手術医療の実践ガイドライン 第8章
第8章 ME機器・電気設備・医療ガス
久保 仁
理論的根拠
手術部では病院内で最も多種にわたるME機器を取り扱っている。電気メスをはじめとしたこれら新旧のME機器は、その多くが患者に直接使用されるものであり、曖昧な知識で使用すると熱傷や電撃などの事故を誘発してしまう。ゆえに、ME機器を安全かつ効果的に使用するために、手術スタッフはME機器や電気設備・医療ガス設備などについて、使用法は勿論、構造・機能についても充分に理解しておく事が必須とされる。また、手術室内のME機器はその殆どが患者に侵襲を加えるものであることから、適正な日常点検や定期点検を行い、常に正常な動作を維持できるように保守管理する事が大切である。
臨床工学技士法が施行され各病院に臨床工学技士が配置され始めたことでME機器自体の保守管理は徐々に進んできているが、反面、分業化が進んだ事により他の手術スタッフの知識、特に電気設備に対しての知識が欠落し始めているのが現状である。安全に使用できるはずのME機器・電気設備も、その使い方を間違えるとME機器・設備が正常作動していても事故は起きることを念頭に置き、業務を行うべきである。
勧告
T.手術室における電気安全
1.患者環境は幾重にも安全対策がなされていなければならない。
(解説)
ME機器から患者や操作者の電撃を防ぐための基本的な考え方は、JIS T 1001「医用電気機器の安全通則」によると、保護機構と別途追加的な保護機構を備え、安全を2重に保障する事としている。電源からの絶縁(基礎絶縁)を基本とし、基礎絶縁が壊れても安全であるように、基礎絶縁に加えてもう1つの安全手段を加えた2重安全を義務づけている。
この安全手段を追加保護手段と称して以下の4つに分類している。
(1)クラスT:保護接地→保護接地設備が必要。設置型2極コンセント(3Pコンセント)。
(2)クラスU:補強絶縁→使用上の設備による制限なし。
(3)クラスV:医用安全超低圧電源→特殊な電源設備を要する。CF型は認められない。
(4)内部電源機器:内部電源:使用上の設備による制限なし。外部電源に接続出来ない事。
2.ME機器や設備の、万一のトラブル発生時にも、速やかに正しい対処ができる能力を身につけなければならない。
(解説)
ME機器や設備のトラブルは瞬時に起きる事が多く、全身麻酔下にて手術を受けている患者自身はこれを回避する事が困難であるため、ME機器の正しい使用法を熟知すると共に定期点検や使用前点検を確実に行いME機器の状態把握に努める事が重要である。
3.ME機器が故障状態にある場合や適切な設備下で正しい使い方を行わないと、患者や手術スタッフに電撃(電気ショック)を与えてしまう事があるので充分注意しなければならない。
(解説)
マクロショック(macro shock)やミクロショック(micro shock)などの電撃を患者や手術スタッフに与える事のないように、ME機器のアースの確保やフローティング電源の設置は必須であり、以下のことについて順守する。
(1)医用3Pコンセント(接地極付き2極コンセント)の使用
(2)医用3Pプラグ(接地極付き2極プラグ)の使用
ME機器の電源供給には医用3Pプラグを用い、2Pプラグの使用は禁止する。
(3)医用3Pプラグの形状の確認
医用3Pプラグのアースピンは電源供給2極並行ピンと比べて長いものを用いる。
2極並行ピンと比べて短い場合、変形している場合は交換する。
(4)フローティング電源設備の設置
手術室の医用電源設備は、絶縁トランスを取り付けたフローティング電源である事。コンセントの電源供給端子とアース端子間の電圧が50V以下である事をテスターで調べる事で確認する事ができる。
(5)アイソレーションモニタの設置
ME機器を使用した際の漏れ電流の値を監視する装置であり、ME機器の漏れ電流の総和が安全許容値2mA以下の状態で使用する。
(6)患者周辺の確認
患者の体を故意にアースしない。また、患者に手術台の金属部やその他の金属部が触れていない事を確認する。
(7)等電位接地(EPRシステム:equipotential patient reference system)設備の設置
