いいママになりたかった:大阪2児放置死事件/下 出し続けたSOS 「寄り添い」なく、孤立深め
毎日新聞 2013年01月24日 東京朝刊
2人の幼い子供を放置し、餓死させたとして殺人罪に問われた中村(旧姓・下村)早苗被告(25)=上告中。子供を置き去りにして家を出たのは、離婚から1年と23日後のことだった。被告はこの間、周囲にSOSを出し続けたが、結果的に救いの手は差し伸べられなかった。
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・借金はしっかり返していきます
・家族には甘えません
・しっかり働きます
・逃げません
・うそはつきません
・夜の仕事はしません
2審で弁護側が提出し、証拠採用されたB5サイズの便箋がある。09年5月、元夫(26)との離婚に際して中村被告が書いた「誓約書」だ。
浮気やうそ、借金に家出−−。離婚の原因は被告側にあった。元夫やその両親、実父(52)を交えて話し合いが持たれ、子供たちは中村被告が引き取ることが決まった。
離婚までの経緯を考えても、中村被告が1人で十分な子育てをできる保証はなかった。だが話し合いでは、元夫が養育費を負担することは、議題にものぼらなかった。1審の大阪地裁判決は、この話し合いについて「子供らの将来を第一に考えたとみられない」として「悲劇の遠因」と位置づけた。
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離婚後、中村被告は「ミルクもおむつもない」と、三重県桑名市の母親の家に身を寄せたが、1週間ほどで家を出た。働き口として、寮や託児所を備えたキャバクラを名古屋市で見つけていた。被告は裁判所への上申書に「母が子供にきつくあたるようになるのではと思った」と書いている。
当時2歳の長女、7カ月の長男との生活は、すぐに壁に直面した。子供の病気だ。
中村被告は当初、2人を託児所に預けていたが、熱を出すようになると預けられなくなり、働きに出られず、収入も得られなくなった。「子供を寝かせてから仕事に行こう」。被告は始業時間が遅い別の店に移った。
この年の10月、被告はインフルエンザにかかる。元夫と実の両親に電話し「子供を預かってほしい」と訴えたが、元夫と父親には断られた。母親からは「預かろうか」と電話があったが、被告はなぜか「様子を見る」と断った。
行政にも助けを求めた。名古屋市の中区役所には、12月8日付で中村被告が相談の電話をした記録が残っている。
「子の面倒を見られない。一時保護してほしい」
被告は後に、この時のことを法廷で証言した。区役所から紹介された児童相談所に電話し「一度来て」と言われたが、具体的な訪問日程などを提示されなかったという。
「誰も助けてくれないと思った」