(九)
「ダーリン!ガンバレー!!」演習地にハルピエ娘のツァロロの黄色い声援が吹き抜ける
この度も格闘術の組手が行われている
ククリ刀ベースの波濤剣を構えるロブロジェ=アルィ
それに対するのは”紫フラミンゴ”の渾名、いやれっきとした芸名を持つ元剣劇俳優
メッセラス=ゾインである
左手に剣身が剣先へ行くほど白から青緑に変色しているレピアー剣、
右手にはうっすらと赤みを帯びた剣身のマンゴーシュを気取ったふうに構える
「…セロリ剣に玉葱剣…、相変わらずふざけた武器を振り翳しやがって、ゾイン」
「ふふふん、伝説の”青果売りの騎士”の再来と呼んでほしいもの、アルィ坊ちゃん」
「坊ちゃんをつけるんじゃねえ! いつまで経っても俳優気分が抜けない悪趣味野郎!」
「何を申されるアルィ殿 不肖このゾイン、今も昔も変わらず、由緒ある
帝都金鳳花座が団員なりますぞ 今は一座を離れ、旅修行の身
この度も演目”青果売りの騎士”を通して貴殿に剣舞稽古ひとつお付き合い頂く次第にござい」
おどけ調子でお辞儀してみせるゾイン
脇で見物してるのはツァロロほか、ハナェ、クーパー、ラジュアリの各面々
プアザン組頭とラキシュは陸軍の精鋭大隊に随行してアルハゲイトの西約二百粁の地点に
出現した紅ドラゴン討伐に赴いていた
数週間前より同地点の急な荒地化から、ドラゴンの出現が予測されており、
一昨日遂に出現の報を受けて軍からの要請を受けて二人は出向いていた
思い出したようにハナェが口を開く「ラキのやつはドラゴンを上手く説得出きるかな」
クーパーが眠たげに答える「…無理じゃねえかな あいつが上手く立ち去らせた試しがねえ」
ドラゴンは高等魔物であり、ある種の人と交信する能力がある
ミノタウロスのラキシュの属する部族は紅ドラゴンと交信可能な種族であり、
この炎の怪物と精神比べなるものを行い上手く宥められれば
闘わずに異空へ追いやることができる
「けどまあ、失敗してもやつには紅ドラゴンの技はあまり効かねえし、
組頭の水技は火の怪物には滅法強い それほど心配することは無えじゃんよ」
「うん、実のところあまり心配してない 組頭は赤竜退治の名人だからね
ところで、ここ何日かフィラーとセライアの姿もないね どうしたんだあいつら?」
「あいつら謹慎だってよ」「なんだそりゃ? 何かやらかしたのかあの小僧ども」
「アチキ、何故セライアトフィラー謹慎二サレタカ知ッテル
アノ二人演習場デセックスシタカラ」
ツァロロのいきなりの発言に一同どよめく
「セライア本人カラ聞イタ、彼女ガ誘ッタノダソウ
セライハ昔カラスケベエダカラネ、女同士デモスル」
「やるねあの子ら」
「感心してる場合かよハナェっち
演習場は頭領の”煙”が隙間無く這い回ってるの知らねえのかあのバカどもは…
ていうかフィラーの野郎、先輩出し抜きやがって
待てよ、あいつら、義理の家族じゃねえかよ! 艶本を地でいきやがって!なめてんのか!」
「おっつけ、ラジュアリ 世間を見渡せば大したことじゃねえ」
興奮で湯気を立ち上げる髭野郎の脇で、クーパーがでかい鼻を指で掻いた
(十)
「さてさて、お立ち会い! 我は行商、諸国を巡る、売り物はご覧の通り、
食卓彩る大地の恵み、菜の数々… おっと失礼
こたび我の売り物は二品ばかりなりぃ
これにお目にかけるは、食卓の貴婦人セロリでござい
純白の脛に青々としたうなじ、その芳しいこと食欲をそそること間違いなし!とくとご覧あれ
ではでは、みるも不思議な”菜色剣舞”のはじまり、はじまりぃ」
一方、向かい合うアルィとゾインのほう、舞台の幕開けのような口上を述べたゾインの側が
セロリ剣なるレピアーを前段に構え詰め寄る
アルィは波濤ククリ刀を楯にして素早く後ろに引く、しかし詰め寄るゾインの攻めの手のほうが早い
身を低くしようとするアルィよりさらに素早く屈み込み、脚を伸ばして彼の脚に引っ掛けて
思い切り引いた
あっという間に尻もちをつかされるアルィ、しかし剣はあくまで相手に向けて立てたまま
