「実装力」
邉裕明 /同志社大学経済部4回生休学中(2011年4月~2012年3月)
ギャップイヤー学生インタビュー。今回は同志社大学経済学部経済学科4回生の邉裕明さんにご協力いただきました。とてもフランクでかつ熱い方で、楽しくお話しすることが出来ました。「休学」という制度を他の人とはまた違った観点から捉えられており、一言で表すと”遠回りを楽しんでいる”という印象を受けました。「休学しない理由が分からん」矢のように突き刺さった言葉の裏には何があったのでしょうか。
実装力をつけようと思って休学を選んだ
編集部(以下編)>休学っていう制度を何処で知りました?
邉>え………っと。ごめんなさい。覚えてないです(笑)
編>休学っていう制度自体知らない人も多いと思うんですよ。
邉>自分の場合は自然に頭に入ってた感じがする。今まで色んなイベントに参加してきたけど、ビジコン出てたり、色んな活動に参加してる人って良い意味で頭おかしい人多いんやんか(笑)。例えば留年とか休学、他にもどっかで1回は絶望してたり。そういう1年間ブランクあったり絶望した人って発言の内容とか雰囲気で喋ってたらすぐ分かる。共感覚みたいなのがあって。自分は浪人やけど、大学の友達とかでも現役生よりは浪人生が多いし。そういう人らと話してたら休学の話とかにもなるし。なぜか無意識に知っていたというのが実際で。何かで知ったとかではなく、選択肢の一つとして既にあった感じがする。
編>周りに休学されている方がいたというわけではなく?
邉>人に影響されたわけではなくて、自分に必要だと思ったからやったタイプだと思う。自分の場合ビジコンが好きでそこで稼いだ賞金で休学しようと思った。そこで企画とかアイデア出すのが好きになってん。でも実際アイデアだけじゃあまり価値がないってこと気づいて。…本当に必要なのは実装力だと。じゃあ今年は実装力をつけようと思って休学を選んだ。
編>実装力ですか。
邉>実際に実装力をつけるために自分で独学で勉強している。今働いている企業では編集とか広告分析みたいなものを担当してるから、日本語の勉強と最新の情報を常に追っている感じ。世の中で話題になっているトピックを要約して編集する。で広告につなげるっていうイメージ。仕事がない日に独学でWebページを創ったりDesignの勉強したり。で、ある程度できるようになってきて。最近頼まれることも増えてきて、今はWebサイトを3つ創ってる。フィリピン行くまでに完成させないと!(笑)
編>そういう意識を持つようになったきっかけってありますか?
邉>実装力の必要性に気付いたきっかけは3回生の時に「ket-tz」(ケッツ)っていう学生団体を立ち上げたこと。その時は学生にしか出来ないアホなことをしようと思って活動してた。廃棄される寸前の野菜を集めそれらを使って野球やって、それを動画にして「もったいない」と思う心をクリック募金につなげようとしたり。1時間っていう制限時間を設けて拾った赤ペンを物々交換を繰り返して最終的に2万5千円の歌舞伎のチケットにして寄付したり。お尻募金箱っていうのをつくって寄付募ったりもした。そういう今しか出来ないことをしてた。その頃は今勉強しているWebのことは全く分からなくて、団体のホームページを作る時には友達のデザイナーとプログラマーにお願いして作ってもらってた。自分はリーダーとして行動したら良いと思ってたし、分野別で担当する人を分けるべきだと思ってた。でも実際に作れないとダメっていうことに気付いて、それがいま求めてる実装力。
Webは自分と似ていた
編>インターン先ではWebについて学ばれているということで。
邉>ネットに国境はないし、日本に英語表記のWebサービスはあまり流入してきてないけど、英語圏だとそれらは共通して使える。それに東アジアからヨーロッパにサービスを提供できるし、その逆もできる。要するにWebに国境は無いんだと。俺は在日韓国人で生まれつき自分が何処の国に住んでるのか、何人なのかも分からん状態で。そういう部分が自分と似ていた。だから日本だけに縛られてるのも嫌だなってことで、とりあえず英語は必須かなと。将来的には国境が無いような会社を作りたいと思ってる。海外に色んな友達がいてその人たちと会社やっても良いわけで。そのためにはウェブが必要だし、でもこれからの時代ITだけでは難しい部分があるから、その他に必要な「何か」は時期に見つかると思うし、ゆっくり探してる。
編>他に入ることに決めた理由とかってあるのでしょうか?