心臓や血管に電極やカテーテルを留置する際には、マクロショックの1/1000程度の電流(心室細動誘発値:100μA)でミクロショックの危険性が増大するため、等電位接地(EPRシステム)の設備環境において、CF型(心臓に直接適応できるようにフローティングを強化し、患者漏れ電流の許容値を10μA以下に抑えた機種) ME機器を使用し、接地電位を10mV以下にする。
※マクロショック(macro shock)
人体は電気を通しやすく、商用電流の場合、1mAが手足に流れただけで刺激を伴い感電する。10〜20mAが流れると手足の筋肉が硬直し自由に動かせなくなる。更に、100mA以上になると心室細動を引き起こす。
※ミクロショック(micro shock)
心臓や血管に留置した電極やカテーテルから心臓に直接電気が流れると、僅か10μAの電流が流れただけで心室細動を引き起こす。
4.手術室の電源設備は、フローティング電源、アイソレーションモニタ(絶縁監視装置)、無停電電源装置および自家発電装置の3つの設備設置を配慮する。
(解説)
フローティング電源は地絡(ショート)事故による停電防止、アイソレーションモニタ(絶縁監視装置)は漏れ電流監視のため、無停電電源装置および自家発電装置は外部からの電源供給停止の際に必要である。
(1)フローティング電源について
@絶縁トランス保護の立場から、同一電源系統の許容値を超えないように注意する。
AME機器に附属する電源コードはアースの抵抗値が高くなる可能性があるため不必要に長くしない。電源コード長に関する規制はないが、着脱可能な医用3P電源コードの場合、接地抵抗が0.1Ω以下と規制される。
Bフローティング電源でもME機器のアースは確保する。
Cアイソレーションモニタのアラームが鳴ってもあわてず、ME機器の漏れ電流の増加や単一故障状態(ME機器にアース断線やショートが起こっている状態)の発生を疑い、どの機器が故障しているかを探し、適切な処置をする。
※アイソレーションアラームが鳴ってもすぐ手術に支障は出ないが、そのまま放置すると重大な事故につながる恐れがあるので放置してはならない。
(2) アイソレーションモニタ(絶縁監視装置)について
ME機器が発生する漏れ電流を常時監視し、異常な漏れ電流発生に対して迅速に対処するためのアイソレーションモニタであるが、次の様な場合は対設置間の浮遊静電容量の増加によってアイソレーションモニタの漏れ電流が増加し、正常な漏れ電流監視が行えない場合があるので注意を要する。
@手術室内または隣接して絶縁トランスを設けない場合(例えば、絶縁トランスを手術部の一画に設置し、絶縁トランスの2次側の屋内配線を敷設する場合)
A手術室天井の電源配線に不必要に金属配管を施した場合
B絶縁被覆の悪い屋内配線電源ケーブルを用いた場合
CME機器の電源コードに規定の長さのコードを使わなかったり、延長コードを使用した場合(浮遊静電容量はコードの長さに比例して増加する)
D絶縁被覆の悪い電源コードを使用した場合
5.フローティング電源の電源ブレーカーは、一般電源と違い地絡(ショート)事故でブレーカーが作動する事はないが、許容電源容量を超えると電源を遮断するので手術室内の各電源の容量を充分把握しておかなければならない。
(解説)
フローティング電源の手術室における電源ブレーカーの役割は、複数機器の同時使用により許容電源容量を超えて使用した場合、屋内配線に過度の電流が流れ発熱、発火などが起こらないように電源供給を自動的に遮断することである。
手術室で電源ブレーカーが作動した場合には、以下の手順で電源供給の復帰を行う。
(1)電源が遮断された系統の電源ブレーカーをそのまま復帰させることは難しく危険である。使用しているME機器の中から手術進行に直接影響を与えないME機器(重要度の低いもの、保温装置のように消費電力の大きいものなど)の電源プラグをコンセントから抜く。
(2)上記条件を満たした後、遮断した電源ブレーカーを復帰する。もし、再び電源ブレーカーが遮断した場合は、他のME機器のショート(地絡)や電源設備の故障を疑う。
(3)電源プラグを外したME機器に、特に不具合が見られないようであれば、別系統の電源コンセントに接続する。
6.複数のME機器を同一患者に使用する際には、1台のME機器使用の時には生じなかった様々な問題が考慮されるので充分注意して使用する。
