村宮白帆
-Unreasonableness-

 あの日は…いつものように皆斗の家に行くと、この時間いつもベッドで寝そべっている弟の姿は無かった。

 時間は朝の10時。相変わらず私が朝起こしているんだけど、今日は珍しく皆斗の姿が無かった。ちょっとした肩透かし。誰もいない皆斗の部屋はまだ右手でも余るくらいしか見たことない気がする。

 「そうだよね、いっつも2人。」

 今まで溜め込んでいた鬱憤を晴らすように私は皆斗を求めていた。毎日皆斗の家を訪れ、キスをしてシャワーを浴びてセックスをする。もうそれしか考えられないくらい私はあの子にのめりこんでいた。あの子に何かをしてやればしてやるほど、私は満たされていった。不思議な感覚だった。誰かのために何かをして、それが体だけじゃない見えない快楽に変わるメカニズムなんて私では言葉になんかできやしない。誰かの手伝いをして「ありがとう」と喜んでもらえるのが嬉しい、と美汐は言っていたけどそれに近いものなのかもしれない。

 さて、今日も軽く一仕事を終えた(灰皿の掃除)わけだけども。

 あの子は帰ってこなかった。 

 「…」

 書き置きもなし、私の携帯にメールも無し。先に起きて朝ごはんでも買いに外へ、少し遠くに出たのかもしれない。私は先にシャワーを浴びて待っていることにした。

 たっぷり時間をかけて体の隅々まで洗った風呂上り。皆斗の寝室でバスタオルを巻きつけて佇んでいる私がいた。

 いつもならそこにあの子がいて、まだ水気の残っている体のままキスをするのに、今日は唇が乾きはじめていた。

 手持ち無沙汰の時間が過ぎる。そのままの格好でベッドでヤニを吸っていると自分が商売女みたいな気がしてきて、とりあえず服を着た。あの子の枕を抱きながら、天井を眺めた。今日は何をしよう。服を着たままするのがあの子好きみたいだから、今日もしても良いかもしれない。皆斗のことを考えて、あの子の匂いがする枕に顔を埋めると、それだけで体の奥が熱くなっていく。柄にもなく胸が鳴って頭の中がぼんやりしてきた。まだまだ、我慢しないといけない。

 少し甘い香りのする地獄の時が過ぎていく。

 だけどどう考えてもおかしいな、と思ったのはもうすぐ1時間がたとうとしていた時だった。食事を買いに出たにしては少し遅すぎる。近所のコンビにまでは歩いて十分くらいだし、スーパーだって同じくらいの距離だ。

 立ち読みでもしてるんだろうか。でもあの子の買ってる雑誌は発売日まだだし。

 …どうしたんだろ。少し心配になった私は電話してみることにした。

 「…ばか」

 着信音は、部屋の机の上から聞こえてきた。皆斗は携帯を忘れていたのだった。

 「何してんだよ…」

 すっかり気分は意気消沈していた。自分のことをすっかり忘れて、もしかして遊びにでも行ってしまったのかと思うと腹が立ってくる。

 「そんなことないよな…」

 きっと、友達とかに出くわして話し込んでいるんだろう。暇な大学生なら今日みたいな平日だって充分あることだ。それくらい、許してやらないと…これから続くわけないよ。ちょっとくらい融通きかせないと。守ってやるって言ったんだから、私から好きだって言ったんだから。

 だけどさらに1時間がたってもあの子が帰ってこないと、段々気分が落ち着かなくなっていた。あの子のストックから拝借したヤニも灰皿に積もって山になっていた。これから友達と昼食モードに突入か?苛々が募り始めるとともに事故かもしれないという、凄いありきたりだけど充分考えられる不穏な場面が頭をよぎった。あ、でも誘拐はないだろうな。

 「勘弁してよ…」

 今ごろ顔に布でもかかってたら、きっと泣いても泣き尽くせないだろう。あの子の死体を抱えて人気の無い岬から海に飛び降りることまで考えてしまって、少し自己嫌悪。私は、悲劇のヒロインか。

 「早く帰ってこいよー」

 私が焦がれて焦がれて焦げてしまいそうになっていて

 それから皆斗が帰ってきたのは二時間も後のことだった。

 なんだかぼんやりしたような、まだ寝ているような、少し気だるそうな顔であの子は

 「遅くなってごめん」

 と、通学に使っている鞄を居間に放り投げてシャワーを浴びにいった。腰にタオルを巻いたまま、ベッドでじっと私を見つめる皆斗の目は、本当にすまなそうな色をしていたと思う。でも口は堅かった。大学に行く格好でどこへ行ってたんだろう。

