「日中出版社党員離党事件」を採りあげる。「党中央の出版妨害事件」から関連の箇所を抜き出すことにする。偶然にも「いわな氏離党事件」と同じ時期となっている。
1984(昭和59)年夏頃、日中出版社が「原水協で何がおこったか、吉田嘉清が語る」を緊急出版しようとしていた。これを感知した宮顕―金子系党中央は、その出版を阻止しようと、様々な出版妨害活動を展開した。柳瀬社長は「出版を思いとどまるべき」と警告され、その後4回にわたる「調査」という名目での査問を受ける身となった。党の干渉は、社員の安藤氏にまで及んだ。安藤氏は離党決意し、文京地区委員会宛てに「離党届」を送付した。
この時の日共の論旨は候であった。
概要「そもそも党員は自ら規約を承認して入党しており、当然党規約の拘束を受ける。党員の規約違反容疑に対して、党機関がしかるべき調査を行い、党員の規律違反を未然に防止する措置を敏速、適切に講ずることは、それぞれの機関と党組織の義務でもある。それは政党の内部自律権の行使であり、憲法の保障する結社の自由の内容の重要な一部である。これを『出版の自由』などというのは、結社の自由を否定するものでしかない」。 |
「日中出版が『自由と民主主義の宣言』を持ち出して、『言論、出版、その他の表現の自由』を主張するが、それは都合のいい方を持ち出しているに過ぎない。『自由と民主主義の宣言』は『結社の自由』をもうたっており、日中出版党員が党の綱領や規約を承認した上で入党した以上、その拘束を当然受ける」。
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(私論.私見)
概要以上の論旨を展開していた。しかし、考えてみ見よう。「出版の自由」をこのように論旨展開させて恥じない左翼党が有り得て良いだろうか。これは紛うこと無き権力理論であり、しかも反動的な「党員飼い殺し理論」であり、奴隷強要論である。党と日中出版との問題は、党生活、党内規律、結社の自由の問題としては有り得る。それは個別吟味されねばならない面もあるにはある。だがしかし、「出版の自由」を「結社の自由」論で否定するなどは問題のすり替えであり出鱈目であろう。
1・党員は自らの自由意志で入党している。2・政党には内部自律権がある。3・党員は、党生活において党内規律と規則で制限される、という三段論法を臆面もなく展開しているが、党中央は党員を煮て食おうが焼いて食おうが自由自在理論であって、ここには民主主義精神のひとかけらも無い。まさに王朝論でしなかろう。
「結社の自由」を「言論、出版、その他の表現の自由」と対立させ、「結社の自由」を優位にたたせるこの党中央の論理は、宮顕仕込みのご都合理論の万展開である。党中央に限りない権力が集中され磐石の態勢下にある中で、この鬼の金棒論理を振り回すとどうなるか。それはファシスト的独裁体制に道を開くというかそのものではないか。
付言すれば、これはれんだいこならでは指摘し得るところであろうが、この論法は宮顕独特の査問論理であることに気づくべきであろう。「戦前党中央委員小畑査問致死事件」の責任を問われた宮顕の公判闘争の論理は、1・党員は自らの自由意志で入党している。2・政党には内部自律権がある。3・党員は、党生活において党内規律と規則で制限される。4・党内査問は政党の自由裁量であり、外部から問題されるに及ばない。5・小畑の死亡は本人の特異体質によってである。6・我々の蘇生努力にも拘わらず蘇生しなかったのは本人の責任である、というものであった。この論法が至るところに適用されていることが分かろう。
柳瀬社長の暴露に対しては、それまでは「党の関知しないところです」なる説明で居直っていた。それが通じなくなると、「あたかも日本共産党が『出版妨害』事件を起こしたかのようにすりかえている」と批判し始めた。他方で、柳瀬社長を「あわれむべき転落者」、「無節操」呼ばわりすることで、事実の解明には向わない。どっちが「すりかえ」ているのかは明解であろう。
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安藤氏の離党届に対し、文京地区委員会が次のように返書してきた。
概要「あなたから離党届が郵送されてきておりますが、党規約により、このまま受理できない。あなたから都合のよい日時、場所を指定して連絡くださるよう改めて通知する」。 |
安藤氏は、次のように返信した。
概要「私は既に熟慮の末、離党をお伝えいたしましたし、ご説得による翻意もありえませんので、これ以上のご連絡を一切お断りします」。 |
この後は暫く無風となる。
1984(昭和59).8.9日、「原水協で何がおこったか、吉田嘉清が語る」が緊急出版された。1985(昭和60).2.22日、柳瀬・安藤氏は、除名された。2.24日、赤旗に、「柳瀬宣久の除名処分について」が掲載された。一方的に都合のよい「党規律違反の概要」が書きなぐられていた。
「まして、前衛党たる日本共産党の場合、党員は、党の政策や方針に反対する見解を党外で勝手に表明することを明確に禁じた規定を含む党規約を自ら承認して入党しているのであって、党員にとってはその規約を守ることが、党にとってはその規約を守らせることが、すなわち『結社の自由』の重要な内容なのである。
この党規約を認めて入党する以上、党員が自らの出版や言論の自由をこの『結社の自由』と両立させつつ積極的に行使することは、本来、外部からの強制ではなく、本人の自発的意思である。(なお、党の政策や方針に対する意見、異見は、党内で表明する道が党規約で保障されている)前衛党の党員が、『出版の自由』ということで、党攻撃を目的とした出版が勝手にできるなどという柳瀬の議論は、党の上に個人を置くことを求めるだけでなく、党破壊活動の自由を党自身が認めよというものであり、綱領と規約の承認を前提に自覚的に結集した前衛党を解体に導く途方も無い誤りの議論である。それは、前衛党の『結社の自由』のあからさまな否定に他ならない」等々。