(解説)
手術室内の患者環境周辺のME機器は増加の一途を辿っており、内視鏡装置のように一つのラックに複数のME機器を納め同時使用する機器も多く存在する。複数の医用電気機器の組み合わせ又は医用電気機器と他の非医用電気機器との組み合わせを医用電気システムと言う。クラス0機器(一般家電等)は医用電気システムに使用してはならない。ただし、安全性が確保できる手段、例えば分離変圧器(二重絶縁又は強化絶縁)と組み合わせる場合は、クラス0機器及びクラス0T機器を使用してもよい。医用電気システムを含めた複数台のME機器を使用する場合、漏れ電流の総和が1台のME機器で許容されている安全値を越える事ことがあるので、個々のME機器のアースを単独で確保する。
マルチタップの使用は、原則医用電気システムのみとする。ME機器に接続する電源コンセント部のアース電位が異なると漏れ電流の増加原因となるのでEPRシステムによるアースを確保する。電気メスなどの高周波電流や電磁波を発するME機器は、周囲で使われるME機器の誤作動を引き起こす事があるので、微弱な生体信号を測定するME機器のケーブルや内視鏡のカメラケーブルなどは、電気メスのハンドピースや対極板のケーブルに近づけないことが望ましい。
7.電撃や電磁干渉の危険が生じる可能性があるため、ME機器を家電製品と安易に接続すること、近接して使用することは避ける。
(解説)
例えば、パソコンや携帯電話をME機器に接続したり、近接させたりすることは、漏れ電流による電撃事故や電磁干渉によるME機器の誤作動などの悪影響を及ぼす恐れがあるため注意が必要である。医用電気機器と他の非医用電気機器とを組み合わせて使用する場合などは、分離変圧器(二重絶縁又は強化絶縁)と組み合わせるなど、安全性を充分に確保する事が必須となる。
パソコンをME機器と接続して使用する場合には、漏れ電流や電磁誘導を防止するため、次の対策が必要である。RS-232C通信ケーブル(本来、パソコンと電話用モデムを接続するインターフェースの通信プロトコルとして規格化されたものであるが、その後、他の機器との汎用相互情報通信手段に用いられるようになった)に光結合などによって電気的絶縁(アイソレーション)を施されたものを使用する。漏れ電流の多いパソコンのAC供給電源には単独にパソコン用のフローティングトランスユニットを追加すると共に、医用3Pプラグを使いアースを確実に取る。
8.携帯電話は電磁波雑音によりME機器に誤作動を起こすため、手術室に携帯電話を持ち込むことは原則禁止する。
(解説)
現在、ME機器の電磁波対策はかなり進んでいる。携帯電話の影響を受けにくい機種が多くなってきており、影響を与える距離等も短くなっているが、まだ悪影響の出るME機器もあるので原則、手術室への携帯電話の持ち込みは禁止する。
ME機器に携帯電話を近づけた際に干渉を受ける事例は以下の通りである。
@輸液ポンプ:気泡センサーの気泡検出不能、気泡・落滴センサーの誤作動
Aシリンジポンプ:シリンジ認識異常による作動停止、シリンジ外れアラーム発生による作動停止、輸液速度異常
B体外式ペースメーカ:心室固定ペーシング動作発生
C麻酔器:人工呼吸器の換気量変化
D人工心肺:バブルセンサーの誤作動によるメインポンプの停止
E医用テレメーター:心電図、呼吸、血圧波形にノイズ混入
F除細動器:心電図波形にノイズ混入
G心電計:基線変動、紙送り速度変動および停止
H画像診断装置:画面にノイズ、揺れ発生
U. ME機器
1.電気メス
1-1。電気メスは、高周波電流の放電やジュール熱などの熱作用を利用するため、取扱いを間違えると、熱傷、神経刺激、引火などの危険性が増大するので、使用の際には注意と監視を怠らない。
(解説)
患者の身体への熱傷は、高周波電流の電流密度が30mA/cm2以上になった場合に生じ以下に示すような原因が考えられる。
@対極板コードの断線、対極板コードの延長、対極板の装着忘れ
A患者体位変換時の対極板のずれ、折れ曲がり、接触面積の減少:現行の電気メスは対極板の抵抗値を監視し、異常があると出力を停止するシステムを搭載したものが多く出回っているが、いくつかの条件が揃うと出力される事があるので充分な注意が必要である
