村宮皆斗
-Love to bear-

 深夜の呼び鈴は誰か友達だと思った。まさかこんな遅くにセールスマンやらブン屋が来るはずがない。

 「おう、誰だ?」

 近所のイッチか。エロ男がAVでも持ってきたのか、と思ってドアを開けると…

 「美汐??」

 ガキの頃、いも虫ぶつけた時よりも酷い泣き顔の妹が部屋に飛び込んできた。

 顔中ぼろぼろにして泣きまくる美汐の格好は見たことある部屋着。何が起きたかは判らないが、取るもの取らないで泣きながら電車にのってここまで来たことは間違いない。高校生が。

 玄関にいつまでも居させるわけにはいかない。俺は散らかった部屋に妹を招いた。ちょっと恥ずかしい週刊誌とかが転がっているけど今はコイツが見ていないことを祈る。

 とりあえず割合綺麗なベッドの上。

 「ほら…」

 うながすと押されたから座ったと言った感じで美汐は座ってくれた。だけど座ってしまうと小柄な体をさらに丸めて縮こまってしまい、なんだか可哀想で目も当てられなくなってしまった。

 冷蔵庫から缶ジュースを出しながら考える。姉貴と美汐。2人とも喧嘩する感じじゃないのにな。

 あぁ、でもそんなんだから喧嘩するとこうなるのかもな。

 困ったもんだ。

 「美汐」

 努めて明るく、俺はベッドに腰掛ける美汐の前に立ってしゃがんだ。同じ目の高さに合わせジュースを差し出す。

 「まぁ、呑めよ」

 「…ありがと…」

 嗚咽しながら必死に礼を言おうとする美汐。胸が痛くなって、俺は彼女を抱きしめていた。小さい肩は簡単に腕の中に納まって、それでも嗚咽は止まらない。一体何があったんだろうか。

 小さい子みたいに膝の上にのせて、あやすように抱きしめていると、しばらくしてようやく美汐は落ち着きを取り戻しつつあった。

 しゃくりあげながら、経緯を自ら語り始める。

 「お姉ちゃんが判らない」

 案の定姉貴の名前が出た時、やっぱりなと言いそうになって慌てて言葉を変えた。

 「どこがわからないんだ?」

 「最近、すごい冷たいの…」

 「冷たい?」

 「うん…ちゃんとお話してくれないの」

 なんだぁ…姉貴?

 「あれか、生理じゃないの生理」

 「え」

 そこでやっと美汐は、照れた笑いを見せた。

 「ち、違うと思うよ」

 「あー、そっか」

 場を和ますには下ネタに限る、先輩の教えは正しかったけど兄妹にふる話題じゃなかったかもしれない。でもそれで緊張が解けたのか、ようやく美汐がジュースを口に含んだ。

 そこから色々聞き出したけど、収穫は本当に皆無だった。こまごました自分の非を見出して俺に語り、それそれが悪かったのかもしれないと美汐は教えてくれるけど、美汐の懸念は全部的外れだった。アレがそれくらいでキれるはずがないし、俺のがもっとえげつないことをしているし。

 結論としては姉貴に聞かないと判らないということか。時計を見る、すでに終電は無くなっていた。そして美汐も泣き疲れたのか眠そうな目をして必死にあくびをこらえている。ちょっと可愛いらしい。

 とりあえず美汐は俺の家に泊まることになった。

 「明日は一日俺の家にいろよ?高校には俺が連絡するから」

 「うん…」

 「俺が明日姉貴に話聞いてくるから」

 「ごめんね…お兄ちゃん」

 「なんもだ。仲直りしてもらいたいからな…臭い家だが我慢してくれや」

 「…」

 「うあ、そこで黙る?マジ臭いか俺の部屋」

 「ううん…本当にお兄ちゃんは優しいなぁって…」

 「…へ、部屋については否定しないの」

 「もぅ、真面目に聞いてよ」

 2人して笑った。こうして笑っているのが好きなんだ。姉貴とも笑った、こうして美汐とも笑った。3人でこれからも笑っていきたい。姉貴も妹も2人とも好きだ。美汐みたいに簡単に言葉にすることはできないけど、俺は誠意で示したい。

