小野寺五典防衛相が中国機の領空侵犯が続けば警告射撃する方針を表明したと朝日新聞が報じたことに対し、ネット上で、「誤報ではないか」との指摘が相次いでいる。中国でもこの内容の報道が波紋を広げており、防衛相はテレビで「記事の内容は違う」として抗議したことを明らかにした。
朝日の記事は、小野寺防衛相が2013年1月15日の会見で発言したことを伝えたものだ。
記事では、「尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺の領空で中国機が無線などによる警告を無視して領空侵犯を続けた場合、警告のため曳光(えいこう)弾で信号射撃をする方針を表明した」とあり、それは、「領空侵犯への対処手順を示し、中国側を牽制する狙い」と報じている。続けて、小野寺防衛相は、「国際的な基準に合わせ間違いない対応を備えている」と発言したと伝えた。
これに対し、マスコミ報道を検証するサイト「Gohoo」がこの日、防衛省サイトにアップされた会見概要と突き合わせ、こうした方針の発言はなかったと指摘した。報道は誤解される恐れがあり、実際、朝日の中国語版でも報じられて、中国で「大臣の発言」だとして大きな波紋を呼んでいるとした。中国では、「環球時報」といった大手メディアも報道を紹介していた。
この騒ぎに驚いたのか、警告射撃について防衛相に質問した台湾メディアの記者は、朝日の報道は間違っているとミニブログに書き込んだ。「国際的な基準に合わせ間違いない対応を備えている」という発言はしているものの、防衛相は射撃方針を明言してはいなかったというのだ。
中国国内では、日中開戦すら臭わす人民解放軍幹部らの強硬な発言が相次いでいると報じられている。さらに強硬論に火が点くのを中国政府が恐れたのか、共産党機関紙のサイト「人民網」は16日、台湾メディア記者の書き込みを紹介して、朝日が誤って伝えていると異例の記事を載せた。
確かに、防衛省の会見概要を見ると、小野寺防衛相が射撃方針を示したということは一言も書かれていない。
過去には、1987年に旧ソ連の偵察機が領空侵犯をしたとき、自衛隊機が警告射撃したことはあり、朝日新聞も記事の中でそのことに触れている。しかし、だからと言って、今回も射撃するとは限らないのではないかと、ネット上で疑問が相次いでいるのだ。
軍事問題などを書いているブログ「週刊オブイェクト」は、旧ソ連のケースでは、偵察機が沖縄本島の自衛隊・米軍基地上空を通過し、米軍機も上空待機していたことから、特殊な状況にあったと指摘した。今回、中国機が尖閣上空を何度か通過したとしても、同じように警告射撃されるとは解釈できないというわけだ。
小野寺五典防衛相は2013年1月17日にBSフジ・プライムニュースに出演し、再び警告射撃について問われ、「一言も言っていません」とした。そして、書いた新聞に対してこの日、「記事の内容は少し違うんではないですか」と抗議したことを明らかにした。防衛省の報道担当者は、取材に対し、抗議のことは聞いていないとしながらも、「新聞社が解釈して書いていましたが、射撃方針まで言っていなかったと思います」と言っている。
朝日新聞社の広報部では、防衛相が領空侵犯にしっかり対応する方針は変わっていないと会見で述べたことに触れ、「防衛相がこのように説明した『対応』『方針』の中身を読者にわかりやすく伝えるため」と報道について釈明した。そして、無線連絡をしたり機体を振って伝えたりしても従わない場合に警告射撃すると、「自衛隊法に基づく防衛省の対応の手順を記事中に明記しました」と言っている。
サイト上の記事では、見出しが防衛相のカギカッコ付き発言だったのを、カギカッコを取って「防衛相方針」と後に変えている。これは、異論が寄せられるなどしたため、急きょ訂正したのか。この点については、広報部では、何も説明しなかった。
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