古江先生の2003年の論文(→こちらやこちら)中に、「乳幼児で7%、小児で10%、成人で19%のアトピー患者が6ヶ月のステロイド外用で改善しなかった」というデータがあります。私は、「この中に、ステロイド依存・抵抗性に陥った患者が含まれていると推察される」と以前記しました(→こちら)が、
「これはステロイドの塗り方が少なかった患者の率を示しているだけだ。古江先生も論文中でそう考察している」
という意見をネット上で見つけました。また、佐藤先生の学会発表時のフロアからの古江先生の発言からも(→こちら)、古江先生御自身が、少なくとも最近はそう考えているらしいことがうかがえます。
2003年の古江先生の論文の考察(Discussion)部分から、該当個所を読み直してみましょう。
「大多数の患者はステロイド外用治療でコントロール良好であった。しかし、乳幼児の7%、小児の10%、成人の19%は、6ヶ月間の治療後も「悪い」または「非常に悪い」のまま、あるいは悪化を経験していた。ステロイド外用量は、WilsonらやMunroとCliftによる報告よりもずっと少なかった。」
多分、このくだりが、「コントロール不良群はステロイドが少なかったのではないか?」という印象を与える根拠なのだろうと察しますが、ここで引用されている「WilsonらやMunroとCliftによる報告」とはどんなものなのでしょうか?
どちらも1973年の論文です。ステロイド長期外用による下垂体副腎抑制の有無を調べたものです。
Wilsonらのデータは下表です。
MunroとCliftのデータは下表です。
一方、古江先生のデータは下表です。
比較してみると、Wilsonらのデータの中央値は15g(/週)未満、75%値は16-30g(/週)、6ヶ月換算するとそれぞれ390g未満と416-780gになります。MunroとCliftのデータの中央値は10-19g(/週)未満、75%値は20-29g(/週)、6ヶ月換算でそれぞれ260-494gと520-754になります。古江先生のデータで成人のコントロール不良群は、中央値140g、75%値252.5gですから、だいたい半分弱くらいです。
わたしは、この比較には無理があると思います。なぜなら、WilsonらおよびMunroとCliftのデータは、
1 アトピー性皮膚炎のデータではない(両論文とも「湿疹または乾癬」の患者が対象)。
2 使用していた軟膏はStrongまでで、Very strongやStrongestは使われていない(1973年当時Strongより強いステロイド軟膏はまだ存在しなかった。)。当然外用量は現在よりも多くなる。
※また、この時代は、密封療法といって、外用剤をラップで巻いて貼り付けるということが行われていました。外用剤をベタベタに塗ってラップで覆うので使用量は多くなります(無駄も多い)。
3 副腎抑制を来たしたかどうかの調査であって、その量によって疾患がコントロール良好であったかどうかは不明。
であるからです。
繰り返し記しているように、副腎抑制とステロイド依存・抵抗性とは、まったく関係ありません(→こちら)から、WilsonらおよびMunroとCliftのデータ中の患者の一部が、依存または抵抗性に陥っていた可能性は十分にあります。
「ステロイド外用量は、WilsonらやMunroとCliftによる報告よりもずっと少なかった。」という下りは、「古江論文のコントロール不良群に、もっとステロイド外用剤を塗っても副腎抑制は来たさないだろう」という意味であって、「もっとステロイドを塗ったらコントロール良好群が増える」という根拠を挙げているものではありません。
古江先生の考察の続きを訳します。
「ステロイド外用剤総量は、乳幼児では、コントロール不良群のほうがコントロール良好群よりも多かった。この差は、年齢と共に大きくなった。コントロール不良群は、乳幼児期および小児期には、「mild+weak」のステロイドを(「strongest+very strong+strong」よりも多く使用していたが、思春期および成人のコントロール不良群の患者では、これが逆転した。」
「年齢によるこの変化は、臨床医にとって重要なメッセージかだろう。思春期のアトピー性皮膚炎の再発性の病変は、局所療法に抵抗性であることが報告されている。思春期および成人患者の臨床症状はステロイド外用剤の抗炎症効果に反応しにくいのかもしれない。」
「アトピー性皮膚炎の罹病期間は、1ヶ月から79年にわたり、25%値、中央値、75%値はそれぞれ1.1年、3.0年、7.0年であった。患者は長期間繰り返しステロイドを外用しているようだった。その証拠に、ステロイドによる毛細血管拡張や皮膚萎縮が、患者の年齢が高くなるにつれて認められた。少数であるがかなりの患者で副作用、すなわち皮膚の菲薄化や毛細血管拡張を認めた。これらの副作用は年齢・性・概要ステロイドの量や強さから予測できるのかもしれない。」
「結論として、ステロイド外用剤はアトピー性皮膚炎の治療に有用だが、ステロイド外用剤を増やしても悪いままである(改善しない)患者の一群が存在するようだ。それらの患者では、ステロイド外用剤の量や強さの再考が必要であるし、紫外線や患者教育や心理療法など他の治療を組み合わせるべきだろう。」
以上です。ですから、この論文において、古江先生は「コントロール不良群は、ステロイド外用が足らなかったためだ」と考察あるいは結論付けてはいません。そのような読み方は間違っています。「仮にコントロール不良群にもっとステロイドを外用しても、副腎抑制をきたす量にまではまだ余裕がある」ということを示唆しているだけです。
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