B40〜70cm2の小児用対極板を200〜300Wの大きな出力で使用した場合:出力が低くても、長時間出力を繰り返すと、対極板装着部の温度上昇が生じることもあるので不必要な出力は避ける
C対極板の装着部に消毒液が混入し、部分的に導通不良を引き起こした場合
D仙骨部など、圧迫を受けやすい部位に対極板を装着した場合、装着部の血流が悪いため熱を逃がし難く、熱傷と辱瘡の2つの危険性が生じる
EフローティングされていないME機器の電極やカテーテルを患者に装着させた場合
F手術台の金属部に患者の体が触れている場合
G体内に埋め込まれた人工関節などの導電部分が高周波電流の経路となる場合、人工関節の先端部分に電流が集中する恐れがあるため、手術野に対する対極板の装着位置には配慮が必要である
H歯列矯正などの矯正具を含めたインプラントは、全体が生体組織で覆われていれば熱傷の危険性は少なくなる。しかし、ピンポイントでの接触部位がある場合には、その部位に電流が集中し熱傷を起こす可能性が高くなる。ゆえに対極板は、インプラントが高周波電流の経路にならない術野に一番近い場所への装着が望ましい。
1-2。止血のため電気メスのメス先を鑷子や吸引嘴管に接触させて使用する際、高周波分流により術者や助手の手指に熱傷や電撃を起こすことがあるので、メス先電極を鑷子に確実に接触させてから出力をおこなう。
(解説)
電気メスの高周波は、メス先が生体に接触していない時に電気メスによる術者等の熱傷・電撃事故を防止するためには以下のことを遵守する。
@手術野を別の手で直接保持することを避ける。もし、保持しなければならない時は、乾燥したガーゼを重ねるか、ゴム手袋を2重にして保持する
A鑷子に電気メスのメス先電極を接触させ出力する際、術者は助手の鑷子が手術野の組織を把持していることを確認する:メス先電極を鑷子に確実に接触させてから出力する事
B電気メス出力中に把持した鑷子を組織から離すことも高周波分流を増加させる
C鑷子は、手と接触面積が広くなるようにしっかりと保持する
D鑷子や吸引嘴管を使いながら電気メスの凝固作用を得るためには、専用のバイポーラ式鑷子、吸引嘴管を使うことが望ましい
1-3。可燃性のガスや液体のある環境下において、電気メスを使用することは原則として禁止する。
(解説)
可燃性のガスや液体のある環境下で電気メスを使用する場合には、引火・爆発防止のため以下の注意を遵守する。
@患者の皮膚消毒に可燃性のアルコール製剤などを塗付した際、乾燥する以前の電気メスの使用を禁止する。植皮などにアルコール製剤を使用する場合、その使用中は電気メスを誤って使用しないように電気メスの電源を切るなどの対策が必要である
A麻酔ガスは基本的に支燃性が高く、特に小児などのカフなし挿管チューブを使用している症例では口腔付近の引火の可能性は高くなっている。ゆえに、小児の気管切開などの手術で電気メスを使用する場合には充分な注意と監視をする必要がある
B消化器外科では、腸内ガス残留により引火しない工夫や手術室の換気を充分に行うなどの対策が必要となる
1-4。生体組織の焼灼時に発生する煙霧の毒性を考慮し、患者と手術スタッフが手術中に発生する煙を吸入しないように、排煙システムで屋外に強制的に排気することが望ましい。
(解説)
電気メスの切開・凝固により、手術野から発生する煙霧は、人体に有害な窒素酸化物を含むため、患者や手術スタッフが煙霧を直接吸うことは望ましい事ではない。また、感染疾患患者の煙霧内にウイルスのDNAの存在の危険性も指摘されているが、感染の危険性については、針刺し切創などの血液感染と比べて感染の確率は極めて低いと考えられる。
2.各種レーザーを使用する際には、目の損傷、皮膚熱傷および引火の危険性があるため、充分な注意と監視を行わなければならない。
(解説)
各種レーザーを使用する際には、危険防止のために以下のことに注意する。
@レーザーの使用者および立会い者は、レーザー光から目を保護するため、防護メガネをかける。CO2レーザーでは、ガラスのレンズのメガネでよいが、Nd-YAGレーザー、Ar(アルゴン)レーザーなどは専用(各波長対応)の防護メガネが必要である
Aチューブ、ガーゼ、不織布などの可燃物にレーザー光を照射しない
