19年度からの3か年を振り返って…
 この3年間の取り組みとしては、まず、経営の改善があげられる。諸々の要因があったにしても18年度決算では158億円の赤字が計上されていたが、19、20年度そして21年度見込みでそれぞれ30〜40億円程度の当期利益を計上することができ、経営体質は徐々に改善されてきていると感じている。これは、本会が「全農新生プラン」で、5000名規模の要員削減に取り組むなかで、それらを財源に担い手対策や手数料引き下げにとりくんできており、利益が出る構造に転換がすすんできたものと理解している。
 ただ、事業利益段階での赤字は続いており、農業が非常に厳しい状況にあり農家の苦しみも尋常ではない中、将来の見通しは容易ではないが、これからの3か年でこれをどのように反転させていくか、ということが依然課題として残っている。
 事業面では、農薬の原体開発や肥料・飼料原料の安定的・多角的仕入れに取り組みコスト抑制に努めてきた。一方、戸別所得補償制度導入等米の事業環境は様変わりしつつあり、そのなかでどのような手を打っていくのか、ということが常に問われている。また、世の中の厳しさを反映して伸び悩む生活事業等の購買力をどのように反転していくかもこれからの課題だ。
 総じてこの3年間、「新生プラン」の取り組みは、一定の成果はあったと思っている。経済連との統合を始めて10年、35都府県本部を擁する統合全農として、「新生プラン」のもとで、それぞれの歴史を持ち違う風土にある各都府県本部が危機意識を共有することができたと受け止めている。コンプライアンス態勢だけでなくガバナンスも強化され、だんだん組織が一つになりつつある。こうした状況のもとでもやってこれたのは、職員一人ひとりの継続的努力に支えられたものと感謝したい。
 「新生プラン」策定時、203社あった子会社も途中11社新設されたものの、目標の117社へ再編の目処がついた。設立目的に合致しているか、経営的に安定しているか等々、会社ごとに綿密な調査・評価を行い再編に取り組んだ結果、それなりの効果を発揮した子会社構造となったと思っている。特に、この5年間で全農事業を外出しした直販関連会社は、全農事業と一体的な取り組みが今後ますます重要になってきている。

昨今の事業を取り巻く環境をどのように受け止めている?
 現在、国産農畜産物価格の長期にわたる低迷が続いている。これはある部分では“つくられた価格低下”だと私は思っている。デフレの影響も当然あるが、大手量販店の安売り合戦の負担はダイレクトに生産者側にきている。結果、量販店も生協も売上げや収益が落ちている。これでは自分で自分の首を絞めるだけではないかと思う。
 反転の兆しも見えない。今の環境を見る限り過去の価格に戻らないのではないかとも思え、日本農業の存続そのものに非常な危機感をもたざるを得ない。こうした中で、JAグループは当然、全農としてもその存立基盤を試される時期だとの意識をもっている。これまでと同じことをやっていたら、3年後には組織として見放されてしまうのではないか、と思うくらいの環境になっていると認識している。

こうした環境をふまえた新「3か年計画」のめざすものは?
 本来的な使命である国産農畜産物販売力強化をすべての前提とする。では、本当の販売力とは何か、本当に目に見える強化ができるのか。非常に難しく厳しい課題である。直販力の強化はもちろんだが、市場や卸への販売力強化も含めて全職員で考え、それぞれの部門、それぞれの場所でしっかり積み重ねていかなければならない。3年後「全農は本当に販売に努力してくれた」と、会員や組合員に言われるような実績を残さなければ、全農の存在価値はなくなってしまう…それくらいの思いで取り組んでいきたい。

「3か年計画」の施策のポイントは?
 国産農畜産物販売力強化では、大消費地圏においてこれまで以上に直販の拡大をはかりたい。実需者の定質定量や差別化した商品を求めるニーズに対しては、複数産地による周年対応や生産から流通・供給までの一貫した取り組みが重要になる。こうした生産者と実需者を結ぶ販売方式が、さらなる販売拡大には重要であることから、TACの活動などを基軸に成功事例を積み重ね、定着化をはかっていきたい。
 JAグループ国産農畜産物商談会もこの3月の開催で4回目となり、ブースも前年の1.5倍となり4千人を超えるバイヤーが来場し盛況だった。中でも、訪問先の担い手の生産物を紹介する「TACの店」は、昨年よりさらに充実し人気を呼んでいた。全農グループの販売機能とTACの活動が連携することで、生産者と実需者のパイプをより太くすることも、販売力強化の一手段と考える。
 米穀事業では、販売先への全農グループ一体となった販売推進により、精米販売の拡大をめざす。同時に今後の米穀事業のあり方を検討すべき時期にきている。JAグループ内でも米主産県と消費県では仕事のあり方は大きく違う。そうした違いを分類し、それぞれの事業の方向を検討していきたい。
 園芸事業では、JA全農青果センターと県本部直販施設との連携による直接販売や、加工・業務用向けタマネギ・キャベツなど、産地から実需者までの一貫した取り組みに加え、実需者ニーズにもとづく生産提案・商品開発を強化し、契約取引を拡大していく。
 一方で卸売業界は、米にしても青果にしてもこの厳しい環境で、さらに再編が進むものと思われる。そこへ全農としてどういう機能が果たせるのかも、これから考えていかなければならない課題である。
 畜産・酪農では、指定産地取引や特徴ある畜産物の開発等に加え、相場の影響を受けにくい安定価格帯等の取引や県域ブランドを活かした地域での地産地消の取引を拡大。生乳の需給調整機能強化につとめ、生乳・乳製品・業務用牛乳の販売を拡大していく。