「おやおや、早々剣の舞いのひとつも見せずに終幕かな? それではあまりに味気ない」
ゾインは一旦、攻めの手をやめ、とんと後ろに跳ねて、相手に立ち上がる機会を与えるかのような口上
「…ふざけやがって… 今、踏み込んだらてめえが返り討ちにあうと踏んで下がったんだろうが!」
「ものは言い様、負け惜しみなら後ほどじっくりと ではでは仕切り直しをば」
あくまで戯けた態度で相対するゾイン、しかしまた再び左の剣を前段構えで猛然と突進を開始
「此度のお客は何とも他愛ない 我は行商人、それはあくまで仮の姿
我が正体は主君の命を受け諸国を巡り、蔓延る悪を暴き立て、正義の鉄槌を為す者
さよう!我輩こそが噂に高き、人呼んで”青果売りの騎士”にて候!」
詠うように口上を述べつつ、猛烈な勢いで剣先を繰り出す
あらゆる物を切断する波濤剣の刃先を器用にかわしながらアルィを瞬く間に劣勢に追い込む
「く! このぉ!…」
「ウゥ… ダーリン、攻メラレッパナシ… ゾインノ奴、目ン玉小サイクセニ口数多イ
口数多イクセニ動キガ早クテ隙ガナイ…」
「ゾインのやつは喋ってるほうが動きが滑らかだからな さらに長期戦になるほど奴が有利になる
あの剣の所為で奴自身の動きがさらに加速するからな」
「モォ! コウナッタラ、ツァロガ助太刀シテヤル!」「バカなこと言ってないで、大人しくみてれ」
愛する人の元へ飛んで行こうとする鳥娘、すぐさま脚をクーパーに捕まえられて
後ろへ引き戻されるのであった
「アルィは、鬣の下段者一人に三人四人がかりでようやっとだった頃よりは強くなってる感じだな
けど、せめて鬣の白帯と一対一で闘えるくらいでないとうちの私兵としちゃあ失格だ」
(十一)
夜半過ぎ、厩ヒルズ七階の一室、肉体鍛錬器具や様々な刀剣、防具の散乱する真っ暗な部屋
剣を薙ぎ払う音だけが空気を振るわせていた
昼間の格闘組手でゾインに軽くあしらわれた部屋の主が悔しさを紛らわす為に剣を振るっていた
不意に部屋の片隅、床に刻まれたポータルサークル上に、ぽっ…と灯りを伴った人影が現れる
「精が出るじゃないか、アルィ」「ハナェ姉さんか… また、勝手に入ってきやがって」
「入室の術暗号を幾ら変えても無駄だよ ジェネリかフスェ姉さんに頼めば一発解錠だからね
まだあんたの謹慎は完全に解けてない 面倒見役の私を締め出そうとしてもダメダメ♪」
上半身裸のアルィは、ちっと舌打ちすると、鍛錬の汗を拭いながら、どさりと椅子に腰かけた
「あの娘は寝たのかい? 相変わらず夜は早いね」
ハルピェのツァロロは本来夜目が効かず、夜を苦手とする種族、日が暮れると同時に床に付く
そして夜明け頃、起き出すのである
「俺と出会った頃は一晩中騒々しかったがな
すっかり本来の姿に戻ってるぜ、お陰で静かな夜と無茶苦茶騒々しい朝を送れてるよ」
外ではラーセン=ネビィと名乗っていたロブロジェ=アルィ
カルタポの事件後ツァロロを伴って懐かしい街と我が家に戻ってきた
帰ってすぐに特務警衛軍6フィンガーへの捜査協力、それが終わると親族一同からの叱責と謹慎処分
しかし、意外なことにツァロロとの交際は全面的に認めるという父と母の決定
「もうあと十日後だったわね、あの子の一時帰郷」
ツァロロは怪我の治療も終え、この度人間男性との正式な婚儀のため、一時的に帰郷する
その際、当然アルィ自身も同伴、さらに多大な贈答品と彼の逃亡監視役も兼ねて姉のフスェ、
ゼテムド私兵団頭領、プアザン以下三名の組頭と各組の隊士七名、西部陸援社の者も数名随行する
大バリア山脈一大訪問団が組まれたのであった
「来月には、お父様もあの子の村の酋長に挨拶に出向くそうよ、今日届いた手紙にそう書かれてた」
「…父さん達には頭が下がるよ、政治的思惑を巡らせるその頭の中身に…
これでバリア山脈内の豊富な資源権益に手が伸ばせる
特にツァロの里は鋸輪川の源流地帯、ルッジン侯は歯ぎしりしてるだろうな」
「そんな言い方ってよくないわ、あの子のこと嫌い?」
「…嫌いならそもそも連れてなんか来ないさ
ただ、将来の伯爵夫人としての品位をあの鳥っ娘が身につけられるのかさ