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(私論.私見)
これが、党中央のいつもの反党分子に対する常套話法である。この論法に違和感を覚えない者は基本的に左派運動を理解していないことになろう。れんだいこは逐一反論はしないが、あまりにも酷すぎる話法であることを指摘し置く。 |
出版騒動からほぼ9ヶ月になる6.17日、日中出版(代表・柳瀬宣久)の女性編集者・安藤玲子宅に、「日本共産党中央委員会」名の配達証明便が届けられた。次のように記載されていた。
「通知」書が封入されており、「党勢委員会は、党規約第33条に規定する権限にもとづいて、貴同志の規律違反について調査することを決定した。よって、左記に指定する日時に出頭されたい」。 |
規律違反容疑として、党中央の意向に反して「原水協で何が起こったか、吉田嘉清が語る」を出版した「柳瀬の反党活動に協力するという重大な規律違反」を挙げ、「こうした貴同志の行為は、重大な規律違反として、党規約にもとづく処分はまぬかれない」とあった。同様通知書が、日中出版社員に送付されていた。
安藤氏は無視しようとも思ったが、実家へ連絡される不憫を思い、決着つけようとして6.26日、「日本共産党中央委員会統制委員会」宛に次のように返信した。
概要「既に離党していること、今更『同志』として決定を知らされても驚きと疑問を感じざるを得ないこと。『出頭』はしないし、こうした『通知』は今後一切貰いたくない」。 |
ところが、10日後の7.6日、統制委員会より新たな通知書が日中出版気付で送られてきた。次のように記されていた。
概要「統制委員会は、このような貴同志の裏切り行為に対して、党規約にもとづいて厳重に処分することを決定し、党規約第69条にもとづき、弁明の機会をあたえることにした。よって、左記に指定する日時に出頭されたい」。 |
概要「党規約では離党届を提出すれば離党となるのではなく、貴同志が党機関との話し合いを拒否しているため、この手続きは完了していないことを指摘しておく」。 |
これによれば、「党員には離党の自由が無い」ということになる。今でもこのような党規約にされているのであろうか、恐ろしい事ではある。7.9日、安藤氏は、「祈るような思いで」日本共産党中央委員会宛てに「改めて『出頭』して弁明する必要もありませんので、右、書面にて、お断りする次第です」としたためて投函した。
篠崎氏も同様の遣り取りをしているが、篠崎氏の方が明確に答弁していることもあって、この方は争点があからさまとなっている。「基本的人権をも党は拘束できるとしているが、これは出版人としての私には許容できないものです。私は、柳瀬宣久氏の除名処分は撤回されるべきものと考えています」(6.15日付け「通知に対する返書」)。
これに対して、統制委員会は、7.4日付け「通知」で、「反党分子に転落した柳瀬とともに党を攻撃するという、極めて悪質な規律違反であり、党と階級の利益を裏切るものである」と罵倒している。
篠崎氏も負けていなかった。7.12日付けで返書し、次のように批判した。
概要「党中央の出版差し止め騒動こそ自己批判すべきであり、柳瀬氏の除名処分は撤回されるべきであり、党規約第3条第4項で『党員は、中央委員会に至るまでのどの級の指導機関に対しても質問し、意見を述べ、回答を求めることができる』と定めており、私が率直に自分の考えを述べたことが、『極めて悪質な規律違反』に問われることは納得できない。この点に関する統制委員会の明確なご返答を文書にて寄せられるようお願い申し上げます」。 |
しかし、何の回答も為されぬまま、8.17日付け赤旗に、「篠崎泰彦、安藤玲子、矢田智子ら3名の反党分子の除名について」論文が掲載された。7段3分の1を費やす「公示文」になっていた。これまで分析してきた通りの駄文を繰り返して、党中央への拝跪論理を振り回していた。日中出版の「出版の自由」に対して、次のように非難していた。
概要「前衛党を解体に導く途方も無い謬論であり、以上に述べた篠崎、安藤、矢田ら3名の党規律を真っ向から蹂躙した行為は、その変節、転落、堕落が救いがたい状態に到達していることを示すものである。よって、除名処分する」。
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奇態なことは、これらの経過に見合うかのような宮顕の次のような言及があることである。宮顕にとって文章は美辞麗句でしかなく、実際にやることを見たほうが良い。
「(党員の処分にあたっては、)事実の綿密な調査と深い思慮が必要だということです。この思慮を欠いてことを行うならば、事実に合わず、道理に合わないことになって、その決定は当事者の苦しみはもちろん、党にとって有害なものにならざるを得ません。‐‐‐先入観にとらわれず、機関及び被処分者の申し立てなどを事実に基づいてそれぞれつき合わせ、それぞれの側にただしてまず事実を明確にすることが特に重要であるという点であります」(第11回党大会における宮本報告)。 |
(私論.私見)
こういう言葉を弄びながら、確信的に裏腹のことをやるという宮顕の陰険な性癖に対して、我々は氏をどう評価すべきだろうか。異常性格か、もしそうでなければスパイ特有の三枚舌文言として見ておくべきかと思われる。 |
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