アルジェリア事件:犠牲者氏名公表 政府、日揮押し切る
毎日新聞 2013年01月24日 22時25分(最終更新 01月24日 23時57分)
政府は24日、アルジェリアの人質事件で死亡が確認された日本人10人の氏名を公表する方針を決めた。菅義偉官房長官は21日に「7人死亡」を発表して以来、被害者家族や日揮の意向を踏まえて公表を控えてきたが、政府としては今後、日本人保護策を強化するため事件の検証作業に入る。氏名を伏せたままでは情報収集などに支障が生じかねず、「遺体の帰国後」を落としどころに政府が日揮を押し切る形になった。
安否不明者の確認作業にあたって、政府は日揮と緊密に連絡を取り合った。複数の日揮関係者によると、同社は巻き込まれた関係者の氏名を秘匿。幹部社員すら報道で初めて知る状況だったという。
氏名の公表を拒む理由として日揮側は「犠牲者・遺族への配慮」を強調してきた。報道陣の取材に応じる遺族が増えても姿勢を変えず、23日夜も報道各社からの公表要請に「遺族など関係者に取材が殺到しており、さらに拍車がかかる」と拒否回答。業界関係者はこうした日揮の対応に「アルジェリアなどでのプラント事業への影響も懸念しているのでは」と理解を示した。
政府側も菅氏が21日の記者会見で「名前の公表は、ご家族や会社との関係もあるので控えさせていただく」と宣言し、日揮に歩調を合わせた。一方で、邦人の安全確保には事件の検証が必要になるため、政府内では菅氏を中心に公表の是非について議論を続けた。01年9月の米同時多発テロの際には、被害者家族の同意が得られた場合にのみ政府が氏名を公表した前例があり、これにならう案も検討された。
揺れた末にたどりついた結論は、日揮ではなく政府から公表する形式。菅氏は24日午前の記者会見で「私の定例記者会見で、政府の責任のもとに公表したい」と説明した。日揮も遠藤毅広報・IR部長が同日の会見で「政府が犠牲者や遺族に配慮しつつ公表することについては理解している」と追認した。政府高官は「政府には家族との関係と国民との関係がある。今までは家族の意向を最優先した」と苦悩をにじませた。【鈴木美穂、山下俊輔】