…何だよ、何ニヤニヤしてんだ」
弟の自作運動台座に座り両手で頬杖ついて何やら笑顔を浮かべ弟の顔をじっと見つめる姉
「あんたもようやく爵位を継ぐ腹構えになったわけね」
「ふん… 継承出来るかどうかわからないけどな
姉達はまるで嫁ぐ様子も無いし、俺が頑張らないと爵位継承どころか、子孫すら残せないよ
…あ、おい、そんなふうに、ぎこぎこ揺らすなよ また分解しちまうだろ」
手をいつの間にか背後に回して、貧乏ゆすり始めた姉は弟の苦情も聞こえない振りで口を開く
「しょうがないわね、お父様のご姉妹方も揃いも揃って独り身、血の運命を感じるわ」
「そんな運命、わざわざ従わなくともいいんじゃないの」
そう言った直後、アルィははっとする、忌まわしい過去の出来事を思いだし
しまったという表情になり、姉の顔色を横目で窺う
「もう昔の話だよ、それに私はあなたに気遣われる資格はない、そうでしょ?アルィ」
ふとハナェは徐に部屋の一角に視線を移す
「私があまりにも馬鹿過ぎて皆に迷惑かけ捲ってしまった
あの時、母様に顔の形が変わりそうなほど殴られたけどそれでも足りないくらいね…」
(十二)
ハナェの瞼の裏に、あの頃の情景が浮かんでいた 十代の中頃、余りにも過ぎたお転婆
武術の腕前が周囲が驚くほどに急激にあがり、周囲の心配も叱咤も顧みず、
度々居城を抜け出しての放蕩三昧、遭遇する冒険者達は気のいい者達
自分の立場を忘れたわけではなかったが、それでも自由の空気の味は控え難かった
やがて世間知らずと身の程知らずの代償を払うことになる
酒場で知り合った男どもに誘われるまま街を遠く離れ、そこで箱入り令嬢は寝ている間に
厳重に拘束され山賊に売り渡されたのだ
国境の外まで運ばれ、バリア山脈のアジトに監禁された
髪は切られ、多額の身代金の要求書とともにファンタゴナに送りつけられた
そして激しい肉体への陵辱は引き渡された直後、アジトへ向かう馬車の中から早くも始まった
揺れる車内で山賊の頭領に処女を散らされた、以降代わる代わる男どもの劣情の糧に供された
手足と首に枷をつけられ、野蛮かつ乱暴に身を捩られる
前の男のつけた残滓を拭おうともせずに次の男が襲いかかる
垢だらけの異臭漂う毛むくじゃらの厳つい体躯は容赦なく向こう意気だけは強い、
世間知らずのお嬢様の柔肌を蹂躙し、変態的な異常趣向を持つ者も混じっており、
拷問紛いの仕打ちをも施された
囚われの数日間で伯爵第二令嬢の無垢だった肢体は隅々まで男どもに穢し尽くされ、
何もかもを喪失した
しかし山賊どもは伯爵の手勢の力を完全に見誤っていた
アジトはいつの間にか包囲され、賊徒は瞬く間に四分の三が殺害され、
とても敵わぬとみるや残りの者はすぐさま投降した
しかしこの連中がこれから味わう処遇からすれば先に死んだ者たちのほうが遥に
楽だったといえるだろう
救出隊の先頭にいたのは伯爵第一令嬢のフスェであった
救い出された妹の惨状、丸坊主にされ顔面を腫らし体は痣だらけ、
そして尻から股間にかけての無惨な様相を見て姉の目は憤怒の色に変じた
…お、おれはその… そこに転がってる野郎に命令されただけだぁ
な、何も悪くねえよ そ、それに娘っこには俺だけは指一本触れてねえぜ
他のやつらはひでえことさんざんやりまくってたけどさ……
…な!何言いやがるんだ! てめえが一番…
お、おれは何もしてねえぜ! ほんとだぜ! だから助けてくれよぉ!……
この者らのこれまでの行状はここに赴くに際し頭に入れてきた
夥しい数の盗み、強姦、殺人、そのくせ戦士としての矜持も誇りもなく
人としての良心の欠片もない
他人に対し強い者には媚諂い、優勢と見るや徹底的に収奪と暴虐の限りを尽くし
生き残るためなら仲間すら平然と裏切る
今また罪を擦り付けあって己れだけは助かろうと命乞いする山賊ども
人面獣心を具現化したこの者らはフスェの発したカラシ色の炎の渦巻きに包まれた
わざとゆっくり時間をかけて水分を抜かれ、生きながらにしてミイラにされていった