邉>常にWebに触れてられるということ、ベンチャーの気風に触れたいっていうことが入った理由。あとは留学費用を稼ぐため。以前は中華料理屋でバイトをしていて、時給は高いんだけど飲食業は自分に合ってないと思ってた。そこでは休憩中に携帯いじって情報収集とかしてたんだけど、それが今バイトで出来ている。自分の好きなことをやって成長しながらお金が貰えているから、それは幸せなことなんよね。
編>これからどんなWebサービスを制作する予定ですか?
邉>今、創ってるのは「本気の就職活動サイト/Honkatu」「学生ブランディングサイト/PROS」「ネット上でデイベートができるサービス/chaca」。あと来年は潜在的なニーズがある、自分が創りたいものを創ろうかと。
今から頑張ったら追いつけるんちゃうか
編>大学に入学されてから、どのようなことに取り組まれたんですか?
邉>2回生の頃に挑戦した京大グローバルリーダー育成カップっていうビジコンで、学生1100人応募の中から33人だけ参加できるものにたまたま選ばれて。自分のチームにOVALっていう団体の代表の慶大生の人と中国から留学で来ていた「将来学校作る」って言うてるような京都大学大学院生の人との3人チーム。その2人の能力が全てにおいて自分よりも上で、何でも全部自分らでやりはんのよ。そしたら自分の存在意義がなくなって。正直、3日間ずっと死にたいと思い続けた。でも終わってからよくよく考えたら、周りの人は皆4回生や院生で自分はまだ2回生。今から頑張ったら追いつけるんちゃうかと思って。それがきっかけで色んなことに挑戦するようになった。
編>ビジネスプランコンテストでメキシコにも渡ったとお聞きしました。
邉>英語を話したくなった理由のひとつやけど、メキシコ人の学生人達と一緒にideaを考えてメキシコの審査員の前でプレゼンしたり、アメリカでは仮想株式会社を4人1組で作って競争したりした。2ヵ月の間、毎日3時間睡眠。(笑) メキシコ人はテンションが高いからジェスチャーとノリで初めの3日間は大丈夫。「オッケ!!」とか「ケッツ!!」とかだけでコミュニケーション出来る(笑)。会話も単語レベルでは理解できるから。でも自分の意見を言う時や、深い話になると英語力が必要っていうのを心から感じた。それと「メキシコは就活いつなん?」って聞いたら、「卒業してから」って言われて価値観の違いにも気付いたのは大きかったなぁ。
編>休学中には語学留学でフィリピンに行かれるということで。どのくらいの英語レベルを目指されているのでしょう?
邉>日常会話と海外の記事を普通に読めるようにはなりたい。海外のビジネスパートナーと普通に交流できるくらいにはなりたいな。日本でチマチマとTOIEC勉強してもらちあかんし、それやったら3ヶ月自分を追い込みたいなと思って。
編>3ヶ月という期間に理由はあるのでしょうか?
邉>英語だけじゃなくて、Webも勉強しないとあかんから。自分の場合大学1.2回生の時そういうのに全く触れていなかったから時間が足りない。自分の費やせる最低限の時間が3ヶ月でそれ以上はキツイ。それ以上費やしてしまうと目的を見失う。自分が海外に友達を沢山作って、国境のない会社を作るためには3ヵ月かなと。ある程度基礎があれば後はSkypeを使って安価で学べるし。
編>ほかの言語は?
邉>日本語も勉強してる。今はインターン先で辞書サービスを担当しているけど、編集力が求められるから。小説とか本とか読んで、言葉をどう表現して相手に伝えるかを勉強してる。あとはPHPっていうプログラミング言語かな。
編>語学留学を終えた後に予定はあるんですか?
