊張は続いていた。

 府中・総隊司令部 中央指揮所

 青山はモール01からの連絡にあった実験機の存在を確認させていた。
「どうだ。分かったか?」
 管制官から報告が届く。
「現在、確認中ですが、報告にある形体に該当する機体は登録がありません。防衛省、各実験施設、JAXA、特許庁にも確認しましたが、確認できません。確認作業を続けます」
 青山は状況の整理が付かず、腕を組んではほどき、また組み直す。しかし、日本に取って安全が確認できない限りアンノウンへの警戒はより高めなければならない。青山は管制官に指示を出した。
「アンノウンは正十二面体といったな。ターゲットのコールサインをアンノウンからプラトン12へ変更。プラトン12を太平洋外洋へ。日本の防空識別圏から追い出せ」

 福島県いわき市上空東六〇キロ

「モール01了解」
「アスター01了解」
 司令部の指示にカーキー、タイガーが応答する。
 タイガーがすかさずカーキーに無線通話で話す。
「モール編隊はプラトン12を挟み込みエスコートしろ。アスター編隊は後方に下がり、レーダーでプラトン12を押してやる」
 カーキーはタイガーに反発した。
「なぜタイガーが作戦を指示する。いつからフライトリーダーになった」
 タイガーはマスクの中で笑みを浮かべながらカーキーに話しかけた。
「ここは中空方面隊の空だ。北空のモール編隊はお客さんだ。お客に指揮をお願いするわけにはいかないだろう」
 カーキーはそれ以上反発しなかった。別にエスコート側にまわるか、後方側にまわるかはどちらでもよかった。ただ、タイガーから指示がくること自体が納得できなかった。
 アプダから無線が入る。
「タイガーはなにものですか? カーキーに、なにか強気ですけど」
 タイガー。本名、藤田五郎。藤田のF、五郎の5を合わせて、F5。F-5はアメリカ空軍が一九五〇年代に開発した戦闘機で、そのE型F型がタイガーⅡという愛称で呼ばれていることから、藤田のタックネームはタイガーと名付けられた。タイガーはカーキーと新田原基地で戦闘機操縦課程をともにした同期生であり同年齢。パイロットとしての国家資格の取得、ウイングマンの取得を同時期に終了し、F-15操縦課程も同月にトップクラスで終了して、カーキーは千歳へ、タイガーは百里へ、それぞれ配属となった。 今年開催された戦技協議会でひさびさに顔を合わせて二人は、それぞれの飛行隊パイロット代表五名の内の一人として参加していた。競技シナリオは新田原基地に所在する飛行教育隊のF-15一機に対し飛行隊二機による空中戦。二対一のため飛行隊に有利だが、相手は飛行教育隊。空中戦のプロ中のプロが集まる最強部隊。簡単に倒せる相手ではない。機体は敵役に徹するため仮想敵機をイメージした青や緑の迷彩を施す徹底ぶりだ。カーキーの二〇一飛行隊は初日の第二ピリオドに、タイガーの三〇五飛行隊はその後の第三ピリオドに競技が行なわれた。
 カーキーの競技が始まった。状況は有利に進んでいた。目標機の後ろを取っている。目標に向けてレーダーを照射。しかし、そう簡単にはロックオンさせてもらえない。目標を追いながら右へ左へ振り回される。体に掛かるGも半端ではない。ここで力を抜くと瞬間に後ろに回られ、形勢が逆転してしまう。Gに耐えながら必死にロックオンを急ぐ。補足した。
 ミサイル発射。実際にミサイルが発射されるわけではなく、ビデオ撮影のスイッチがスタートするだけだ。ミサイルが目標をしとめれば、命中を示す「○」がHUDに表示されるはずだ。しかし、表示されたのは「×」。目標をはずした? カーキーは信じられなかったが、反射的に任務失敗をコールした。与えられた攻撃チャンスは一回だけ。失敗を宣言したら速やかに戦線離脱しなければならない。
 競技会の結果は七個飛行隊の内の六位に終わった。
 一方、タイガーの所属する三〇五飛行隊は優勝した。タイガーは目標機をわずか二八秒で撃墜し、今回の競技の最短時間を記録した。
 後で、カーキー機のビデオ映像を確認したら、命中が記録されていた。HUDの表示が誤動作しただけで任務成功だった。しかし、任務失敗をコールした事実は変わらない。したがって順位が見直されることはない。表示の誤動作は整備面の問題とされ、これも審査の一貫となる。
 自信を持ったタイガーは、その日から、同期であるカーキーに対して、見下すような態度で接するようになった。
「悪友だ」アプダの質問にカーキーが答える。
 またタイガーが二人の会話に割り込んできた。
「悪友とはなんだ。親友じゃないか」
 苦笑しながら話しを続けた。
「カーキーのウイングマン、アプダさんとは初対面だ。さっきから見ているがなかなかいい腕をしている。カーキーの下に就いているだけのことはある。しかし、俺のウイングマンとはどちらが優秀かな? バースは、強いぞ。なにしろ俺が鍛えているからな」
 カーキーの耳にはタイガーの自信満々の声が嫌みに聞こえる。
 バースの本名は馬場進一。今年、ARの資格をとったばかりで、スクランブルは今日が二回目だ。ARとはアラート待機の任務に就けるパイロットのこと。その上にはCRがあり、戦闘可能な資格を持つ。したがってCRを所得した時点から本当の意味での戦闘機パイロットとなる。