ハナェは生きて保護されたものの、その様相は生き死人と呼んだ方がほうが相応しかった
心と体につけられた傷は余りにも深く大きく、回復のための長い長い時を費やすこととなった
(十三)
あの誘拐事件から、いくつも月が過ぎていった
放心状態で父親や弟ですら近づくことも出来なかった状態から、
隙あれば自害に及ぼうとする状態を経て、家族揃って食事が出来るまでになっていた
父や弟だけでなく、城内の他の男性とも会話を交わせるほどに回復をみせていた
「アルィ」ある日の夕刻、伯爵家の長男坊の部屋の外から呼びかける声
「あれ?ハナェ姉さんじゃないか、どうしたの?」「うん、ちょっと入ってもいい?」
初等学校を卒業したばかりの弟はポータル鍵を開けてやり、次姉が部屋の中へ入ってきた
「何してたの?」「うん、これを見てたんだ」弟はにんまりしながら一振りの刀剣を翳してみせる
「珍しい形の剣ね、父様から卒業祝い?」「いや、母さんから ククリ刀という東大陸の剣さ」
嬉しくて仕方がないという表情で、色々構えを作ってみたり、またジッと眺め回してみたりと
忙しい弟、玩具や彼が方々から拾い集めてきたガラクタ…彼にとっては宝物…の散乱する部屋
そのひとつの外国語らしき文字が書かれた樽の上に腰かけて、その無邪気な笑顔を
両手で頬杖つきながらジッと見つめる姉
「俺も一人前の男として認められた証拠だよね!
剣の腕を磨いて!この剣もいずれ術刻武器にして!魔物や悪人をばた!ばた!なぎ倒すんだ!
…あ?姉さん、それに座らないでくれよ、座るならそっちの椅子にして」
「ごめんなさいね」
かつては、まるで男の子みたいだった姉、
あの事件以来すっかりしおらしくなってしまった彼女にいまだ少し拍子抜けする弟
以前なら、”うるさい!こんなゴミ!”などと言いながらわざと貧乏ゆすりまで始めていただろう
実のところ、まだ年端もいかない弟のアルィは次姉のハナェの被った事件の概要を
知らされていなかった
山で行方知れずになったとだけ聞かされていて、帰ってくるとひどい怪我と病に冒されてるから
近づかないよう周囲に厳重に言われていて、久しぶりに会えるようになったと思ったら
上記のように随分と印象が変わってしまっていたという次第
弟の宝の樽から立ち上がる姉、しかし再び椅子に座り直すことはなく、
まっすぐ弟のほうへ歩み寄ってきた
「何だい?姉さん、何か用があるなら早くしてよ もうすぐ夕食の時間だし」
何となく姉の雰囲気に気持ちが落ち着かない弟
「うん、あんたに私からも卒業祝いあげようと思って…」
部屋の中に一陣の風が起こり埃が舞い上がった
一瞬の出来事、弟は姉に飛びかかられ、気がついたら床の上に両腕を広げた状態で姉の手に
押さえつけられ磔にされていた、声を上げる暇さえなかった
「ね… 姉さん…いきなり、何するんだよ… い…てて 手首が…もげちゃうよ…」
まだまだか細い弟の腕は姉の手指に締め上げられる
さっきまで彼が眺めていた剣がその手からゴトリと床に転がった
「あんたは、私がいなくなった事件のこと、なんて聞いているの?」
真上から見下ろす目つきの変じた姉の口が尋ねる
「えぇ?… 山の中に一人で行って…遭難してたって…」
姉の豹変ぶりに只々たじろぐ弟の顔に、彼女はふふんと鼻息を浴びせかけた
(十四)
「あんたが聞いてた話、山の中でという部分だけ正解 私ね、攫われて監禁されてたのよ」
「さ、さらわれて…? かんきん…?」
「悪い奴に騙されてね、山賊に人質にされてたの」「そ… そうだったの…」
急な話の内容を全く理解できないでいる弟を見つめる姉の顔、
その目の色がいよいよ妖しく変化していく
驚いた目で呆気にとられて開かれた口めがけて姉の顔が降りていく
鼻と鼻が重なり、そして姉の唇が弟の口と重なる
柔らかいぽってりした感触がむぐりと押し付けあい歯と歯が軽く接触、
姉弟の吐息が混ざりあう中をさらに姉の舌先が弟の口の中へ侵入していった
ぐ…ちゅりぃ…
ぎこちなく舌と舌が絡みあい、姉弟の唾液が粘りつく音が結びあった口の中で響く
さほど長い時間咥えあっていたわけではない
