アルジェリア事件:実名公表、遺族から希望も
毎日新聞 2013年01月25日 12時19分(最終更新 01月25日 14時29分)
アルジェリアの人質事件で、政府と日揮はこれまで、遺族が望んでいることを理由に犠牲者の氏名を伏せてきた。市民の間にも、遺族の心情を考慮して公表すべきではないとする意見がある半面、公表を望む遺族も少なくない。
報道を巡る当事者たちの対応は多様だ。今回のアルジェリア人質事件で死亡が確認された渕田六郎さん(64)の兄光信さん(70)は22日の毎日新聞の取材に「弟も私も名前を出してもらって構わない」と話し、自身の写真の掲載にも応じた。「会社に問い合わせてもはっきりしたことが分からないから」と情報が入ってこないことにいらだっている様子だった。
01年の米同時多発テロで銀行勤務の長男、杉山陽一さん(当時34歳)を亡くした東京都目黒区の住山一貞さん(75)は当時、銀行からの氏名公表の打診を了承した。「行方不明だったので、手がかりが得られるのではという期待もあった。起きた事実を多くの人に受け止めてもらうには、氏名が必要だと思う」。ただ「取材が殺到して家族に負担がかかる可能性もある。家族の了解を取った上で公表するのがいい」とメディアに良識のある対応を求めた。
官邸で25日に記者会見した菅義偉官房長官は実名を公表した理由について「犠牲者の方々のご遺体が帰国し、ご家族と対面するタイミングをとらえ、政府の責任のもとで公表が適当だという判断に至った」と説明。亡くなった状況などは「個人のプライバシー。当事者側からの強い要望もある」として非公表とした。
伊藤忠商事社員としてアルジェリアのガスプラント建設に携わった首藤信彦・元東海大教授(危機管理、前民主党衆院議員)は「行方不明の段階で公表しなかったのは正しい。犯人側に情報を与えるリスクがあるからだ。しかし、事態が収束してからも隠したままだと、ネットや地元メディアなどに不確実な情報が流布して、かえって混乱する」と話している。【日下部聡、青島顕、新開良一】