 人間誰だって喧嘩をする。誰かと誰かが喧嘩する、そのまま離れたりまたくっついたりするんだろうけどそれはなかなか大変な努力が必要だったりする。喧嘩っていうのは考え方が違うから起きて、どんな善人でもどうしても譲れない想いはある。そこで終わる仲もある。

 だけど俺達は3人いるわけだ。最後の1人ができること、考えなくても判ると思う。もしも2人のことが好きなら、できることとすることは1つだ。

 美汐が頑張って閉じそうになってるまぶたを開こうとしている様子に、自然に頬が緩む。俺は美汐の額を指で突付いた。

 「ほら、いつまでもガキみたいにしがみついてるんじゃないぞ。もう寝ろ」

 「…うん」

 そこで美汐は俯くと、離れるでなく逆に俺の体に腕を回してきた。こうやってるのを見ると本当に小学生みたいだけど、言うことはやっぱり1人の人としての言葉だった。

 「ガキだから判らないことだらけ…お姉ちゃんのことお願いね…」

 任せろ、頑張るよ。



 「おーう、姉貴」

 部屋の掃除をする、と張り切っている美汐を家に残し(ヤバイあれこれは寝てるうちにナイナイした)俺は元自宅のドアを開けた。

 「…」

 玄関。帰る度に冷たい冷たいと文句たれてたフローリングに姉貴がうずくまって眠りこけていて、少し安心した。これでベッドで高いびきなら殴り合いも止む無しかと思ったけど、穏便に済みそうだ。

 「姉貴、姉貴」

 頬を叩く。

 「腰冷やすぞ、姉貴」

 時間は午前10時。七時起床の姉貴にとっては激しい寝坊である。

 「…あ」

 みなと…そう口の形が動く。しばらく俺の顔を見てから、寝起きのぼんやりした顔が一瞬にして意識を取り戻す。

 「今日は俺の方が早起き」

 「…美汐は」

 とりあえず姉貴を立たせ、俺は居間へ向かった。この玄関から居間まで少し歩く距離が俺は好きだ。すぐに居間まで行けない距離が好きだ。チラリズムというか、すぐに家族の顔が見えるでなく、声とか音とか聞こえてから見えてくる〜…風情があるというか…

 「俺がここに来たから、わかるだろ?」

 いつになくしおらしい。姉貴も反省しているみたいだ。いつものように俺等の席に座り、姉貴のタバコを拝借。煙を吐き出すと、凄い落ち着く。やっぱり俺はここが大好きらしい。本当は3人で暮らせたらといつも思うけど。

 「美汐泣いてたぞ?」

 「うん…」

 しょげた顔で、ちょっと顔色も悪い姉貴。いつもの言葉の張りもなく元気が無い。

 「どしたの、美汐にエロ本でも見られた?」

 はっはっは…部屋に俺の笑い声だけが空しく響く。

 「…美汐には、とても悪いことをしたよ」

 「あぁ…だなぁ」

 姉貴は反省できる人間だ。そしてそれを実行できる力がある。言われなくても判る「大人」だと思う。でもそれでもやっぱり誰かに背中を押してもらわないと駄目な時だってあるし、判らないことだって勿論。