息継ぎの下手な二人はすぐに息苦しさに襲われ、粘った糸を引きながら離れた
「…な…なに、したんだ……」やや興奮した、驚きのあまり瞳と声を同時に震わせる弟
「キッスしたのよ、初めてだったでしょ?」
自らの大胆な行為に内心軽く動揺しつつも、つとめて平静な顔で答える姉
「お…おれたち… 姉弟…なんだぞ……」
「ふぅん、これぐらいのやってはいけないことの区別はわかるんだね」
「ど、ど、ど、どういうつもりで……」「卒業祝だと言ったでしょう」
あからさまに動揺頻りの弟の目に姉の顔がいよいよ恐いものに映り始めていた
姉は己れの服の懐に手を入れ何かを取り出そうとした
その際衣服がはだけて、白い胸の谷間が弟の目の中に飛び込んできた
目が釘付けになっている弟の手は頭の上で両方重ねて姉の取り出した拘束用戦輪で縛り上げられ
さらにベッドの脚にその先を架けられた
手を上げた状態で身動きを封じられた弟の着ているものを姉の手指が剥ぎ取る
弟は姉にやめるよう哀願するものの、姉の手が止むことはなく、
上半身に続いて下半身もズボンを下げられ、ずるりと中身を晒け出させられるのだった
「私が… あの山の中で汚い奴等に見せられたのと大違いね
毛が無くて、こんなに小さくて、皮もかぶってる」
姉は弟のまだ発展途上の男のシンボルをつまみ上げる、その頭の中では書物の中から得た知識が
駆け巡っていた 姉の指がそのまだひ弱な弟のものを捩るように剥き始める
「うぐ! い、いたいよ!ねぇ…さぁん!」
「我慢なさい、今男らしくしてやってるところよ
私ね、こないだまで一人でいるときに色々と本を読み漁ってたの、特によく読んだのは、
男性と女性とのことに関する書物
私はね、何度も死ぬことを考えて、でもやはりやめて どうせ生きるなら、
見るのも聞くのもおぞましい、あの事柄に関して、敢えて立ち向かうことにしたの」
言葉をこぼしながら、まだ自慰すら覚えていない弟を虐げていく
「吐き気がしたわ、いや実際吐いた 取り寄せてもらった書物の絵図を見ただけでね
私はそれでも頁をめくる手を止めはしなかった 生きる限り、何ものにも目を背けてたまるか
その一心だけ」
やがて、剥き終えた弟の一物を手の中で弄ぶ
強烈なひりひりする感覚に顔を顰めっ放しの弟を他所に姉は一度ごくりと唾を飲み込むと
意を決したように顔が降りていった
「わぁ!!」突然生温かい息が股間に吹きかかったと思うや、さらに温かく湿った感触に、
股から生えたものをむぐむぐと包み込まれ、弟は大声をあげながら仰け反った
姉の口の中にすっぽりと含み込まれてしまった弟の一物
…なまぐさい… 頭の中で嫌悪しつつ、姉は書物で読み齧った知識を実践し始めた
「う…! うぅ…! ねぇ!…さん… やめ…てぇ…」
弟は股をもじもじさせながら女の子のような声をあげていた
姉は時折上目遣いでそんな彼の表情を観察する
ぽってりと柔らかく温い口の中で、涎に塗れたひ弱な一物は一丁前にぎんぎんと漲っていく
今まで覚えたことのない強烈な遡上感に襲われる弟
「う! うぁ! なにか! なにかが!… で、でちゃう! う!ぐふぅ!!」
既に頬張ると表現するほど姉の口の中で膨らんだ弟のものは、びくびくっと数度大きく戦慄くと
一気にどっ!と姉の喉奥めがけて猛烈な異臭を伴うネバネバしたものを噴き出した
ごほっ!と一度咳き込む姉、しかし一瞬離れそうになった唇を今一度きゅっと締め上げる
そして弟の精通をしっかりと喉を鳴らして受け止め続けた
(十五)
「ふぅ… どう? どんな気分?」
姉は口元を拭いながら、ようやく初通の嵐が去った弟に初めての射精の感想を尋ねる
「はぁ… はぁ… なんだか…よくわからない… とても気持ちよくなって…
体の底から急にこみあげてきて… 我慢…できなくて… その…
出ちゃった瞬間、その…股間のタマタマと脚の内側がかくかくして…
さらに…ものすごく気持ちよくて…
…ね…姉さん… もう夕食だろう…から だから… いかないと… 手…ほどいてよ…
それから、風呂…入った方が… べたべたで気持ち…悪いよ…」
