清流どこへ:行橋の汚水処理/5止 クリーン作戦 /福岡
毎日新聞 2013年01月19日 地方版
◇続けることが大事
「底が見えないなぁ」。太ももまで水につかり、川底をのぞき込んでいた男性が声を上げた。昨年12月、行橋市の中心部を流れる古川で、市民グループ「行橋未来塾」のメンバーが、毎月恒例の川掃除をした。
古川は、江戸時代に掘られた舟路(ふなじ)川とつながる小さな河川。川岸の壁面に点在するパイプから生活排水が流れ出る。
「あったあったー」。Tシャツ姿の木戸淳平さん(36)がジュースの紙パックやポリ袋などのごみを拾い上げていく。うっすらと油膜が張る川から上がってきた工藤宏太さん(38)は「やっぱり臭うかも」と言いながら、ぬれたシャツに鼻を近づけた。
「子供の頃はよくここで遊んだ。フナやハヤもザリガニもいた」。未来塾をつくった江本満さん(43)が思い起こす。自治会長をしていた父が地域の人たちと舟路川をさらっていた姿が忘れられず、4年前から川の掃除を始めた。交流サイトやツイッターで参加を呼びかけており「ボランティアがしたかった」という若者もふらりと手伝いにやって来る。
川は、初詣や七五三で多くの参拝者を集める正八幡宮のすぐ脇を流れる。「いつもお宮のみこしを担いでいるので、川が汚いのは嫌だなと思って」と江本さん。効果がすぐ出なくても、続けることが大事だと思っている。
農業用水としての川の水をきれいにしようとする人たちもいる。長峡(ながお)川の中流にある行橋市上稗田。「ここは土が粘土質だから米がおいしい。水がきれいならもっとよくなる」と自治会長の清水政幸さん(75)は言う。
清水さんらは「長峡川、初代川を守る会」を組織し、07年から浄化作用のあるEM菌(有用微生物群)入りぬか団子を田植え前の川や水路に置いている。「水がよどむ場所は以前は臭ったが今はない。EM菌をまいた所は藻も生えない」。効果を実感している。
忘れられない長峡川の光景が、清水さんにはある。「ホタルが竜巻のように渦を巻いた“光の柱”が立った。ここは蛍の名所で、弁当を持って遠くから見に来る人もいた」。もう50〜60年前の話だ。「(蛍は)今でもちらほら出る。昔ほどではなくても、もう少し増えればと思っている」
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JR行橋駅東口に大きな看板がある。「清流のまち、わたしたちの誇りです」。いくつもの流れが市内を走る川の街、行橋。看板通り清流を取り戻す日は、いつ来るのだろうか。=おわり