先日の午後は、手術の担当だった。
３頭の第四胃変位の手術に加えて、もう１頭の牛の手術の伝言の欄には
『帝王切開？』
と書かれていた。
「でも、捻転じゃあないみたいですよ。」
同じ手術班となった同僚のＫ獣医師がそう言った。
四変の３頭を先に済ませて
最後に、この牛の治療に取り掛かった。
手を入れたＫ君が言った。
「・・・気腫胎ですね、これ・・・」
「うわ・・・じゃ、帝王切開してもしょうがないか・・・経産牛だし・・・なんとか経膣で出せないかな。」
そう言って私も手を入れて、胎児の体向と気腫の程度を診た。
正常位ながら、頭部は大きく腫れあがり、ぶつぶつと気腫の触感があった。
「切りたくないね・・・どうせ厳しいんなら、経膣でやろう。粘滑剤、たっぷり用意して。」
「わかりました。」
バケツにたっぷり２杯の粘滑剤が用意され、その約半分の注入を開始した。
胎児と子宮との摩擦をとにかくできる限り減らしてゆく。
胎児の頭部は、眼窩がようやく触れる程度だった。
Ｋ君に粘滑剤を注いでもらいながら、眼窩や下顎を掴んで、胎児を揺する。
ようやく胎児の後頭部に触れるようになったところで、私の手の握力はしんどくなっていた。
「後頭部に、ワイヤ掛けられるかな・・・結構きついけど・・・交代。」
今度はＫ君が、助産ワイヤ（ヘッドループ）をもって手を入れた。
しばらく顔をしかめながらやっていたＫ君
「ちょっと確認してもらっていいですか。」
再び交代して、手を入れると、ワイヤは胎児の後頭部、両耳の後にしっかりと掛けられていた。
「よし、オッケー。もう一度粘滑剤入れて、後は引っ張るのみ。」
再び、粘滑剤の残りがたっぷりと投入され、牽引介助が始まった。
頭部と前肢を交互に牽引する。
ずぼっ、と胎児の頭が出たところで、親牛は牽引力に耐えられず、寝てしまった。
ばきっ、と嫌な音がしたが、この音が胎児の骨の音であることを願うしかない。
しかも、ここまで来たら、もう牽引するしかない。
滑車の牽引によって、頭の腫れ上がった胎児はゆっくりと娩出された。
巨大な雄の仔牛だった。
「親に補液してやって。」
さて、今度はこの親牛が、立って帰れるかどうかが勝負である。
ここで、立てなくなってしまう事態になれば
結果的に、帝王切開をしたほうが良かった、ということになり
私の判断は間違いだったといわれても仕方が無い。
「せっかく来てるんだから、カルシウム測ってみよう。」
血中カルシウムを検査室では測っている間、親牛に補液を続けた。
カルシウム値は８．８（��/ｄｌ）だった。
最後にカルシウム剤を投与し、補液治療を終えた。
「さて・・・立てるかな・・・」
「やってみますか。」
「だめなら、ハンガーもあるし・・・」
Ｋ君が、親牛に気合を入れて、起立を促した
すると、あれだけバテていた親牛が頭を持ち上げた。
さらに、気合を入れて、起立を促すと
親牛は、のっそりと立ち上がった。
「おー・・・よし。立ったぞ。」
私とＫ君は
思わず拍手をしてしまった。
親牛は、その大きな体からもうもうと湯気を上げて
手術室から、日の暮れた中に待機している家畜車へと
歩いて乗って、帰った。
＊ ＊ ＊
この親牛は
翌日から、立てなくなった。
２日間、起立不能症で治療が加えられた。
そしてその翌日
死亡した。
病畜処理場の先生から送られてきた解剖の結果は、以下のとおりであった。
『開腹すれば、帯悪臭（ヒドイ）、悪露様液体大量に漏出。子宮実質脆弱（ボロボロ）にて破裂創あり。（破裂創は複数あると思いますが細かくは見ることができませんでした）。』
