2013-01-22
■[教育][心理]体罰とかで騒いでる暇ないよこれから学校教育は本当に苦難の5年を迎える
大阪で体罰とか入試中止とかで盛り上がってるところに埼玉県の100名以上の先生が早期退職したってニュースが話題に。
悪いのは条例? 先生? 退職金減額を回避するため教職員が大量退職 - NAVER まとめ
いろんな有名選手や教授がここぞとばかりに体罰について語ってyahoo!でまとめられてるのだけれど、全く核心を突いていない。
皆「法律があるから守るべき」とか「ちゃんとした指導法を勉強してない」とか「指導者が人間的に未熟で」とか、知らんがな。あとは体罰はダメだから体罰はダメ、みたいなトートロジーコメントばっかり。あと知恵バイアス。
こういうのは教育ジャーナリストの方々にしっかり語ってもらいたいけど尾木ママは元いじめの専門家らしくそっちの方面から指摘。内容は珍しくちゃんと仕事したけどこの人学校の先生キライだから結論がワイドショー並になっちゃうのよね。
「命の重みわかっているの?」……尾木ママ、桜宮高生徒による記者会見に憤慨 - 芸能 - 最新ニュース一覧 - 楽天woman
尾木ママこと尾木直樹氏と宮台真司氏の大阪市立桜宮高校体罰事件についてのコメントが鋭い(音声・文字起こし)。 - 関心空間
んじゃ考えるべきところはどこなのか。今回の問題の構造に注目すべきなのだ。具体的に言えば
の3つでしかない。
参考:サッカーで体罰がほぼ淘汰された理由 : footballnet
なぜか、サッカーはバスケットと違い部活以外にもチームやリーグ、場合によってはフットサルなどの活躍の場が別にあること。市民大会もある。つまり体罰に耐えてまで高校の部活にこだわって所属し続ける必要がないのだ。
ただ、先輩からのシバキはその分きついと言う。逆らったり離脱すると学校にいづらくなる。それにやはり外部のチームに所属するより部活の方が安あがりだ。学校の部活にはお金がない子どもも教養や心身の訓練を受けられるという側面がある。
2つ目にインセンティブ制度。部活は給与に含まれていないが保護者が慣例で顧問を受け持たされる。給料もほとんどでない。ちゃんと働いてほしければコーチを雇うかちゃんと手当を払うべきだ。休日も指導で週7で働いてる先生も沢山いる。
3つ目、体罰は痛みや恐怖などパニック状態を引き起こす。ただ「お前のやり方が悪いこうしろ」と指摘するより殴ったあと同じことを指摘した方が判断により影響しやすい。例えば殴られ続けてココまできたのに途中で引退するのはもったいない、というコンコルド効果やマインドコントロールなどと言われる現象が発生する。体罰を受けた人のほとんどが認知的不協和(なんで行けないことなのにするの?という混乱)の払拭のための体罰の肯定を行う。「(世間的にタブーな)体罰を行うのは愛情があるからだ」などの類いだ。
場合によってはオウム心理教が修行で使ったと言われるトランス状態からの催眠効果など、いわゆる洗脳の手順を再現してしまうことも考えられる。緊張状態が続くと自分を緊張させた相手に愛着を持ってしまう。ストックホルム症候群みたいにラポールとかできちゃうのだ。こればっかりは教師側や保護者がマインドコントロールに自覚的である意外にどうしようもない気がしている。
それより問題は退職の方。市長さんはのんきに入試中止とか言って看板変えただけで悦に入ってるけど体罰に追い討ちをかけてこれはヤバい。これから学校の先生はどんどん足りなくなる。学校教育がさらに機能しなくなる。これはまずいことになったよ。学校教育崩壊の危機。こっから先は長いから読みたい人だけ読んで。
まず普通の学校はどんな環境にあるのか。少し盛って書くが教員の尊敬度なんて地域どころか社会的に失墜して教員の尊厳は死んだことになっている。だから教育「再生」会議とかが発生する。
背景には80年代教育の黄金期を通って来た今の親世代の方が先生より学歴や学校ランクが高い、とか給料が高い、とかいろんな事実がある。
なので親の方が社会的地位が先生より高い。大学の入学偏差値も工学部とかの方が高い。昭和と違い親が先生を尊敬する要素が減ったのだ。親が尊敬しない教師を子どもが尊敬する訳がない。