邉>個人事業主になって生活しようと考えてる。Webサイト構築もデザインも企画書の制作もある程度できるなってきたので。最終的にプロジェクトベースで動ける人間になりたいと思っていて、「根なし草」的なポジションなれたらなって。どこか1つの会社とか場所に所属するんじゃなくて、いくつもの楽しいプロジェクトに関わって生活するイメージ。あと企画が通って、来年から海外でアプリをつくってもらえることになった。日本で企画した「idea」を実際にもっていって海外で創って日本で展開する。「ちょっと変わった語学学習アプリ」なんですがリリースした時はぜひよろしくです。(笑)
流れとタイミングが大事
編>起業されるなら卒業にこだわる必要はないと思うんです。1回卒業してフリーになるという選択肢もあると思うんですが。
邉>まぁ…複雑やな。起業はするけど、それは27歳って決めてたし。1回就職してから起業しても良いかなとも思った時期もあったんやけど、最近は別に決めんでも良いかなって思ったりもする。とにかく流れとタイミングが大事。その時の自分がどう感じているか。去年「applim」っていうビジコンで企画を気に入ってもらえた会社に「最終面接からでいいから」って言われて迷ってたけど、とりあえず、したいことあるから休学することに決めた。気がつくと来年から個人事業主にもなる予定やし。だから次の3ヵ月後の自分が何を考えてるのかもわからんし、タイミングって本当に大切。うん。
編>実際休学を始められてみて、する前と変わったこととかありましたか?一般の人から見たらちょっと変わった目で見られますよね。
邉>俺は浪人も休学もしてる。別に休学したから就職できないとかいうことは無いと思う。何でも自分自身を見つめきれていないと、何も成し遂げられないと思うし。1年間位自分と対話しないと、深みのある人間になれないと思う。休学中は自分から行動しなかったら何も始まらないから。自分に取ったら(休学を)しない理由が分からない。自分は1回生の頃からやろうと思ってたし、むしろいつするかっていう選択やったな(笑)。ビジコンで稼いだお金もあって環境には恵まれてたかもしれないけど、そんなの誰でもバイトしたらすぐ貯められるし。
編>大学の環境が嫌だったのも休学の理由だったりしますか?
邉>仮に嫌で大学が面白くなくても、課外活動に力を入れたら良いし。環境は自分で変えていくしかないから、別に大学の環境が嫌ってわけではない。色んな友達とも出会えるし、最高の場所やと思う。利益を求めない人達が集まるっていうのも1つ大きいかもしれない。社会人になったら利益ありきの友達ばかりで、年を取るとそういう利害関係抜きの友達って出会いにくくなってくると思う。学生の内でないと野菜で野球とか一生出来へんと思うし(笑)。
編>親御さんとかに反対されませんでしたか?
邉>親には反対され続けた。ストレートで卒業しないと就職できないと思ってるし。そんなことないって600回くらい言った(笑)。でも最終的には信じてくれたね。
編>でも就職されないんですよね、起業をされると。
邉>今のところはするつもりはない。まぁ、流れにみをまかせますよ。笑。自分でお金稼げるようになったら周りも認めてくれると思うし。
編>決断時に葛藤とかありませんでしたか?
邉>葛藤かぁ…。あんまりなかったかなぁ。「でも、悩むならやったら良いやん!」って思う。「休学しない理由が分からん。笑」でも、みんなそんなに何に悩んでるん?
編>やっぱり何か目的が無ければ、就職活動の面接時などで苦労すると思うんです。留学して1年長く大学に通うことにも抵抗ある社会じゃないですか。
邉>俺は実装力と語学力をつけるっていう目的があったから、そのための手段として休学を選んだ。でも理由なしでもしたら良いと思う。「何かしないと!」っていう気持ちになるから。100年のうちのたった1年間位…「何で皆そんなに生き急ぐんかな?」って思う時はある。日本の価値観やと新卒が良いとかそういう話になるけど、別に休学しても留年しても新卒ってのは変わらんし、新卒じゃないとあかんって文化自体がおかしくて。
皆それぞれ絶対根っこがある
編>でも自分で物事を即座に決められる人だとか、実行力がある人だとか、向く人向かない人ってあるんでしょうか?
