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(一)
演習場の一角、ロブロジェ私兵団一番組隊士どもが
実戦演習後の余興として、格闘の手合わせを行っていた
青い水霧を散らすバスタード剣を構える組頭プアザン
刃は高圧の水流、術体刃での斬撃を最優先させるべく
鋳造鍛造の段階から特別な加工がなされている
このヒルズの職人による発明品である
彼に対するは、ミノタウロスの巨漢ラキシュ
「何時でもかかってくるがよい」
しゅぅしゅぅと蒸気を立てる角の巨漢にプアザンが声かける
囲んで見守る面々は固唾を飲む
「おおさぁ!! バラバラにしてくれるわぁ!!」
いよいよ赤い陽炎が角の上にもやもやと立ち昇る
ラキシュは手で己れの角を掴み、その陽炎を手に乗り移らせた
バカでかい拳が燃え上がるように真っ赤に染まる
そして猛然と巨体が突進してきた
プアザンが己れの頭上に剣を翳し、ぐるりと円を描くように
振るう、剣から発する青い冷たい術気の霧が広がり
彼の姿を見えなくする
ラキシュの高熱の拳が霧を一瞬にして蒸発させる、
しかしプアザンは巨漢の頭を踏み台にして跳躍、水流を纏った
剣先を振り下ろしていた
ジュワアアア!! 熱気と水気がぶつかり猛烈な蒸気が
爆発したかのように噴き上がった
ラキシュの拳の陽炎が彼自身の体を覆うほど大きな盾に変じて
鉄さえ切り裂く高圧水流の刃を吹き飛ばしていた
「そのていどの噴水ごとき!俺の焼けゲンコツの前じゃああ
ガキの寝小便と変わらんわああ!!」
プアザンは既に剣を引き、後方へ跳んで体勢の立て直しに
かかっていた
「俺の頭をよくも足蹴にしてくれたな組頭ぁ!!
今度はその自慢の剣ごと叩き折ってくれるぞぉ!!」
ますます粋上がり鼻や口からまでも蒸気を立てるミノタウロス
その形相たるやまるで地獄絵図によく描かれる、囚人を痛ぶる
赤身巨身の獄卒そのままの風情
「角で攻めてはこないんだね」
セライアがこそりと脇にいるハナェに尋ねる
「当たり前だろ! ラキが直に角を使うのは大型魔物とか
同じ巨人相手の時だけさ!
小さい人相手じゃ、頭を下げすぎなきゃいけねえから
不利になるだろ、そんなこともわからねえのかよ
紫目玉の竹馬女!!」
ハナェが答えるより先に、団員でもないのに何故か混ざってる
エーズリが偉そうに答える
実際セライアにはわかっていたのだが、何となく口に出て
しまっただけのことだった
むっとしながらも、ここは胸の中に収める
そうしてる間にもプアザン組頭とラキシュの勝負は山を
越えていた
「ふふん、組頭 ここの赤術気がもっと濃ければ
お主の剣も戦衣も焼き払ってくれるものを」
「それはこちらとて同じ、海か川の近くならば
今頃貴様はその自慢の角とおさらばしていたところだ
…しかし、今回のところは貴様の勝ちということでよかろう」
ミノタウロスの熱気でついた自分の服の焦げ目と、相手の服の
こちらの水流刀での切れ目を見比べてプアザンは判定を述べた
「なんだ、もうやめか 物足りんなあ」
「わかったよ、まったく 私の顔ちらちら見ちゃって
相手したげるじゃないの」
ラキシュのわざとらしい目配せに応えるのはその視線の
先にいたハナェであった
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(二)
ハナェは針金を環状に丸めたような代物の束を取り出し
手早く手足に巻いて、残りの分を両手に持つ
彼女が念を込めること一瞬、手に持った環と手足に巻いた
環が稲妻を帯びたかと思うや、すぅと透過して見えなくなった