授業は基本的に聴かない。だいたい経験的に2〜3割くらいが聞かない。でも教師もののドラマや映画みたいに露骨に全員がそうなる。ああいうのは稀にある(聞く)けど相当末期。多分都道府県に1クラスあるかどうかのレベル。特に教師対生徒でなく担任対生徒の構図になってしまうものは学校が組織として機能してないから現実はドラマにすらならない。
90年代以降厳しくなり教員の体罰も原則禁止だから子どもは自由に振る舞う。授業中は数名身体も後ろの黒板を見ている。俗にいう学級崩壊が始まる。
そうすると処方箋は2つ。子どもと馴れ合うか権威的に振る舞うかだ。勉強や学習は面白いんだと唱えても聞く気がないのだから、第3の道なんてない。
教師が権威的に振る舞う時、部活は交渉の材料になる。子どもの学校での唯一の楽しみだったりするので、部活させないぞというとコントロール出来ることが多い。だから学校でおイタすると連帯責任、部活停止。なぜかこれが昔から抑止力として効果があったりする。
それから部活は教師側も燃える。毎年大学の教育学部の学校推薦枠の面接試験などで「学校で何の先生になりたいですか?」って聞くと「部活の顧問」という言葉ばかりが出てくると言う。
しかし、部活、日曜日などに一日練習の監督をしても効率の場合日給1000〜2000円程度。場合によっては交通費込みでマイナスだという。
参考:桜宮高校で「顧問王国」が出来てしまったたった一つの理由
ただでさえ忙しいのに部活も管理するのはおかしい、外部コーチに頼もう、とココ10年位言われ続けているし導入も進んでいるのだけれどいまだに自分で指導したい燃える先生達も多い。部活は思っている以上に時間が取られる。休日は自己研鑽より授業準備より家族サービスしたいよね。そりゃ授業の質も上がらんわ。
参考:中央教育審議会 今後の教員給与の在り方について(答申) 第四章 教員の勤務時間・勤務体系の在り方−文部科学省
ほとんどの先生達にとって部活の指導は報酬が見合わないのだからなにか美味しい蜜が必要だ。それが顧問王国であり、例えばイライラのはけ口として体罰をしてしまう場合もある。その環境がカタルシス機能を持ってしまう。そうすると適切な監視がない限り本人の意思とは離れて暴走してしまう。優しい先生と思っていた先生ですらある日突然ビンタで子どもの鼓膜を破ったりしてしまう。
ちゃんと労働に見合った報酬が出ている場合、説教はすれど、体罰は最後の手段になる。僕がそういう環境にいる私立の教員に聞き取りをした限りでは皆、手を出す場合は代わりに大切なものを失うといった覚悟をしていた。
そもそも体罰の逆にある、<いい教育>とはなんなのか?
いろいろ本を読んだが、これも世代によって違うし、全てに共通するのは「逆境を乗り越える物語」であると言うことだ。貧乏でろくに勉強できない人間が先生のコーチによって進学できる。荒れていた生徒が先生のコミットで真人間に戻る。教員自身もこの物語のキャストになることに憧れて業界に参入してくる。いじめを救ったとか、体罰で目覚めました、みたいな物語を美徳としたGTO世代やキンパチ世代もいる。普通の成績の奴が中堅大学に進学してもそれは教育の成果として話題にはならないのである。
しかし現実はキャストが足りない。学校の教員数は他の先進国と比べても足りていない。言うこと聞かない生徒やモンペに代表されるストレスフルな労働環境。労働時間も国際的に見ても長く、残業代は計算できないので一律給料の4%を手当として支給。昭和41年からそのままだそうで、指摘はされているが未だに見直されていない。
つまり学校は体罰が起きやすい環境にある。統計に出てこない暗数として恒常的に体罰が行われていると言う話も聞くが、学校の先生がみんな体罰に走らないと言うのは、精神的にがんばって耐えている方かもしれない。
そんなにつらいんならやめろよ、という人もいるだろう、現実沢山やめている。離職率も年々増えている。教員の需要推計で想定されていた退職率離職率より多くやめている。高校では20代教員の4割教がやめていたと言うデータもある。
そして教員免許保有者数は確保されていると言うが、今年教員需要はピークになり教員は不足すると指摘されていた。この5年間、ずらして多めに新任教員を採用する都道府県などが多々あった。
調べてみたら逆に少子化で今年採用実質ゼロの都道府県があるのだと言う。そんな状態が平成30年まで続くと言う。ぽかんと教員の年齢層に穴が開く都道府県が出てくる。調査がなぜ教員定数を増やす想定がしていないのか謎ではある。
