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2006-05-12 Fri 01:48
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『一哉、家事と…分かってると思うけど、詩織の面倒しっかり看てあげるのよ?』
言いたいことだけ言って、母は玄関を出て行った。 俺は黒崎一哉(くろさきかずや)高校二年。 …で、今出て行ったのは母の里美、年齢…はどうでも良いか。 三年前に事故で父を亡くし、今は輸入下着専門の会社で働いている母が一家の大黒柱だ。 そのかわり、家事は姉の詩織と二人で分担することになったんだけど、ここ一ヶ月は訳あって炊事洗濯は俺が全てこなしている。 母は、一応会社では重役待遇らしいけど小さな会社なので海外に自分の足を使って仕入れに行くことも度々ある。 今回も海外へ仕入に行くらしく、一週間は帰れないらしい。 夏休みも終盤だというのに我が家に家族団欒というモノは縁遠いらしい。 ま、家族でとベタベタするのも、この歳だと恥ずかしいもんだから、取り立てて文句はないけれど。 俺は電話の子機を机の上に置くと自室から一階のキッチンへ向かった。 八月も終わりというのに屋外はかなり熱い。 蝉の大合唱も暑さに拍車をかける。 俺は冷蔵庫から冷えた麦茶を取り出すと、氷を入れたグラスを二個持って二階に上がった。 自室の前を通りすぎ、隣の扉をノックする。 『はい?』 透き通った柔らかい姉の返事が帰ってきた。 『姉さん入るよ』 俺は幾分緊張しながら部屋に入ると、姉はベットに腰掛けた姿勢でそこにいた。 室内は適度に冷房が効いていたが、夏らしく薄での白いワンピースを着ている。 レースが可愛いらしく、姉のお気に入りだ。 しかし、それを姉は自分の目で見ることは出来ない。顔を三周ほど覆った包帯が視覚を奪っているから。 姉の詩織は四大の一回生。後目の病で一ヶ月ほど前に両目の手術を行った。 回復には一ヶ月半程掛かるので、夏休みを利用したのだ。 手術は成功し、昨日まで入院していたが、術後も良好なのと、本人のたっての希望で、包帯の外れる残りのニ週間は病院通いをしながら様子をみていくことになった。 その為に、母は姉の面倒を看ろと言ったのだ。 『母さん?』 『うん』 『何か言ってた?』 『…特に何も、いつもと一緒だよ。戸締まり忘れるなとか、洗濯溜めるなとか…いつもの心配性』 『ふふっ、そう…』 姉は品良く口に手を当てて笑った。 姉さんの面倒をしっかり看ろとは言われたが、それを口にするほど不粋ではない。 それに、面倒だなんて思わない…、思うはずもない。 それは、俺が姉さんを特別に女性と想ってるから…。 勿論、しっかりと血は繋がっているのだから、どうこうしようなんて、思っていない。 ただ、一緒に居たい、見守りたいと想うだけ…。 『何か持ってる?』 『あぁ、ごめん!麦茶持ってきたんだけど…いる?』 気を利かせて持ってきたのに、何してんだか。 『うん、ありがと。ちょうど欲しかったところ』 俺は麦茶をグラスに注ぐと、さりげなく姉さんの手を取り、手渡した。 数瞬触れた姉さんの手は柔らかく暖かく、グラスを口に運び、咽を鳴らす姿は、少し官能的でドキリとした。 今までは、じっと見つめる事なんて出来なかったけれども、今は好きなだけ見ることが出来る。 (ほんと、ヤバイな、俺) 急に喉の渇きを感じて、手にしたグラスを一気に飲み干した。 『姉さん、お昼は12時くらいで良いかな?』 『え?あ、うん…あの』 『食事でしょ?ちゃんとフォローするから』 昨日母さんがしてるの見てるから問題無い。 『じゃなくて…』 『え?』 『ごめん、良い…』 何か、困ったような照れたような表情だ。 ま、こういう時は言い出すまで待つしかない。 『ん、また何かあったら言ってよね。気がつかないこと、イッパイあると思うし…』 『ん、ありがと』 『じゃ、お昼作るから、下降りるね。何かあったら呼んで。』 二週間自分の時間はかなり拘束されるだろうけど、苦にはなりそうにない。 俺は足取り軽く、階段を降りた。 スポンサーサイト
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