 アプダの耳にもタイガーの声は聞こえている。アプダはすでにCRの資格を取っている。来年にはELPを実施して二機編隊のエレメントリーダーの資格を得るための訓練が始まる。つまり、アプダとバースではアプダが一歩先に進んでいるが、二人はその事実を知らない。アプダはバースに対してライバル心を燃やした。
 編隊はモールとアスターに別れ、タイガーの指示通りモールはプラトン12をはさみこみ、アスターは後方九〇〇メートルに下がりレーダー照射を始めた。カーキーは、ややプラトン12より前へ出て、翼を上下に振りながらコースをやや左に取るように左に流れる動作を繰り返す。アプダはカーキーとプラトン12の対角線上のやや上方に後退しカーキーの援護に廻る。同時にアスター編隊のポジションも確認する。タイガーはプラトン12の後方軸からやや左にずれ、バースはやや右にずれてレーダー照射を行なっている。両レーダーの間にプラトン12をはさみこみ、横に逃がさない作戦を取っている。飛行コースを変更させるには、どちらかの機からのレーダーをプラトン12の横をかすめて前方に照射すれば、レーダーの壁に沿ってコースを変えるはずだ。
 現在、茨城県日立市東六〇キロ、高度三〇〇〇〇フィート。直進方向約一五〇キロで海岸線、領空侵入まで一二八キロの距離にある。カーキーは翼を振り機体信号による警告を送り続けている。しかし、プラトン12は、それを無視し、マッハ〇.六で直進飛行を続けている。無線警告のときも感じたが正体不明の物体に機体信号警告が有効な手段とも思えない。あの物体に警告が通じるのか? また、警告ということを理解しているのか? そもそも相手という対象が存在するのか? 無人の飛行体の可能性はないのだろうか? カーキーは疑問を感じながらも領空侵犯処置の手順に従って警告を続けた。このまま警告を無視続けた場合、次の手段は警告射撃となる。
 バースが飛行位置を右に広げ、プラトン12から距離を離した。レーダー軸を左にずらしプラトン12の右側に壁を作る。これで、レーダー波を嫌って左に変針するはずだ。レーダー波で右から攻めながらプラトン12との距離を詰める。タイガーはプラトン12の真後ろに移動して左側のレーダーの壁を開けてやった。これで、変針する道が見えるはず。
 そのとき、タイガーの視界からプラトン12が消えた。一瞬慌てたが、すぐにレーダーで確認すると、プラトン12は高度二五〇〇〇フィートにいると表示されている。一気に降下した。レーダー包囲を水平方向に意識しすぎたため、上下方向に逃げる隙間があった。プラトン12はさらに降下中。位置エネルギーも手伝ったか、速度はマッハ〇.七からなおを増速中。タイガーの目からは、四機の機体に包囲された事態から逃走したように見えた。
「まずい!追うぞ!」
 タイガーは叫ぶと、操縦桿を横に倒し背面飛行にした瞬間、操縦桿を引き急降下を始めた。ウイングマンのバースがすぐに同じ機動でついて行く。アスターの動向を見てカーキーも降下した。アプダもカーキーに続いて降下を開始する。領空まであと一〇〇キロの距離にいる。
「やつの降下速度が速い。バース追いつくぞ。やつの下に潜り込む」
 タイガーはバースに指示するとアフターバーナーに点火した。降下角七五度でのアフターバーナーは位置エネルギーも加算され加速力が強い。強烈なGのため脳へ供給される血液が薄くなり視野が暗くなる。目の前の色が消えかける。それでも眼球に力をこめ、プラトン12の機影を捕らえ追いかけた。しだいにプラトン12が大きく見える。そのままオーバーシュート。追い越したことを確認するとアフターバーナーをカットし、ゆっくりと操縦桿を引き寄せた。手が重い。意識より一秒近く機首上げが遅れている。水平飛行にもどる。視界に空の青さがもどった。高度一五〇〇〇フィートまで降下した。プラトン12は高度一八〇〇〇フィートで降下中。タイガーはすぐに機首を上げ、レーダー波をプラトン12に向けて照射した。
 バースはタイガーを追い越した。タイガーの機動に追い付いてこない。機首上げする様子もない。タイガーはバースに怒鳴った。
「どうした!」
 ようやく機首上げに入ったバースは、すでに高度一二〇〇〇フィートに離れた。
「すいません。追い付きます」バースの苦痛の声がタイガーの耳に届く。
 バースを心配したタイガーだが、バースの声を聞いてすぐに指示を出した。
「下からプラトン12へ照射しろ。高度をこれ以上下げさせるな」
 カーキー、アプダがタイガーに同高度で追い付き接近する。タイガーに倣い、二人もプラトン12へレーダー照射を始める。
 プラトン12の軌道が揺れる。プラトン12は降下をやめ、水平飛行にもどった。速度はマッハ〇.八五。高度は下がったが進行方向は変わらない。領空まであと六〇キロ。
 タイガーはバースのいる高度まで下げた。カーキー、アプダは高度維持。プラトン12後方よりレーダー照射を続けた。
 タイガーはバースに指示し、これ以上降下させないため、共にプラトン12のすぐ下をレーダー波がかすめるように照射した。
 カーキーが3人に話す。「どうする。止められないぞ」
「手順を踏め。カーキー、おまえに任すぞ」タイガーの声が耳を触る。
 カーキーは、また俺かと思いながらも、現在の飛行ポジションからすれば当然だとも思った。
「警告射撃を実施する、許可を求める」

