金氏は'02~'04年にサムスンの法務チーム長を務め、同社の光と影を目の当たりにしてきた人物だからだ。現に、本誌がこの本についての取材を求めた関係者は、サムスンから箝口令が敷かれていると証言した。
この本は現在、韓国で8万部を超えるベストセラーとなっているが(邦訳は未発売)、ヒットに至るまでに複雑な経緯を辿った。
韓国のネット新聞『プレシアン』に対して同書の出版元の社会評論が説明したところによると、2月2日の『朝鮮日報』(韓国で最大部数を誇る新聞)と日刊紙『ハンギョレ』の紙面に広告掲載をするべく広告局と口頭で契約したが、前日に契約を取り消された。
また、『東亜日報』と『中央日報』とも契約したが、やはり契約をキャンセルされたという(本誌の取材に日本サムスンは、圧力をかけた事実はないと回答)。
むしろ、新聞社サイドにサムスンへの配慮があったのだろう。だが、Twitterがこの本に光を当てた。出版社の人間が、本の宣伝が難航している旨のつぶやきをアップすると、瞬く間にネット上で話題となり、新聞に掲載する予定だった広告の画像データが広まったのだ。
著者の金氏は、私大である高麗大学校法学科を卒業後、'83年に司法試験をパスしながらも、新聞記者を経て検事になった変わり種だ。仁川地検を振り出しに、大田、釜山などの検察庁を歴任した。
金氏にとって、ソウル中央地検で全斗煥(チョンドファン)元大統領への政治資金不正提供事件に携わった'95年は特別な年となった。
精油会社などを傘下に持つ「サンヨン」グループの金錫元会長(キムソクウォン・当時)の捜査を担当し、金会長の自宅から65億ウォン(当時のレートで約7億8000万円)の入ったリンゴ箱を見つけたが、青瓦台(チョンワデ・大統領府)は捜査内容を公開しないよう検事総長に圧力をかけたというのだ。左遷を迫られた金氏は検事を辞めた。
金氏が次の職場にサムスンを選んだのは'97年8月。法曹界に嫌気がさした金氏は再就職に際して弁護士登録をするつもりはなく、サムスンにもその意志を伝えたようだ。だが、サムスンは「弁護士として雇った」と聞き入れず、全元大統領の秘密資金を捜査した金氏を<秘密資金の巣窟に配置した>という。
では、金氏の著書のうち、サムスンの企業風土を表す記述を引用の形で列挙しよう(以下、< >内は引用)。
* *
■サムスン創業家一族の華麗なる一面■
金氏によると、'03年1月9日、新羅ホテルで李健煕氏の還暦祝いが行われた。
<李健煕一家のテーブルにはフランスから空輸した冷蔵フォアグラが出された。他のテーブルは冷凍フォアグラだった>
<李健煕家族のテーブルには1000万ウォンはするペトリュスワインが出されたが、客のテーブルにはこれより安いワインが出された>
メインテーブルに座るのは、李健煕氏と直系家族。そして興味深いのは、彼らの周辺に座る「誇らしいサムスン人賞」の受賞者である。<サムスン人賞はノーベル賞を真似て作られた>もので、高い功績をあげた社員に、サムスンから1億ウォンの賞金が与えられる。
<「誇らしいサムスン人賞」授賞の祝賀パーティーは李健煕の誕生日にあわせて開かれていた>
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