あまりの混乱で呂律のよく回らない口で、必死に姉に訴えかける弟
子供心にとても恥ずかしいことをしたと感じて、この場から逃げ去りたくてしょうがない
弟の及び腰に姉の影がまた覆い被さる
「ね… 姉さん… なんで…姉さんも…脱ぐの?」「食事も、湯浴びも、全部済んでからよ」
次々と無造作に脱ぎ捨てられ、床の上に布の塊と化していく姉の衣服
弟の零れ落ちそうなほど見開かれた瞳に映る、露になっていく産まれたままの姉の肢体
まだまだ発達途上の少女の体、彼女の動作に合わせて胸の膨らみだけがほろほろんと揺れる
それでも弟の彼の同級生の女の子とは比較にならない
彼からみれば、立派な発育した女の体であった
「あんた、”犯される”って知ってる?」すっかり裸になった姉が弟の鼻面に尋ねる
目の玉が姉の体の上を行ったり来たり頻りの弟の首が横に振られる
「私はね、犯されたの 醜い男どもに そして、今度はあんたが私を犯すの」
姉の胸がゆっくり弟の顔めがけて降りてきた
ぱふっと柔らかなまだやや芯のある膨らみが弟の顔面を包むと同時に、うっ!という
腑抜けた少年の息が零れた
「そして…、そして、私にあのことを… あの事件の恐怖を克服させて、アルィ…」
姉の胸の谷間に弟の鼻が嵌り込んでいた
お転婆で男勝りの姉のにおいと心臓の音と温もりが
姉の裸を目の当たりにして高ぶった弟の頭をさらに逆上せさせる
姉が何を言っているのかなど、もうどうでもいい、とにかく気持ちよくて、何も考えられない
若すぎる少年の想いを呆気なく具体化したその股間、先ほど剥いた皮がまた元通りになってる
にも関わらず、姉の口の中においてよりさらに太く立ち上がっていた
姉は胸を弟の頭から退けると同時に、その勃起した部分に指をかけ、さらに自分の腰を持ち上げて
その上に膝立ちになる
姉は自分の唾液を目一杯手で掬って、自身の股間に塗りたくると、
何が起きるのか興味津々で見守る弟の腰の上にゆっくりと尻を落とし、
ぴたりと弟の先端と自分の入り口をくっつける
男と女の小便を出す場所同士を接着させて何をするのか
瞬きを忘れて目を瞠る弟と、覚悟を意を決した瞳の姉の注視する中、
姉の尻が弟の腰めがけて落ちる、その瞬間、姉の割れ目に沿って弟の勃起が弾き折られる
姉は今一度気を取り直して尻をあげて仕切り直す
今度は指で自らを開き、位置をよく確かめ、弟の先っぽを念入りにそこにぽっくりと宛てがう
う… 互いの体温が伝わり姉弟は揃って短く零した
姉の尻がそろりと落ち始める、姉弟の凝視の交わるところが今度は滑るように嵌まり合った
息をするのも忘れる二人、弟の腰の上に落ちていく姉の尻、二つの股間がぐんぐん距離を縮め
弟から生えたものが姉の体を割くようにその中へずぷずぷと埋まる
やがてまだ毛も生えていない弟の根元と、薄い毛のまばらな姉の割れた入り口がぺたりとへばりつき
遂に姉は弟相手にあの悲痛な時を再現させた
「は…あふぁ…」弟に自らを貫かさせた姉ががくりと肩と頭を垂れる
「ぐ! ぐうぅぅ!! な、なんだぁ…これえぇ!…」一方弟のほうは、
信じられないほど固く太くなってしまった自分の小便を出す部分が、姉の小便するところに
入り込んでしまったという異様な光景の驚きと、そのあまりのぬるぬるとした生温かさに
包み込まれる気持ち良すぎる驚きに大いに唸っていた
「く… ふぅ… あ、あんた… わた… わたしを犯して…くれてるのよ… これ
こ、こんなこと… あんたにしか… たの…たのめ… な…ない……」
体の中に蘇るあの感覚、自分の肉体の内側で他人の肉体の体温が痛々しいほど熱く脈打つ
あいつらの所為で生娘ではない、初めて馬車の中で貫かれた時のような体をばらばらに
裂かれるような衝撃こそない
それでも、眼下に気持ちよすぎてだらしなく綻んだ男の顔
性欲に歪んだ血走った目と涎を滲ませた歪んだ口元
「あ… あんたも… あんたでも、そんな… そんな顔…するんだ わ… わたしの…体…
あい… あいつらが… いっ…言ってた…みたい…に た…”たまんねえぇ”…の?
