大村拓生雑記録

日本中世史研究者・大学教育従事者として日常の備忘録のようなもの

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小熊英二編著『平成史』

4日から書き出す予定の原稿が一行しか進まないまま、本日6限から外仕事の始まり。そういうわけで電車読書も再開し、本年の日本通史は70年代・人類史は90年代初めまでだが、次年度以後のことを考えて購入・読了したものhttp://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309624501/。総説・国際環境とナショナリズムを編者が、政治・地方と中央・社会保障・教育・情報化を71年から80年までに生まれた若手研究者が分担執筆したもの。そのなかで東大准教授が執筆した政治だけはどうしようもなくひどく、小選挙区制の現状分析すらできていない(選挙区が議員の所有物になっているのが300のうちどれだけあるというのか、日本の政治家の質が悪いのは政治学者の質の悪さが原因ではないか、北大Yが典型的だが借り物の理論を振り回せば事足りると思っているようだ)。それ以外の部分については、ポスト工業化社会という世界史的動向と70年代に完成する企業社会という特殊日本社会の状況を踏まえて、何が変わりどのような問題点が助長されていったのかが示されていて勉強になった。とりわけ欧米で行われる社会保障によるキャリアアップが欠如しているため、日本社会は移民ではなく若者と女性に低賃金労働が押しつけられているという見方は大変興味深い。編者の電話帳的著作は未読だが全体の構図を描く力量は確かなようで、そこから言葉を紹介しておく。p82「『平成』とは、一九七五年前後に確立した日本型工業社会が機能不全になるなかで、状況認識と価値観の転換を拒み、問題の『先延ばし』のために補助金と努力を費やしてきた時代であった」・p464「ある国が、自国が最盛期だった時代を忘れられず、その時代の構造からの変化に目をつぶってきた歴史」。まさにその通りなのだろうが、そのなかで過去の日本社会を探究する意味を考えなければならない。

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