2011年3月11日の東日本大震災で壊滅的な被害を受けた岩手県陸前高田市。あと1カ月余りで発生から2年を迎える。上京中の戸羽太市長が25 日、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)とダウ・ジョーンズ経済通信の東京支局を訪問した。
- Takeshi Yoshiike / The Wall Street Journal
- 戸羽・陸前高田市長
戸羽市長は、復興の足取りは重いとし、スピード感の重要性を強調した。民主党政権下では政府と被災地の認識が共有できなかったが、昨年12月に発足した安倍晋三政権の取り組みについては「信用するしかない」と消極的ながらも期待感を示した。
発言要旨は以下の通り。
●復興の現状について
「陸前高田市の人口は、震災前2万4000人だったが2万人に減少した。犠牲者が約1800人、残り約2000人は避難などで町を離れた。震災が発生してから、復興は少なくとも2年ぐらい経てば前に進んでいるだろう、と当初は勝手に想像していた。しかし、もうすぐ2年が経過しようという状況なのに、復興という状況には至らず、非常にもどかしく思う」
「市内では低地が多く被災したので、住宅や公共施設は高台に建設するする必要がある。その手続きに非常に時間がかかる。11年8月に移転計画を発表し、同年10月に建設の委託契約を結んだ。実際工事が始まったのは昨年11月だ。13カ月もかかっている。このようにスピード感がないというのが最大の障害だ。通常のルールではなく、超法規的な緊急のルールを適用してほしいと主張している」
「国が決めた使い途に沿っていないと使えない問題もある。被災地の状況と国の考え方がマッチしていない。そこから検証しないと復興は進まない」
●民主党政権の対応ぶりについて
「民主党は皆それぞれがアイデアを持っている政党だが、最終的に法律やルールを変えるという決断ができなかった。例えば、復興の手段については、民主党政権は『知恵を絞ってくれ』ということだった。つまり、法律にそった方法を被災した地域で探せということだった。それなら制度を変えてほしい、できることを復興庁で示してほしいと主張したが通らなかった」
●自民党政権への期待について
「選挙戦では、各党が公約として取って付けたように復興支援を盛り込んだが、全般的にどの政党、候補者も言及していなかったのではないか。ただ、自公政権にシフトし、復興の重要性に言及しているので、信用するしかない。根本匠復興相が『(復興の手段などを)こちらからサジェスチョンする』と話していた。本当にそうなればだいぶいい方向に進むだろう」
●雇用問題について
「雇用に関しては、有効求人倍率は1.4倍に達している。震災前は1倍を上回ることなど考えられなかったが、今は人を募集しているのに集まらない。仕事ができるにもかかわらずしていない人もいる。義援金や保険金の支払いのほか、雇用保険も延長してきたことによって、仕事に就かないという問題もある」
●心のケアと被災地の思いについて
「震災で家や家族をなくし、家事もしたことのないタイプの高齢の男性が心配だ。友人、知人が周囲にいればいいが、話す人もいない孤独な人もいる。ボランティアなどで訪問した際には『また来るから』と声をかけてあげてほしい。来るわけないと思いつつ、それでももしかしたら来るかもしれないと思い、それが生き甲斐につながるからだ」
「広く訴えたいのは、被災した地域を忘れないでほしいということだ。忘れ去られると復興も進まなくなる。そのために自らフェイスブックを使って発信し続けている」