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古い布 裂いて再生

かごを使った「裂き織り」を指導する廣田さん。「家にあるもので気軽に織れますよ」(北九州市小倉南区で)=大野博昭撮影
綿の布を裂いてひも状にする
大島つむぎを裂いて作ったコートの生地

 着なくなったシャツや着物、すり切れたシーツ……。そんな布を細く裂いて、織ったり編んだりする手仕事が、根強い人気を集めている。古いものに新しい命を吹き込む楽しさが魅力のようだ。

 思い出の着物や産着 味わいある作品に

 北九州市の織物作家、廣田栄さん(58)に、古い布を裂いて糸のように使う「裂き織り」の方法を教えていただいた。小さな作品なら織機がなくても、カゴや木箱などを使って織ることができるそうだ。

 「まず、横糸を作りましょう」。廣田さんは、浴衣をほどいたという綿(めん)の布にハサミで幅1センチほどの切れ目を入れてから、両手で裂き始めた。ジャーッと気持ちよく裂ける。最後は2センチほど残し、布を反転させてまたハサミを入れ、次は逆方向に裂く。これを繰り返すと、長さ数メートルのひも状の横糸ができた。

 横糸は、切り込みの入った長さ20センチほどの木製の道具に巻き付けていく。「シャトル」や「()」と呼ばれ、縦糸の上下に横糸を通すのに使う。段ボールなどに切り込みを入れても代用できるそうだ。

 次に廣田さんが取りだしたのは、100円ショップでも売られているワイヤ製のかご。縁に糸を等間隔に張り、縦糸にする。この日は、分かりやすく説明するために縦糸を少なくして実演してもらったが、通常は10センチ幅の織物を作るのに10〜30本の縦糸が必要だ。目の詰まったカゴを選ぶのがコツ。木箱に縦糸を固定するクギを打ってもいい。

 「織り方は簡単です」と廣田さん。シャトルを使って横糸を縦糸の上、下、上、下と交互に通していく。1列通し終えたところで、髪をとくクシを取り出した。縦糸にクシの歯を差し込んでトントンと手前に打ち付けると、横糸が圧縮されて目がきれいにそろう。

 次の段以降も、前の段と上下が逆になるように横糸を縦糸に通し、クシで手前に寄せる作業を繰り返す。横糸がなくなったら新たに布を裂いて、端を約5センチ重ねて継ぎ足し、そのまま織り進める。

 裂き織りはもともと、布を大切に使う知恵として、東北などの農漁村部で作られていた。独特な風合いが魅力で、近年は都市部で愛好者が増えているという。廣田さんも、自身のアトリエ「手織適塾さをり北九州」で教えている。高齢者や障害者の施設で手ほどきすることもあるそうだ。

 新しい布より、使い古した布や色あせた布の方が柔らかくて織りやすく、味わいのある作品に仕上がる。複数の布を使うと、より深みのある色合いになる。「形見の着物でランチョンマットを作ったり、昔の産着をコースターにしたり。思い出を大事にしながら、リサイクルや手織りの楽しさを味わってほしい」(手織適塾さをり北九州 093・962・3455)

 ◆裂き織りのコツ

 ▼型崩れを防ぐため、織り始めと織り 終わりは、布ではなく糸で数段織る。

 ▼縦糸は均一の強度になるように張る。

 ▼織った後の縦糸は、織りの中に縫い込んだり、結んで房にしたりすると良い。端にミシンをかけて補強すれば、よりほつれにくくなる。

 編んで/かぎ針で柄きれい

色鮮やかな作品を前に、編み方を説明する奥村さん(福岡市中央区で)

 裂いた布をかぎ針で編んで楽しむ人も多い。福岡市の奥村律子さん(56)は、「布編み」の名で普及に取り組んでいる。20年以上前、夫の転勤で住んだアメリカで、ドイツ系移民の町に立ち寄り、古布を利用した編み物に出会ったのがきっかけだ。

 編み方は、通常のかぎ針編みとほぼ同じ。大きなかぎ針を使用する。1〜2センチ幅の布でも編めるが、奥村さんは薄い布を8センチ前後の幅に裂き、布端を中に織り込んで四つ折りにしてから編む。ほつれが隠れるうえ、一目が分厚くなるため、大きな作品でも短時間で編める。布の柄がよりきれいに出るのも利点という。

 よく作るのは鍋敷きや座布団、かご、布草履のほか、家具で床が傷つくのを防ぐ脚カバーや、台所や洗面所に敷くマット。「針や糸も使わずに実用的なものが作れる。色や柄の組み合わせを考えるのも楽しいですよ」

 布編みに適したかぎ針を特注し、自身のホームページ「布編み館」(http://www.nunoamikan.com/)で販売。かぎ針付きの本「布編みぞうりと暮らしの小物」(角川マーケティング、1800円)も発行した。22日まで福岡市の博多阪急で作品を展示している。

 

 織って/裂き織りの専門工房

作品のポーチやクッションを見せる寒河江さん。床のマットも裂き織り。後方左のついたては端午の節句ののぼりで制作したそうだ(福岡県糸島市で)

 福岡県糸島市には、九州では珍しい裂き織り専門の「(きれ)工房」がある。

 主宰の寒河江(さがえ)信子さん(66)は約30年前、夫の久也さん(65)の転勤で青森県に住んだ際、裂き織りを学んだ。福岡に戻ってからも、東北で古くから使われていた専用の織機を手に入れて織り続けてきた。

 工房で作ったポーチ(3000円〜)やバッグ(1万2000円〜)などを販売。生徒にも教えている。今後は「愛着のある着物で作品を織ってほしい」という要望にも応じるという。最初の織機は古くなったが、いまは退職した久也さんが製造を手がけており、希望者に販売している。(裂工房 092・323・4855)

2013年1月21日  読売新聞)
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