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原発“新たな”安全基準 課題は

1月21日 23時15分

記者

東京電力福島第一原子力発電所の事故で、日本の原発の安全性に対する信頼が根底から揺らぎました。
その地に落ちた信頼を取り戻すため、国の原子力規制委員会は、国際的にも認められる原発の新たな安全基準を作り、電力会社に義務づける方針です。
福島を襲ったような大津波が来ても、航空機墜落のようなテロが起きても、大量の放射性物質の放出を防ぐには何が必要か。
21日、新たな安全基準の骨子案が示されました。
ことし7月までに作ることになっている新安全基準、骨子案のポイントは?今後の課題は何か?科学文化部の沓掛愼也記者が解説します。

新基準のねらいは

福島第一原発の事故で大きな問題となったのは、大津波を想定していなかったことはもちろんですが、複数の非常用の発電機などが同じ建屋の同じ階に設置されていたことで、津波によって水没し同時に機能を失うなどという、それまで考えていなかったような事態が起きたことでした。
大規模な自然災害、テロなどといった設計の想定を超える事態で起きる、いわゆるシビアアクシデントへの対応は、事故前までは電力会社の自主的な努力に任せられていました。
こうした反省に立って、新たな安全基準はそれまでの設計基準を厳しく見直すとともに、大規模な自然災害への対応や、テロ対策を、電力会社に法律で義務づけることにしたのです。

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新基準は7月までに

新たな安全基準づくりは、去年9月に原子力規制委員会が発足してからすぐに始まりました。
新たな基準は、法律でことし7月までに作ることが決まっています。
規制委員会の更田委員を中心に、外部の専門家6人を加えた検討チームを作り、おおむね週1回のペースでこれまでに11回の会合を開き、基準のもととなる骨子づくりを進め、21日、その案が示されました。

骨子案のポイントは

骨子案の内容です。
まず、設計段階で求めるものとして、
▽福島第一原発の事故ではすべての電源が失われて事故が拡大したことから、外部からの電力の供給がなくなっても少なくとも24時間分もつバッテリーを備えることや、
▽津波などで建屋の内部に水が入った場合に備えて遮水壁や排水設備を設けること
▽さらに火災に備えて、安全上重要な機器を作動させるための電源ケーブルなどを燃えにくいものにすることが盛り込まれています。

一方、シビアアクシデントに対する基準では、テロなどによって建屋などが大規模に壊れても、原子炉を冷やすことができる「特定安全施設」と呼ばれる施設の整備が盛り込まれました。
「特定安全施設」は、現在の原子炉建屋内にある安全装置とは別に、独立した施設として建屋の外に新設されるもので、例えば原子炉内や、格納容器に溶け落ちた燃料に注水できる配管のほか、中央制御室の代わりに原子炉の状態を監視できる「第二制御室」などが含まれます。
これらの施設は、航空機の墜落などでも壊れないことが要件で、頑丈な壁で覆うか、または建屋からおよそ100メートル離して設置するかなどが求められます。
また、福島の事故の際に格納容器の圧力を下げるベントが思うようにできずに、結果として格納容器が損傷し、放射性物質の大量放出につながったことから、放射性物質の放出を抑えながら格納容器内の圧力を下げる「フィルターベント」と呼ばれる施設を2系統設置することを求め、設備の信頼性を向上させるとしています。
これらの対策の検討に当たって原子力規制委員会は、「国際的にみても最高水準の安全規制を目指す」として、海外の基準などを参考にしました。

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電力会社からは異論も

これに対し、対策の実施を求められる電力会社からは異論や注文が出ています。
というのも、新たな安全基準では福島の事故を教訓に、安全上重要な設備の「多重性」や「多様化」を厳しく求めています。
しかし、電力会社側は、骨子案のように厳格に新たな施設の設置を求める方が、リスクが高まったり、現実性が乏しかったりすると主張しているのです。
今月18日の専門家会議で電力会社から初めて意見を聞いた際には、例えばフィルターベントの設備を2系統求める方針について、「1系統でも十分、信頼性を確保できる」とか、「配管が長くなると地震で破損するリスクが高まる」などと異論が相次ぎ、「既存の設備を活用して要件を満たせる場合は、新規の設置を免除するなど電力会社が柔軟に対応できる基準にしてほしい」などと要望がでました。
電力会社側は、1つ1つの対策について詳細にリスクを検討し、複数でなくても、1つでもよいとする根拠を確かに示しています。
しかし、福島の事故を経験したわれわれにとって、電力会社側の意向によって安全性が切り下げられるのではないかという疑念がまだぬぐえていません。
特にこうした対策は、電力会社にとってみればどこまで求められるのかによって、対応にかかる時間や、コストに直接跳ね返るものです。
実際のプラントをよく知る電力会社側の意見を聞くことはもちろん大切ですが、新たな基準をまとめるにあたって規制委員会は、安全第一を何より重視すべきだと思います。

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運転再開の審査が焦点に

新たな安全基準は、新しく原発を作る際にはもちろん、すでに建設済みの原発にも適用されるため、ことし7月以降に実施される原発の運転再開の審査にも使われることになっています。
規制委員会はこれらの対策のうち、テロなど設計で求める基準を超える対策の一部については、起こる頻度が小さいなどとして、一定の条件を満たせば、運転再開の審査をする段階では、猶予を認める方針です。
どの対策を審査の段階で求めるのかは、今後、議論することになっていて、原発の運転再開の時期にも影響することから今後の焦点の1つです。
2度と福島のような事故を起こさないために、安全を第一にした基準が求められるなか、それぞれの対策を求める意味や、なぜ対策に猶予期間を認めるのかなど、国民に分かりやすく説明していくことも、今後、規制委員会は問われることになります。

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