 初めは私も心配した口調だった気がする。でも何を聞いても答えてくれない皆斗に段々苛々してきて困らせてやろうと思った私は、キスをした。この言葉は弱虫な皆斗には酷かもしれないけど、1度言ってみたかったんだ。私を待たせた罰。と、いうことで私は皆斗の首に両手を絡ませてこう言った。

 「生理がこなくなっちゃった」

 「え」

 まさに顔面蒼白。唇が震えだして皆斗は立っていられなくなっていた。やりすぎた。涙が出るくらい怯えた皆斗をなだめるのに精一杯で、その日は何もできなかった。

 悪いな、と思った。

 だけど、それは五分五分だった。家に帰った私は酷く打ちのめされることになる。

 美汐が皆斗の家から帰ってきた。あの日から美汐はあの子の家に夕飯を作りに行っている。お世話になったから恩返しとか言ってたけど、よく続くなと思う。1日2回も夕飯なんか作って飽きないのかな。ちょっと嫉妬しているんだろうな。私は料理はできないから。

 とりあえず美汐ちゃんはその日は嬉しそうに帰ってきたんだ。

 「ねぇ、これ見てお姉ちゃん」

 見たことない新しいエプロンを嬉しそうに美汐は披露してくれた。

 「お兄ちゃんがプレゼントしてくれたの」

 呆然とした。

 付き合ってまだ少ししかたってないけど、自分よりも先に妹にプレゼントをあげているのだ。誕生日でもない、記念日でもないなんでもない普通の日に皆斗は美汐にエプロンを贈ったのだ。

 「ぼーっとしてた…可愛いじゃん」

 辻褄があった。皆斗はこのカワイイエプロンを買うために私を置いていったのだ。

 そして、それを私に語ろうとしなかったということは…?

 いつも世話になってるから、美汐にプレゼントを買いにいってた。

 せめて教えてくれたら少しは私の気も落ち着いていられただろう。怒りはぶつけたかもしれないけど、あそこまで追い詰めたりもしなかったのに…

 気が気じゃなかった。恐ろしい反撃だと思った。今度は私が泣きそうになった。美汐がいるのについ居間でヤニをふかしていた。激しく不味いヤニがどうにか涙を抑えてくれる。料理を運ぶあの背中に、自分の胸に刻んでもらった皆斗の証がついているんじゃないかとさえ思うようになっていた。

 私がおかしいんだ、美汐は普通なんだ。そんなことは、そんなことは無い。気付いたら私は締め切った部屋で独りベッドで泣いていた。

 隣の部屋で美汐がエプロンのお礼を言ったまま長電話をしている。

 手元には最近また鳴らなくなった携帯。

 そんなにアイツが好きかお前は。



 次の日。

 「…入れよ」

 憔悴しきった顔の皆斗の出迎えで、私は部屋にはいった。部屋に入るなり、強引に皆斗の唇を奪う。

 されるがままの皆斗は、目をつむって私の舌を受け入れて優しく迎えてくれた。回される腕、背中まで暖かい。いつもの光景。だけど、今日は少し違っていた。

 「姉貴…」

 皆斗が怯えた声を上げるのも無理はない。多分私は怒った顔をしているからだ。キミに会えて嬉しいけど、嬉しい分今日はむしょうに腹がたってめちゃくちゃにしてやりたい気分だった。

 「みなとぉ?」

 思いのほか出てくる自分でも驚く猫なで声。

 「私のコト、好きか?」

 「…」

 なんだよ、その間は。

 「…嫌いだったら、こんなことしねぇよ姉貴」

 眉毛を真ん中に寄せて、自分の額に手を。

 困ったフリが様になってるじゃない。

 「じゃぁ美汐とどっちが好きだ?」

 「…何言ってんだよ…比べるなよ」

 どうしてそこで目を反らす?それが私に完璧に火をつけた。

 「あんたは美汐のコトが好きなんだ」

 「はぁ??」

 「愛してるんだろ、犯したいんだろ…」

 釈然としないと言った感じの皆斗の面を見てるだけで、怒りはさらに上昇していく。持ってきた荷物を私は皆斗にたたきつけた。何言ってるんだ…とぶつぶつ呟きながら皆斗が荷物の中身を見る…

 「これ…」

 「あんたが好きな、美汐の服だよ、喜びなよ下着も服も朝脱いだばかりの新鮮なヤツだぞ」

 美汐のショーツを見て嬉しくて声も上げられない皆斗をそのままに、私は自分の服を脱ぎながら皆斗の洋服ダンスをあさった。トランクス、ジーンズ、シャツ…色合いとか関係無い、目に付いたものを身につける。

