詩織と一哉SP 


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『一哉?家事と分かってると思うけど、詩織の面倒しっかり看てあげるのよ?』

ビジネススーツに身を包んだ女性は、言いたい事を口にすると真夏の日差しもなんのそのとばかりに玄関を出て行った。

その背中は精気に充ち溢れ、紫外線も跳ね返しそうなくらい元気に見える。

『いってらっしゃい、気を付けて』

俺はいつもの様に、その背中に声を掛けた。

その女性は一瞬振り返ると親指を立てて返し、瞬く間に俺の視界から消えていった。

『しっかし、日傘も差さずに・・・、元気だなぁ』

俺は外の太陽を一瞥すると、玄関の扉を閉めた。

八月も終わりというのに、屋外はまだまだ暑く、蝉の大合唱も暑さに拍車をかけていた。

俺は黒崎一哉(くろさきかずや)、高校二年。

で、今出て行ったのは母の里美。

年齢は、どうでも良いか。

三年前に事故で父を亡くし、今は輸入下着専門の会社で働いている母が一家の大黒柱だ。

輸入専門という謳い文句通り、度々母は海外に商品を仕入れに行く事があり、今日もこれから単身フランスまで出張だ。

会社では一応重役待遇らしいけど、大きな会社ではないので海外には自分の足を使って仕入れに行くんだそうだ。

だから夏休みも終盤だというのに、我が家に家族団欒というモノは縁遠いらしい。

ま・・・、家族でベタベタするのもこの歳だと恥ずかしいもんだから、取り立てて文句はないけれど、ね。

俺は一階のキッチンへ直行し、冷蔵庫から冷えた麦茶のボトルを取り出すと、氷を入れたグラスを二個持って二階に上がった。

(それに、俺には文句が言えない理由があったりするからなぁ)

小さくため息をついた俺は、自室の前を通り過ぎ、隣の部屋の扉をノックした。

 

コンコン・・・

 

『はい?』

透き通る様な柔らかい、若い女性の返事が帰ってきた。

『姉さん入るよ』

俺は幾分緊張しながら部屋に入ると、姉の詩織はベッドに腰掛けた姿勢でそこにいた。

室内は適度に冷房が効いていたが、夏らしく薄での白いワンピースを着ている。

そのワンピースはレースが可愛いらしく、姉さんのお気に入りだ。

しかし、それを姉は自分の目で見ることは出来ない。

それは・・・、姉の瞳を中心に顔を三周ほど覆った包帯が視覚を奪っているから。

後天性の目の病。

姉さんがまだ小学生の頃、原因不明の熱病に侵されたんだ。

ひと月ほど生死の境を彷徨って、何とかこの病気を克服した時・・・、その代償とばかりに神様は姉さんの視力を奪っていった。

そして、当時の医学では治療が出来ず、分厚いメガネをはめる事でしか、通常の生活を送ることが出来なくなっていた。

医師の話では、命があっただけでも奇跡だということで、姉さんは『命が助かっただけでも、ラッキーだよ』と良く話していた。

でもそれは、自分を言い聞かせる為のモノだ。

学校に復帰してからは、その牛乳瓶の底の様な分厚いメガネをクラスの友達は奇異の目で見て、時折からかったようだ。

勿論、数人の理解者に恵まれはしたが、異性の目を惹く事は全く無く、姉さんが男性と付き合っているという話は今まで聞いたことがない。

それでも俺は知っている。

姉さんが本当は、かなり可愛い・・・いや、身内の贔屓目を差し引いても、とびっきりの美人であることを。

粉雪の様に白い肌に、薄紅色の唇。

大きな瞳は、まるで子猫の様に可愛らしい・・・。

スタイルだって肉感的では無いにしろ、家の中で薄着した時にはその美しいラインが際立っているのを、俺は十分すぎるほど知っている。

ただ、姉さんは知ってか知らずか、自らの魅力を封印してしまっているんだ。

年頃の女の子がするような化粧もしないし、オシャレな洋服を着ることもない。

反対に異性を近づけない様、バリアーを張っているように思える。

その事は弟として、そして男として安心出来る事なんだけど・・・、近年の医療進歩によって、姉さんの目の治療に光が射した。

しかし姉さんは、この手術に何故か積極的ではなかったけど、母さんの積極的な勧めで手術を受ける事になったんだ。

姉さんとしては、今さら・・・というのもあったのだろうけど、母さんは姉さんの目の病気を自分のせいだと思っている節があった。

それは母として当たり前なのかもしれないけど、姉さんとしては母さんの苦悩を和らげたいという気持ちが増さったんだと思う。

手術は無事成功し、昨日まで入院していたのだけれども術後の経過が良好なのと本人たっての希望で、包帯の外れる残りのニ週間は病院通いをしながら様子をみていくことになった。

回復には一ヶ月半程掛かるものの、四大生の姉は長い夏休みを利用出来るので問題はないだろう。

しかし、病院と違っていつも看護婦さんが身近にいる訳ではない。

だから、母さんはは『しっかりと』姉の面倒を看ろと言ったのだ。

『母さん行ったの?』

『うん』

『何か言ってた?』

特に何も、いつもと一緒だよ。戸締まり忘れるなとか、洗濯溜めるなとかいつもの心配性』

『ふふっ、そう・・・』

姉は品良く口に手を当てて笑った。

姉さんの面倒をしっかり看ろとは言われたが、それを口にするほど不粋ではない。

それに、面倒だなんて思わない・・・、思うはずもない。

それは、俺が姉さんを特別に女性と想ってるから・・・。

勿論、しっかりと血は繋がっているのだから、どうこうしようなんて思っていない。

ただ、一緒に居たい、見守りたいと想うだけ・・・。

『何か持ってる?』

『あぁ、ごめん!麦茶持ってきたんだけど・・・いる?』

気を利かせて持ってきたのに、何してんだか。

『うん、ありがと。ちょうど欲しかったところ』

俺は麦茶をグラスに注ぐと、さり気なく姉さんの手を取り、手渡した。

一瞬触れた姉さんの手は柔らかく暖かく・・・、グラスを口に運び喉を鳴らす姿は少し艶めかしくドキリとした。

そんな姿を・・・、今まではジッと見詰めるコトなんて出来なかったけれども、今は好きなだけ見ることが出来る。

(ほんと、ヤバイな俺・・・)

急に喉の渇きを感じて、手にしたグラスを一気に飲み干した。

何だかイケないコトをしている様だ。

こういう時は、何か話題を振るに限る。

『姉さん、お昼は12時くらいで良いかな?』

こう見えても、姉さんが入院してからというもの、料理は結構勉強したんだ。

『え?あ、うん・・・あの』

『まあ・・・、味は姉さんには敵わないと思うけど・・・』

姉さんは、それこそ昔から料理をしてるので、その腕は相当なものだ。

(しかし、母さんよりは美味しい筈だぞ?)

『じゃなくて・・・』

『食事の・・・手伝い?』

勿論姉さんは目が見えないから、食事の手伝いが必要だけれども、今までだって病院で何回かしてるし全く問題無い。

『あの・・・、ごめん、良い・・・』

何か、困った様な照れた様な姉さんの表情・・・。

まあ・・・、こういう時は姉さん本人から言い出すまで待つしかない。

大切なコトなら、その内言ってくれるだろう。

『ん、また何かあったら遠慮なく言ってよね。気がつかないこと、イッパイあると思うし

『ん、ありがと』

『じゃ、お昼作るから・・・、何かあったら遠慮なく呼んでよね?』

俺はそう姉さんに声を掛けると足取り軽く、階段を降りた。

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