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「くらしEYE」のコーナーは、共同通信社生活報道部が毎週末、新聞用に出稿している「暮らしアイ」と「暮らしコンパス」「そもそも解説」を47NEWS向けに再構成したものです。

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【見直される着物 】働く女性の「勝負服」 商談や海外で存在感

着物姿で取引先にあいさつ=2012年12月、東京都内

着物姿で取引先にあいさつ=2012年12月、東京都内

 働く女性の間で「着物」が見直されている。足が蒸れずに快適、おなかも冷えない。商談の席や海外で「勝負服」として着れば存在感は際立つ。木綿やウールなど、手入れしやすく比較的安い素材の着物も増えてきた。

 津田塾大(東京)の三砂ちづる教授(54)は、10年ほど前から自宅でも職場でもほぼ毎日着物姿だ。大学では重い資料を持ち運ぶことも多く、チョークの粉で汚れもする。着るのはもっぱら家で洗濯できる木綿だ。

 きっかけはストッキングと靴を履くのが嫌になったこと。木綿の足袋と草履なら、足が蒸れたり靴に締め付けられたりせず快適だ。肝臓や腎臓が帯で守られるので冷えも防げる。「ヒモなどをあまり使わず楽な着付けをすれば着物の方が快適」と三砂教授。

 IT関連企業の営業職、飛世絵梨さん(35)にとって、着物は業界内の展示会や会食での「勝負服」だ。人前に出るため、訪問着のようなあらたまった絹の着物が多い。

 着物姿の女性がいる展示ブースは他社に比べて目立つ。上司や顧客にも好評だ。「当社は外資系の多いIT業界で珍しい日本企業。着物はそれを表現できる」

 史料の保管・公開に関する非営利団体「国際文書館評議会」(本部・パリ)の部会に所属する松崎裕子さん(49)は2010年、日本で開かれる定例会議を前に着付けを習った。海外の会合に着物姿で出席し、部会の委員を日本に誘った。「人目を引いただけでなく、周囲が日本人としての私に敬意を払ってくれたように感じた」。11年5月、東日本大震災の後だったが、多くの委員が来日してくれたという。

 仕事である以上、周囲に不快感を与えないことが大切だ。海外やイベントでは明るい色の着物が映えるが「いつもは地味にしている」(三砂教授)人が多い。松崎さんは「働く女性の中には、着物を封建的な抑圧の象徴と考えて嫌がる人もいる」と打ち明ける。

 洋服に押され着物市場は縮小している。だが着物雑誌の編集に携わる田中敦子さんによると、01年ごろから木綿やウール、中古品など数千円から数万円で購入できる着物を紹介する雑誌が相次いで創刊。女性誌もこうした着物を特集するようになり、着物を買う働く女性が増えた。

 呉服店「awai」(東京)の木下勝博統括は、職場向けに男性のスーツ地で仕立てた着物を勧める。「価格は10万円以下。ウールなのでクリーニングに出せて手入れが簡単。洋服の中にも溶け込みやすい」

 木下さんによると、庶民の普段着だった木綿やウールの着物は戦後、需要が激減。かつて栄えた産地でも1、2軒しか織元が残っていないことも多い。木下さんは「着物を冠婚葬祭以外でも着てもらえれば、産地を守ることにもつながる」と期待を込めている。

 呉服市場 矢野経済研究所(東京)によると、1981年のピーク時に約1・8兆円だった呉服小売市場は、冠婚葬祭での洋服の普及に伴い縮小。2006年には呉服販売大手の倒産もあり、11年には3千億円を割り込む見込みだ。その一方で同研究所は「ネット販売が伸び、カジュアル着物の需要が生まれるなど一部に明るい兆しも見える」と指摘している。

 (共同通信)

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