By MEGUMI FUJIKAWA, TATSUO ITO AND TAKASHI NAKAMICHI
【東京】安倍晋三首相は、低迷する日本経済テコ入れのため、従来以上に果敢な金融緩和措置を講じるとの約束を日銀から取り付けたことについて「画期的」と称賛した。
しかし市場、アナリスト、そして日銀政策委員会のメンバーの中にも懐疑的な見方があり、日本経済はデフレとの長い戦いで転換点を迎えるまで依然として程遠いとの見方を示している。
日銀は22日、デフレを脱却するまで金融資産買い取りを「無期限」に実施することを受諾し、政府との共同声明で2%という確固としたインフレ目標(ターゲット)を初めて採用した。政府はこれを日銀の大きな変化と評価した。
日銀は、消費者物価は3月末までの今年度に0.2%下落、来年度はわずか0.4%の伸びにとどまると予想しており、この2%上昇という目標に到達すれば、日本経済にとって大きな変化になる。
安倍首相は共同声明発表後に記者団に対し、これが大胆な金融政策の見直しであり、画期的な文書だ」と述べた。同首相は「これはマクロ経済政策のレジームチェンジ(体制転換)だといえる」と語った。
安倍首相の側近は、今回の日銀の決定によって、中銀の独立性を制限するための日銀法改正の必要が減じたと述べた。自民党は日銀法改正も辞さないと警告していた。
しかし市場の反応は、この日の日銀政策決定会合の結果を長い間予想していただけに、もっと冷静だった。最近2010年4月以来の高値をつけていた日経平均株価指数は、午後の共同声明発表のあと前日終値比0.4%安で終了した。
外為市場では、安倍氏の日銀バッシングに伴い対ドルで過去2カ月間に約10%下落していた円が再び上昇に転じた。円は22日の東京市場で2%高となり、1ドル=90円台だったドルは88円36銭の安値を付けた。
ロンドンに本拠を置くキャピタル・エコノミクスの主任グローバルエコノミスト、ジュリアン・ジェソップ氏は顧客に向けて、「ここ(発表された施策)には大胆な措置はほとんどない」と述べ、「2%という新たなインフレ目標を実現するため、『無制限の緩和』が大々的に発表されたが、日銀によるきょうの政策変更は多くの点で期待を裏切るものだった」とした。
一部のアナリストは、22日の政策決定会合は、せいぜい安倍政権下での日銀の変化の始まりにすぎず、日銀の抜本的な姿勢の変更は、任期切れに伴って安倍首相が白川方明総裁や副総裁を入れ替えられる4月までは起きないとみている。
白川総裁は長年、経済テコ入れのため日銀がさらに多くのことができるという見解には懐疑論を公然と表明してきたし、安倍首相が提案している諸政策は有益であるより有害だと警告してきた。
今回、白川総裁は安倍首相の全体的な処方せんをのむことで方針転換したかにみえた。だが、それでも重要な裁量の余地をなんとか確保した。同総裁は共同声明発表後の記者会見で、金融政策の新たな決定は、安倍首相が大胆な規制上、制度上の改革を断行するという、もっと幅広い「成長戦略」を採用しない限り機能しないと繰り返し述べた。
シカゴ大学の経済学者で白川総裁を長年批判してきたアニル・カシャップ氏は「日銀が本当に政策をシフトしたかどうか判断するのは時期尚早だ」と述べ、「次の日銀を主導するのが誰になるか見極めるまで、デフレ脱却のため必要な措置を彼らが実行するかどうか分からないと思う」と語った。
多くの投資家やエコノミストが日銀を操ろうとする安倍首相の異例な圧力を称賛する一方で、同首相が日銀の独立性を損ない、日本の金融政策形成において政治が経済を凌駕する危険性があると懸念の声を上げる向きもある。とりわけ心配なのは、政治家が経済刺激のためだけでなく政府支出と借り入れを増やすのを容易にするため、日銀に圧力を掛けて国債を大量に購入させることだ。これは、日本にとって有害になりかねない。日本の政府債務は既に経済規模の2倍に達しており、世界最高の比率になっているからだ。
国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事は先週、日本政府の新経済政策に関する討議で、インフレ目標は「中銀の独立性が明確であるならば、それ自体よいことだし、興味深い」と述べた。しかし、安倍首相の諸政策に一つ「欠けている」ものがあると指摘、日本の借り入れを抑制する策も盛り込むべきだったと警告した。
今回の決定を具体的にみると、日銀は初めて「期限を定めず資産を買い取るオープンエンド方式」を採用すると鳴り物入りで発表した。2%の物価目標を達成するのに必要とみられる限り金融資産の買い取りと実質的なゼロ金利政策を実施していくという、一見、劇的にみえる約束だ。これまで日銀は1%のインフレの目途(ゴール)を目指し、資産買い入れを続けてきたが、その買い入れは今年度末で終了する予定だった。
しかし華々しい発表の陰で、アナリストたちは、文言は強いが具体的な措置はほとんどないと指摘。新プログラムの下での資産買い取りは2014年まで開始されることすらなく、今年末までの現行緩和プログラムに変更は一切ないと述べている。
三菱東京UFJ銀行はリポートで、日銀は達成しなければならないインフレ水準を2倍にしたにもかかわらず、「実質的に、日銀はおおむね(債券買い取りの)現行ペース維持を約束している」と述べている。またモルガン・スタンレーの日本担当チーフエコノミスト、ロバート・フェルドマン氏は「『無制限の』というのは金額ではなく期間を指している」とし、政府は日銀の対応に「満足」するのではなく「怒る」べきだと付け加えている。
日銀は声明で、来年から毎月13兆円の国債を買い入れる方針を表明した。しかし、この期間内に満期となる国債の金額を考慮すると、増額分は通年で10兆円にとどまる。現在実施されている資産買い取りプログラムの下での買い入れ予定残高101兆円から、わずかに増加するだけだ。
インフレ目標に関しても白川総裁自身、「2%のインフレ目標を達成するには相当思い切ったな努力が必要だと思う」と述べ、目標達成のため政府も経済の潜在成長力を引き上げる努力が必要だと語った。
白川総裁は、政策決定委員会内部でも、こうした高いインフレ目標は金融政策の信頼性を損なう恐れがあるとの懸念があったと述べた。
安倍首相に日銀に追加緩和させるための他の方法もある。副総裁2人の任期は3月に切れるし、白川総裁の任期も4月に到来するためだ。
しかし22日の日銀会合は、こうした日銀幹部の交代が安倍首相の期待するような効果を得られないかもしれないことを示唆している。9人の政策委員会審議委員のうち、最もハト派で安倍首相の緩和要求を支持すると予想されていた2人の委員が2%のインフレ目標は非現実的だとみているからだ。この2人は佐藤健裕、木内登英の両委員で、インフレ目標に反対票を投じた。
アジア諸国では、日銀の一段の緩和姿勢には賛否両論だ。投資資金の流入が期待できる一方、資産・負債のバブルを招く可能性があるからだ。
インドネシア財務省で財政政策を担当するバンバン・ブロジョネゴロ氏は、緩和政策が日本の内需を刺激し、同国の対日輸出を増やすと期待する。
メリルリンチ日本証券のチーフエコノミスト吉川雅幸氏は、グローバルな金融危機を受けて欧州の銀行がアジア諸国から撤退したあと、日本からの投資が地域の金融市場の安定に寄与してきたと指摘。その上で、資金の流れが大きくなりすぎると問題を起こしかねないと警告した。
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