「よく見ていてくださいセラ姐さん、勝負は瞬く間につきます」
飛び歯車のハナェの術技を始めて目の当たりにするセライアに
隣からフィラーがぼそりと声かけた
目の前で蒸気を発し、いよいよ攻勢に移ろうとする角の巨漢
女戦士はそいつ目がけて手持ちの透過物体を投げつけた
と同時に自分もだっ!と跳躍する
”はやい! そして宙を飛んでる!”観戦者の瞬き一つ、
弾けるように飛び上がったハナェは、角から立ち上がる陽炎を
乗り移させたばかりのラキシュの巨大な腕と足めがけて
懐から取り出したまた別の何かを投げつけていた
「させるかあ!!」ラキシュは身を捩るようにして、
己れに投げつけられた物体をすべて弾き飛ばした…
かのように見えた
巨体の死角から投げられていた物体が大男の足首に命中する
と同時に、稲妻が放出されて、ラキシュの足をぐるりと
取り巻いた
「ぐおおお!!」強烈な電流が巨漢の足を痺れさせる
ラキシュはそれでも尚、もがくように身を捩り腕に灯った
炎を自分の足首に投げつけ、これを破壊する
しかし、その時には反対側の足首と手首と肘にも稲妻の環が
取り付いてた
「ぐう!ぬおお…まだまだぁ…」
尚も抵抗を見せようとする巨漢にハナェは次々と拘束用の
電流戦輪を投げつけていく
巨漢の手足や首にも太さに合わせて電流が環状に放出される
電気錠を次々嵌められ、ついに身動きを完全に封じられる
「ぐぅ… またしても…無念…」巨木が朽ちるように倒れ
地響きを残して動かなくなるミノタウロス
その傍らにすとんとハナェが軽やかに降り立つのだった
「あんたね、私の俊敏について来れないのわかってるんだから
せめて装備工夫しなさいな
まあ少々、電気対策したくらいじゃ無駄だけどね」
「お… おのれぇ……」
最初にハナェが投げつけた透過物質は彼女の念波で設定した
空間に止まり、彼女はそれを足場にして跳躍、
彼女の手足に巻いた同物質が触れると反発する性質を利用して
ムササビのような跳躍を実現していたのだ
「相変わらず、容赦ねえなハナェ姉様はよ…」弟のアルィが呟く
「アルィ、当たり前だろ、訓練だぞ 実戦ならこっちの
正真正銘”飛び歯車”でズタズタにしてるところだ」
ハナェはズボンの中から歯車状の戦輪を取り出し、
指でくるくると弄んでみせる
しかし、そう言いつつも対戦の度に消費する戦輪の数が
増えていっていることも気にかけていた
…私の動きに少しずつ慣れて来てる?
それとも電撃に耐性がついていってる?
いずれにしても、私もさらに上達していかないとじきに
やられちゃうかも…
胸に秘めた思いなど微塵も表面には覗かせず、弟に向けて
ちょいちょいと指で誘いをかける
「さて、それじゃあ今度は、あんたが私の相手してみるかい?」
「そなたの相手は私だ、ハナェお嬢様」
横からいきなり割り込んで来たのはプアザン組頭であった
「な?!なんで、あなたが出てくるのよ!」
「度重なる外出規程違反、物品の紛失過多、目に余るゆえ
少し懲らしめ致すよう、フスェ秘書殿よりのお達しを受けて
おるので」冷徹な視線がバスタード剣をぎらりと抜き払う
「冗談じゃないわ!その都度、懲罰なら受けてるじゃないの!」
「棟梁家の者であればこそゆえ、示しがつかないのだとの
仰せでございました」
「うぐぅ… 姉上の石頭め…」
術能相性の悪い相手に表情を曇らせるハナェ
しかし彼女もここでの立場はプアザンの一介の部下である
ハナェは覚悟を決めて再び念を練り始めるのであった
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(三)
