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東日本大震災の惨事ストレス対策 息長い支援に不可欠 社会報道部・岡本壮
東日本大震災で、京都府警が被災地に派遣した警察官の「惨事ストレス」対策に乗り出している。恐怖心、悔恨、無力感、自己嫌悪。現地で見た悲惨な光景や生存者を救えなかったとの考えから生じる心の傷を軽減する取り組みだ。放置するとPTSD(心的外傷後ストレス障害)になる恐れもあり、被災地を息長く支援するという視点からも不可欠な対策との思いを持った。 「もっとできたのでは、と自分を責めてしまう」「被災地の映像を見ると涙がこぼれてくる」「歩いていてもふわふわした感じがした」。派遣された複数の警察官を取材するなかで、遺体収容などに従事した1人は、帰任後の心の変化をこう説明した。 府警はこれまで延べ約1400人を被災地に派遣した。特に遺族支援に当たった警察官の任務は厳しかった。ランドセルを背負ったまま息絶えた小学生、亡き妻から離れない若い男性…。「900体の遺体で埋め尽くされた安置所で、一日10組ほどの遺体引き渡しに立ち会った。精神的につらい任務でした」。犯罪被害者支援室の巽(たつみ)英人警部補(44)は振り返る。 一方で、その現場には既視感もあった。今年1月、府警が大規模災害を想定し、遺族対応と従事者の惨事ストレス対策をテーマにした訓練を、ロールプレーイング(疑似体験)形式で行っていたからだ。「ため込んだら駄目というのは学んでいた。夜は同僚らとその日の出来事を話し、はき出すことを心がけた」。訓練を受けたことで自身の心の動きが予測でき、精神的に大きくダメージを受けることはなかったという。 府警の惨事ストレス対策は手厚い。まず、現地への派遣前に想定される心の傷について事前教養を行う。任務終了後は京都までの車中で睡眠や食欲などを問う21項目のアンケートを行い、帰任後も「胸が締め付けられるような痛みがあるか」など心身に関する39項目の問診票を送付し、不調者を網にかける。結果を見るのは医師と保健師、臨床心理士に限られる。 府警厚生課によると6月末現在、アンケートで25人、問診票で45人に不調の兆しがあり、医師が直接、電話によるカウンセリングを行った。深刻なPTSDを引き起こす例はなかった、という。 警察に限らず、消防や自衛隊、海上保安庁など災害現場で活動する組織には社会の期待を背に、弱音を吐きにくい精神的風土があると言われる。惨事ストレス対策に詳しい龍谷大学短期大学部の黒川雅代子(かよこ)准教授は「自責の念などは正常な反応で、重篤化を避けることが大事」とした上で「人事面で不利益を被らないなど、不調を訴えやすい職場環境が大事で、その意識をいかに組織に浸透させるかが課題」と指摘する。 府警は震災直後に派遣した第一陣約100人の機動隊員ら全員を表彰した。遺体収容ばかりで生存者は発見できなかったが、若い彼らに負い目を感じてほしくない−。使命感と達成感のギャップを埋める対策のひとつだ。 被災地では依然、多くの警察官や自衛隊員らが活動し、支援の長期化は避けられない。府警は根性論を排したきめ細やかな一連の取り組みをさらに推し進め、モデルケースとして外部へ情報発信してほしい。質の高い支援を続けられる環境整備が結果的に、被災者への一番の貢献につながると思う。 [京都新聞 2011年7月6日掲載]
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