 「ちょっと、おい?!」

 「早くそれを着な。靴下からショーツにブラに髪留めまで、早く。早くしなよ」

 「ば、馬鹿言ってんじゃねぇよ!なんで、俺が美汐の服…ってか…姉貴どうしたんだよ、何怒ってんだ!?」

 「怒る?」

 そっちが愛を誓っておいて。

 「コレ」

 私は鈍臭くおろおろしている皆斗に今度はそれを叩きつける。

 水色の、エプロンだった布はぼろぼろで、皆斗がそれだと判断するまで黙ってやっていた。

 「姉貴っ、これ…!?」

 「それを美汐に見せられたくなかったら、早く着るんだね。あぁ、履く前に匂いかがせてやろうか、美汐のパンツ」

 「こんなボロボロのを…見せるって…」

 そうだよ、そしたらあんたが守りたかった何もかもが終わるんだ。

 「どうするの、着るの、着ないの」

 「姉貴…最低だ…」

 「先に裏切ったのはどっちだよ。」

 「裏切ったって…俺が何したんだよ」

 肩幅のある皆斗のシャツ、私は好きだった。今それに身を包んでベッドに足を組んで座り大好きな人間が苦しむさまを見て、どうしようもない快感を感じていた。怒りがこんなに気持ち良いとは思わず、私は皆斗に攻撃を続けた。

 「さぁ、どうするんだぃ。なんなら今電話してあの子呼びつけてもいいんだよ。あんたが倒れたって聞いたら学校なんか休んですぐ飛んでくるよ。そうしたら洗いざらいぶちまけてやるよ私達の関係を」

 昨日の生理の話と同じ、いやもっと顔を真っ青にして長い時間をかけて皆斗は服を脱ぎだした。全裸になり、まじまじと美汐の薄い青色をしたショーツを見つめている。私は声をかけないで、その反応を楽しんだ。洗濯カゴから出してきたというのは、薄い黄色い染みが物語っている。かいだらきっとあの子は射精しちまうんじゃないかと思う。

 皆斗のが勃起を始めた。実の妹のショーツを見て反応しているのか…違うな、あの子は嬲られて感じるタイプだ。本人は完全否定していたがあの子はMだ。ちらりと私を見る目が尻尾を股間に隠した犬だった。

 許さない、とばかりに私は微笑む。その目だけでイってしまいそうだった。皆斗のトランクスに意思があるなら、滅多に普段汚れない股布がべたべたになって驚いているだろう。

 皆斗は観念したのか、ショーツを足に通した。右足、左足。足首はともかく皆斗も平均的男性の肉付きをしているので、股間まで吊り上げたショーツは小さくてピンピンに張っていた。可愛らしいパステルブルーからグロテスクな肉の棒が入りきらずに上から反り出ているのが滑稽だ。

 ブラは小さすぎてつけることはできなかったが、無理に着込んだ部屋着のキュロットとシャツに身を包んだ可愛い皆斗ができあがる。

 「今からあんたは美汐だ…そして私は?」

 「姉貴…なぁ、やめよ…」

 「エプロン」

 「……ありえねぇ…」

 私は皆斗を押し倒した。ベッドになんかじゃない、汚れたテーブルの上にだ。ばらばらと雑誌や灰皿がカーペットの上に落ちていく。

 「あんたの代わりに私が美汐を犯してやるよ…」

 「…あねき、頼むよ…やめてくれ…」

 「お兄ちゃんだ、美汐」

 顔中でぼろぼろに泣いて、美汐は私の腕の中でもがいている。やめて、やめてと呟く唇を吸った。唇に軽く噛み付いて血の味を楽しんだ。それが益々私を興奮させる。

 もうもがくことをやめてぐったりしている、美汐の胸をまさぐる。

 「うっ…姉貴ぃ…」

 「あんたはレズか美汐」

 「うぅ…うっ…」

 シャツを無理やり引き裂いて、膨らみの無い乳首に舌を這わせた。私は知っている。こうすると体中をぴくぴくさせて声もあげられなくなるんだ。鎖骨、首筋、耳の穴なんか叫び声すらあげてついに美汐は私の背中に手を回していた。

 「感じてるのか、俺に犯されて。こんなナリして、なんだこれは美汐ぉ。お前は一体どんなナリしてそんなに感じているんだ?」

 ベルトも止められないくらい小さいキュロットからはみだしたペニスは何かに喰らい尽きたいのか必死に獲物を求めよだれを流していた。妹の服を着せられていつになく言葉で罵られ皆斗…美汐はこれまでになく感じているようだ。