邉>俺はダメな人とかいないと思う。皆それぞれ絶対根っこがあって、そこに何かしら熱いモノを持ってるのに、それを人に言ってなかったりして気付いていない。それに気づくには立ち止まる時間、休学期間が要る。例えば今の大学生ってmixiやfacebookで”いいね!”押してくれてるかな…とか、コメントくれてるかな…とかでも一喜一憂するやん。ネット上でも気を使うのに、リアルの場でも気を使う。周りに気を使って、大学では同じグループだけの友達とずっと一緒にいるとかね。必要ないところに気を使って、それにサークルとかバイトで忙しくなって思考が止まる。毎日何も考えんと授業に出ていたら1年くらいすぐ経つし。出席とかも…それは大事か(笑)。色んな経験した方が良いから、立ち止まって考える時間が必要やねん。そこで自分は何者かっていうのを考える時間。最終的に自分の好きなことじゃないと突っ走れない。
編>好きなことってどう見つければ良いのでしょう?
邉>とにかくいろんなことに挑戦してみたらいいと思う。それがたとえ好きじゃないことでも。自分は何が好きじゃないかって気づくことも大切で。あとはやればやるだけ選択肢も増えるし、仲間が増えるし、人間としての深みが出るから。僕はまだまだ浅瀬です(笑)。
編>最後にこれから休学を選択肢の一つとして考えている人たちに一言お願いします。
邉>ホンマにやりたかったらやったら良い。立ち止まったら絶対良いことあるから。少しでも悩んだらやったら良い。休学は楽しいよ、自分と対話できるから。
~取材者後記~
「何でやろうな…何でやと思う?」という一言が度々繰り返された取材だった。邉さんはすっと心の中に潜む理由を探していたようだった。最終的に自分との対話であると語ってくれた邉さん。でもやっぱり休学に理由は無かったのではなかろうか。そう、必然が正しいのだろう。本文には無いが在日韓国人として様々な経験をされ、幼いころには諦めた夢もあるという。様々な制限に対して、違和感を覚えることも多いのだろうか。レールから飛び出したいという思いが湧くのは当然なのかと思った。「休学しない理由が分からない」とも言われたのも同上の理由からであろう。自由になろうとする欲望は極々自然なことなのだ。
そうだ、僕たちが最後に自由だったのはいつだろう。自分の場合4歳に幼稚園に入り、小中高大と特に回り道することもなく進んできた。浪人した人もその殆どが予備校という組織に所属していたことであろう。そうなると最後に自由だったのは3歳の頃?ということである。まだ自我もないから自由と言えるかは分からない、いや言えない。そう考えると自由は無い。まだ人生において完全なる選択の自由は与えられていないのではないか。休学が完全なる自由を得られる機関だとは思わないが、限りなくそれに近いものは得られる気がする。6歳から22歳(院だと24歳)までは少なからず、社会に認められているレッテルを得るための期間である。社会から選択をほぼ強制され、そこから完全に独立していない。何の社会システムに捕われることもない、休学は人生の岐路において自分を本当の意味で自由にさせてくれる。
邉さんは自己との対話、立ち止まる時間を休学の公の理由として挙げて下さった。「立ち止まる、自分と向き合う」とは「考える」ということと同義ではない。休学期間のそれには「行動」が付帯されなければならない。だけど邉さんの言う通りそれは生き急ぐことでもない。プレッシャーに駆られてはいけない。本当に好きなことなんて1年くらい、この年で見つかるはずがないというくらい、おおらかな心を持って取り組むべきであろう。自由を目指して。
取材:松下周平(gapyear.jp大阪編集部 関西大学文学部3回生)
<プロフィール>
邉裕明
同志社大学経済部経済学科4回生休学中(2011年4月~2012年3月)
HP : http://piyon.sakura.ne.jp/piyon/start.html
Twitter : @yumiyon
休学中の主な活動:ベンチャーIT企業でインターン/フィリピン留学/Web独学/おもいやり