Bレーザー光の反射を防止するため、手術野で使用する器具は黒色コーティングを施したものか、プラスチック製のものを使用する。もし、黒色コーティングを施した器具がない場合は、器具を生理食塩水を含ませたガーゼで覆って使用する
C可燃性ガスや引火性の高いアルコール製剤を使う際には、電気メスによる引火・爆発の対応と同様の注意を行う:酸素は支燃性が高いのは言うまでもないが、酸素濃度が25%程度でもその支燃性の強さはさほど降下しない。ゆえに、気管支などで焼灼術などを行う際には、焼灼する間だけでも空気換気に切り替えることが望ましい
D生体組織の焼灼時に発生する煙霧は健康を害するので、専用の吸引装置で屋外に強制排気を行う。
3.超音波メスは、低温で組織を凝固、止血、切離することができ、組織へのダメージが少ないという特性を持つが、水分の多い組織および血液や洗浄液があるところでは、ミストやしぶきが大量にでて視野を妨げることがあり、また、電気メスに比べ作業に時間がかかるので、超音波メスの特性を充分に理解した上での使用が望ましい。
(解説)
超音波メスは、50〜70kHz程度の超音波振動を利用して、血管やリンパなどの剥離などに多く使用される。低温で組織を凝固、止血、切離することができ、組織へのダメージが少ないという特性から使用が増加している。超音波メスを使用することにより発生するミストは、多少なりともウイルスを含んでいる可能性もあるため、吸引などを効果的に使用してミストの飛散を抑える事も考慮する。
4.内視鏡手術
4-1。内視鏡カメラと接続するテレビモニタや記録装置は、ME機器の使用に適合しているものを使用する。
(解説)
内視鏡のテレビモニタや記録装置には、価格の安い民生機器が使用される場合もあるが、これらを使用する際にはフローティング等の漏れ電流対策を行わなければならない。
4-2。内視鏡下にて電気メスを使用する際、電気メスのシャフトが視野の範囲外で他臓器と接触している可能性があるため、焼灼部位に確実にメス先電極を接触させてから出力することが望ましい。
(解説)
内視鏡用の電気メスは、シャフト部が絶縁加工されているが、メス先電極部を焼灼部位に接触させないで出力させると、シャフトの他臓器と接触している部分から高周波分流による熱傷が発生することがある。
4-3。内視鏡カメラのケーブルと電気メスのケーブルを同じ場所に固定しない。
(解説)
内視鏡カメラのケーブルと電気メスのケーブルを同じ場所に固定すると、電気メスの高周波が内視鏡カメラケーブルに干渉、内視鏡モニターにノイズが混入し視野が悪くなるので、これらのケーブルは離して固定する。
4-4。内視鏡下でアルゴンビームコアギュレータを使用する場合は、腹腔内圧の上昇に充分注意する。
(解説)
内視鏡下でアルゴンビームコアギュレータを使用する場合、アルゴンガスにより腹腔内圧が異常に上昇し、気道内圧上昇、血圧低下などの合併症を引き起こすことがある。
4-5。内視鏡ファイバーの先端は、導出される光の熱により高熱を発するため使用していない時の取扱いには充分注意する。
(解説)
内視鏡用の光源からファイバーにより導出される光の熱により、手術野の乾燥・熱傷やリネン類の燃焼が発生することがあるので、使用時以外のファイバーの先端の取扱いに注意が必要で、光源をoffにしておくなどの配慮が必要となる。
5.患者加温装置(温水マットや温風加温装置)は、温度変化やマットの硬さで低温熱傷や褥瘡が発生することがあるので、使用中は患者の状態の把握に努め、装置の状態も常に監視する。
(解説)
手術中の患者の体温管理は重要であり、温水マットや温風加温装置が使用されているが、次の点に注意する。
@温水マットの温度設定を手動モードで切り替える時は、短時間に大きな温度幅で上昇・下降させることは避ける
A規格の異なる温度プローブを使用すると、正しく体温検出が行えず、自動モードで異常な温度制御となることがあるので指定された温度プローブを使用する
Bブランケットの水の循環および温度設定は、患者入室前から行う方が患者の体温維持に有効である
C末梢循環の悪い患者に温水マットを長時間使用する場合、低温熱傷や、マットの硬さによっては褥瘡が生じる危険性(特に仙骨部)が増すので、温水マットの上にフローテーションマットやスポンジ・ボア素材のシートなど、除圧に有効な材料を使用する事が望ましい
