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生活TOPICS ~西日本新聞紙面・生活面から~

【こぼれゆく暮らし 生活保護の現場から】<1>母子加算廃止 「最低限度の生活」って?

2010年01月15日 02:57
 貧困層が拡大する中、“最後のセーフティーネット”とされる生活保護制度が揺れている。不況で保護世帯が急増する一方で、不正受給も増加。膨らみ続ける財政負担を背景に、老齢・母子加算が廃止され、「水際作戦」と呼ばれる保護率抑制策の影で餓死者が出る事態まで発生している。制度は時代の変化に対応し、機能しているのか。生活保護の現場をルポする。 (畑中知子)

 九州のある地方都市。市街地の喧騒(けんそう)から少し離れたアパートで、安西圭子さん(51)=仮名=は3人の子どもと暮らしている。病気のためか、顔色はひどく悪い。1年前から生活保護を受けている。

 「娘が中学に進んだこの春が一番きつかった」と振り返る。バッグや靴など、すべて新品でそろえると予算は8万円。生活保護の入学準備金では足りず、制服と体操服は卒業生のリサイクル品を購入した。大きめの制服を着た娘の姿に、安堵(あんど)だけではない複雑な思いを抱いた。「生活はいつも綱渡り」とため息をつく。

 安西さんは夫のドメスティックバイオレンス(DV)に遭い、4年前に離婚した。その後、工場勤務や仲居などパートを掛け持ちして約12万円の収入を得たが、1年ほど前、子宮筋腫を患い退職を余儀なくされた。元夫からの養育費も途切れがちで、知人から生活保護の申請を勧められた。

 「躊躇(ちゅうちょ)しました。世間体が悪いと感じてたから。でも、何とかして子どもたちを守らないといけない」。1回目の相談では、福祉事務所で母親の遺産を指摘され「(申請は)すっからかんになってから」と帰された。貯金が底をついてから申請すると、ケースワーカーが自宅を訪れ布団の枚数まで調べていった。

 受給額は月約15万円。「みじめな思いをするかもしれない」と子どもたちには話せずにいる。今、気掛かりなのは子どもたちの部活動。ユニホーム代や遠征費が捻出(ねんしゅつ)できそうにない。「いつか『やめて』と言わなくちゃいけんかな…」

 1人でアパートにいると「働きもしきらんと」と自分を責め、落ち込むという。この夏、手術を受ける予定だ。「早く元気になって働き、保護を抜け出したい」と願っている。

 生活保護の母子加算が2005年度から段階的に減額され、今年4月に全廃された。これまでにこれを不服とする福岡、鹿児島などの母親350人近くが、各道府県に審査請求している。

 「今一番、お金が必要な時なのに」と憤る福岡市在住の吉森千賀子さん(46)もその一人。7年前から保護を受け、高校3年の長女と同2年の次女を育てている。加算廃止で受給額は月約2万円減った。参考書代や資格試験代など教育費用はかさむ。「進学したい」という次女の夢もかなえてやりたい。

 吉森さんには、約10万円のパート収入がある。収入は申告し、不足分の約10万円を保護費として受け取っているが、「友人に『二重取りじゃないの』と言われたこともあるんです。保護家庭は働いたらいけない、と誤解があるみたい」と嘆く。「嫌な思いをすることもある。でも今は保護がないと親子3人、生活していけないんです」

 加算廃止後は見切り品の肉や魚を冷凍して使うなどの方法で食費を抑えている。風呂の水は4日間使う。「でも、どんなに切り詰めても月2万円の節約は難しい。憲法が保障する『最低限度の生活』って何でしょうか…」

 =次回は30日掲載予定

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 ●受給最多の119万世帯 1割が母子家庭

 生活保護の受給世帯数は1992年度の約58万5千世帯から16年連続で増え、今年3月は過去最多の約119万世帯(速報値)に上った。

 制度は、医療、住宅、教育、介護など8つの扶助分野で「健康で文化的な最低限度の生活」に必要な費用を基準額として設定。収入が基準額合計を下回る場合、その差額が世帯ごとに支給される。生活扶助の基準額は大人2人と子ども1人の世帯で約16万7千円―約13万1千円(09年度)。保護費は国が4分の3、地方自治体が残りを負担する。

 全受給者の約1割を占める母子家庭に対する母子加算の廃止は「母子家庭の生活保護費が一般の母子家庭の平均年収を上回っている」(厚生労働省)ことを理由に決定された。しかし当事者の反発が強く、民主党など野党4党が「母子加算復活法案」を提出、参院を通過している。厚労省はあらためて母子家庭の実態調査に乗り出す方針。

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 ●こちら取材班
 生活保護に関する体験談をお寄せ下さい。ケースワーカーが直面している課題や悩み、制度に対するご意見などもお待ちしています。


=2009/07/16付 西日本新聞朝刊=

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