心の由来:「心」についての身もふたもない話

精神医学・臨床心理学に関連した、あまり実益のない無駄知識を中心とした科学読み物です。

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アルコール依存症の治療は、実はけっこう難しい? パートIII

アルコール乱用・依存症に対するMiller先生らの「動機づけ面接 motivational interview」の話題の中で、アルコール関連問題がある人に対して、口うるさくお説教をすればするほど、問題意識を押しつけようとすればするほど、本人は嫌になってしまい「治療」に非協力的になってしまう傾向がある、ということをお話ししました。

これはなにもアルコール乱用・依存症の人に対する医療従事者の態度についてだけいえることではありません。 むしろ、ずっと一緒に暮らしている家族の態度についての方がよりそういえるでしょう。 ずっと一緒に暮らしている家族(特に配偶者、あるいは一緒に住んでいて実質的に配偶者的になっている恋人)にとって、相手がアルコール関連の問題を繰り返していることは大変にストレスでしょうし、嫌な気持ちをため込んでしまっていることは十分に理解できます。 しかし、こうした普段からの不満をぶつけるように、本人にお酒を止めさせようと口うるさくお説教し、過去の問題行動がいかに困ったものであったかを蒸し返し、責め立てることは、害にはなっても益にはならないのです。 気持ちはわかりますが、こうすることでなおさら本人を非協力的にし、なおさらアルコール乱用・依存に駆り立ててしまうのです。

また配偶者(あるいは配偶者的な恋人)の中には、お酒に溺れる相手が何もできない子どもであるかのように過保護・過干渉に接してしまったり、ひどいときには「お酒を飲ませていないとうるさいから、飲んでいる方が静かでいいから」とお酒を買い与えてしまう人までいます。 こうして、また別の意味で、相手をよりアルコール乱用・依存症にしてしまっていることもあります。
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アルコール乱用・依存症の人とその配偶者やその他の家族との間に生じる、こうした悪循環的な関係性の問題はけっこう以前から知られていました。 このため、一時期はこのようにして相手をアルコール乱用・依存症にしてしまう配偶者(あるいは配偶者的な恋人)のことを「イネイブラー」と呼んで批判・非難する人さえいました。 「あなたが、そんなだから配偶者がアル中になるんだ。 あなたがいけないんだ。」とばかりにです。

ところが、家族療法と称して、こうした「イネイブラー」の配偶者(あるいは配偶者的な恋人)の問題を指摘し、夫婦間の潜在的な問題を気づかせたところで、ほとんど治療的な効果はあがりませんでした。 悪くすると、「イネイブラー」と呼ばれた配偶者は自分を責めてうつっぽくなってしまうか、ますます配偶者を責めるか、離婚するか、ということになってしまい、問題の解決からはほど遠いことになってしまうのでした。 

「イネイブラー」は「イネイブラー」であり、アルコール乱用・依存症の人との病的な関係に依存してしまっている、いわゆる「共依存」であることは、たぶんその通りなのです。 ですが、だからといってそれを直面化的に指摘され、批判されたところで、良い方向にすすむことができないのは、アルコール乱用・依存症の人がその人の依存症的問題を直面化的に指摘され、批判されても、だからといって良い方向にすすむことができないのと、結局のところ同じだったのです。

こうした中で、臨床的に科学的に明らかな治療効果を示してきたのが、家族行動療法behavioral family therapy、あるいは夫婦行動療法behavioral couples therapyでした。

家族行動療法(夫婦行動療法)では、どのようにして夫婦間の悪循環がアルコール乱用・依存症を維持・強化してしまってるかを理解してもらいますが、だからといって配偶者に「イネイブラー」というラベル貼りをして批判・非難の対象に少しでもしてしまうようなことはしません。

むしろ、夫婦(恋人)の一方が持っているアルコール乱用・依存症という問題を夫婦(恋人)の共通の問題として認識し、一緒に協力して取り組んでいくための具体的な課題が行動レベルで与えられます。 例えば、毎日「今日一日お酒を飲まないようにします」とアルコール乱用・依存症の人が宣言し、配偶者(恋人)はその証人となり、なおかつ本人がこうして頑張って取り組んでくれることを心から評価します。 こうした「儀式」をちゃんと2人で行えたことをカレンダーに記録としてつけていきます。 さらに(治療がある程度すすみ、ある程度お酒をやめられている期間が続いたら)、夫婦(恋人)の関係性を改善するために、コミュニケーションのスキルや問題解決のスキルを練習していきます。 特に、相手の気持ちを十分に共感的に聴くスキルを高めます。 過去のことを蒸し返してあれこれ文句を言うことは厳禁です。 そして夫婦(恋人)が2人で一緒に出来る活動をつくっていきます。 日常生活の中にある「相手が自分のためにしてくれた良いこと」にしっかりきづき、ちゃんとそれを感謝するコミュニケーションを増やしていきます・・・

このようにして、家族行動療法(夫婦行動療法)では、飲酒をやめることはもちろんのこと、家族(夫婦)の関係性やコミュニケーション行動を改善するための行動療法的な練習プログラムがふんだんに使われることになるわけです。

家族行動療法(夫婦行動療法)は通常合計20セッションくらい、数ヶ月〜半年ほどかけて行っていきます。 その結果・・・

一般的な個人療法に比較して、アルコール乱用・依存症の症状の程度も、夫婦間のコミュニケーションも、家族の機能も改善される傾向が高いことが示されています。 ついでに、アルコール依存症の夫から妻への暴力も(平均50〜60%だったのが、25%くらいに減少)、アルコール依存症の妻から夫への暴力も(平均60〜70%くらいだったのが30%くらいに減少)、ともに減りました。 喧嘩になっての相互的な暴力も減りました。 親がアルコール乱用・依存症があって夫婦関係が不良であると、子どもにもいろいろな情緒的問題を生じてしまうことが知られているのですが(これをCOA=Child of Alcoholicsの問題と言います)、これまた親が夫婦行動療法を受けることによって軽減されることが示されています。 (子どもの情緒的問題は、夫婦行動療法に加えて親訓練parent trainingと呼ばれるまた別の行動療法を組み合わせることでさらに効果的に軽減できることが示されてもいます。)
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つまり、アルコール乱用・依存症によって損なわれていた家族機能そのものが、完全ではないかもしれませんが、回復する可能性が示唆されているわけです。

なんだ素晴らしい治療じゃないですか。 ただ、この治療法にも弱点があります。 一緒に暮らす、一緒に治していこうと思ってくれる「家族」「配偶者」「恋人」「誰か大切な人」がいないと行えない治療なのです。 当たり前ですが。



参考書:
(1) O'Farrell TJ, et al.  Behavioral couples therapy for alcoholism and drug abuse.  J Subst Abuse Treat, 2000; 18: 51-54.

(2) Fals-Stweart W, et al.  Behavioral couples therapry for substance abuse : rationale, methods, and findings.  Sience & Perspective, 2004: 30-41.

(3) Lam WKK, et al.  Effects of parent skills training with behavioral couples therapy for alcoholism on children : a randomized clinical pilot trial.  Addic Behav, 2008; 33: 1076-1080.

(4) Schumm JA, et al.  Partner violence before and after couples-based alcoholism treatment for female alcoholic patients.  J Consult Clin Psychol, 2009; 77: 1136-1146.

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