対して任天堂のミーバースは、愉快犯を抑制するためにあまり広報していないが、最初から24時間、有人の監視体制を敷いている。岩田社長が「個人情報は即、削除。15分以上、出ていることはない。何かあってからじゃ遅いですから」というほど徹底した体制だ。
後からの追加課金システムについても、岩田社長は「そもそも青天井の課金がしにくい構造。毎回、課金画面が出てきたり、あるいは1000円単位でチャージをしなければいけなかったりするわけで、ボタンを押し続けるだけで、どんどん課金されることはない」と話す。
■岩田社長の考える「ニコニコ原理主義」
岩田社長はWiiを発売した頃、よく社内で「ニコニコの連鎖」の話をしていた。
「ゲームが面白いというニコニコ、親子の会話が増えたというニコニコ、おじいちゃんが歳をとっても明朗快活でいられるというニコニコ、何でもいいからお客さんが笑顔でいられることを目指そう。やりがいで社員もニコニコできるし、業績が上がれば投資家もニコニコする。その連鎖がうまく回れば任天堂は持続可能な組織となり、社会に対しても責任を果たしていけるよね」と。
任天堂は何の会社なのか。かつてそう聞いた時、岩田社長はこういった。「笑顔創造企業。それが娯楽産業のあるべき姿なんじゃないですかね」――。
むろん、きれいごとばかりはいっていられない。営利企業、そして上場企業である以上、利益を追求するのは当然だ。業績回復へ高いハードルがあるのは間違いない。3DSは息を吹き返しつつあるが、Wii Uの魅力を一発で世間に伝えるソフトが今後、現れるかは未知数。広義のゲームデバイスや参入企業があふれ、人々は昔ほどビデオゲームに驚かなくなっている。
業績公開以来、初の赤字転落は「任天堂最大の危機」と報じられ、投資家の目線は冷ややかだ。何より岩田社長は自分自身で作ってしまった「記録」と戦わなければならない。09年度の売上高、1兆8386億円。営業利益、5552億円。常にこの奇跡のような記録と比較され、叱咤(しった)されるが、ソニーやマイクロソフトといった家庭用ゲーム機の競合より好調でも、褒められることはない。
しかし、任天堂にとっては繰り返しにすぎず、不文律を曲げるようなことではない。
■「失意泰然、得意冷然」
かつて経営の多角化で倒産寸前に追い込まれた任天堂を救ったのは「ゲームウオッチ」と「ファミコン」だった。ソニー陣営が「プレイステーション」で躍進し、任天堂は約10年ものあいだ家庭用ゲーム機の王座を引きずりおろされたが、DSとWiiがそれを救った。
山内前社長は「必需品ではない娯楽の商売をやる以上、勝てば天国、負ければ地獄」という持論を岩田社長に教え、「失意泰然、得意冷然」という座右の銘を残した。運に恵まれない時は慌てず泰然と構え努力せよ。恵まれた時は運に感謝をし、冷然と努力せよ、という意味だ。だから岩田社長も目先の利益に固執することなく、愚直なものづくりに研さんする。
創業123年、任天堂の長い歴史からすれば、まだ傷は浅い。現金などの内部留保もまだ4100億円以上ある。岩田社長に新年展望を聞くと、こう返ってきた。「13年は新ハードはないですから、ソフトで驚いていただけるよう、喜んでいただけるように頑張ります。ゲーム専用機ビジネスの明るい未来を多くの方に実感していただける年にしたいと思います」。短く、淡々としているが、その泰然とした相変わらずの姿勢に、任天堂の強さと覚悟を感じた。
(電子報道部 井上理)
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岩田聡、Wii U、Wii、DS Lite、iPad、任天堂、ゲームパッド、メディアクリエイト
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