目次 › 2012年8月10日放送の18時台の特集/バックナンバー
新しい議論のカタチ「市民熟議」
大阪市で導入が検討されている学校選択制について、
橋下市長は「保護者の7割が賛成している」と話しています。
これに対し、十分な議論が尽くされていないと考えるある主婦が、
市民による話し合いの場を作ろうと動き出しました。
【橋下徹 大阪市長】
「基本的には保護者・子どもの選択です。選択した以上は責任をとってもらう。
学校運営・教育行政についても主体的に関与してもらいます」
橋下市長が実現にこだわる学校選択制は、小中学校の校区を超えて行きたい学校を選べる制度で、
大阪市は2年後の導入を目指しています。
すでに大阪市内全ての区で説明会が終了。
あとは、大学の教授や小中学校の校長などの専門家を交えた「熟議」とよばれる会議での議論を受け、
新しく就任した公募区長が選択制を導入するかどうかを、この秋決定します。
【橋下市長】
「W選挙を受けて大きな方向性では“学校選択制は支持を受けている”と思っています。
住民に判断してもらって決定します」
大前ちなみさん(40)は、小学校や保育園に通う3人の子どもを育てる主婦。
橋下市長の言う学校選択制の背景に、生徒が減った大阪市内の3分の1の学校を統廃合させる目的があることを懸念しています。
【大前ちなみさん】
「学校の競争は子どもに関係ないって言うけど、この学校の子どもは何点の平均点を取れますよっていうのが学校の価値になると想像できる。学校が点数とるために手段を選ばないようになる」
そして、橋下市長が学校選択制について「保護者が望んでいる」と話すことに不満を持っています。
【大前ちなみさん】
「橋下市長に言われっぱなしという状態ですし、なんか保護者はみんな望んでいるってすぐ言いますから。
『みんなではない!ちゃう!』ってテレビ見てつっこむのも限界がある」
大前さんは自らの考えをツイッターに載せたり、大阪府議会や市議会の議員に直接、他の自治体で見直しが続いていることを説明したりしました。また、会見を開いて選択制の問題点を主張しましたが周囲の反応は鈍く、そもそも選択制を知らない人が圧倒的に多いという現実も知らされました。
行き詰った大前さん。ある市民団体を訪れました。
ここAIBO(アイボー)は、「年越し派遣村」の村長として知られる元内閣府参与の湯浅誠さん達が中心となって設立した、市民運動にノウハウや資金を提供する団体です。
【大前ちなみさん】
「学校選択制について大阪市教育委員会は熟議を開いているが、それが形骸化しそうな感じなので、それに対抗する形で市民の間での本当の熟議をやろうと企画しました」
学校選択制の問題点を市民による「熟議」で話し合いたいという大前さんに対し、湯浅さんから返ってきたのは厳しい言葉でした。
【湯浅誠さん】
「このトーンだったら絶対(選択制の)反対派しか来ないと思います」
指摘されたのは「賛成・反対ではなく中立を意識する」ことでした。
【湯浅誠さん】
「組織に属していない人が一人一人自分の意見を表明したり、展開したりする機会が増えるのは、民主主義と社会の活性化という意味で重要だと思います」
多くの意見を取り入れることが重要だと気づかされた大前さん。
選択制反対に偏らないように心掛けて作った1万枚あまりのチラシを大阪市内の全ての小中学校に配りました。その結果、これまで声をあげなかった主婦や教育関係者から協力の申し出があり、徐々に活動にうねりが出てきました。
【大前ちなみさん】
「学校選択制が賛成・反対とかいう前に、学校が自分達にとってどういうものなのかを一緒に考えられたらと思います。」
市民熟議の本番。保護者を中心に定員を超える120人もの人が集まりました。
今月就任した27歳の天王寺区長の姿も見えます。
【反対市民】
「今回大津の(いじめ)事件があって、もし学校選択制という前提であの学校に入学していたら、『あなたがこの学校を選択したんでしょ』と返された時に『でもね』と言えるかどうか。すごい弱い立場に親が置かれると思う」
【賛成市民】
「私は選択制あってもいいと思う。今、親が『責任は誰のせい!』という流れになるから子供もそうなる。だからダメ。選択制にしたら親がもうちょっと責任持つだろうと思う」
意見はぶつかりあいますが、今後自主的に熟議を開こうと考える人も生まれ、
天王寺区長も、この会を参考に天王寺区版の熟議の場をつくることを約束しました。
【水谷翔太 天王寺区長】
「どうしても行政が説明会をすると一方通行になるが、私は市民・PTAがお互いに学校選択制・教育はどうあるべきかと自由自在に話し合うことがとても大切だと思います」
【大前ちなみさん】
「市民熟議自体が体験型民主主義。一つのテーブル色んな方の立場で意見を聞いて、自分も意見を持つのが普通の生活にあるようでない。政治が難しいと言うものがあるが、本当は生活に関わる身近な問題だと思うので、小さなことから参加できる民主主義になればいいと思います」
「導入ありき」で話が進んでいるようにも見える学校選択制。
間もなく迎える導入の判断の時までに、こういった市民による「熟議」は、どこまで広がりを見せるでしょうか。
2012年8月10日放送