 例えば、ここでは美汐の気持ち。

 「美汐は仲直りさせてくれってさ。」

 ぽたり。うつむいた姉貴の目から涙が落ちるのを俺は見なかったことに。暗いブラウン管に視線を移す。

 上手くまとまって良かった、そう思って姉貴が落ち着くまで待つことにした。とりあえずタバコの灰がやばい。だが灰皿は卓袱台の上になかった。そうだ、確か姉貴は台所で…

 台所に向かう、こんもりした灰皿にどうにか灰を落とし事無きを得る。

 卓袱台の中央特等席から薄汚れた台所のすみっこに移動した灰皿。

 まぁ、姉貴も努力してるよな、実際。人だから、気持ちの浮き沈みもあるわけで。毎日電話してくるから、昔の生活でも思い出してんだろうか。ホームシックみたいなのかな。

 そのうち慣れるだろう、そう思った時だった。

 「…」

 玄関と台所の境目、冷蔵庫の前に姉貴が立っていた。ちょっとびっくりしたけど、泣きはらした真っ赤な目がマジなのでいつものジーザスは無し。

 「ん?」

 ちょっと芝居くさくて照れるけど、姉貴もするか?と二本目を口にくわえ、俺は箱を差し出した。

 だけど姉貴はそれに見向きもしない。

 「ねぇ、こうしよう」

 思いがけないほど、姉貴の声は朗らかだった。

 「引越そう」

 「は?」

 一瞬耳を疑った。引越し?せっかく泣き止んだと思ったら…引越し?ボ、ボケか?照れ隠しの。とりあえず俺は突っ込んだ。

 「なんでいきなり引越しさ」

 「2人で暮らそう」

 「誰とさ」

 「私と、あんただよ」

 「俺とって…」

 美汐は…と言うことはできなかった。すっかり充血した目がすぐ間近に迫っていたからだ。両手を凄い力で掴まれ、手に持っていた灰皿が落ちる。

 「あね…き?」

 当然ぶちまけられた灰皿の中身、だけど拾おうとしても姉貴の気迫がそうさせてくれない。口を一文字に結んで、体を小刻みに震わせている。背中に何か重い物でも背負って耐えて、何かを必死にこらえているような顔。ボケてるとか照れ隠しとかそんなんじゃない…。

 「いきなりそんなこと言われてもわけわからねーよ…」

 「…」

 真剣な眼差しが凄い痛い。目を反らしていた。美汐が嫌いじゃないってことは判る。でも姉貴の言い方は妹を排除しようとしている感じがする。やっぱ…混乱してるのかな、姉貴は…ぶっちゃけさせるのが良いのかもしれない。俺は頭の中で色々考えた。こういうコトは皆で生きていて絶対あることだ。そうだ、目を、目を反らしてはいけない…俺は姉貴を見据えた。

 「あ…」

 声に出してしまった。姉貴は無言で号泣していたのだ。声を乱さないように必死で堪え、涙だけがぼろぼろと瞳からこぼれ続けている。

 「なんで…そんなに泣くんだよ」

 俺は姉貴が掴んでいた手を振り払うと逆に抱きしめていた。姉貴は力が強い。逃げてしまわないように俺は腕に力を込める。なんか視界がぼんやりしてると思ったら瞳は貰い泣きをしていた。

 「はぁ…っ」

 耳元でついに姉貴は声を上げて泣き出した。子供のように、昨日の美汐のように大声で泣きわめいた。背中に爪がたてられる。

 「皆斗…皆斗ぉ…」

 「…」

 こいつがこんなに泣くのって、初めて見るかもしれない…ガキの頃もガキの割りにさめざめと泣いていたのを思い出した。そんなに美汐との生活が辛かったのだろうか。我慢しろよって言う前に姉貴は努力したに違いない。どうして気づいてやれなかったんだろうか、って後悔してしまう。姉妹だから、家族だから、相手が美汐だから上手くいくと思っていたんだけど…ちょっと俺の考えが甘かったのかもしれない。

 穏便に済みそうだ、とか言ってた自分が馬鹿だと思った。難しい、かなり難しい問題になるとそう思った。姉貴の本当の悩みを知らないで適当に考えていた自分が恥ずかしい。だけどそれじゃ姉貴の涙には届かない。

 「ごめんな…姉貴」

 姉貴の目を真っ向から見つめ、俺は謝っていた。すると姉貴は何故か寂しそうな笑みを浮かべて俺の額に額を合わせて凄く近い距離で名前を呼ばれていた。

 「皆斗」

 「…ん?」

 我慢の限界なのかもしれない、姉貴の声はもう震えてきていて形を留めるのも難しい感じだった。

 「お願い」

 なのに何か大事な言葉を告げようとして、必死に何度も唾を飲み込んで俺に話して聞かせようとしている。二人して一緒に鼻をすすりながら俺も頑張って涙を飲み込んだ。

 「うん」

 「私は絶対泣き止むから、いつもの通りに戻るから」

 「…おう」

 「そしたら告白するから」

 告白。

 …一瞬時が止まった。家の中に姉貴の泣き声だけが大きく響いていた気がする。

 「…な、何を?」

 ――告白…?

