「日本企業は技術者に対して、情報を漏らさないという誓約書を書かせるなどしています。しかし、そんなことをするよりも新しい商品開発に乗り出すことのほうが大切です。人材が流出するのは、韓国や中国の企業に問題があるからではない。技術者が活躍できなかったり、彼らのやる気を失わせたりしている日本企業の側に問題があることに気づくべきです」
サムスンが狙っているもの
このような事例は、氷山の一角にすぎない。
今年10月に経済産業省がまとめたアンケート調査によると、従業員301人以上の大規模製造業の8社に1社で、過去5年以内に企業秘密の漏洩があったことが判明している。過半数の企業で退職者の再就職先を十分に把握していないことも分かった。
「サムスン電子の日本人顧問から突然、自宅に電話がかかってきたのは'00年春のことでした」
こう話すのは元ソニーの技術者、小黒正樹氏である。21年間勤めたソニー時代に、300件を超える特許を取得した小黒氏がサムスンに転じる決意をしたのは、会社に対する不満があったからだ。
「一言で言えば、ソニーは次世代の商品を発明できるエンジニアよりも、管理者を優遇する会社になってしまったのです。
'95年に出井(伸之)さんが社長になり、〝デジタル・ドリーム・キッズ〟というスローガンを掲げていましたが、彼は技術が分からないばかりか、工場に足を運ぶこともなかった。技術も現場も分かろうとしないトップに、技術者は心を開きません。無駄を排除することだけに専念する企業に5年後、10年後に花が咲く技術を生み出す余力はないのです」
サムスンからの熱心な誘いに根負けする形で、小黒氏は話だけでも聞いてみようと休暇をとり、韓国のサムスン電子本社に赴いた。
「応対に出てきたのは専務でした。意外だったのは、彼がひたすら『わが社の弱みはここだ』という話をしたことです。それを聞いて、この会社は自社を冷静に分析している、ここなら自分の能力が発揮できるかもしれないと思い、誘いを受けることに決めたんです」
用意された肩書は、日本企業の役員待遇にあたる「研究委員」。家族を日本に残しての単身赴任だったが、110m2以上のマンションに、ルノーサムスン製自家用車と運転手、日本語が堪能な秘書も用意された。年俸はソニー時代の約1・5倍だったという。
サムスンに転じた小黒氏が面食らったのは、ソニーと基本設計がまったく違うサムスンのデジタルビデオシステムに、ソニーのノウハウをそっくりそのまま採用したいと言われたときだ。
「基本構造が違うので無理だ」と言う小黒氏に、現場の社員は「ソニーのやり方を教えてください」と執拗に求めてきたという。
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