「それなら、姉さんも…忘れるわ……今日のことはなかったこと…それでいいわね」

姉さんの言葉に、ほっと胸を撫で下ろす。
それと同時に、自分がいかに愚かだったかを思いしらされた。

姉さんを今のまま幸せにすることはできない…一時の感情で流されて、一線を越えても、二人とも苦しいだけだ。
自分がベストの選択をしたからと言って、それが最善の方法だと限らない。誰でも過ちを繰り返す…でも、正すこともできる。

姉さんの一言がなければ、俺は堕ちるところまで堕ちていただろう。
自分の行動に自身を持て、としあき!少なくとも姉さんを悲しみの道から救ったんだ。

「としくん、背中流してあげる…姉さんと一緒にお風呂に入ろう」

ペロッと舌を出してはにかむ姉さん。
そうだ、これでいいんだ。こんな笑顔を曇らせるようなこと、オレにはできない。


…………


「としくん、さ、起きなさい。もう夕方よ」

姉さんの声で目覚める。
あぁ、もうこんな時間だ…早朝の新聞配達とビルの清掃…終わって帰ってきて仮眠を、と思ったらこんな時間だ。

あれ以来、あの日のことは口に出していない。姉さんと俺だけの秘密。

あの時、姉さんにぶつけそうになったオレの気持ちは墓の中に持っていく。
来世というものがあるのなら、そこで一緒になりたい…でも、ダメなら、また姉弟になりたい。

姉さんは春に結婚を迎える。町内会の副会長さん──俺も認めるナイスガイだ──の熱烈なラブコールを受けて…だ。
幼馴染でもあった副会長さん…みんながうらやむカップルだ。

「姉さん…おめでとう…俺、あの時、思いとどまってよかった……」

夕飯の支度をする姉さんの後姿を見ながら呟く。

あのとき、姉さんを押し倒していたら別の人生があった…でも、それは姉さんを壊してしまっていたと思う。
姉さんが幸せじゃない…そんなことは考えたくもない。

「とーしーくーん。今日はおでんだよ」

ニコニコと振り返る姉さんに俺は静かに微笑んだ。

END