 府中・総隊司令部 中央指揮所

 カーキーのオファーがスピーカーから聞こえる。
 ディスプレイには、高度一六〇〇〇フィート、茨城県鹿島灘沖六〇キロを南西に向けて飛行中の五つのシンボルが表示されている。
 現在、海上の様子を確認中。
 青山は状況確認を急がせた。「どうだ」
 管制官は首を振って応えた。

 茨城県鹿島灘沖六〇キロ上空

 モール、アスターに無線が届く。
「警告射撃の許可は出来ない。現在鹿島灘沖に数十隻の漁船が確認されている。誤射のおそれがある。発砲せずに領空侵犯を阻止せよ」
 警告射撃のためにバルカン砲を打てば、その弾丸はいずれ海上に落ちる。万が一に船に当たってしまったら、大変な事故になってしまう。海上に安全が確認されなければ発砲の許可は下りない。
「了解。警告を続ける」カーキーは唇を噛みながら指示に応えた。
 タイガーから無線が入る。
「カーキー、アプダ。プラトン12を誘導しろ。進路を左にずらすんだ。アスターは下からプラトン12を押さえ込み、モールの軌道に合わせて飛行する」
 カーキーは了解する。アスターが先にやったようにアプダが右に展開し、カーキーは後方に廻る。アプダの真下にバースが、カーキーの真下にタイガーが位置してプラトン12の誘導を計る。
 プラトン12はゆっくりと左にコースを変え始めた。うまく誘導が出来る。四人はそう思った。しかし、長くは続かなかった。プラトン12は一度大きく上に跳ねて急加速を始めた。アプダが作った壁を飛び越え、包囲を破った。一瞬のことで動作が追い付かない。
「くそ!追うぞ」
 カーキーの声にそろえて四人はスロットルを前に押し込んだ。
 プラトン12との距離が縮まらない。プラトン12は音速を超えた。止められない。四人はそう思った。プラトン12が音速を上回った空は海岸線から五〇キロ以内に割り込んでいた。領空侵犯処置中でも音速を超えて飛行できるのは海岸から五十キロ以遠と速度制限ある。音速を超えて飛行すると発生する衝撃波で地上や海上に被害を与えてしまう危険性があるからだ。しかし、今速度制限を守っていたら、確実に領空に侵入される。カーキーは焦った。そのときタイガーから無線が届いた。
「レーダー照射をやめよう。大滝根山のときと同じように今度は峯岡山のレーダーサイトに反応するかも知れん」
 カーキーは、あのときは大滝根山に反応したんじゃなく、俺のレーダーに反応したんだ、と言いたがったが、可能性を信じてタイガーに従った。
「よし、やってみよう」
 四人は一斉にレーダー照射をカットした。四機は編隊を組み直し、プラトン12よりやや高度を上げ、戦闘隊形を取った。
 航空自衛隊のレーダーサイトは全国に二八カ所にある。しかし、レーダーを管理する組織は自衛隊だけではない。国土交通省航空局が管理する航空路監視レーダーは全国に二〇箇所あり、民間航空機を常に探知している。プラトン12の位置から、近くでは千葉県山田町(現香取市)と福島県いわき市にあり、三七〇キロメートルを探知している。また。各空港や航空基地には航空監視レーダーがあり一一〇キロ圏内を監視している。近くでは成田空港。基地では百里基地がある。百里は二〇一〇年三月に民間共有化により茨城空港も開港した。プラトン12が本当にレーダーを嫌うなら微塵も逃さない鉄壁の守りのはずだ。
 タイガーは司令部に通信を送った。
「プラトン12は音速を超え海岸線に接近中。超音速飛行の許可を求む」
 数秒の間があった。沈黙は緊張をあおる。司令部から歯切れの悪い指示が届く。
「海上にはまだ多数の船が存在する。許可できない」

 府中・総隊司令部 中央指揮所

 ディスプレイに表示されるプラトン12の三角形は、四機の三角形との距離を離し、海岸線まで四十五キロの距離に迫った。相手の目的が分からない現状ではこちらからはなんの手段も実行できない。たとえ領空侵犯されたとしても、ただちに攻撃するわけにはいかない。相手からの攻撃を受けてからでなければ、こちらからは攻撃できない。敵の侵略行為がうたがわれても、こちらから先制攻撃はできない専守防衛という戦術に日本は徹している。しかし、攻撃を受けてからではすでに防衛力を失われている可能性もある。一気に各基地をたたかれ、司令部を攻撃されればそれまでだ。
 青山の指示が飛ぶ。
「各基地へ防衛態勢を執らせろ。高射部隊は攻撃態勢を執れ」
 今はそれ以上の命令は下せない。プラトン12がコースを返るのを必死に望んだ。
 管制官の声が飛ぶ。
「プラトン12領空まで二十二キロ。九十秒以内に到達します」
 青山の額から汗が流れ落ちた。呼吸のペースが乱れ息が詰まる。緊張はピークに達した。震える腕を腕組みして必死に押さえ込んだ。青山は低い声で冷静を装い指示を出した。
「百里にコクピットスタンバイ。その他全機発進スタンバイさせておけ。小松にコクピットスタンバイ」
コクピットスタンバイとはパイロットをコクピットに待機させ、いつでも発進できるようにしておく戦闘態勢。全機発進スタンバイは基地が攻撃されたとき保有機の損害を最小限に食い止めるための処置。しかし、いかなる航空機でも独断での飛行は許されない。どのような緊張下にあってもフライト許可がでなければ身動き一つできない。つまり管制塔がやられればお終いだ。小松のコクピットスタンバイは百里が攻撃された場合の手段。相手が攻撃してくるかはわからない。しかし、相手の目的がわからない以上攻撃態勢を取らないわけにはいかない。もし、攻撃されたら正当防衛手段として応戦する。あくまで専守防衛としての最低限の攻撃だ。プラトン12の飛行コースはこのままだと百里基地南二十キロ地点を通過する。
 青山は続けて指示を出した。
「アスターを高度四〇〇〇〇フィートまで上げさせろ」

 茨城県鹿島灘沖五〇キロ上空

 アスター両機はモール編隊から離れ一気に高度四〇〇〇〇フィートを目指した。高度四〇〇〇〇フィートは成層圏の入口、圏界面付近にあたる。気温はマイナス五五度。音の伝わりは温度によって異なる。高々度では音速を越えていても地上の気温では亜音速になる。音速を越えなければ衝撃波は発生しない。この理論からアスターを高々度で超音速飛行させてプラトン12に追い付く作戦を取った。モール編隊はそのままプラトン12を追尾。しかし、現在プラトン12の速度はマッハ一.一。モール編隊はマッハ〇.九五。距離は確実に離されていった。
 領空まであと三〇キロ。プラトン12がレーダーに反応しているならコースを変えていいはずだ。
「慣れたか?」カーキーが独り言のような小さな声でささやいた。
 その小さな声もマイクを通してアプダのスピーカーに届く。
「慣れた? どういうことです」
「今まであいつは、15からの強力なレーダーを浴びせ続けられた。レーダーを分析して少しずつ弱点を克服しているのかもしれない。地上レーダーの波長くらいなら免疫が出来たのかもな」
「まさか」
 プラトン12の正体は未だに分からない。レーダーを嫌う、情報はそれだけだった。その情報も誤りとなると、誘導する手段がない。
「しかし、克服したとしても嫌いなものは嫌いでは。わざわざそんな中に飛び込んでいきますか?」
「あの中になにか、あいつの好物があるんじゃないか」
「好物?」アプダは頭をひねった。
「燃料とか、えさとか……」
「えさ?」
 えさと言われて人間でも食べるのかと言い返しそうになったが、ばからしく感じたのでやめた。
「たとえばだ」アプダの空気が読めたので、カーキーは言葉を切った。
 プラトン12は領空まで一〇キロに迫った。
 モールはなにもできない。プラトン12から距離が離され、無線警告も機体信号警告も通用しない。警告射撃も許可されない。ただ追跡するしかないもどかしさが悔しい。
 プラトン12はレーダーが天敵であることが疑わしくなるように、何の抵抗もなく海岸線に向かう。
領空一二海里、二二キロ地点を通過。ついに領空侵入を許した。

