原子力規制委員会は昨年12月29日、国内で唯一稼働中の関西電力大飯原発(福井県)の断層の再調査を終えた。しかし、敷地内に活断層が走っているかどうかの見解は一致せず、今春以降に最終判断する見通しだという。
この規制委のメンバーたちはずるいと思う。彼らが最も恐れているのは、「再稼働OK」と判断した後に地震があったとき、自分たちの責任になってしまうこと。したがって、絶対に「OK」とは言いたくないのだ。
2010年12月に原発の安全審査の手引きが改定され、活断層の真上に原子炉建屋など重要施設が設置できないことになった。そこで、活断層を原因にすればストップできるので、活断層を必死に探すようになったわけだ。規制委の田中俊一委員長も島崎邦彦委員長代理も「活断層オタク」みたいになってしまっている。
大飯の断層については、ほとんどの学者が「あれは活断層ではない」と言っているのに、わざわざ何回も掘り直している。そりゃあ、地球の裏のブラジルまで掘ったら、何か出てくるだろう。
規制委のメンバーは国会同意人事だが(野田政権は緊急事態を理由に首相権限で任命した)、どうも自民党は現在の委員たちには「アンチ」の立場のようだ。結局、この問題は自民党政権が原子力に前向きになっていることも影響している。
少し口が滑って、「新型の原発をつくってもいい」なんて言い始めていた安倍晋三首相だが、12月29日、就任後初めて東京電力福島第1原発を視察し、民主党政権の「2030年代に原発稼働ゼロを目指す」との方針について、安倍内閣は踏襲しない考えを表明した。
民主党政権も建設中の原発は認めていたので、実質、「2040年代もOK」だった。30年代稼働ゼロというのは、端から無理な話だったのだ。
ただ、再稼働を認める判断を誰がするのかについて、民主党政権は「規制委が安全基準に基づいて判断する」と責任を放棄していた。地元に対する説明も規制委にやらせようとしていた。
一方、安倍内閣の茂木敏充経産相は地元への説明で「最終的な再稼働の判断は政府がやる」と語っている。茂木さんに原発に関する知識があるのか、説明できるのか、という点は定かではないが、これで規制委員会の逃げの態度は修正されるかもしれない。
日本の場合、発電電力量の30%が原子力だ。原子炉がなくなると、あらゆるところに影響がくる。単に二酸化炭素が増えるということだけではない。
夜間の電力料が何倍にもなることひとつとっても、大きな影響が出る。安価な夜に充電することを原則に考えていた電気自動車も、吹っ飛んでしまう。私は福島第一原発の自己分析をして、再発防止の具体的な技術提案をしている(『原発再稼働「最後の条件」: 「福島第一」事故検証プロジェクト 最終報告書』、小学館)。これは地元にも十分納得のいくものだ。その努力をしないで活断層をほじくり回して責任逃れをしている規制委員会は滑稽以外の何物でもない。国民的コンセンサスを得るには正面から向き合う以外はないのだ。
■ビジネス・ブレークスルー(スカパー!557チャンネル)の番組「大前研一ライブ」から抜粋。