そ… そうなの?…」
あの山賊どもと似たような表情を浮かべる弟に対し沸き起こる殺意
それを握り潰すように、弟の首に手をかけたい衝動を彼の頭を抱きしめることで必死に紛らわせる
そして姉はぐっと歯を噛み締めながら、尻を上下に動かし始める
…んあ! んはぁ! ね!ねえさぁ…ん! また! また! なにか…でちゃううぅ!…
姉の膣に扱かれ弟の嵌り込んだものは再び剥けていっていた
姉弟の粘膜が練りあうように擦り合う、姉の肉体が織りなす快感の波が弟の頭を沸かせ
彼の体内に再来するあの気持ちいい遡上感
そして間もなくあの、どばっ!どくどくっ…という爆発的な放出感と嚢と内股ががくがくする
圧倒的な達成感を姉の体に挿し込んだ形で味わうことになった
「あ… あぁ… わた… わたし… し…子宮… ”子宮に子種をぶち… こまれてる” …のね」
下から必死に自分で腰を押し付けて、貪欲に実の姉に覚えたての射精を行う
弟の顔を姉は見つめ続ける
やがて姉は、弟の腰から完全に力が抜けたのを見計らい、いくらか痺れた腰を持ち上げた
…まけるものか!…あの時さんざん拝まさせられたのと同じ、泡立った汚濁をどろりと垂れ流す
己れの股間を覗き見ながらハナェはきっ!と唇を噛み締めた
(十六)
ロブロジェ=アルィの部屋のポータル扉には厳重に錠が架けられていた
ごちゃごちゃと散乱する玩具に紛れて、青々とした少年少女の素っ裸がぺったりと戯れていた
初めて二人が行為に及んで以来、度々繰り替えされる所業
昨日は姉の部屋で彼女のベッドで行った、今日は弟の部屋で玩具に囲まれて催される
子供部屋の真ん中で、弟は姉を裸に剥いてのし掛かり、唇を吸い、胸を揉みしだき、
己れの性器を口に咥えさせる、姉に精飲させたのち、今度は彼女の性器と肛門を弄りながら
再び勃起の時を待つ、そして頃合いをみて…
「ねえさ… あっ、あねきぃ! ぶっ! ぶち込んでやるうぅ!!」
弟の迫力のない台詞とともに始まる挿入
「は! はいっていくぜぇ! た、たまんぬぇぇ」
姉に覚えさせられた台詞を吐きながら、ずんずんとその張本人の体の奥まで嵌め込んでいく
これまで何度も繰り返してきた、アルィがハナェを犯している形の一連のシナリオ
そして始まった、まだまだ未熟な姉少女と未熟すぎる弟少年の禁断の戯れ
はっ! はっ! あっ! はっ!… 少年少女の熱っぽい吐息が入り混じって部屋に流れる
ハナェとアルィの若さに任せた勢いだけの拙い性交
汗と息を弾ませる青い肌から一丁前に奏でられる淫らな音色、
周囲で見守る玩具やガラクタ達とともに重なり合った瑞々しい肉体は揺れ蠢く
弟の痩せた体が、寝そべった姉の二回りも大きな体の上を果敢に行き来し、
姉の豊満さが微かに増した胸の膨らみと弟の薄い胸板が揉み合って汗を塗りつけ合う
「ん! んぅ! んぁ! あっ!」弟に深く合体される度、こぼれ出る姉の嗚咽
初めて交わった時とは比べるべくもないほど甘さを滲ませ、その肉体も解れて、
彼の精一杯の突き動きに、潤い溢れさせて応えていた
そんな心地良さの満ちた姉の中で、弟はいよいよ達しようとしていた
「く! くぅ! ね! ねえさ!… もう! もう! で!出ちゃうぞ!」
「ん! んは… あ! アルィ… せっ…ぷ せっぷんして… せっぷん…しながら!」
「ねぇ! ねええさんん!」
「ある…ふぃ! んむぅ! ふぬぐぅ!うぅ………」
まったく同じ目鼻立ちががっぷりと口と口を咥え合わせる
溶けて混ざりあいそうなほど抱きしめあい、びくびくと震えながら最高の快楽の時を刻む
弟の逞しさを増した勃起が姉の粘膜の坩堝の奥で叩きつけるように熱い精を注ぎ込んでいた
かつて男女の営みを無理矢理覚えさせられた姉の体の奥底、弟によって耕し直され、