 府中・総隊司令部 中央指揮所

「プラトン12、領空侵入しました。速度マッハ一.一。進路変わらず」
 司令部のスピーカーから現状報告が続く。
「第1高射群、習志野、霞ヶ浦、配置完了」
「百里基地防衛隊、配置完了」
「茨城、成田、羽田、各空港へ飛行規制」
 青山の緊張は領空侵犯を許したことで逆に冷静さを取り戻した。事態が起こったときの対応は訓練を何度も積んでいる。
「各員、戦闘準備のまま待機。アスターをプラトン12の頭に着けろ」
 管制官より新しい情報がスピーカーに流れる。
「プラトン12海岸線を突破。鹿島市上空を通過。高度一六〇〇〇」
「アスター01、02。プラトン12より前方一〇マイル。香取市上空高度四〇〇〇〇から降下中」
青山はディスプレイを凝視し続けている。プラトン12の進路。各基地の位置。高射群の位置と状況。そして、人口密集地。
「前方をふさげ、首都上空への侵入を阻止しろ」
 ディスプレイ上のオレンジの三角が南西に向かって移動している。
 アスターの2つの緑が高度表示の数値を減らしながらオレンジの前方から迫る。
 そのとき、オレンジの三角が速度を落とした。
 青山はいやな予感がした。福島で同じようにアスターが正面から迫ったとき、プラトン12は横へ跳ねた。今度も同じように跳ねるのではないか。
 スピーカーから情報が流れる。
「プラトン12変針します。北東方向」
 予感は的中した。プラトン12は正面から接近すれば、それを避けようと横に逃げる。その作用が本当にレーダーなら、レーダーを使った誘導は今も可能なはず。青山はそう感じた。地上のレーダーは全方位をサーチするために送受信部が回転しているが、F-15のレーダーは常に目標に対してロックをし続けているため、より強力に作用するのかも知れない。
 アスターは今まだ高度二八〇〇〇にあり、プラトン12より位置エネルギーで勝っている。音速突破のままプラトン12の正面に向かわせる。降下中の超音速なら衝撃波は上空に抜け、地上には届かない。
 次の情報が流れる。
「モール01、02海岸線を突破。高度一六〇〇〇のままプラトン12を追尾します」
 ディスプレイ上には、プラトン12を追っているモールの緑の三角が北に進路を取ったことを表示している。
 アスターの緑の三角はプラトン12の西六.五キロを超音速で通過中。
 青山は状況とプラトン12の性質を考慮し作戦行動を考えた。プラトン12は今のところ一切の攻撃をしてはこないが、何度も行なった警告にも反応を示さない。通常領空侵犯した機は近くの空港に強制着陸させるのが手順だが、警告を無視する以上、そのような指示には従わないと考えざる終えないだろう。しかし、手順は守る必要がある。それが規則だからだ。警告のあとは誘導。その後は必要な措置。
 青山は指示を出した。
「モールに誘導させろ。アスターはプラトン12の正面に出させろ。それからは4機編隊のコンビネーションだ。必ずやつを捕まえろ」