D温風加温装置を使用する際、ホースの向きによっては患者の体に直接温風があたり低温熱傷が生じることがあるので、使用中はホースの固定場所を定期的に確認する事が望ましい
6.除細動器は、手術中の心停止、心室細動の除去に不可欠であり、定期的な保守・管理を行い、常に使用できるようにしておかなければならない。
(解説)
除細動器(defibrillator)は、定期的な保守・管理によるバッテリーや出力エネルギーの確認は必須となる。除細動器の点検時にバッテリーの劣化が確認された場合には交換を、出力エネルギーの低下がある場合には、その原因が本体によるものか、パドルによるものなのかを特定し、場合によりメーカーに修理依頼をするなど、常に使用できる状態にしておく。
また、心臓外科手術におけるカルディオバージョン(cardioversion)には滅菌した内部パドル(心筋に直接接触させるため、体外用パドルに換えて使うヘラ状の金属パドル)を使用するが、内部パドルのケーブル断線やコネクターの接続不良があると出力しない事があるため、内部パドルに対しても定期的な出力エネルギーテストを実施する事が望ましい。
7.麻酔器の突発的なトラブルは患者の生命に関わるので、日常的および定期的な保守・管理を行いその性能、精度を維持する。
(解説)
麻酔器は、手術患者の疼痛および呼吸を管理し、手術を行うためには不可欠なME機器である。麻酔器には、レスピレータ並みの精密換気のできる機種もあり、突発的なトラブルは患者の生命に関わるので次のことに注意する。
@使用前には、必ず使用者が麻酔器の始業点検を行い、作動に異常がないか確認する
A施設配管からの酸素供給停止などの事故に備え、麻酔器には必ず酸素ボンベを設置しておく
B差圧トランスデューサを使用して換気量や気道内圧を測定している麻酔器は、この部分に漏れがあると機械換気に切り替えた時に適切な換気量が得られないことがあるので充分注意を要する
C麻酔器の急なトラブルに対応するために、アンビュバッグなど換気補助のできる用具を備え付けておくことが望ましい
D専門スタッフによる定期点検を計画的に行い、消耗品の交換やバッテリーレベルの確認など、常に性能維持に努める
8.ME機器は、取扱い上の注意事項を遵守することで大方の事故は防ぐ事ができるが、常に適切な状態で使用するために、臨床工学技士が6ヵ月〜1年に1回の割合で点検する。
(解説)
ME機器のほぼ全体に共通する点検項目は、JIS T1001「医用電気機器の安全通則」に規定されており、以下に示すものを臨床工学技士が計画的に点検する必要がある。
@正常状態および単一故障状態における各種漏れ電流の測定
A保護接地線(アース)の抵抗値の測定
B基本的性能の確認
C安全機構の作動確認:医師の試用などで借用して使用するME機器も、手術室に持ち込む際には同様の点検をすることが望ましい。
9.手術室設備は、電気主任技術者(部分的に臨床工学技士が代行)が1回/年の割合で点検する。
(解説)
手術室設備として点検すべき項目は、JIS T1022「病院電気設備の安全基準」に規定されており、以下に示すものを電気主任技術者(部分的に臨床工学技士が代行)が計画的に点検する必要がある。
@コンセントの点検(目視点検、保持力点検、電源電圧の測定)
Aアイソレーションモニタの点検(ただし、フローティング電源の場合)
B接地端子の点検(目視点検、接地端子間の抵抗10Ω以下)
C等電位接地(EPRシステム)設備の点検
D無停電電源装置および自家発電装置の点検
10.手術室で使用するME機器の購入は、診療科が要求する機能条件を満たし、安全性や操作性に問題がないことを充分考慮した上で、機種統一することが望ましい。
(解説)
手術室で使用するME機器は、同じ目的のME機器を、異なった複数の機種にすることも教育研究面から必要な場合もあるが、誤操作の防止、付属品(アダプター、各種ケーブルなど)の形状互換、故障時の迅速な機器交換やメンテナンス性など、手術室での運用を考えると、できるだけ同じ機種にそろえることが望ましい。
また、ME機器の廃棄や更新も、各ME機器の耐用年数をもとに、故障頻度の増加や機器の性能や安全性が基準を満たさなくなった場合や、修理するより購入する方が安価な場合などを考慮してできるだけ計画的に実施する。
