【22カ月目の福島はいま】郡山の親たちが抱く被曝への不安
テーマ:被曝尋ねれば誰もが、放射線量など気にしていないと言う。しかし、ある父は息子に告げた。「もう、郡山には戻ってくるなよ」。ある母親は、高校生の娘の被曝が深刻でないことを祈る毎日。表向き平静を装っても、心のどこかでやはり、わが子の被曝を心配している。雪深い郡山市内を歩き、複雑に絡み合う親心を耳にした。除染が進んでいるから安心だと喧伝する行政の思惑とは裏腹に、郡山にとどまる人たちもまた、不安を抱えながら生活している。
【仙台の息子に「郡山には戻るな」と告げる父親】
「久しぶりですよ、こんなに積もったのは。子どもの頃は40㎝くらい積もったものだけどね。まあ、この雪のおかげで放射線量は下がっているんだろうけど」
自宅周辺に降り積もった分厚い氷のような雪と格闘していた50代の男性(本町)は、スコップを手に苦笑交じりに話した。近くを東北本線や磐越西線が走る。生まれも育ちも郡山。家を建て、息子も育て上げた。だが、大学を卒業後、仙台市内で働く息子には「もう、郡山には帰って来なくて良いよ」と話しているという。もちろん、被曝を考慮してのことだ。
「まだ20代ですしね。私たちには、何マイクロシーベルトで身体に影響が出るのか分かりません。自分はもうこの年だし、生まれ育ったふるさとは離れられない。せめて、子どもだけは守らないと。それに、福島で生活していると、嫁さんが嫁いで来てくれないでしょう。心配する親御さんの気持ちも分かります。逆の立場だったらきっと、私もそうだと思う。実際、阪神大震災だってわれわれにはどこかで他人事だったわけだから。そういうのは風評被害だと思うけれど、仕方ないよね。息子には肉体的にも精神的にも苦痛を味わわせたくないんです。だから戻ってくるな、と言っているんです」
男性の自宅周辺は、手元の線量計で0.4μSV前後。いまだ除染の予定はない。日々の生活に追われ、近くのモニタリングポストの数値を時折、確認する程度。「それだって、放射線量を知ったところで何をするわけではないよ。マスクをするわけでないし…」。
県外の人の反応を「風評だ」とする一方で、息子の被曝も心配。親としての想いとふるさとへの愛着が複雑に絡み合うまま、原発事故から間もなく2年になろうとしている。
「ここで生活していくしかない以上、マイナスのことばかり考えても仕方ないからね…」
(上)0.3μSVを超す松木稲荷神社
(下)JRの行合街道踏切では0.4μSVを超した。
低い数値に見えるが、単純換算で年3mSVを上回る
【積雪で進まない除染作業】
水面がうっすらと凍っている荒池公園。郡山市内でも放射線量の高い地域の一つ。池の周辺は一面の銀世界だが、手元の線量計もモニタリングポストも0.5μSVを上回った。積もった雪が溶けて地表が顔を出せば、さらに放射線量が上がる。
周辺住民が利用している駐車場では、15-16の二日間にわたって「郡山市除染支援事業協同組合」による除染作業が予定されていたが、雪のため延期された。
作業員の一人は「アスファルトを高圧洗浄する予定でしたが、雪があっては除染になりません。これじゃ、雪かきに来たようなものです」と弱り顔。洗浄した汚染水は回収し、汚泥と分離させ、汚染土は除染をした場所の近くに仮置きされることになるという。分離後の水は生活排水と一緒に下水処理場へ送られる。
郡山市によると、同組合は除染に携わる業者の集まり。「あくまで任意団体の一つだが、作業能力を考えると実際に発注できているのは大手ゼネコンと組合の二つ。零細業者が新規参入するのは現実的には難しいのが実情」と担当者は話す。
郡山市内では順次、地区ごとに住宅除染の進め方などについての住民説明会が開かれている。住民は敷地内に汚染土の仮置き場を用意する必要があるほか、同意書への署名が求められる。応じない場合は、高圧洗浄だけが施されるという。放射線との〝同居〟は結局、続く。
母親の一人は「除染に多額の金を使うのなら、子どもたちの避難や保養に予算を充てて欲しい。県外保養に参加できる子どもとできない子どもと間に格差が生じてはいけないと思う」と話す。
(上)足がすっぽりと埋まってしまうほどの雪が積も
っていても0.5μSVを超す荒池公園。市内でも依然
として放射線量の高い地域の一つ
(中)(下)荒池付近の駐車場では高圧洗浄による
除染が予定されていたが、雪のため延期された
【母親の不安は高2の娘の内部被曝と結婚差別】
「放射線量への慣れとあきらめじゃないですか」
池ノ台地区に住む40代の母親には、高校2年生の娘がいる。合格発表は、原発事故の直後。同級生の中には、合格したものの入学せず、そのまま県外の高校へ編入した子どももいた。郡山に残って生活をしている娘が被曝していないか、3月に受ける内部被曝検査(WBC)の結果が今から心配でならないという。一方で、原発事故がもたらした友人との軋轢にも心を痛める。
「様々な事情があって全員が県外に避難できるわけではありません。私もそう。県外に避難した友人と話をしていると、考え方の相違でけんかになってしまうのが残念です。議論をしても仕方ないから結局、距離を置くことになってしまう。避難をするもしないも、どちらの選択も尊重してほしいのですけどね…」
将来の娘の結婚に関しても、不安があるという。
「結婚差別は今から覚悟をしています。かわいそうですよね。世の中には放射線だけでなく化学物質など人体に悪影響を及ぼすものはたくさんあるのに…」。様々な考え方と避難できない事情と間で葛藤は続く。親としては当然のことだが、娘には健康で幸せになって欲しい。勢い、矛先は福島県外で飛び交う言葉に向けられる。
池ノ台地区は、市のモデル事業として昨年の2月以降、住宅の除染が行われた。しかし、母親は「除染なんて気休めでしかありませんよ」とため息をつく。
(上)積雪にもかかわらず0.7μSVを超す「麓山の杜」
(中)(下)郡山市役所があるバス通り「さくら通り」沿い
は、依然として0.5μSVを超す高線量
(了)