2012年10月22日(月)

“電気ケトル”事故 実態と対策は

阿部
「その手軽さから急速に普及が進む『電気ケトル』についてです。
『電気ケトル』を倒し、こぼれたお湯でやけどをする乳幼児が相次いでいることが分かりました。」


鈴木
「消費者庁は、お湯漏れ防止機能がついた製品かどうか明示するよう各メーカーに求めることになりました。」

“電気ケトル事故”で消費者庁 メーカーに要請へ

電気ケトルは、コーヒーカップ1杯分のお湯であれば1分余りで沸かすことができる手軽さが特徴で、ここ数年、急速に普及しています。
これに伴って、子どもが倒してやけどをする事故が相次いでいることが、NHKが行った情報公開請求で分かりました。
去年(2011年)4月から1年あまりの間に電気ケトルが原因でやけどをし、治療を受けた6歳未満の乳幼児は、消費者庁が報告を依頼している13の病院だけで、少なくとも9人いました。

日本小児科学会 子ども事故担当 山中龍宏医師
「消費者庁を中心に事故の情報が集められているが、非常に限られた場所ですし、本当に氷山の一角で、数百件、数千件の事故がここ数年で起きていると思う。」


このため消費者庁は、お湯漏れ防止機能がついた製品かどうか明示するよう各メーカーに求めることになりました。

阿部
「国内の電気ケトルの販売台数は、去年1年間で260万台。
この5年で2.6倍に急増しています。
少しのお湯をすぐに沸かしたり、台座から外してどこにでも持ち運んだりできる手軽さがうけて、急速に普及していると見られています。」

鈴木
「いったいなぜ、電気ケトルによる事故が相次いでいるのでしょうか。」

“電気ケトル事故”で深刻なやけど

小児救急が専門の井上信明医師です(いのうえ・のぶあき)。
電気ケトルを倒してやけどをした子どもを、1年間で3人受け入れました。
中でも重症だったのが、一昨年(2010年)運び込まれた、生後8か月の女の子です。
おなかから顔、両腕まで、体の表面の4分の1に深いやけどを負っていました。
ハイハイをしているうちに、沸騰したお湯の入った電気ケトルを倒してしまい、腹ばいのまま、こぼれたお湯につかってしまったのです。
集中治療室で治療を受け、一命を取りとめたものの、2か月入院。
今も、繰り返し、皮膚移植が必要な状態です。

都立小児総合医療センター 井上信明医師
「(子どもは)大人に比べると皮膚が薄いので、同じ温度のものに接触しても深いやけどになりやすい。
少し間違えば、命さえも取られかねない、けがを起こしうる。」

“電気ケトル事故”なぜ相次ぐ

なぜ、電気ケトルで事故が相次いでいるのか。
独立行政法人の産業技術総合研究所のグループは、乳幼児のいる家庭に協力を求め、電気ケトルの事故について実験を行いました。
0歳から1歳の乳幼児11人を測定装置をつけた遊具で遊ばせます。
子どもたちにどのくらいの力があるか調べました。
水1リットル分のおもりを入れた電気ケトルに、同じ力を加えてみます。
すると、対象にした市販の電気ケトル、7つの製品すべてが転倒。
さらに水を入れて実験すると、このうち5つは倒れると。
1歳児であれば重症のやけどにつながる程度のお湯がこぼれることが分かりました。
一方、同じようにお湯を沸かす「電気ポット」は、同じ力を加えても倒れません。
さらに電気ポットは、以前、倒れてやけどをする事故が相次いだことから、国の安全基準が設けられ、お湯漏れを防ぐ工夫が講じられています。
電気ポットは、倒れた時に漏れ出すお湯の量は、50ミリリットル以下にすることが定められています。
しかし、長時間の保温を前提としない電気ケトルには、こうした安全基準がありません。

産業技術総合研究所 西田佳史上席研究員
「(電気ケトルにも)こういう基準を設けて、転倒した際にも子どもの安全・ユーザーの安全を高める基準が求められているのではないか。」

“電気ケトル事故”安全対策は

こうした中、安全対策に乗り出すメーカーも出始めています。
この会社では、電気ポットの製造技術をいかし、すべての電気ケトルに、倒れてもお湯がこぼれにくいふたを採用しています。
しかし消費者アンケートで、購入の動機となっているのは「価格」や「デザイン」。
国内で販売される電気ケトルのうち、安全対策を講じているものは3割程度にとどまるという調査もあります。

開発担当者 金丸等さん
「早く沸く、手軽に使える、デザイン的にいいものが重視される。
転倒してもこぼれにくい商品を出しても、それがうまく伝わらないのが、われわれの課題。つらいところ。」


一昨年、重症のやけどをした女の子です。
手を開きやすくするため、先週も皮膚の移植手術を受けました。
母親がNHKに寄せた今の思いです。

「何でこうなってしまったのか、傷つくこともたくさんあると思います。
製品が倒れてもこぼれないといい。
同じようなつらい思いをする人が出ないよう、対策が進むことを願っています。」

事故の教訓を生かし、身のまわりに潜む危険を摘み取る安全対策が今、求められています。

電気ケトルを安全に使うために

阿部
「早急な対策が必要ですね。」

鈴木
「消費者庁は今月中(10月)にも各メーカーに対応を求めることにしています。
また、家電メーカーでつくる日本電機工業会も表示のあり方について検討を始めることにしていますが、対策の徹底が課題となっています。」

阿部
「では、今、家庭にある電気ケトルを安全に使うにはどうすればいいのか、専門家に聞きました。

産業技術総合研究所 西田佳史上席研究員
「もし、いま湯漏れ防止機能がついていないものであれば、できるだけ安全に使うために、縁には置かない。
縁から約30センチまで3歳の子どもなら容易に届く。
30センチ以上、内側に置くことが必要になる。
コードを引っかけて転倒させる事故も多発している。
コードは低い位置につけずに、80センチ以上ある高い位置のコンセントにつなげるということが大事。」

阿部
「電気ケトルを使用する際には注意して使うことが事故を避ける事につながります。」

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