V.医療用ガスと吸引
1.医用ガスが常に安定した状態で使用できるように、高度の安全基準を確保し、供給失調・途絶の危険を適切に知らせる警報装置の完備、および万一に備えた予備供給設備の保有などを慎重に考慮しなければならない。
(解説)
医療ガスは、治療などの各種用途に非常に有効に利用されており、今や病院に不可欠なものである。反面、ガスの固有の性質である毒性・支燃性や、圧縮エネルギーなどにより、設備に不備があったり、取扱いを誤ると、患者の生命に危険を及ぼしたり、火災や爆発事故を引き起こす可能性を秘めている。設備の設計から日常の保守点検にわたり、また、取扱いには充分な配慮が要求される。
2.各医療ガスの供給圧は、酸素および亜酸化窒素、治療用空気、二酸化炭素の標準圧力は392±49kPa、駆動用窒素では736±147kPa、駆動用空気では883±294kPaを、また、吸引の標準圧力は水封式で-53.3±13.3kPa、油回転式で-66.7±13.3kPaを維持する。
(解説)
JIS T7101「医療ガス配管設備」に規定されている医療ガスの種類には、酸素・亜酸化窒素・治療用空気・吸引・二酸化炭素・手術器械駆動用窒素・手術器械駆動用空気がある。特に、酸素・亜酸化窒素・窒素は、日本薬局方にて規制され医薬品に該当し、供給圧は日本工業規格として一定圧で供給されるように指定されている。
3.マニフォールド(供給源装置)は、はじめに供給されていたバンクのガスがなくなると、自動的にもう一方の供給バンクに切り替わってガスの供給を行い、この過程で圧力検出器にて空のバンクを検出し、補充警報でボンベの交換を知らせるシステムであること。
(解説)
病院での医療ガスは一般に中央配管システムによる集中管理方式が採用され、マニフォールド室は手術部外に設置されることが多い。
医療ガスの設置方法は、高圧ガス容器を第一供給装置と第二供給装置の左右のバンクに分け、その中央に自動切換機を設け、調整器の調整圧力の高いバンクから消費される。
※マニフォールドのボンベの固定は1本ずつ鎖にて転倒しないように固定すること。
4.送気管(配管)は、設置時にはアウトレットの栓を開放し最大流量を放出したときの圧力低下を調査しておく。
(解説)
各種ガスの配管径はアウトレットの総数、使用率、予想される使用流量、配管長による圧力損失を考慮して決められる。そのため、設置時にはアウトレットの栓を開放し最大流量を放出したときの圧力低下を調査しておく。また、配管内の残留異物や配管自体の腐食・破損に注意する。一般に安全のために配管材料の色分けが行われているので確認しておく。
5.手術室の廊下などの壁面に取り付けられているシャットオフバルブは、非常時にはカバーを開けて操作できることを確認しておくこと。
(解説)
ガス設備の点検時や非常時に供給を止めるために、区域ごとに取り付けられている。基本的には専任の職員が操作するもので、誰でもが操作できないようにカバーを設け、カバーには制御する区域を表示してある。
6.アウトレット(配管端末器)は、医療ガスの誤使用を防ぐために、アウトレット本体のピン穴の数と配列角度をガス別に定め、これに対応するアダプタープラグのピンを取り付け、物理的な非互換性を持たせたピンインデックス安全方式を使用する。
(解説)
医療ガスの誤使用を防ぐために、ピンインデックス安全方式の使用の他にも、名称を明記し、さらに色分けをするなどして使用する。壁面に取り付けたアウトレットは、左から酸素、亜酸化窒素、空気、吸引の順でそれぞれ緑、青、黄、黒などが使用されているので確認しておく。(アウトレットの色等はJIS T 7101により規定されている)その他に、天井吊り下げ型フレキシブル・アウトレット(ホースアセンブリ)や天井懸垂型アウトレットとしてシーリングコラムやシーリングアームに電源コンセントと共に取り付けられたアウトレットがある。
機器の動力用窒素ガスは、送気圧力が調整できるように圧力調整器付アウトレットが設置されることが多い。使用時には、常にアウトレット部の漏れを確認する。