 茨城県行方市上空

 カーキーはプラトン12の後方六〇〇メートルの位置にいる。プラトン12が北へコースを取ったときに速度が落ちたことで、モールは超音速飛行をすることなく追い付けた。司令部の指示を受け誘導を行なう。
「貴機は領空侵犯をした。こちらの誘導に従いただちに指定する空港に着陸しなさい」
 数回、誘導を繰り返した。カーキーも期待はしていなかったが、やはり何の反応もない。しかし、手順は踏んだ。あとは次の命令を実行するだけだ。
「アプダ行くぞ。大きく展開しろ」
「了解」
 モール両機ともレーダーをオフのまま編隊飛行を崩し、左右に離れた。
 プラトン12は今も北へ進行している。先になにを求めているのかわからない。だが、これ以上内陸に侵入させてはならない。アスター両機がプラトン12の目の前に降下する。タイガーは先に機首を水平に起こし、レーダー波を正面に集中させプラトン12をロックオンした。
 瞬間にプラトン12の動きが止った。空中に静止している。次に動く先を探しているように見える。また横に逃げるのか。そのとき左右からプラトン12に向かい高速で接近するモール両機が迫る。カーキーは左から、アプダは右からレーダーをオンさせ、プラトン12をロックオンしている。これで左右の逃げ道をふさいだ。正面からは同高度でタイガーが迫る。バースはタイガーより機首上げタイミングを遅らせ、プラトン12の下に潜り込み、下からレーダーを照射する。これで、下に逃げることもできないはず。
 プラトン12は、動揺するように小刻みに揺れながら後退するように南へ進路を取った。タイガーはそのままプラトン12を追尾。タイガーが通過した飛行コースのすぐ後ろをカーキーとアプダが九〇度ロールをしながら交差した。その後、交差ポイントをバースが下から上へと突き抜ける。四人の連携でプラトン12をついに押し返した。
「いけるぞ。このままやつを太平洋に押し出す。早く来い!」タイガーが叫んだ。
 カーキー、アプダ、バースはそれぞれの機動で機体を操り最短距離でタイガーに追い付いた。四機は等間隔に広がり縦ダイヤモンド隊形へ移行する。それぞれ一五〇〇メートルの距離を維持してプラトン12の後方一五〇メートルから取り囲む。左にタイガー、上にバース、下にカーキー、右にアプダの配置が自然にできる。基本の戦闘隊形の場合、通常、ウイングマンはリーダーの右上につくための自然の成り行きだ。ただしこれは二機編隊の場合であり、今の四機編隊の隊形はまた違った戦闘隊形があるが、タイガー、カーキーの二人とも四機を指揮するフライトリーダーの資格はないため、それぞれ二機編隊の戦闘隊形を組み合わせた形になった。
 プラトン12はレーダーのかごに囲まれたまま直進以外に身動きできない。作戦は見事にはまっている。左右に逃れようと機動を揺らすが、レーダーの網を嫌い、外へ出られない。F-15のレーダーは今だ有効だ。プラトン12が自由を奪われてもがくように暴れ出した。上下左右に動き回り、ついには渦を巻き始め、速度を上げた。
 レーダーを感じないエリアは進行方向正面にしかない。レーダーから逃れるために速度を上げるのは必然だった。加速は素早かった。加速について行かなければ逃げられる。四人もすかさず加速した。アフターバーナー点火。ノズルをオレンジに染めプラトン12を追った。
 プラトン12、音速突破。早すぎる。追い付くためにはこちらも音速を突破する必要がある。しかし、今音速を超えれば、衝撃波は下の香取市に届き、被害が出る可能性がある。西一〇キロには成田空港もある。飛行規制を引いたとはいえ、今もまだ緊急着陸が続く滑走路や上空待機中の航空機に影響がでてしまう。それは四人とも同じ思いだった。そこに迷いがあった。
 急にプラトン12が速度を落とした。加速の迷いがあった四人はその機動に驚いたが、カーキー、アプダ、タイガーは反射的にスロットルを緩め、エアーブレーキを立ててプラトン12の動きに合わせて急減速した。
 バースは一瞬の反応が遅れた。減速が間に合わず、プラトン12の前へ飛びだした。慌ててエアーブレーキを立てたが、その時にはすでにプラトン12が真後ろに付いていた。真後ろに付かれたバースはスロットルを前に押し込み操縦桿を横に倒した。戦闘機パイロットは敵に後ろを取られたら反射的に回避動作を取る。バースは左下方にコースを向けた。プラトン12が追ってきた場合、飛行コースの上にいるタイガーにプラトン12の後方を取らせるためだ。
 そのねらい通りプラトン12はタイガーのすぐ目の前を降下した。タイガーはすぐに後ろを取り追尾した。
「バース、右へ旋回しろ!」
 タイガーはプラトン12が減速したときに合わせ速度を落としたため、プラトン12の降下速度に追いつかず、距離を離されていた。プラトン12を旋回させれば、その内側の軌道を取ることによりすぐ後ろに付くことが出来る。
 バースは右に旋回した。タイガーは回転半径を瞬時に判断して未来位置を予測する。操縦桿を倒し、その未来位置に直進降下した。プラトン12の軌道の真後ろに乗せる。
「ブレークしろ、バース!」タイガーは叫んだ。
 なぜプラトン12はバースを追い回すのか。レーダーに囲まれて怒りが生じたのか。追い回すのは、その腹いせか。目の前に飛び出てきたものを進路を妨げる邪魔な存在として攻撃する。もしそうならばバースが危険だ。
「だめだ! 振り切れない」
 バースは、急旋回、らせん飛行を繰り返し、回避しようとするがピタリ後ろについて離れない。
 バースは感じていた。プラトン12は直角方向転換飛行、空中停止、後退飛行ができる。あのマニューバーから逃げることなどできない。
 コクピットに警告ブザーが鳴った。プラトン12がバースに向けレーダー波を照射している。ミサイルを撃つのか? 機外装備は見あたらなかった。F-22のように機体内部に兵器倉を持っているのか? 「レーダーで狙われている!」
「助けてやる。待ってろ!」タイガーもプラトン12の真後ろについて離れない。
 プラトン12にレーダーの装備があったのか? なら、なぜ最初の遭遇時に使わなかった? まさか、レーダー波を浴び続け、それを分析して、自ら作れるようになったのか?
 司令部に通信した。
「僚機がプラトン12の追尾を受けている。警告射撃の許可を乞う!」
「攻撃を受けたのか?」司令部からの声が届く。
「攻撃は受けていない。だが、危険な状況だ。攻撃されたら僚機は落とされる」
 数秒の沈黙があった。
「だめだ、許可できない。発砲は攻撃を受けた場合の正当防衛以外許可できない。こちらからの先制攻撃は一切許可出来ない」
「やられたらどうするんですか!」声が荒げた。
「発砲は許可できない。専守防衛を徹底せよ」
 タイガーの操縦桿を握る手が熱くなった。
「くそー、バースなんとか振り切れ!」
 そこへカーキーの声が割り込む。「バース!俺が囮になる。三秒直進したら左に急旋回しろ!」
「了解!」バースの必死の声が響く。
 バースの軌道が左に動く。カーキーはバースの横に並ぶように上空から急降下した。
 カーキーはプラトン12の前へ出た。とたんにレーダー警戒ブザーが鳴り響く。この音を聞き続けるのは精神的に耐えられるものではない。耳から来るストレスに緊張が走る。
 カーキーはバースを横に見た。バースはカーキーに目を向けながらも後ろが気になり振り向く動作を繰り返している。
「バース!おれがやつを引っ張ってやる。合図したら垂直降下して逃げろ」
「了解!」
「行け!」
 バースは機体を一八〇度ロールさせ落ちるように消えていった。
 プラトン12の前にはカーキーが残った。プラトン12の目標がカーキーへと変わった。
 カーキーも必要にロールやヨーヨーを繰り返し、ブレイクを試みるが振り切れない。
 追い回されるストレスを自分で感じてみろと言わんばかりに追尾してくる。こいつをかわすのは無理だ。
「だめだ、振り切れない。」ブザーの音が鳴りやまない。このままではだめだ。カーキーは決断した。
「このまま直進して太平洋上まで引っ張ってみる。うまくすれば防空識別圏まで連れ出せる。援護してくれ」
「危険だ、カーキー。振り切ることを考えろ!」タイガーが叫ぶ。
「大丈夫だ。やつは武器を持っていない。ただ、からかっているだけだ」
 確証はない。あれは未知の物体だ。何があってもおかしくない。しかし、いままでいくらでもチャンスがありながら攻撃してきてはいない。そこを信じるしかなかった。
 下は匝瑳市。もうすぐ九十九里浜を抜け太平洋に出る。まだ、音速は超えられない。機体を揺らしながら、徐々に高度を上げていった。

 府中・総隊司令部 中央指揮所

 青山はディスプレイを見守っていた。モール01の緑の三角がプラトン12のオレンジの前へ飛び出している。他の三つの緑はプラトン12を囲むように後ろについている。成田空港の東十キロを南下中。各飛行隊、高射部隊、なおも戦闘態勢のまま待機中。
「どうなる……」青山はつぶやいた。
 管制官よりヘッドフォンを通して通話が入る。
「米軍より入電です。防衛省承認済です」
 アメリカが関与してきた。アメリカのレーダーもこの未知の物体を捕らえているはずだ。無視することはできないのであろう。アメリカにとってもあれは驚異だ。他国の機密研究機ならば、確保して、解体調査のため自国へ持ち帰ることも考えられる。青山はマイクに声を入れた。
「府中・総隊司令部、先任司令官青山一樹二佐です。どうぞ」