 「…YESなら、私のことが好きなら、この手を離さないで…」

 「へ?」

 また大声で泣き出す姉貴。

 「あ、姉貴!?なぁ、ちょっと!告白ってなんだよ、ぶっちゃけて話すってことだろ?いや、多分そうなんだろ?なぁ、姉貴、姉貴ってば…なぁ…!」

 告白って言葉で思いつくのはアレしかない。

 呼びかけは無視された。手を離して引き剥がそうとしても…さっきの言葉を思い出して…離したら?俺が姉貴を…?

 …な、なんなんだよ…姉貴…俺はただ…



 私は男として見ている、と言われた。

 私を女として見て欲しい、と言われた。

 なんでもする、と言われた。

 我慢できなくて、もう死んでしまいそうだ、と言われた。

 好きだ、と言われた。

 愛している、と言われた。



 俺は姉貴のこと好きだよ。大好きだよ、好きだ、大事にしたいと思っている。でも…だけど…だけど…美汐の笑顔。3人での笑顔が大好きだよ…約束もした、絶対仲直りさせてやるって約束をした。

 答えは決まってる、俺は姉貴をそんな風に考えたことなんか一つもない。今姉貴に言われなかったら一生考えもしなかったことだ。普通に姉貴が結婚して旦那が誰になるのか知らないけど大変だろうな、とかそんなことしか考えていない。それに姉弟だし…。

 だけど真っ向から言葉をぶつけられて俺は躊躇っていた。手を離すことができなかった理由はすぐに結びついていた。姉貴のその言葉は、本人はどうだか知らないけど俺にとっては凶器となる結果が待っている気がした。

 姉貴は全身全霊をこめて、俺に想いをぶつけている、そう直感していた。伝わってくる目に見えない何かが冗談とかその場の勢いとかそんなちゃちな物を超越していた。

 家族の中の自分の存在を、姉貴は賭けている。

 それは俺にとって脅迫に等しかった。

 好きだ、姉貴…好きだけど、好きだから…

 「ありがとう…」

 姉貴が淡々と呟いた。手を離すことなんてできるわけなかった…



 「お兄ちゃん」

 俺のシャツとズボンを履いた美汐が嬉しそうに俺を出迎え、そして俺の後ろを見てさらに目を輝かせる。

 「お姉ちゃん!」

 美汐が姉貴に抱きついた。満面の笑みで、だ。対する姉貴は少し恥ずかしそうな顔でごめんね、と言った。

 「…」

 もう前までの姉貴に戻っていた。あの、クールで思慮深い姉貴の本当の姿に戻っていた。

 2人の笑顔、それを見ている幸福感。

 俺は、これでよかったんだよな…胃がキリキリと痛んだ。



 初めてだった。

 タバコ臭い姉貴の寝室に入ったのは久しぶりで、そしてこんなことをするのは初めてだった。

 「な、なぁ美汐には…」

 「あぁ、判ってるよ。言わない、これは2人だけの秘密…」

 部屋の戸口で最後の抵抗を。だけどそれは交わした約束を確認しただけで終わってしまう。

 「姉貴…」

 やっぱりやめようと、伝えようとしても、俺はそんなことを言ってはいけない立場だということを思い出した。こんな感じたことないほど優しく姉貴が俺を包み込んでいると…意味のある発言を喋ってはならない。そう暗に伝えていた。俺はまるで姉貴にとってぬいぐるみと同じなのかもしれない。でもぬいぐるみを指先が震えるくらい興奮して抱きしめる人もいないだろう。

 もう俺が弟だとか、自分が姉だとは欠片も思ってない気がした。

 「好きだよ、皆斗…」

 何をしたら良いか判らない俺はベッドに坐らされ、キスをされた。日本のドラマでするような、簡単なやつじゃない。アメリカ映画に出てくるような濃厚な…姉貴の舌が俺の口をこじあけ、舌に舌を絡めてくる。欲望的に乱れる鼻息が混ざる、とても怖かった。