参考:潮木研究室
最近では多くの都道府県で教員採用や教科で倍率も2倍程度、適切な競争ができない。問題の難易度をむやみに上げることができず採用試験がフィルターとして機能しない。教員の質も数も十分に担保されない。
教員は地域によっては不足するし年齢性別偏るし、競争が緩くなればやはり知識量に対しての合格水準は低くなるし、入っても離職率高いし、もしだれかが離職したあと補填される教員は基本的に非常勤講師で、十分な能力を持っているとは限らない。教員が足りず、隣の市のブラックリストに載るような授業放棄教師を知らずに採用してしまい一学期間学校中が混乱したと言う事例も聞いた。
もちろん若手で優秀な人は沢山いるよ。優秀で教員になるのやめて一般企業にいった人も当然いっぱいいるよ。
要は教員の年齢構成は地域によってはいびつになる。いびつになると年配の先生からの技術の継承がうまく行かないとか、若手に仕事が集中したりとか、若手がする仕事を年配の先生がしなければならなくなったりとか、教員自身も気づいていない混乱がどんどん生まれている。
学校の先生にゆとりを持たせようって指摘は30年以上前からある。んじゃ次善の策で何やったかと言うと、正規採用を増やすのではなく非常勤講師がめちゃくちゃ増えた。今では10%近い水準だと言う。
参考:pdf
ますます教員の年齢構成はいびつになるし、教師問題は大学だけでなく小中高にまで及んでいる。
その上今回の早期退職者100名超は追い打ちで、埼玉の先生からの愚痴も聞こえて来た。これから公務員の給与カットなどで報酬が確保されないのであればどんどん優秀な教員は減っていくし、インセンティブ設計がいびつな業界に持続可能性なんて見いだすことも出来ない。
これだけハードで特殊な現場で、熱意のある人だけ残って行くと思いきや、熱意のある人から燃え尽きて離脱していくか奇行に走るとしばしば指摘される。
そうして増えた非常勤講師達、がんばって勉強しても正規雇用されない教師が、子ども達に勉強すればいいことあるよ、ってどうやって教えればよいのか。
どうしても確率的に発生してしまう知識や指導力が足りない先生を使えるようにするには学校に教員養成機能も必要だし、研修ももっといろいろ必要だし、研修言ってる間に先生足りなくても学校が余裕持ってまわせるようなシステムも必要だし、せめて非常勤でも保険に入れるようにしてほしい。
また、初任者は普通小学校で3、4年生、中学校で中3の副担任など扱いやすい学年を持たされるのだが、大阪ではすでに教員不足しんどい現場の担い手がおらず、しんどい学校に初任者が赴任し、しんどい学年を受け持たされたと言う話も去年の夏に聞いた。
今までは外野がわやわや言ってたのが黙るだけでそこそこ円滑に回りそうだった学校が、いまや黙ったところで正常に回すことに期待が出来ない段階にきている。再生会議に引っ掻き回されるのも目に見えてる。
しばらくは社会教育とかサービスラーニングとかコミュニティによるセーフティネットのようなものを利用して並走していくほかない。していくほかないのだがこれらはコストが高過ぎるしまだまだ団体ごとに玉石混淆で、がんばってるNPOが、酷い仕事をする一部の学生団体やNPOに頼むからやめてほしいと苦言を呈している状態である。
なんとか制度を設計し直さないとそろそろヤバい。例えば男性教員が不足している現場に若手の男性教員が集まるようなインセンティブ設計とか、もう早期退職させるならさせるで、例外ありの50歳定年制とかにして定年後学校職員で再契約するとかもしくは予算を増やすとか、教員は授業に専念してカウンセラー担任制とか教員採用試験の受験者の母数が増えるような制度を用意しないとヤバい。もしくはもっと教育にお金を使ってあげる。教員養成にも教員の数も増やしてあげる方向に行かないと。
体罰に目が奪われてどうにかしようとか言ってる場合じゃない。裏でこんな問題が進行しているしこれから5年間、多分この歪みを元にした悲鳴が事件としていろいろ出てくるよ。その先駆けがこの体罰事件だと思って記事を書いたよ。そんじゃーね。
1/23 19:00追記
予想通り全国で早期退職希望者が続々と発覚。
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