あちこち切り裂かれた戦衣を纏わりつかせ、くたびれ顔の
女戦士がバスタード剣の長身剣士を睨む
「はぁ… まったく、完膚なきまでやられちゃったわね…」
地面には、プアザンの剣で作り出す水壁によって
帯びた電気をすべて地中に放電させられ、
ただの鉄輪と化したハナェの戦輪が幾つも転がっていた
「ハナェお嬢、どこへゆくか、まだ解散指示は出していないぞ
勝手にこの場を離れることは許さん」
着替えのために勝手に演習場を後にしようとしたハナェに
プアザン組頭の声が追い討ちをかける
腹立ち顔に変じたハナェは踵を返して観戦者のほうを向く
「すっかり、組頭に辱められてしまったわ…
こら!アルィ! あんたが姉上の仇を討ちなさい!」
アルィは視線を反らし聞こえない振りを装う
「だらしないやつらだね! 隊の姐さまがこんな目に
合わされたいうに、悪漢プアザンを討とうとする勇士は
おらぬのか!!」
ほとんどの者が彼女の弟同様視線を反らし、人によっては
無様な姿の姉御肌にぷっと口の中で吹き出していた
「俺が行きますよ、ハナェ姐」
長身の剣士がさっと一歩前に歩み出てみせる
「おっ!フィラーか 期待の新人君、頑張ってみせろ」
ハナェはぽんと彼の腰を押して送り出してやる
つかつかと歩み寄ってくるフィラーに対し、プアザンは剣を
鞘に収める
「構わずかかってくるがよい、だいぶ術気を消費してはいるが
貴様ごとき相手では問題なかろう」
表情一つ変えず若者を愚弄してみせる組頭に、若者の目の光が
緊張から闘志の色に変わる
「貴様は遠慮なく抜いて来るがいい、
私に剣を抜かせたなら、こないだよりは上出来だといえる」
「言われなくとも!」
フィラーは妻から譲られたグラディウスベースの七星剣を
抜き放ちつつ、弾けるように地面を蹴った
剣身が紫色の術光を帯びた六本の刃を出現させ合計七本の斬撃と
なって斬りつける
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「姉貴の斬撃と色が違う、青紫だ」
フィラーの発する術刃を見てセライアは彼に青色属性も併せ持つ
ことを察する
しかし七本の斬撃はプアザン組頭に軽々とかわされていた
「剣が短すぎるよなあ、まあ未熟なのもあるけどさ」
ゾインの弁、ラジュアリが続いて口を開く
「剣の短すぎは理由にならんぜ、その分あの野郎は腕が長え
それにしてもあいつまた背が伸びてねえか?」
「月に一糎以上育ってるって
ここに来た頃はうちの組頭と同じくらいだったのに
今は彼のほうがどう見ても大きいわね」
ハナェの弁、クーパーがめんどくさそうに口を開く
「あれで女房とガキがいるんだからなあ
なんかすげえ年上の別嬪女房だって話じゃねえ?
その彼女にしてみりゃあ、子供が二人に増えるような
ものだあなぁ」
「フィラー、かっこいいのに、残念…」
どさくさに紛れてエーズリが口こぼした
「ネエ!ネ、ダーリン! ワチキ達モハヤク子供
デキタライイネ!」
背後からツァロロがアルィに囁きかける
「…静かにみてろ」
周囲が一斉にくすくすと含み笑いし出す中
振り返ることもせず、ぶっきらぼうに答えるアルィであった
そしてその直後、面々の顔の表情ががらりと変貌する
格闘中のフィラーが斬撃の直後に放った強烈な蹴り
避けたはずのプアザンの髪をほんの微か、フィラーの足から
伸びた術刃が掠ったからだ
「脚剣術だ、そういえばフィラーのやつ最近脚に
付け始めてたな
あいつが団員になってからアッサジ四番組頭は一度も
ここに戻って来てないよな、誰に指導受けたんだ?