とあった。
３頭の第四胃変位の手術に加えて、もう１頭の牛の手術の伝言の欄には
『帝王切開？』
と書かれていた。
「でも、捻転じゃあないみたいですよ。」
同じ手術班となった同僚のＫ獣医師がそう言った。
四変の３頭を先に済ませて
最後に、この牛の治療に取り掛かった。
手を入れたＫ君が言った。
「・・・気腫胎ですね、これ・・・」
「うわ・・・じゃ、帝王切開してもしょうがないか・・・経産牛だし・・・なんとか経膣で出せないかな。」
そう言って私も手を入れて、胎児の体向と気腫の程度を診た。
正常位ながら、頭部は大きく腫れあがり、ぶつぶつと気腫の触感があった。
「切りたくないね・・・どうせ厳しいんなら、経膣でやろう。粘滑剤、たっぷり用意して。」
「わかりました。」
バケツにたっぷり２杯の粘滑剤が用意され、その約半分の注入を開始した。
胎児と子宮との摩擦をとにかくできる限り減らしてゆく。
胎児の頭部は、眼窩がようやく触れる程度だった。
Ｋ君に粘滑剤を注いでもらいながら、眼窩や下顎を掴んで、胎児を揺する。
ようやく胎児の後頭部に触れるようになったところで、私の手の握力はしんどくなっていた。
「後頭部に、ワイヤ掛けられるかな・・・結構きついけど・・・交代。」
今度はＫ君が、助産ワイヤ（ヘッドループ）をもって手を入れた。
しばらく顔をしかめながらやっていたＫ君
「ちょっと確認してもらっていいですか。」
再び交代して、手を入れると、ワイヤは胎児の後頭部、両耳の後にしっかりと掛けられていた。
「よし、オッケー。もう一度粘滑剤入れて、後は引っ張るのみ。」
再び、粘滑剤の残りがたっぷりと投入され、牽引介助が始まった。
頭部と前肢を交互に牽引する。
ずぼっ、と胎児の頭が出たところで、親牛は牽引力に耐えられず、寝てしまった。
ばきっ、と嫌な音がしたが、この音が胎児の骨の音であることを願うしかない。
しかも、ここまで来たら、もう牽引するしかない。
滑車の牽引によって、頭の腫れ上がった胎児はゆっくりと娩出された。
巨大な雄の仔牛だった。「親に補液してやって。」
さて、今度はこの親牛が、立って帰れるかどうかが勝負である。
ここで、立てなくなってしまう事態になれば
結果的に、帝王切開をしたほうが良かった、ということになり
私の判断は間違いだったといわれても仕方が無い。
「せっかく来てるんだから、カルシウム測ってみよう。」
血中カルシウムを検査室では測っている間、親牛に補液を続けた。
カルシウム値は８．８（��/ｄｌ）だった。
最後にカルシウム剤を投与し、補液治療を終えた。
「さて・・・立てるかな・・・」
「やってみますか。」
「だめなら、ハンガーもあるし・・・」
Ｋ君が、親牛に気合を入れて、起立を促した
すると、あれだけバテていた親牛が頭を持ち上げた。
さらに、気合を入れて、起立を促すと
親牛は、のっそりと立ち上がった。「おー・・・よし。立ったぞ。」
私とＫ君は
思わず拍手をしてしまった。
親牛は、その大きな体からもうもうと湯気を上げて
手術室から、日の暮れた中に待機している家畜車へと
歩いて乗って、帰った。
＊ ＊ ＊
この親牛は
翌日から、立てなくなった。
２日間、起立不能症で治療が加えられた。
そしてその翌日
死亡した。
病畜処理場の先生から送られてきた解剖の結果は、以下のとおりであった。
『開腹すれば、帯悪臭（ヒドイ）、悪露様液体大量に漏出。子宮実質脆弱（ボロボロ）にて破裂創あり。（破裂創は複数あると思いますが細かくは見ることができませんでした）。』
とあった。