 千葉県九十九里浜上空

「すぐに海岸線だ。そこを越えたら考えがある」カーキーが三人に通信した。
「なんだ」タイガーが応えた。
「海岸線から二二キロはなれたところでプラトン12を追い越して俺にならべ。そこでもう一度縦ダイヤモンド編隊を組み直す。そこから一斉に四方旋回すればやつは目標が定まらず混乱するはずだ」
「うまくいくのか、それで」タイガーが心配する。一つ間違えば全機撃墜だ。
「やりますよ」アプダが割り込んだ。
「やりましょう」バースも応えた。
 一瞬考えたが二人の熱意を消すわけにはいかない。「よし、カーキー。指示を出せ。期待通りに飛んでやるぞ」
 九十九里浜海岸線通過。
 カーキーは音速ぎりぎりまで速度を上げた。プラトン12との距離は開くことはない。むしろここに来て距離が狭まってきた。単調な直線飛行に嫌気がさしてきたか。おもしろがって煽っているのか。
 これだけ接近すればシザースが有効かもしれない。旋回蛇行を繰り返しプラトン12を前に押し出そうとするが、それをあざ笑うように後ろへ張り付いて離れない。
 シザース機動を止め、直線飛行に戻した。シザースを行なったため速度が落ちた。やはり逃げられない。カーキーは三人に指示を出した。海岸線をすでに二二キロ通過している。
「シザース機動で速度を落とした。全機、やつを飛び越えおれの横に付け」
 タイガー、アプダ、バースは三方に別れ、プラトン12を包み込む軌道で追い越した。三機はカーキーに並んだ。
「来たぞ。次は」タイガーが問う。
「縦ダイヤモンド編隊だ。さっきと同じポジションで距離を翼端一メートルに付けろ。密集態勢だ。」
 四機は距離を寄せた。マッハ〇.九での密集態勢は極度に危険だ。接触すれば、その瞬間バランスを失い墜落する。しかし、ばらばらではプラトン12の目標を四機の内の一機に絞られるおそれがある。できるだけ寄せて、一つの固まりに見せる必要がある。
 編隊が組めた。左にタイガー、上にバース、下にカーキー、右にアプダ。後方にプラトン12。距離六〇〇メートル。
 カーキーが指示を送る。
「よし、加速する。ゆっくりスロットルを押せ」
 四機は距離を保ったまま、同じ速度で加速する。しだいに音速へ近づいた。
「おれが合図したら、一斉に旋回する。タイガーは九〇度左バンクを掛けて左旋回。アプダは九〇度右バンクを掛けて右旋回。バースは上方にループ。俺は下方にループする。旋回重力は四.五G。合図したら実行する。チェック・イン!」
「ツー!」
「スリー!」
「フォー!」
 タイガー二番機了解した。アプダ三番機了解した。バース四番機了解した。を、それぞれ一言に短縮して応答する。
「ナウ!」
 カーキーの合図で寸分の狂いもなく四機が一斉に散った。
 プラトン12の前から四機が消える。プラトン12が揺れた。目標が定まらないのか、それとも見失ったのか、だれを追うこともなく、逃げるように加速した。
 四機はそれぞれの機動で三六〇度旋回し、プラトン12の後方に編隊を組み直した。
「よし、やった!」タイガーもアプダもカーキーも声を出して喜んだ。
 四人は一瞬の安堵に浸った。
 そのときすでに、プラトン12は遙か先を飛行していた。
「追うぞ」カーキーが声を上げた。
 タイガーが口を挟んだ。
「カーキー、いつからフライトリーダーになったんだ?」
 カーキーの声が詰まった。
 その呼吸が耳に伝わったタイガーは、目を細めながら失笑した。
「しかし、さっきの作戦は見事に成功した。カーキーのアイデアのおかげだ。感謝する」
 タイガーの言う感謝とは、バースを救ってくれてありがとう、という意味なのか、カーキーには分からなかった。だが、ブレイクに成功したことは素直に喜べた。
「追いかけようタイガー。中空の空はアスターリーダーが指揮するんだろ」
 その言葉にタイガーは、笑い混じりに応える。
「さっき言ったこと気にしてるのか」
「いや。俺たちはお客さんだからな」
 嫌みに聞こえる台詞もタイガーの耳には心地よかった。
「よし、このまま防空識別圏の外へ押し出してやる。いくぞ」
 プラトン12は前方五キロに離れた。このまま直進させられれば、太平洋の彼方へと追いやることができる。四機は連携して追った。
 プラトン12との距離が少しずつ離れていく。プラトン12が速度をさらに上げたからだ。四機は追い付こうとスロットルに手を置いた。その瞬間、プラトン12は、また、右に大きく軌道を変えた。
「くそっ、なんだ今度は! 素直に直進しないのか!」タイガーは身を乗り出しプラトン12の飛行コースを目で追った。
 プラトン12は外房海岸線に沿って加速を続けた。四機に追われるのは飽き果てたのか、さらに距離を広げていく。
 速度はマッハ一.五を越えた。海岸線を進み房総半島南端にさしかかった。
 また、軌道を変えた。房総半島を回り込むように進路を取った。相模灘から東京湾へ。このままのコースでは東京中心部へと侵入する。事態は深刻化しつつあった。
「くそっ、追いつけない。房総半島を横切るぞ」タイガーが叫ぶ。
 海上を回り込むのを止め、陸上をショートカットして追った。ただし、陸上上空速度規制により、音速は超えられない。
「やつの目的はなんだ」カーキーはスロットルを握りながら、速度を上げられない歯がゆさに焦った。
「東京への攻撃か」タイガーも焦りを感じていた。しかし、冷静になって考えた。
「進路は間違いなく東京に向けている。しかし、東京攻撃が目的なら鹿島灘上陸後そのままのコースで直進したはずだ」
「それは、おれたちの妨害にあって……」カーキーが話す。
 タイガーは続けた。「九十九里でわれわれを振り切った後、いくらでも東京へ向かうコースは取れたはずだ。わざわざ陸地をさけて海上を回り込むようなコースはとらない」
「では、なにが目的なんだ?」
「今までのやつの行動を振り返ってみれば分かるはずだ」
「どういう事だ?」
「始めにやつがレーザーサイトに捕らえられたとき、岩手県釜石市の東二四〇キロにいて南南西に進路を取っていた。その先には何があるか分かるか?」
「なんだっ、いいから早く言え!」カーキーは話を急がせる。
「宮城県牡鹿郡にある女川原子力発電所だ。しかし、そこへの進行は山田のレーダーを嫌って諦めた。次に向かったのは福島第一第二原子力発電所だ。アスターとモールがやつを挟み込んだとき、やつは北西にコースを変えた。あれは俺たちから逃げただけじゃない。原子力を感じたからだ。そして、鹿島灘から領空侵犯を許したとき、北に進路を取った。あれは東海第二原子力発電所だ。全ての目的は、原子力にある。東京攻撃ではない」
「なぜ目的が原子力だと分かる? 原発でなにをしようというんだ」
「それは分からん」
「それに東京に原発はない。もし原子力が目的なら、次は静岡県の浜岡原発のはずだ」
「最初はそのつもりだったのかもしれない。だから太平洋上を西に向かった。しかし、浜岡までは遠い。やつは見つけたんだ。もっと近い所に」
「どこだ。日本海か?」
「横須賀だ」
「横須賀? そこに原発はない」
「ではなにがある」タイガーは意味ありげに話した。
「横須賀といえば、アメリカの海軍基地だ」
 カーキーは自分が口にした言葉に、はっとした。
「空母か?」
 タイガーはうなずいた。
 横須賀。アメリカ海軍第7艦隊が母港におく在日米軍基地がある。旗艦ブルー・リッジ他、ミサイル巡洋艦、ミサイル駆逐艦、そして、CVN73原子力空母ジョージ・ワシントンが展開している。ジョージ・ワシントンが配備させるまでは重油ボイラーによる蒸気タービンを機関としたキティーホークが配備されていたが、老朽化により交代せざるおえなくなった。日本初の原子力艦配備は非核三原則を持つ日本にとっては憲法違反であると反対運動も起こったが、原子力発電所を国内に建造することと同じく動力としての原子力であると逃げ切り配備に踏み切った。もしも、憲法違反として原子力艦の配備を拒否した場合、通常動力の空母は今は存在しないため横須賀への空母の配備がなくなってしまう。そうなると次に日米安全保証条約に問題が生じる。
「プラトン12が空母を襲うというのか?」カーキーが問う。
「その可能性はある」タイガーが答えた。
 横須賀までの距離、三五キロ。
 カーキー、タイガー、アプダ、バースのレーダーに、停泊中のジョージ・ワシントンから発鑑したと思われる戦闘機二機が捕らえられた。レーダーサーチを行なうと同時にIFFによる敵味方識別信号が送られ確認される。友軍機と表示された二つのシンボルは正面方向から接近してきている。
 通常、空母艦載機は横須賀に入港の際には岩国基地に降ろすことになっている。しかし、艦載機を厚木基地に降ろすなら横須賀から近いが、山口県にある岩国基地へ艦載機を降ろすのはスケジュール上無理があるのか、艦載機は満載状態であった。緊急発鑑の指示を受け、F/A-18Eが飛び立った。カーキーたち四機はそれを捕らえていた。
「米軍機だ」