販売力強化の起点である生産基盤の維持・拡大に向けては?
 生産資材コストの低減対策と生産性向上対策の両面から取り組んでいく。
 生産コスト低減に向けては、耕種分野では、低成分肥料・農薬大型規格・ジェネリック農薬など低コスト資材の普及拡大をはかるとともに、広域流通体制の整備など間接コストの削減をさらにすすめていく。これに関連して、「農薬開発積立金」も新設した。畜産分野では、引き続き海外産地の多元化や製造・物流コストの低減をすすめ、飼料価格抑制に努める。
 生産性向上に向けては、耕種部門では、この5月の全農営農・技術センターの新施設稼動を契機に、ここを核として、農研機構や大学・種苗メーカー等と連携した新品種・新技術の開発機能をこれまで以上に強化するとともに、実証農場の設置を通じて実用性を検証し、普及・拡大を図っていく。同時に、こうした成果をアピールし販売に結びつけていく努力もしていきたい。畜産分野では、農家への定期訪問により生産者と一体となった畜種別生産性向上への取り組みを継続。巡回指導などによる技術面のコンサル機能も強化していく。

購買事業面においては?
 農業機械・物流などの拠点型事業では、JA事業の県域一体化を促進。SSではセルフSS設置へ支援策を強化する。ガス・Aコープ店舗事業では、会社化など県域一体化を促進。こうしたJAと一体となった経済事業方式を確立することで事業競争力をはかっていきたい。
 肥料・飼料・石油事業では、新たな輸入元の開発や多元化、海外山元・石油元売との関係を強化し、引き続き安価で安定的な原料確保に努める。農薬事業では、先般共同開発した系統独自水稲除草剤「AVH-301」の供給を開始し、シェア拡大をはかる。
 生産資材のうち利用率が低い園芸分野では、TACを通じて担い手ニーズを把握し、商品や企画提案の拡充、資材店舗による当用対応の強化に努めるとともに、園芸向けの新たな肥料・農薬施用技術の研究開発など生産現場に即応した対応策を拡充していく。
 一方、生活関連事業では、生産者直売所と協働型店舗「フードファーム」の出店や、インターネットによる新たな共同購入システム「JAくらしの宅配便」、新エネルギー事業の展開など、新たな事業提案機能を強化していく。

事業拡大に向けた経営基盤の充実・強化の面では?
 財務体質の改善や経営基盤の拡充、コンプライアンス・リスク管理態勢の強化に引き続き取り組むとともに、環境対応策の展開や国産農畜産物消費拡大に向けた広報活動を強化していく。
 特に環境対応では、これまでの環境保全活動に加え、環境に配慮した生産資材の普及拡大や新エネルギー関連商品の事業化など事業面での対応を強化していきたい。また、環境法令に対応するため数値目標を設定し、全国の事業施設・事務所等でCO2削減を実施していくことにしている。

平成22年度事業において望むもの
 既存の事業の強化はもちろん重要だが、周辺事業の掘り起こしや新規事業に力を入れ、新しい芽を出していきたい。
 新たな系統独自除草剤のシェア拡大、低成分肥料PKセーブの面的拡大をはじめ、「JAくらしの宅配便」の導入・拡大などに力を入れていく。また、温室効果ガス排出量削減目標の実現に向け、石油・ガスに変わる新エネルギー事業として、太陽光や太陽熱、LEDなど取扱いや、事務所・工場等に対するエネルギー節減提案事業など、いくつかの新しい芽が出てきている。これらが事業の反転攻勢までとはいかなくとも、柱の一つになれるようにしていけるのか否か、今年度をかけて見極めていきたい。
 いずれにしても、この3か年計画の初年度として「現場」を重視した取り組みをすすめていきたい。職員には「現場・現物・現実」を大事にして欲しい。現場に立脚し、現場に出向き、現物を見て・触り・確認し、かつ現実に照らして判断する。この組織にいるとややもすれば、数字だけを見、追いかけて計画をつくりになりがちになるが、机上の計算どおりにはいかない障害が山積するのが現実の世界である。そこを現実的に柔軟に判断できなければ、これからの仕事は数字として積み上がっていかないだろう。今次3か年計画のスローガンは「変革・創造・実践」。これを可能にするためには、知識の人ではなく、知恵の人・実行の人として動いていくことが必要だ。



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2010年 4月15日号 第2893号
このひと
JA全農 代表理事理事長
宮下 弘 氏

 全農は、3月24日開いた臨時総代会で、平成22年度からの新たな3か年計画と平成22年度事業計画を決定した。19年度からの3か年計画の進捗状況を振り返りつつ、新3か年計画のめざすものとこれを踏まえたこれからの全農事業の方向を、宮下弘理事長に聞いた。