 「あね、姉貴…慣れてるな」

 「――馬鹿、一生懸命してるんだよ」

 軽口も、すぐに姉貴の烙印を押され黙らされる。(姉貴も初めてだと知ったのは終わった後だった)姉貴の唾液と俺の唾液が混ざりあって、口の端からこぼれて耳の後ろまで伝う…男なのに体が震えるくらい痺れて…感じていた。歯の裏まで舌先でくすぐられた時はぼんやりしまくっていた。

 「好きだ…好きだよ…皆斗…」

 横たわる女を舌でなめたり、指でいじって時には潮を吹かせて…AVで予習をしているつもりだった、だが今されていることは全然正反対で頭がついていかなかった。

 なすがまま、されるがままの…これじゃまるでM男だ…いやだ、いやだと思ってもズボンも邪魔なくらい前がはちきれて、とても邪魔で脱ぎたかった。脱いで姉貴とどうするんだ、なぁ。相手は、姉貴なんだぞ?だが萎えてしまうようなコトを考える余裕はない。もう、突然オナニーしたくてしたくてたまらないあの時の狂った感情にも似ている…けどこれは右手だけで済む問題じゃない。

 濃厚な姉貴のキスは、俺を蕩けさせた。耳、目、味、肌、匂、どれをとってもエッチな刺激にどうしたら良いか判らなくなる。俺の目が可愛いと、まぶたの上から舌で蹂躙された時はこのまま食われても良いと叫びそうになった。

 「触って…みるか皆斗…」

 姉貴がもどかしそうに自分のシャツとブラを取っ払った。スタイルはあまりよくない。腹は出てないが、胸はほとんど洗濯板だ(とコーキに語って聞かせたことがある)俺もそんな姉貴のスタイルはタイプじゃない。だが、今はどうだ…趣味に合わないその胸が見るだけで股間が刺激される。手を伸ばして触れると姉貴が声をあげた。

 「っ…」

 やべ。色っぽい声だった。AVみたいに耳に残る「上手な」声じゃないけど、淫らさでは負けない低いアルトのあえぎ声。こういう声を俺も出していたのかもしれない。もしそうだったら…最高に恥ずかしい。

 「吸って…」

 命じられ、俺は夢中になって吸い付いた。厚みの無い胸にもちゃんと乳首はあって、自分にあるのよりも当然大きい。小指の先くらいある。薄い茶色だ。姉貴の体の匂いを感じながらぺちゃぺちゃと音をたてて舐めまくる。自分の鼻も姉貴の乳首も同じくらいよだれで汚れる。姉貴の声が静まっていた。驚いて見上げると、姉貴が俺を見下ろしている。

 ほっとしてしまうほど優しい表情で、自分の胸を舐められる様子を見ていた。

 「可愛いな…皆斗」

 抱きしめられた。俺は目の前にある乳首を赤ちゃんみたいに姉貴の腕の中で吸い続けた。

 「子供みたいだね」

 子供…。昨日の美汐の姿が思い浮かぶ。俺も結局同じなのか。

 「なぁ、そろそろしてみようよ…」

 「うん…」

 姉貴が俺のズボンに手を伸ばした。ベッドに横たわり、されるがまま、脱がせやすいように腰をくねらせ、ついに姉貴の目の前に俺のが露になった。なんかいつもしごいているよりガッチガチな気がして、空気が触れる先端が冷たい感じ…腰を中心にどきどきする。手を使ったらかなりキモチ良い感度に違いない。でも手を使うことは許されない最悪で最高な時間がこれから…

 何も考えられない気がした。もう姉貴を女としか見ていられなくなっていた。早く、早く繋がりたい。欲望は姉貴が下着を脱いだ時に爆発しそうになり、必死にこらえた。黒々した下の毛と一糸纏わない姉貴の肢体が午後の光に照らされ、一瞬の神々しささえ感じられる。

 「姉貴ぃ…」

 俺は求めていた。台所で抱きしめた時に頭ん中をよぎった「姉」だから、とか家族だからとかそういうのは吹き飛んでいた。むき出しになった体と欲望を鎮めるにはもうアレしかない。否定していたアレしかない。

 姉貴が上に乗る。むき出しの肉が口の中みたいな感触に包まれて…黒いかげりの中に納まっていく。思ったほどすんなりと中身に収まった。股間前に暖かい人肌を感じるのが凄い気持ちよく感じる。触れ合う肉のぬくもりが姉の物だとは誰に言えるだろうか。