まさか独学か?」
「すげえ奴だな、鬣の奴等もこれが何時までも会得出来なくて
有段者になれない奴がごまんといるってのに」
「鬣の脚剣は奴等の武踊の一部、道具が特殊で門外不出の
特異技術、奴等自身が脚剣とは言わない
今、フィラーがやってるのは北聖王国の国技流の動きだな」
「でもまだまだだ、二発目以降は当たらないぞ」
「いやわからん、動きに鋭さが増していってる」
フィラーの蹴撃、脚につけた内臓プロテクターから脚を振る度
術刃が伸びてプアザンに襲いかかる
剣での斬撃とのコンビネーションは粗さがあるものの、
かの組頭を防戦一方に陥れていた
そして遂にプアザンは腰の剣に手をやる、
鞘から剣が抜かれたや否や、フィラーの脚に付けた
プロテクターが切り裂かれて宙に舞った
そして攻撃のリズムを狂わされたフィラー目がけてプアザンは
突進、剣の束で相手の腹に思い切り当て身を食らわした
「ぐわっ!!」吹っ飛ばされて地面に腰から落ちるフィラー
一瞬演習場を静寂が吹き抜ける
「中々見事であったフィラー、まんまとこの俺から剣を
抜かせたな 貴様が進歩していることを認めよう
また手合わせしたくば来るがよい」
静寂を破ったのは部下に対するプアザンなりの労いの
言葉であった
「…仇討てませんでしたハナェ姐さま、すんません」
頭を掻きながら戻ってきたフィラーをハナェも労う
「そんなの期待してるわけないだろ、十年早いよ
それでもすごい進歩してるねあんた、末恐ろしいやつ♪」
セライアも想像以上に強くなってるフィラーに思わず
驚きの視線をじっと浴びせ続けてしまっていた
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「いいな、フィラーは 年増の女房なんか離縁して
あたしとくっ付いてくれないかなあ」
エーズリもまたフィラーを乙女チックな視線で見つめる
「なんか赤鼻饅頭が皮まで赤くなってやがるぞ」
背後からセライアの声が降りかかる
一瞬にして険悪な空気が二人の間に燃え上がる
赤鼻娘が振り返りながら、歪めた口を開く
「うるせーやつだな、紫目玉の蜘蛛女!
顔が似てても性格は全然フィラーと段違いだな!
大体てめー、ジェロ公とできてるって話じゃねーか
あんな短足愚図野郎のどこがいいんだよ!」
「大きなお世話だよこの人型饅頭
おまえこそ始めて見たときはオークかと思っちまった
大体、なんで部外者のおまえがここにいるんだ
風呂場がおまえの持ち場だろうが」
「なんだと!蜘蛛女!あたしだって、あと一年もすれば
団入りしてやらあ!今はその視察だぞ!
それと誰がオークだよ!てめえのほうこそオーク男と
ねんねんごろごろしてりゃいいだろ!
ゲテモノ好きのあんたは、短足ジェロなんかより
そっちのほうが余計満足できるんじゃねえか?!」
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「短足、短足って、よくもまあてめえのこと棚にあげて
言えるもんだな
てめえから比べたら、オークのほうがよっぽど容姿端麗…
うわっ!!」
低劣な罵り合いに過熱する娘二人の背後からいきなり手が
のそりと伸びてきて、二人は頭を掴まれた
「もう訓練は終わりだ、おめえら」
白オークのクーパーの手が掴んだセライアとエーズリの頭を
ごつごつと打ち付け合わせる
「うぐ!んぐ!…」うめき声をあげる二人にクーパーの
めんどくさげな説諭が降り掛かる
「おめえらな、口の利き方には注意しとけよ
さもねえってえと、目から火花パチパチすることに
なるわけだからよ」
「いぎぎぎぎぃ!!」額の打ち付け合いから貼り合わされた
頭部のこめかみを拳でぐりぐりやられる刑に処される二人
「あんまり舐めた態度が改まらないようなら、しまいには、
おいらの寝室に引きずっていって一晩抱き枕の刑だから
わかったかな? おめえら」
「う…ぎいぃ… ど…かん…べん」
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(四)
「よっ、フィラー ちょいといいかい?」
「あっ、セライア姐、よくここにいるってわかりましたね
何か用すか?」
「うん、その脚剣というの、見せてもらっていいか?」
夜の演習場の片隅でひとり鍛錬に励むフィラーに