こんこんと潤った所に勢いよく迸る彼の精液でじんわりと拭われる感覚に子宮が
震えるような思いに駆られていた
…あ…ふぁ…ぁん… 覚え立ての性の絶頂の圧倒的な快感にハナェは喘ぎ声を漏らす
弟とへばりつく口元からだらだら涎を溢れ出して二つの顎を泡沫塗れにしていた
「ふぅ ふぅ ね、姉さん… きもち…よかった」
「あぁ はぁ あ、アルィ… よ、よかった…ね」
「ふぅ ふぅ まだ… 抜くの… 惜しい……」
そう言いながらも弟は姉の体からかったるそうに抜けていく
姉妹の粘膜から二人が最後まで愉しみ抜いた名残りがつーんと糸を引き
姉の体内からとろりと溢れ落ちる生臭い汁塊と共に子供部屋の床に泡立つ染みを
広げていくのを興奮冷めやらぬ眼差し達が見つめ続けていた
(十七)
…このままじゃ、いけない…… やがて姉の側から罪悪感が生じ始める
次第に弟を呼びつけることも、彼の部屋を訪ねることもしなくなる
「姉さん、最近冷たいな…」「…そうかな」姉が暗に避けるようにしても
弟は構わずやって来て、部屋の前で待ち伏せていたりするようになった
姉にとって、男性とのあらゆることを恐れないよう克服するという当初の目的は
粗方達成されていた
しかし弟に自分が男女の行いを教え込んでしまった思いから、
弟の期待に輝く目を裏切ることも出来ず、ずるずると禁断の戯れは続く
だがしかし、背徳心は日増しに膨らんでゆき、ある時遂に姉は意を決して、
このような行為はやめようと弟に宣言した
身勝手に初め、そしてまた自分の身勝手で終わらすことに姉は弟に深々と頭を下げて詫びた
当の弟は一瞬呆気に取られたものの、あっさりと承諾
数ヶ月の間続いた姉弟の禁断情事はいとも呆気なく終止符を打った
しかし事件が起こったのはその直後のことであった
ロブロジェ伯爵の子息アルィは街の女性の部屋に侵入しているところを補導されたのだ
補導といっても、それを実行したのは伯爵の私兵であり、伯爵長女フスェが操る街の監視網に
異様な行動に及ぶ弟の姿が捉えられ、連絡を受けた私兵が急行補導したというもの
家族による彼への尋問によって近親相姦が発覚
伯爵次女のハナェは母親に呼ばれ、猛烈な叱責にさらされたのだった
厩ヒルズ邸内の監視が強まったのもこれ以降のことである
「姉貴ばかり責められて… 他人の家に不法侵入したのは俺だったのに」
「あんたはまだ子供だったでしょ
あんたの忍び込んだ家、確か初等学校の若い女の先生の家だったわよね」
「行ったら鍵が閉まってて、隣のアパートから屋根伝いに上の階に行ってみたら、
小さな天窓に鍵がかかってなかったら入り込んだんだ
で、帰宅を待ってお願いしようと思ってた… まったく思い出すだに恥ずかしくなるよ」
そして数年経って、今度は弟が肉親と肉体関係を持ってしまっていたことに苦悩を覚えはじめる
男としての自覚が芽生え始めると、姉に玩具にされたという思いが急に立ち上がり、
何かと姉達に突っかかるようになる
ハナェはこの事件以降、武術鍛錬に異常なほど熱意を注ぎ、才能を開花させて
ロブ伯私兵の猛者どもをして敵う相手は殆どいないほどの戦士に成長する
アルィも剣技の修行を始めるものの、組手でハナェにあしらわれ続ける日々、
そして次第に街の外へ冒険修行と称する外出が増えていくのであった
姉弟の間にしばし沈黙が流れる
やがて姉の方が先に口を開く「ほろ苦いわね」
耳を穿りながら弟が言葉を返す「どこらへんが?」
「あんたにかわいい恋人出来てほんとによかった♪」
ゆっくりと立ち上がりざまに姉から温かな笑みが零れ出た
(二十二話おわり)
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