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このサバービアは、アメリカ映画に繰り返し登場するモチーフだ。映画「トゥルーマン・ショー」の舞台は、まさにこのサバービアの理想化された姿だ。白い壁の一戸建てが緑の芝にきれいに並ぶ、閑静な住宅地。そのイメージはある種、アメリカ社会の「理想郷」のひとつのパターンとして夢見られてきた。
「トゥルーマン・ショー」に登場するサバービアとしてのシーヘブンは、まさに理想郷として描かれている──徹底的に嘘っぽい天国として。もちろん、サバービアとは理想郷を意味する単語ではなく、厳密には単に郊外住宅地というだけの意味だ。現実のサバービアは今や戦場と化している──そう、「ボウリング・フォー・コロンバイン」で描かれていたように、失業の絶望に覆われ、恐怖に支配された荒野として。しかし、アメリカ映画を見る限り、サバービアはいまだに理想郷のイメージを担うことができるらしい。今年も、まるで「ボウリング・フォー・コロンバイン」など存在しなかったかのごとく、絵本のような色彩のサバービアを舞台にした、マイク・マイヤーズ主演のコメディ「The Cat In The Hat」が公開される。
 しかし、ぼくたちは知っている、ユートピアはつねに反語として語られてきたことを。
ブレードランナー以降、未来は「暗い近未来」一色になってしまった、という人がいる。ブレラン以降の近未来は、抑圧的でネガティブな都市ばかりだと。今のSF映画はみんなブレードランナーの影響下にあると。
もちろん、それは嘘っぱちだ。ブレードランナー以前から、未来は、つねに、すでに、反語としてしか存在してこなかった。理想郷を描くときですら、それには必ずこういうただし書きがついていた──じつはユートピアではありませんでしたとさ、と。アメリカ映画で描かれるサバービアもまた、そういう反語としての理想郷、あるいはその理想郷の崩壊として、描かれつづけてきた。
そう、「トゥルーマン・ショー」のシーヘブンが巨大なテレビスタジオでしかなかったように。

ティム・バートンの「シザーハンズ」もまた、サバービアの住人達がもつ残酷さを──コミュニティであるがゆえの残酷さを──描いていた。「アメリカン・ビューティー」はサバービアの住人が壊れてゆくさまを描いていた。スピルバーグもまたサバービアと、そこに侵入する悪意と変化を執拗に描いてきた作家のひとりだ──「ジョーズ」しかり、「未知との遭遇」しかり、「E.T」しかり、プロデュース作の「ポルターガイスト」しかり。

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