 「うぁ…」

 「あぁ…」

 同時に声をあげる。泣きそうになった。姉貴の中はとても熱かった。指なんか及びも着かない肉の感触と絶対ありえないぬめりが俺を包み込んだ。そこら辺の野郎がセックスに没頭するのがこの瞬間で判ってしまった。血の通う他人の感触、弱点ともいえる器官で相手の弱点を貫き結びつく快感。そして自分を味わう女の顔で、俺の感度はピークに達しつつあった。

 「なぁ、姉貴…俺、俺…」

 触れている肉の感触が信じられなくて俺は体を起こして姉貴にしがみついていた。顔の高さにある鎖骨に胸。汗でしっとりとした肌に俺はキスをした。敏感なトコを中心に姉貴の重み。手を回す。姉貴の胸と俺の胸が触れ合うと、それを合図にしたように姉貴が動き出した。

 「はぁ…はっ…はぁぁ…うん…あ…みなと…」

 姉貴は無言で体を上下させている。ぎこちなくこきざみな動き。ちょっとした動きが姉貴の声との相互作用で股間に響く。もっと早くしてくれれば、俺は、俺は…俺も腰を突き上げてみた。

 「やっ…」

 姉貴が悲鳴を上げる。なんか空気の感触がする。タイミングがあわなくて抜けてしまったのだ。何度か上下しただけで姉貴は肩で息を切らしていた。自分でしていた動きではない、他人の動きに不意をうたれて驚いたんだと思う。驚いたというか…感じたというか。

 「皆斗…突然動かないで…」

 酷く脱力した声が俺の首を支えに耳元で囁く。どっちの呼吸の音か判断できないほど部屋の中には息の音しか聞こえていない。腹が限界なくらい苦しくて痛い。笑いすぎた時みたいに一生懸命酸素を吐き出しているからだ。

 「姉貴…」

 姉貴がまた動き出した。自分の尻の下に抜けてしまった俺を手探りで握ると…先端で自分の穴を探し始めた。触られるだけでもツライのに、先端がこすれて…悲鳴をあげてしまう。

 「やめて…姉貴、ツライよ…」

 「ん…ごめん…うっん」

  何度目かの拷問の後また戻ることができた。ぴくぴくと竿を肉のうねりが撫でるように刺激する。あそこの中に指まで突っ込んだのかと思ったけど指じゃない。姉貴の手は俺の頭をかきむしるようにして撫でてくれている。また何度も何度もキスをした。そうだ舌がまるで姉貴の中にもあるみたいな…姉貴に上も下も食われている…不思議な感じ。

 「みなと…私、私嬉しいよ…みなとぉ…また…動くよ」

 「なぁ…もっと激しく動いてくれ…」

 「うん…こ、こう…?」

 「そうそう…」

 「あっあっあっ…はぁ、あんっ…あぁっっ」

 淫らな声とベッドの軋み、肉のぶつかり合いの音だけが部屋に響いた。何度も抜けてしまい、僅かなインターバルの次の嬌声はまた格段に高くなる。イきそうだ、と喋ろうとするとキスをされ遮られる。ぬめる摩擦が何度も上下し、抜け、指で刺激されながらまた中へ…緩急のついた刺激と耳元で囁かれる単語にならない情事の感想がついに我慢の限界に俺を押しやった。

 「んっあうっ…あっ、あああ、そう、うんっ…んっんっ」

 無理にでも引き剥がし俺は叫んだ。叫んだままの勢いで体を離そうとすらした。なんか凄い怖いものが体から溢れてきていてそれを吐き出すのが、酷く恐ろしくなっていたのだ。

 「姉貴、姉貴俺もうだめだ、だめ…」

 怖くて駄目だ。だが姉貴の拘束は解けない、いや、俺も本気で逃げなかったのかもしれない。また口で封じられてしまい、切ない鼻声で情けないくらいの悲鳴を発する。動きになれたのか本能がそうさせているのか姉貴が上手い具合に早く動き、もう避けられない状況へ達しつつあった。