 府中・総隊司令部 中央指揮所

「米軍機、上がりました。横須賀CVN73よりF/A-18E、二機。プラトン12へ向け南下中」
 新しい緑の三角が二つ、ディスプレイ上に表示された。プラトン12を挟み込むように、米軍機の三角と自衛隊機の三角が迫ってくる。
 青山は防衛省からの指令をすでに受けていた。自衛隊にはプラトン12を攻撃する法律的根拠がない。このまま追い回し続けていても解決策を導けない。米軍もプラトン12をモニターし続けている。アメリカにとってもプラトン12は興味のある研究材料だ。日本国はアメリカに対し日米安保条約に基づき、プラトン12の排除を打診した。
「アスター、モールに伝えろ。米軍機の指示に従って行動せよと」青山の口から息が漏れた。
 日米安全保障条約。戦後、憲法第九条により戦争を放棄した日本の安全保障をアメリカに委ねるという条約である。
 日本の交戦権を認めない。その代わり、ことあればアメリカが対処する。そのため日本には数多くの米軍基地が存在している。
「米軍がやつを墜とす」青山は席に深く座り込むと、腕を組んで動きを止めた。

 浦賀水道上空

 米軍機よりアスター、モールへ無線が入った。
「自衛隊機へ。こちら、チェルシー01。これよりプラトン12を攻撃する。すでにプラトン12をレーダーロックオンしている。アムラームを発射するので速やかに退去せよ」
「米軍が撃ってくるぞ」タイガーの声が耳に入る。
「今散開したら、プラトン12は、また軌道を返るぞ」カーキーが話した。
 アスター、モール編隊は房総半島を横切りプラトン12の後方一〇キロに追い付いていた。
「米軍の作戦に自衛隊は参戦しない。それがルールだ」タイガーが言う。
「しかし……」カーキーは納得いかない気持ちだったが、ルールという言葉に受け入らざるおえなかった。
「ミサイル発射を確認したら、すぐに散開する。いいな!」タイガーが指示する。
 三人は了解した。
 チェルシー01から続けて無線が入る。
「発射する。……発射した。30秒で命中する」
 四人の目には米軍機もミサイルも見えていない。ただ、米軍機と発射されたミサイルがレーダーに表示されているだけだった。
 ミサイルの数は一発のみ。米軍は命中すると言っていた。しかし、本当に命中させることができるのか? 九〇度旋回、後退飛行のできるプラトン12を追尾しきれるのか? 四人は疑った。
 アムラームはマッハ三を越えてきた。このままプラトン12に付き合っていたら、四人が危ない。
「散開しよう。上空に逃げる」タイガーが指示を出した。
 三人は従い、タイガーに合わせて上昇した。
 プラトン12は後方から感じていたレーダー波を感じなくなった瞬間、正面から来るレーダー波に意識がいった。急減速を起こしたプラトン12は一気に左に折れ加速した。
 アムラームはプラトン12の軌道に合わせ右に折れ、プラトン12の後方へと付いた。
 前方に感じていたレーダー波を今度は後方に感じ、プラトン12は蛇行しながら回避運動を取った。さらに速度を上げる。急上昇、急降下を繰り返す。プラトン12に追われたカーキーの軌道を学習したのか、高G旋回を繰り返しながら必死に振り切ろうとしている。しかし、プラトン12の速度も速すぎた。自身の速度はマッハ三を越えていた。あまりの早さに九〇度旋回もできない。逃げるためにさらに速度は上がっていた。だが、アムラームの速度はマッハ四に迫っていた。プラトン12との距離が縮む。プラトン12は旋回を止め、直進加速に切り替えた。しかし、プラトン12の速度は限界に達していた。正十二面体である形状は大気中の空気の壁を切り裂くには不利だった。アムラームはマッハ四を越えた。プラトン12はもう逃げ切れない。接触まであと二秒。
 そのとき、プラトン12の姿が消えた。