 「今日は何度イきたい…2回?3回?」

 首をいやだいやだ、と左右にふるばかり。私は思い切り力をこめて美汐のペニスを握り締めた。

 「…!」

 が、と悲鳴を上げて美汐が背中をのけぞらせた。ぎりぎりと締めると水揚げした魚みたいに口をぱくぱくさせている。

 「や、あ、やめてくれよ…あね…」

 「何度だ」

 「…2回…」

 私は根元から擦りあげた。それだけで、まるで練り歯磨きのペーストみたいに奥から白くにごった粘液が飛び散り、美汐の下着はおろか衣服を汚す。背泳ぎでもするように、じたばたと力無く美汐が快感によがっている。私が腹に飛んだ精子を嘗め取り、美汐の口に運ぶとはじめは何かわからず舌でころがしている感じだった。だが瞬時にそれに気づき吐き出そうとしたが、私の口がそれを許さない。

 「ぐ、むぐ…ぐっ」

 苦しそうな呻き声、男のプライドとして己の精液を飲むことなどできない禁忌と私の命令との戦い。私は意地悪く…鼻をつまんでやった。呼吸路を断たれる。

 喉の奥から絹を裂くような悲鳴が私の口の中まで響き、ごくり、と喉が己の精液を飲み込んだ。

 「よくやった…偉いな、美汐…」

 両手で顔を覆って嗚咽する美汐の上に馬乗りになり、私はシャツを脱ぎ捨てた。悲鳴や涙で感じすぎて駄目だった。シャツが乳首に触れる無機質な愛撫が辛い。私は美汐の顔の上に覆い被さった。

 「嘗めて」

 そんなに大きくない私の胸。鼓動が大きすぎてその音が直に皆斗へ届いてしまそうになる。立場が逆転しかねない鼓動もこの子はもう聞こえてないらしい。一心不乱に私の胸を嘗め、その一生懸命ぶりに乳でも出ないかと思う日もあった。痺れるような甘い感覚が胸から直に背中へ伝わる感触に私はゆっくり息を吐くように声を上げる。

 「はぁぁ…」

 じわじわと高まる快感。ぺちゃぺちゃといやらしく鳴る音が耳からも私を犯す。

 「美汐、ズボン脱がして…直接触って…」

 まだショックから抜け出せていない皆斗は、もう何をしようという気も起きないのか私の言うがままに動いてくれた。ぼんやりとした表情のまま、今度は私が机に押し倒されている。ズボンは脱がされ、べったりはりついたトランクスもなくなると、まっさきに空気を感じ背筋が震えてケツの孔が引締まる。充血しきったソコは自分で触るより何より皆斗に嘗めてもらい触ってもらうのが大好きだった。

 「嘗めて…すすって、感じさせてよ皆斗…」

 もうすっかりロールプレイは幕を閉じていた。私はいつもの私に戻って、大好きな皆斗の指や舌が弄り尽くしてくれるのを待った。よだれはすっかり垂れ流れていて…今日は私もかなり感じていた。すぐにイってしまって駄目になるかもしれない。

 「あうっ…あっあぁぁぁ…」

 舌が直接核の汚れを嘗めとり、それが気持ちよくて皆斗の頭を足で挟んでいた。髪の毛がちくちくとふとももを刺激して更に体をかけぬける悪寒のような我慢できない快感が私の口から声になって出てっいった。

 弄られている所を鏡で見たら、下の唇もどうやって戦慄いているか判るに違いない…今度してみよう。

 感じていることを悟られたのか、焦らされる。私はたまらずに泣いていた。皆斗の名前を呼んで触ってくれ嘗めてくれと叫んでいた。

 だが、何かがおかしいと感じたのは次の瞬間であった。

 「――やべぇ…」

 皆斗が何かを言おうとした次の瞬間、蛙をつぶしたような滑稽な音が部屋に響いた。それとともに、カーペットに水をぶちまけるような聞きなれない音も…

 「え……?!」

 我に帰って身を起こしてみると、私は目を疑った…

 皆斗が血の海に倒れ、苦しそうに体をくの字に曲げて口からは喀血を繰り返していた

 それからのことはよく覚えていない。 



 まさか本当に皆斗が倒れるなんて、思ってもみなかった。 




-今回の没文章-
最近無いなぁ

コーナー作っているのにすいません(^^;
今まで隠し通してきたものが、揺らぎはじめました
次回からは美汐が二人の関係に段々と近づいていきます
物語は佳境に突入です
あと5話、おつきあいください(_ _

 

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