「キーパーソンに聞く」

アルジェリア、なぜ人質救出ではなく軍事作戦に踏み切ったのか

英危機管理会社元取締役・菅原出氏に聞く「アフリカの新しい危機」

バックナンバー

2013年1月22日(火)

5/5ページ

印刷ページ

新たなセキュリティ体制構築に官民挙げて全力で取り組め

なるほど、イスラム系武装勢力の脅威も上がっていますし、当局も日本人の命を守ることを優先してくれないとすると、こうした国々に進出する日本企業はどのように安全を確保していけばいいのでしょうか?

菅原:アルジェリアも含めてアフリカ諸国では、民間の警備会社は非武装の警備しか認められていなかったり、どうしても武装警備という点では当該国の治安機関に依存しなくてはならない部分があります。

 例えば今回のガス関連施設のような施設の警護、そして移動時の車両の警護など、武装警備が必要な部分には引き続き当該国の治安機関に頼まなくてはならないでしょう。ただし、これまででしたら、いったん施設の中に入りさえすれば、そこは国家の治安部隊が何百人も警備をしているから大丈夫、と安心してはいけません。

 施設の中にも、自社の社員たちが万が一の時に隠れることのできるシェルターを設置したり、非武装のセキュリティ・マネージャーを増やして早期に事態を把握できるようにしたり、各自にアラームやGPS装置などを持たせてすぐに連絡をとったり居場所を把握できるようにしたりする必要があるでしょう。

 また、車両で移動する際にも、国の治安部隊の車両にエスコートしてもらうだけでなく、例えば、偵察用の車両が数百メートル先を先行してルートを偵察して安全確認をしてから自分たちの乗った車両が進むようにするとか、イラクやアフガン並みのセキュリティ対策を検討する必要があるでしょう。

 これは日本政府に対しても言えることですが、こうした緊急事態が発生した時の情報収集のためのルートやネットワークができていないので、何かことが起きてから、私のところになども「何か情報はありませんか?」とか問い合わせが来るのですが、何か起きてからでは遅いのです。ネットワークとはそういうときに機能させるために普段からお金をかけて築いておかなくてはいけません。

 例えば、アルジェリアもそうですが、少なくても邦人企業が多数進出しているような国であれば、リスクの高い場所であってもとにかく情報収集のための要員を派遣しておく。別に秘密のスパイ活動をするのではなく、現地で根を張ってそれぞれの地域の政府関係はもちろんのこと、メディアだとか有力なビジネスマンたちと関係を構築しておく。具体的には定期的に会って話を聞いたり、レポートを書いてもらうなどして、その費用を支払う。普段からそのような関係をつくっておけば、いざというときにも動いてくれます。

 政府は今回の事件を受けてアフリカ諸国に防衛駐在官を増やすことを検討しているようです。もちろん防衛駐在官を増やすのはいいことですが、彼らはあくまで当該国の軍関係者からの情報収集しかできませんし、彼らの行動にはいろいろと制約がありますから、情報収集にも限界があります。ですから、それ以外にも民間を含めて幅広い情報が収集できる態勢を本気でつくっていかなくてはなりません。

 アルジェリアにおける日揮のネットワークとその情報収集能力は、日本政府など比較にならないほど凄いはずです。それでもこのような事態に陥っていることを重く受け止める必要があります。北アフリカのイスラム系武装勢力の脅威は、もはや新たなフェーズにレベルアップしています。情報収集を含め新たな脅威に応じたセキュリティ体制の構築に官民を挙げて全力で取り組まなければなりません。

バックナンバー>>一覧

関連記事

参考度
お薦め度
投票結果

瀬川 明秀(せがわ・あきひで)

日経ビジネス副編集長。
日経BPビジョナリー経営研究所 主任研究員。


記事を探す

読みましたか〜読者注目の記事