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 今年の3月に、タイ・パタヤビーチで行われたアド・フェスト2005(アジア太平洋広告祭)で、久し振りに日本のCMがグランプリを受賞した。
 受賞したCMは「味の素スタジアム」90秒。見知らぬ街に引っ越してきた青年が、この街で出会う女の子はみなしわがれ声。その青年が、見かけはいまいちの女の子と恋に。「私のどこが?」「声かな」「私、サッカーとか見に行かないから」。街の女の子はみなスタジアムへ出かけて声をからしていたのだ。
 昨年、やはりこのフェスティバルの審査員だった電通の古川裕也氏がつくったものだ。「昨年は、タイのCMがどんどん上位の賞を占めていくのを見ているだけ。ほんとうに口惜しかった」と言っている。私も、昨年このフェスティバルで、タイのCMの勢いを見せつけられているから、彼の気持ちはよく分かる。私も、溜飲を下げた気分だ。
 ここ数年のタイのCMの勢いは凄い。昨年、カンヌで金賞をとった「UNIF GREEN TEA」のCMは、日本の茶の産地が舞台で、イモ虫の親子と茶摘みの日本人とのやりとり、しかも、すべてが日本語でのやりとりだ。わざと、日本産のCMに見せているのだが、そのセリフの完璧なディレクションといったら、われわれをもびっくりさせるものだった。この一本を見ても、どんなディテールもおろそかにしない、タイのディレクターたちの技術への執着と水準の高さをうかがい知ることができる。ほかにも、DVDプレーヤーのシリーズも金賞をとっており、CMの新興国、タイの勢いのよさをカンヌで示していた。
放送文化時評 CM  「探してくる力」はクリエイティブなのか CMウォッチャー 佐分利 稔