社説[辺野古移設加速]地域分断の芽を断とう

2013年1月20日 09時27分

 就任後初めて来県した小野寺五典防衛相は名護市辺野古に隣接する地元区の区長らと面談した。防衛相は米軍普天間飛行場の辺野古移設を推進する政府方針を説明。容認の立場の区長らは「県民を納得させてほしい」などと話したという。面談は公式日程に記載せず、県民の目を避けるように行われた。

 県や名護市が県外移設を求めた直後、それを打ち消す発言が移設先の「地元の地元」から出る。県民世論のごく少数とはいえ、看過できない。政府にとって地元区の容認が「最後の頼みの綱」であるからだ。

 米軍施設の受け入れを容認する地域は、日本では沖縄以外にはない、との刷り込みが政府にはある。他地域でいちから説得するよりは、ほぼ一貫して地元区が容認している辺野古のほうがハードルは低い。何より米国との約束は絶対だ、というのが官僚の「常識」だろう。日米合意を抜きに沖縄の声に耳を傾ける「勇気」ある政治家は鳩山由紀夫元首相が最後かもしれない。

 そう考えれば地元区の容認姿勢が、辺野古移設に固執する口実を政府に与え、結果的に普天間問題の解決を遅らせる面も否定できない。

 県民どうしが不信の目を向け合い、地域の亀裂や分断を生むことは避けなければならない。地域分断につけ込むかたちで国策を遂行するのは政府の常とう手段だからだ。米軍基地は沖縄外部から強権的に押し付けられた。その扱いをめぐって、県民どうしが傷つけ合うほど不条理なことはない。

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 とはいえ、われわれは主要な基地問題で既に党派や自治体の枠を超え「オール沖縄」で団結している。オスプレイ撤去も普天間の県外移設も県民の「譲れない線」になっている。その理由をたどれば、「内なる矛盾」を克服するすべも浮かぶのではないか。

 沖縄だけに基地負担を集中させることへの憤りが沖縄全体でかつてないほど膨らんでいる。他県が嫌なものは沖縄も嫌だという当然の権利意識だ。これは「沖縄なら受け入れてもらえる」という政府の本音と真っ向から対立する。辺野古の新基地建設は政府が説く負担軽減ではなく、機能強化と固定化につながる負担増だと多くの県民がはっきり認識するようになった。

 将来世代の負担に直結する基地強化は振興策とのバーターでは割に合わない、と考える層が着実に増えた。基地問題で「利害を共有する意識」が県全体に根付きつつある。

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 名護市も周辺自治体も移設反対にシフトした。が、辺野古区などは利害や価値観を共有できず、地域で孤立を深める懸念もある。地元行政の意向に従っても発展から取り残される、との不信が区内部にはあるのかもしれない。

 しかし、真に心を許して連帯できるのは中央官僚ではなく、愛郷心を共有できる地元住民どうしだろう。「子や孫のため」を合言葉に周辺地域と交流を深め、まちづくりの意識共有を図ることは可能なはずだ。区内部でも一部の声に流されず、共生に向けた議論を深めてもらいたい。

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