プロレスラー事故死 由利大輔さんが残した言葉 * 2008/12/24(水) ※「拳論!取材戦記」より転載
プロレスラー事故死 由利大輔さんが残した言葉 * 2008/12/24(水)
本日の産経新聞が社会面のトップ記事で、僕が報じてきた新人プロレスラー、由利大輔さんの事故死を改めて掲載した。「無名選手の事故」という観点で切って捨てられるようなものと思われるかもしれないが、この事故が起きた背景や問題点をきちんと認識すれば、社会的にはこれぐらい大きなものだということを証明した。
ひとつはあまりに幼稚な集団による事故後の無責任な対応があり、もうひとつは「起こるべくして起きた」という事故の背景がある。僕がこの件について真剣に向き合ったのは、由利さんが死の直前に残した言葉が理由だ。
「俺が被害者でよかったよ・・・加害者だったら俺、責任とれないから」
これは自らの手で親友を死に至らしめてしまった笠原寧に向けたものだ。笠原は会社の同僚であった由利さんに相談されてプロレス界へ呼び入れた人物。責任を痛感する中、横で代表者の菅原伊織が「代表はいない」と嘘をつき、さらには慰謝料を払わずに済む方法はないかという耳を疑う言葉を聞いたという。笠原は周囲からマスコミへの証言を止められていたが、悩んだ末に独断で僕に全てを正直に話してくれた。そこで聞いた言葉が上記のもの。僕は愕然とした。誰がこんな言葉を若者に残させたのか。
笠原は涙ながらに「菅原が逃げても、僕が全て責任取ります」と語っていた。彼には妻子がいるが、この件で家庭は崩壊寸前だった。奥さんとも話をした。「大変申し訳ありません」とハッキリした口調で毅然とした態度を取っていた彼女に罪はない。僕が労いの言葉をかけると泣き崩れた。「一番大事なのは家族、他の人が逃げる姿勢の中で旦那さんは誠実な態度を取っているんだから、一緒に力を合わせて償っていってほしい」と伝えた。胸が痛かった。
僕は笠原から日頃の練習内容を聞いたが、それはかつて僕が認識する「必要最低限」の3分の1もないような酷いものだった。由利さんをリングに上げた経緯も聞いたが「まずプロレスのやり方とか仕組みを教えて・・・」という返答だった。僕がかつて高校卒業後に入ったプロレス界の常識とは大きくかけ離れていた。一番最後に教えられるものが最初に来ている。まず基礎体力、次に基本的な受け身から・・・という当たり前のことも、僕が言うと笠原は「そうだったんですか・・・」と驚いていた。つまり、笠原自身がプロレスの何たるかを知らずにリングへ上がっていたため、由利さんに正しく教えることもできないというお粗末な状況だった。でも、練習責任者の佐野直、代表者の菅原伊織はそれが間違っていることは知っていたはずだ。
これをただの不運な事故で済ませられるのか。早い段階で当事者が遺族と面会し適切な説明を行なっていたら、また状況は違ったと思うが、根本的な問題を解決しない限り、明日同じようなことが起こってもおかしくはない部分がある。チケットを売ってくれれば素人でもプロのリングへ上げる、誰が見てもそんなことおかしい。ボクサーはたった2回の練習でプロの試合なんてできない。他のスポーツでも同様だ。しかし、人気団体では“素人”のタレントがリングへ上がっているではないか。この事故を意識してか「かなりの練習を積んでいる」なんて設定までしている。末端では「プロレスなんて誰でもできる」なんて囁かれている状況を、プロレス界の人たちが「ウチは大丈夫」と他人事でいていいものなのか。「被害者でよかった」なんて言葉、プロレスに夢を持って入ってきた若者に言わせちゃいけない。
現時点で笠原以外の当事者でご遺族にきちんと説明に出向いた者はいない。それどころかネットで現役続行を宣言したり、事故後も何食わぬ顔でリングへ上がっている当事者たち、あろうことか事故現場であった会場で記念試合を行ない遺族の気持ちを逆なでした者もいる。さらには僕のところにこの事故を報じること自体に「陰湿な文章だ」などと猛抗議してきた関係者さえいる。レスラー以前に人間性という部分でも未熟であるという印象が拭えない。僕もその未熟な場所にいた人間であるからこそ実感している。(片岡亮)
事故直後から事実解明に尽力して頂いた「漢」ことSさんのサイト
http://x17.peps.jp/jikotuikyuu?id=jikotuikyuu&_cus=kbmocd
過去記事 新人プロレスラー由利大輔さん死亡事故
http://boxing.10.dtiblog.com/blog-entry-1078.html
http://boxing.10.dtiblog.com/blog-entry-1011.html
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25日・追記↓
由利さんの練習や試合を見ている関係者より重要な証言が得られました。由利さんは数少ない受け身の練習でも「全く受け身ができなくて困っていた」というもの。これは菅原、佐野ら先輩選手たちも認識していたそうで、受け身ができないため、試合の打ち合わせでも当初の予定を変えて、他の人に技を受ける指示を菅原がしていたとのこと。菅原の「運動神経が良かった」という話とは食い違います。この証言通りであれば「受け身ができない」とハッキリ分かっていた人間にダブルインパクトをさせたことになります。漢ことSさん、心ことNさんとも協力して、今後できる範囲で事実解明し、ご遺族にも伝えられたらと思います。差し出がましいかもしれませんが、由利さんの死がなぜ起こったのか、うやむやにはできませんのでご理解をお願い致します。
(以上、「拳論!取材戦記」 http://boxing.dtiblog.com/ より転載)
※同記事のウェブ魚拓→http://s03.megalodon.jp/2008-1227-1914-19/boxing.10.dtiblog.com/blog-entry-1108.html
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