セライアが声をかける
「ほぉ、これが脚剣か、…何だか動き辛いかな」
「それはそうっすよ、本来なら装着者の脚に合わせて
オーダーする代物っすからね
俺のこれも、訓練用の借り物ですからフィットしてるとは
言い難いっすけど、姐さんの場合長身女性だから尚更…
本場北聖王国の女戦士は皆小柄ですからね
アマゾネスにも流派はありますが、指南書はここには
ないようです」
フィラーの解説をよそに、セライアは彼から受け取った
術刃内臓のプロテクター付きの脚で空を切ってみる
しかし刃が飛び出すことはなかった
脚の筋肉の一本に念波を流して、刃の出る方向と長さを
調節するという予め指南書から読んできた知識を活用
しているつもりだが、そう容易く実現出来るものではない
「むずかしいな…」
「当たり前ですよ、取りあえず踵の脇からまっすぐ剣を
脚の延長として伸ばすには、脹脛から踵にかけての筋を…」
フィラーの脚を指し示しながらの説明を聞きながら、
セライアは何とか呼吸とコツを掴もうとする
そして蹴りで空を切ること数百回、一瞬、シュン!とこれまでと
異なる音色が空を切った
「あ?! 今、少し光りましたね!」「うん!こうか!」
もう一度今の感覚のつもりで蹴りを放ってみる
しかし、これ以前と同様の空切り音が夜の空気を
横切るだけだった
セライアはさらに空を蹴りまくる、しかし変化はなし
「まぐれだったか… さすがに脚がだるくなってきたね…」
「がむしゃらにやればいいってものでも無いですよ」
プロテクターを外し、疲れた脚を休ませる
「飲み物ありますよ」「あぁ、それならあたしも持ってきてる」
セライアはブーツも脱ぎ捨て、自分の脚をマッサージしながら
水筒の中身をぐっとラッパ飲みした
「しかしフィラー、おまえほんとに強くなってるんで
驚いちまった、他の連中もあと一年もしたらとんでもない
化け物になるかもしれないって言ってたぜ」
「やめてください、俺は魔物じゃないっすよ
強くならなきゃいけないですから、家族の為にも
しかし、姐さんもすっかりここの暮らしが板について
きてますね」
「まあ、小煩いところはあるものの、周りは割と気のいい
者たちばかりだからな
おまえはここにずっといて骨を埋めるつもりなのか?」
「先のことはわかりません、それでも俺に期待してくれて
気遣ってくれる人達がたくさんいる
これまでの人生で始めてです、否が応でも高揚してきますよ
この方達や仲間の為ならどんなことでもしてやろうという
気分になるというものです」
「爽やかに言いきるね」
「当然です
しかし姐さん、周りは気のいい者たちばかりといいながら
エーズリとは喧嘩ばかりしてますね」
セライアは顔を顰める、顰めながらも愉快そうな笑みを
口元からこぼす
「気安いさ、本来なら頭領の娘でお嬢様呼ばわりしなきゃ
ならない相手だろ
ところが、頭領自身でさえデブのハゲ親父呼ばわり
伯爵様のご令嬢とご子息さえ殆どタメ口と来てる
あたしの生まれ育った街にも市長の伯爵一家はいたけど
えらい違いだよ」
「伯爵ご自身が風来坊の旦那呼ばわりされてるのを
誰かに聞かれても全然気にもなさらないようなお人らしい
ですからね
こちらに居られた時には、二階ラウンジのテーブル脇に
椅子並べた上でうたた寝してることがよくあるような
方だそうです」
フィラーの横顔をじっと見つめるセライア
「あんたさ、何となく将来、ここの組頭か下手すれば
頭領にでもなれそうだね」
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(五)
唐突なセライアの物言いに思わず照れ笑いを作るフィラー
「…いきなり、何を言い出すんすか」
「そのくらい出世すれば、姉貴も喜ぶんじゃないかと
そう感じただけだ、やるからにはそれくらい目指さないとね」
「今の俺の状況からですと……何とも先の長い話です」
「見てくれは悪くないよ、年取って風格が加われば
恰好はつきそうななりと顔立ちはしてる
今だって街で女にもてるそうじゃないか」
「勘弁してくださいよ… て、うわっ!」
いきなりセライアの手が伸びてきて、フィラーは股間を
まさぐられる
「少しはつまみ食いしてるのかい?」
「ば… バカなこといわんでください… というか
こういう冗談はやめてくださいよ…
