こうして田中氏の会社とポスコとの関係が深まるなかで、電磁鋼板の製造技術が流れたようだ。
技術流出ルートはそれだけではない。瀬田氏はより深く技術流出に関わっていると新日鉄側は見ている。
瀬田氏は約32年間新日鉄に勤め、研究職社員として電磁鋼板の技術開発に従事してきた。しかし、ある日会社から、「明日から出てこなくていい」とリストラを示唆された。そのため、韓国の大学に研究者として応募し、転職したという。
その大学がポスコの前身、浦項総合製鉄が設立した浦項工科大学校だった。瀬田氏は語学が堪能だったこともあり、客員教授として迎えられ、ポスコとの共同研究を行う。この研究によっても電磁鋼板の技術が流出した可能性がある。
「電磁鋼板の原理や処理方法を入手したところで、それを直ちに製品化できるわけではありません。そこでポスコが目をつけたのが、電磁鋼板の製造設備のノウハウでした」
中国にも技術が流出
ポスコは'04年から飛躍的に電磁鋼板の品質を上げ、シェアを約2割にまで伸ばした。その背後に、日本人技術者の技術提供があったようだ。
新日鉄は、ポスコ社の製品の性能が自社製品と酷似していることから、ポスコによる技術の不正取得を疑ったが、決定的な証拠を掴むには至らなかった。
事態が急変したのは'07年のこと。ポスコの元社員が電磁鋼板の製造技術を中国の鉄鋼大手・宝山鋼鉄に流出させた疑いで逮捕され、翌'08年に韓国で有罪判決が下ったのだ。
その公判で「中国に提供した技術は、もともと新日鉄のものだ」との証言が飛び出し、機密情報をポスコに伝えていた新日鉄元社員の存在が明らかになった。
新日鉄関係者によれば、当時の社長(宗岡正二現新日鉄住金会長)がこれに驚き、部下に徹底的に調べろという指示を出したという。「実行犯」は、周囲にこう語っていたという。
「退職にあたって秘密保持の誓約書は書かされていますが、私たちも生きていかなければならない。自分たちのしたことに後ろめたさはありません」
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これが、本誌が取材で知り得た新日鉄の〝技術流出事件〟の深層である。
日本企業が抱える本質的な問題点はどこにあるのか。経済評論家の山崎元氏がこう話す。
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