 アスター、モールのレーダーからもプラトン12が消えた。迷走するアムラームの軌道だけが映る。周辺にプラトン12らしき機影は確認できない。嘘のようになにも無く、静かな空が広がっているだけだった。
 前方からF/A-18E、二機が四人の飛行とすれ違う。F/A-18Eは大きく旋回してアスター、モールの横に並んだ。
「プラトン12はどうした? 確認したか」チェルシー01から無線が届く。
「わからない突然消えた」タイガーも釈然としなかった。
「撃墜した様子はない。命中する前に、自ら消えた」カーキーが話す。
 状況がつかめないまま時間だけが過ぎた。
 米軍機を先頭に六機は編隊を組ながら東京湾上空をゆっくりと飛行した。
 チェルシー01はなにやら自軍との通信を繰り返している。そのうち、アスター、モールにチェルシー01から無線が入った。
「作戦終了だ。チェルシー01、02は帰還する。アスター、モールは自国の作戦指示に従って行動せよ」
 チェルシー01、02は編隊を離れ、横須賀方面へと飛行した。
 アスター、モールにも司令部から指示が届いた。
「作戦終了。帰投せよ」

 府中・総隊司令部 中央指揮所

 管制官の一人が青山に振り向き聞いた。「なんだったんでしょう? プラトン12って」
「わからん。……UFO。本当にそうだったのかもしれないな」青山の声は落ち着いていた。「アスター、モールとも写真は撮ったな」
 管制官はうなずいた。
「タイガー……、いや、藤田二等空尉に持って来させろ。会って話したい」青山は席に座ったまま目を閉じた。
「藤田二等空尉と直接ですか?」管制官は青山の顔をのぞき込んだ。
「そうだ」青山はそう言ってうなずいた。
「失礼ながら知り合いで?」
「まーそんなとこだ」青山は目を閉じたまま答えていた。
それ以上、管制官は聞かなかった。

 東京湾上空

 タイガーが明るい声で話す。「作戦終了だ。帰ろう」
 了解の声が三人から届く。
「結局、どうなったんだプラトン12は?」バースの独り言のような声がみんなのヘッドフォンに伝わる。
「まったく分からない。目的も、消えた原因も、なぞのままだ」カーキーが答える。
 アプダが話す。「おれがプラトン12の写真を撮っている。これを現像すればなにかが分かるかもしれない」
「きっとその写真はおれが預かることになる」タイガーが落ち着いた口調で話す。
「なぜだ?」カーキーが聞いた。
 タイガーは今までにない静かな声でそっと語る。「きっとだ……。理由は、まあいいじゃないか」
 タイガーは話しを切り替えた。「カーキー。もう燃料が無いだろ。百里に降りろ。ひさしぶりに飲もうじゃないか」
 タイガーの不可思議な言葉に頭をひねったが、そこは深く追求せずに流した。タイガーの誘いに答える。「おまえとか?」迷惑そうな口ぶりでもカーキーの顔を笑っていた。
「積もる話しもある。アプダとも話してみたいからな」タイガーが笑みを浮かべる。
「私はそんなに飲めませんよ」アプダも笑顔で答えた。
「いいじゃないか、おれだって飲める方じゃない」
「分かりました。自分もバースと話してみたいし」
「お手柔らかに」バースも笑顔を浮かべる。
 ヘッドフォンを通してみんなの笑い声が聞こえた。
 F-15、四機は高度三〇〇〇〇フィートを百里に向けて飛行を続けた。
 ミッション・コンプリート・RTB。

 後日

 TV放送。夕方のニュース。スタジオ内に防衛省管理官が呼ばれ、女子アナからの質問を受けている。
「先日、東京湾上空にて米軍と自衛隊との戦闘が行なわれたという情報が流れています。未確認ですが米軍機から自衛隊機に向けミサイルが発射されたという情報も入ってきています。もし事実なら日米間において武力衝突があったということになります。これは、大変重い国際問題となりますが、実際にはどうだったのでしょうか?」
「そのような事実はありません。アメリカがミサイルを日本の上空で使用するなどという行為はあり得ません。ましてや日米間において戦争状態にあるなど全く事実無根です。現に国内のいかなる場所でも戦争は起こっていませんし、自衛隊には出動待機命令さえ出していません。そのような情報がどこから出たのか、私のほうが知りたいぐらいです」
「しかし、目撃証言もあり、千葉県香取市では衝撃波を感じたと訴える住民も存在しています」
「成田空港も近いですし、茨城空港も近郊です。戦闘による衝撃波に結びつけるのはなんの根拠もありません」
「茨城空港と言えば百里基地よりスクランブル機が上がりました。あれは何に対する警戒ですか?」
「スクランブルは年に二〇〇回ほどあります。そのひとつに過ぎません」
「横須賀の空母から発鑑する戦闘機も目撃されています。湾内停泊中の空母から戦闘機が飛び立つのは異例ではないでしょうか?」
「米軍の作戦行動を全て把握しているわけではありません。また、ジョージ・ワシントンは出港準備中でしたので艦載機の搭載状況も当然ですし、そのうちの戦闘機が飛び立つのもそれほど異例とは感じません」
「ですが……」

 この話題は連日メディアを賑わせたが、しだいに国民の関心も薄れ、忘れられていった。
 プラトン12の存在が公表されることはない。
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