20年度事業計画のポイントは?
 19年度からの3か年計画は、18年度事業の結果を踏まえ、19年度の当期利益はゼロ、20年度は10億円と大変厳しいものとなっている。事業をめぐる環境をみても、原油や海外原料の高騰を農産物価格に反映しきれない中で、全農として生産資材コスト低減等に取り組むものの、農家の生産コスト増嵩(/高騰)に対応しきれないジレンマを抱えている。一方で、真の機能に絞り切れているのか、全農自体の体質改善も道半ばだと思っている。
 こうした現状を踏まえて、20年度事業は、海外原料価格高騰対策と20年産米の生産・販売対策を最重点項目に取り組むことにしている。
 20年産米の計画生産にはJAグループあげて取り組むが、全農は計画生産を支援する観点から、飼料用米の生産・販売に新たなスキームを構築するほか、播種前・収穫前契約等による安定取引の拡大、精米販売の拡大に向けた販売体制の再編、等に機能を発揮。さらに米粉等の加工品についても、自ら製造・販売を検討するなど、米トータルの具体的な販売力の強化を図っていく。
 一方で、生産資材のコスト削減努力と併行して、原料コストを国産農畜産物の価格に適正に転嫁することに理解を求める広報対策も、集中的に展開していきたいと考えている。

経営計画面では?
 「3か年計画」における20年度計画の10億円を上回る20億円の当期利益を計画している。しかし、事業利益は19年度に続き赤字計画になっている。会社化による事業の“外出し”がその大きな要因としてあるものの、事業構造を変革し何とか反転の契機をつくりたいと思っている。
 「全農新生プラン」では、5年間で240億円程度を担い手対策として還元していくことにしている。この対策により農家やJAの皆さんに全農の機能を評価いただき、結果として本会利用の数字が伸びるところまで結び付けていくことが、これからの課題ではないかと思う。
<全農グループ全体として収支計画が問われているが…>
 園芸販売や畜産販売事業の会社化等をはじめとして、全農事業はグループの連結で見ないと本当の全体が見えてこなくなっている。従って、持分適用会社も含めた連結決算は当然だが、“外出し”した主要な会社には、一定の基準を設けて連結の計画をつくり4半期毎に進捗管理し、常に連結で数字を追っていくことが大事だと考え、現在作業を進めている。
米穀事業での取扱計画が前年度比87%と大きく下回っているが…
 19年産米の取扱量は、政府米の積増しや需給の“締まり”もあり、19年度3月末で計画の94%程度の達成率と、かなり前倒しで進んでいる。その分、20年度の4−10月の取扱量が例年より少なくなっていることが要因の1つにある。全体的に単価が下落し集荷率も38%に下がっている。20年度は、前述のような種々の販売機能を背景に集荷率40%を目指しているが、事業年度の販売量は減らざるを得ないことを根拠とした数字となっている。

さらなる改革の加速化へ、「新生プラン」20年度の課題は?
 担い手への対応強化、生産者・組合員の手取り最大化に向けて、手数料や生産資材価格の引き下げに取り組んできたが、全体として生産者やJAにその実効が目に見えてこないというご批判をいただいている。担い手やJA個々に評価されるような対策への見直しが必要だと考えている。県本部とJAの担当者がタッグを組んで担い手の具体的な要望に応えている県もあるが、まだまだ県間の取り組み格差があることも事実で、現場で使えるメニューに見直し、効果のある対策としていくことが課題となっている。
 県本部や子会社のより合理的・効率的ガバナンスへのレベルアップも大きな課題だ。より現場に近いところで実情に応じて、例えば、県本部毎の権限と責任や会社の経営者の役割をもう少し明確にして、その結果をキチンと評価し、評価の低い所を具体的に改革し、全体としての底上げを図っていかなければならないと考えている。

これからの全農事業の姿をどう描くか?
 「生産者と消費者を安心で結ぶ懸け橋になる」。この全農グループの経営理念を各部が具体的に実践していくことが大前提となる。米や園芸、畜産等で各グループ会社と一体となり、生産者と実需者を結び直接販売を拡大していく。私自身も関係部門と一緒にお取引先等の商談会をはじめ、少しでも消費者の皆さんに近いところに出向いていく。
 生産者を向いては、前述の担い手対策をメインとしながら、JAに対して説明責任をしっかり果たしていかなければばらない。生産資材の価格にしても、競争社会の中ではシェアが限られてくるのは当然としても、自らの商品をキチンと説明しきることができれば、もっと理解が進むのではないか。担い手を含めた生産者やJAに対し、情報をキチンとつなぎ説明責任を果たす作業がこれまで以上に必要になってくるだろう。
 全農グループのみんなが、少しずつでも「前を向く」ことが大事だ。私も先頭に立ち、一緒に生産・消費そしてJAに出向いていき、「なるほど全農は動きだしたな」と、現場に見える20年度にしたい。そうした地道な活動の着実な積み重ねが、必ずや評価につながると思っている。
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2008年4月15日号 第2816号
このひと
     全国農業協同組合連合会
            代表理事理事長 宮下 弘氏
 JA全農は、3月28日の臨時総代会で、海外原料価格高騰対策、20年産米の生産・販売対策を基軸とした平成20年度の事業計画を決定した。新年度事業のスタートに当たり、これからの全農事業の展開方向を宮下理事長に聞いた。