 「あああ、やっ…あ、みなと、みなとぉ…」

 姉貴はほとんど聞いていないようだった。最後の理性は中で出すことを拒んでいた。中で出る、中で出る、だからやめろ…夢精を堪えるようにケツに力を入れる…でもその最後の我慢も快楽の起爆剤になってしまい…俺は姉貴の感触についにたえきれなくなり、俺の腰が激しく痙攣するくらい気持ちよく、思い切り吐き出していた。

 「あっぐ…」

 姉の体にしがみついていないと、どうにかなってしまいそうなくらい迸っているのを感じた。力の加減なんか関係無い、飛んで行ってしまいそうなくらい激しい快感が、外に出ていくついでに俺を苦しめた。姉貴の中に出していると思うと、思えば思うだけ快感は続いた気がする。

 「…みなと…」

 姉貴は急に痙攣しだした俺に驚いて動きを止めた。だが快感から感じた恐怖を払拭してくれるくらいの優しい声で俺の名を呼ぶと震えが治まるまで、治まってもずっと抱きしめてくれていた。

 「…なぁ皆斗…?気持ちよかった?」

 「う、うん…」

 姉貴が俺にキスをくれる。

 「なに、泣いてるの…?」

 「…」

 「大好きだよ、皆斗…」



 もう時は遅い。選択肢は戻らない。

 俺は姉貴を好きにならねばいけなかった。

 なんで好きにならなきゃ駄目なんだっけ…






-今回の没文章-
 「いやだ…」
 よく聞こえなかった。
 「はぁ?」
 「なか、仲直りしたら美汐が帰ってくる」
 俺は目を見張った。姉貴が美汐並に泣いている。卓袱台の涙は大人の涙だったが、目の前にいる姉貴は…
 「皆斗ぉ」
 動けなくなった俺に、姉貴が距離を縮める。一歩、二歩、三歩まで行くには台所が狭すぎる。だけど3歩…
 「私はあんたが好きだよ」
 タバコを押しのけるように、姉貴の顔が迫り…俺はキスをされた。
 驚いた、宴会の罰ゲームでするようなノリじゃない。鼻と鼻がぶつかるようなぎこちない、けど重たい唇が俺の…両目を必死につむっている見慣れた顔がすぐ間近に。
 「姉貴!?」
 慌てて引き離す。びびった、マジびびった。なんだ変だ。なんだこの姉貴のノリは。依然とはうってかわって清潔になった台所の床に姉貴がへたりこむ。
 そのまま…大泣きしながら俺の脚にしがみついてきた。
 「みなとぉ…みなと…」
 俺の名前を連呼。
 「あんたがいないとダメなんだよ…好きなんだ、どうしようもないくらい好きになっちゃって、それで美汐にもあたっちゃって、それでどうしようもなくって、こまって、でもあんたから電話来るのが嬉しくて…帰るのが悲しくて…」
 必死だった。目はマジで、声を限りに…あろうことか俺への想いをぶっちゃけて泣きまくっていた。姉貴の暴走に呆気に取られる俺がいた。
 どうしたら良いんだ。
 「死んでしまいそうなんだ、わかる?皆斗。あんたの声が聞けないとどうしようもなく辛くて…」
 「姉貴、やめろって、落ち着けって、なぁ!」
 俺も姉貴も、とりあえず落ち着く必要があった。姉貴のテンションに押されて俺も呼吸が荒くなっている。
 「やだ!今言わないと全部言えない!」
 そう叫ぶのと…姉貴はもう泣くだけだった。
 俺は姉貴に告られたのか…?ってか酔ってるんじゃないのか姉貴。そうでなかったら、ヤバイクスリでもキめてるとか…いや、でも告るって…
 「姉貴、居間行こう?」
 うん、うん、と素直に姉貴は俺の言葉に従う。従うのは良いけど…俺は血を吐きたい気持ちだった。
 どうしたら良い?
 「…」
 重い溜息が出る。まずは、そう、いつも通り俺が落ち着かないといけない。俺が、俺が…
 俺が…


白帆が告るシーンの別案です。
山場が短いのとここから話を続けるとなんだか終わってしまいそうだなぁ、ということで没にしました
でもなんか皆斗の反応はこっちのが好きだな〜
一長一短です。

 

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