7.空気は、空気圧縮機(コンプレッサーシステム)にて作成されることが多く、CO 5ppm以下、CO2 1,000ppm以下で作成され、0.3μm以上のバクテリアフィルタを用い浮遊細菌数が1CFU/ft3以下となる品質保証を確認する。
(解説)
空気圧縮機(コンプレッサーシステム)にて作成された空気は、一般に結露を防ぐために除湿し、空気中の油、水分、0.5μm以上の塵埃を捕捉するエアフィルタを通し、CO 5ppm以下、CO2 1,000ppm以下の空気として作成し、その下流には0.3μm以上の微粒子や雑菌を捕捉するバクテリアフィルタを用い浮遊細菌数を1 CFU/ft3以下にすべきである。
空気圧縮機では油脂、酸化物、細菌、または空気汚染などがあることから、液体酸素と液体窒素を蒸発器で気化させ、混合機で適正な濃度にして供給する合成空気が使用されることがある。
8.吸引使用時には、排液の吸い込みに注意することが重要であり、吸引アウトレットとの間には充分な容量の容器を接続して、かつ吸引量を常に監視しなければならない。
(解説)
吸引のアウトレットから排液を吸い込んでしまうと、吸引圧力の低下、配管の腐食、吸引ポンプの故障などを引き起こす可能性が高いため、排液を吸い込まないような対策が必要とされる。
9.万一の医療ガスの供給停止に備え、手術部内には常に非常供給システム(酸素ボンベ等)を準備しておく。
(解説)
非常供給システムは小さなボンベ(酸素では500L、または1,500Lのボンベ)で個々の患者に対応することが多い。使用済み容器を区別して、常に必要と考えられるボンベ数を決められた位置に確保しておく。
10.医療ガス配管設備の保守管理は、医療法により定期点検を3ヶ月、6ヶ月、12ヶ月ごとにするように指導通知が出されており、作成された書類は責任者の署名をして2年間保存されねばならない。
(解説)
医療ガス配管設備は、医療法の定め「診療の用に供するガスに関する構造設備については、危害防止上必要な措置を講ずること」を法的根拠に医療施設内に「医療ガス安全・管理委員会」を設置することが規定されている。定期点検は3ヶ月、6ヶ月、12ヶ月ごとにするように指導通知が出されるが、点検期間は施設の状況に応じて行ってもよいとされている。作成された書類は責任者の署名をして2年間保存されねばならない。
なお、医療ガスでの問題は、供給ガスの消失、ガス供給室での操作が不適切、供給室の機器故障、供給路のパイプラインの狭窄・閉塞・漏れ、工事での誤接続などがあるが、特に誤接続では死亡例が多く報告されているので、修理後の点検には特に注意すること。
11.日常点検は、ガス圧の目視、漏れや機器の異常音に注意し、特にアウトレットのパッキンは使用頻度が高いため自然磨耗しやすいので注意する。使用時には、接続した機器が正常に作動していることを確かめなければならない。
(解説)
圧力監視盤、またはガス供給源監視盤が手術室内にも設置されているので、供給圧力が充分であるかを常に監視する。マニフォールドでは、圧力調整器が重要であり、一次側圧力計と送気圧力計が規定値を示しているか、またガス残量を確認する。緊急時の処置方法と緊急連絡先を明記し、万一に備えての予備供給、および非常供給の設備の点検もしておく。電話回線にて院外監視も併用されることがあるので確認しておく。気密試験、純度測定、圧力計での指針値とガス流量などの定期点検は、施設外の業者に委託する施設が多い。
一般的な点検として、ガスごとの特定接続具の使用、ガス名の表示、警報装置、ボンベ塗装の剥離や腐食の有無、清潔の維持、消火設備の有無などを確認する。
参考文献
1)日本規格協会:JIS T 1001「医用電気機器の安全通則」東京:日本規格協会 1992
2)日本規格協会:JIS T 0601「医用電気システムの安全要求事項」東京:日本規格協会1999
3)日本規格協会:JIS T 1022「病院電気設備の安全基準」東京:日本規格協会2006
4)日本規格協会:JIS T 7101「医療ガス配管設備」東京:日本規格協会2006
5)酒井順哉:手術室の実践マニュアル U.手術室におけるME機器・電気設備の安全対策(案) 手術医学1998;Vol.19(1):153-158
6)中田清三、中谷 博:手術室の実践マニュアル V.手術室建築設備(案) 手術医学1998;Vol.19(3):387-394