大体俺ら、今はもう義理の家族なわけだから…」
たじろぐ義理の兄弟を見つめるセライアの紫の瞳、
義姉妹の視線は悪戯っぽく妖しげな光を宿していた
「何を焦っておいでだい? 義理のおに・い・さ・ま」
「ふざけすぎですよ、まったく…」
フィラーはセライアの手をどけようとした、その時
今度はすっ…とセライアの身がフィラーの顔めがけて
伸び上がって来た
ん!… 同時に漏れる吐息をせき止め合う詰ったような声
そしてカチッと歯と歯が接触する音、年下の義兄の口は
年上の義妹の口にまんまとへばりつかれていた
離れようと頭を引こうとするフィラー、
しかしセライアの腕が首に巻きつくほうが早かった
接吻相手の首を捕えたことで、セライアの唇は
へばりついた状態を少し緩める
接触した歯が離れ、代わりに舌が伸びてきた
…ふぃらぁ、くちひらきな… ぬらぬらとセライアの舌が
フィラーの歯茎を舐め回す
突然間近で漂う彼女の香りとくすぐったさに堪えきれず
フィラーはうっすらと口を開き始める
咥えあっていく義理の兄妹の唇と唇、年下兄の口の中に
年上妹の懐かしい舌の味がずるりと潜り込んでいった
…ねぇ…すぁん… んふふ…ふぃら………
くちゃくちゃと舌を絡ませあって唾を飛ばしあう音が
演習場に響き出す
「ふふぅ… どうだい?わたしの唇と舌の味…
懐かしいだろ?…」
「はぁはぁ… セラ…姐さん… なんて…ことを…」
ねとりと口元を繋ぐ唾液の糸をひきながらやや荒くなった
吐息をふきかけあう義理の兄妹
「あの洞窟でのこと…
もっと思い出そうじゃないか…ねぇ」
既にフィラーはセライアに地面に押し倒されていた
再び彼女の顔が降りてきて彼の顔に重なり合う
引いていた唾液の糸は二人の口の中に吸い取られ、ぐちゅっ
ぐちゃり…と咥えあった口の中で攪拌される音が響き出す
さっきよりさらに深く熱烈に唇をがっぷりと咥えあわせた
たっぷりと舌同士を絡ませあった後
セライアはフィラーに舌を突き出させフェラチオの要領で
ぢゅぷぢゅぷと吸い立てた
「ふふ… あんたもこれをさんざん姉貴にやられたくちだね
それじゃ、今度は私があんたにやられる番…」
セライアはさんざんしごきあげたフィラーの舌を唇から離すと
今度は己れの舌をフィラーの口の中にたらし込む
ぢゅぷ! ぢゅりゅぅ! …ん… んふ…ぅ…
フィラーに舌を吸われて、甘い鼻息を吹きこぼすセライア
しかしその手は休んではいない
ごそごそと動き回り、年下の義兄の着ているものを器用に
取り去っていっていた
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(六)
「や… やめてください… あ、姐さん…」
「ん? 何をだい? それにしても、こっちも随分逞しく…」
妻に対する貞操と情欲の狭間で苦しげな息を吐く素肌の
フィラーに、セライアはのんびりと取り付いて、片方の手で
せっせと股間のものを扱きあげつつ、もう一方の手は彼の
胸板の上に頬杖ついて彼の表情を楽しげに観察している
「私の手で大きく育ったよフィラー…」
セライアは、いつの間にか自分よりすっかり背の伸びた
かつての舎弟二号、現在義理の年下兄の体を這い降りる
「あ、姐さん、ほんとにやめてくれ… お!ぅ…」
女の手指で淫らに弄られた若い男根は、今度は女の口が
交代して熱く甘い息を吹きかけてきた
ちゅっ!とセライアはフィラーの先端に口付けたあと
大きく口を開いて頭を沈めていった
「う! わぁ…」女の熱く蕩ける口の中に頬張られて
フィラーの長身すべてが戦慄きながら仰け反らされる
伴侶の妊娠が発覚して以降、ストイックな暮らしぶりが
続いていた彼にとって、抗し難い刺激
彼には予測できていた、この夜の演習場でセライアと
二人きりでいることの行く末を
予測していながら、振り払う手を何一つ打たなかった
そして今、なるべくしてその状況を迎えていた
心の底で、まさかと思いつつ、期待していたのか
むぐ… んぐ… 股間でセライアの口による愛撫は続く
敏感な亀頭の先を頬の内側で擦られ、長い舌が
たっぷりと帯びた唾液をべちゃねちゃと竿に塗りたくる
窄んだ唇と軽く当てた歯が強弱交えながら淫らに上下し
咥え込まれた男の口から情けない嗚咽を吐き出させる
「う… うぉ… あ…あね…さん… もぉ…」
フィラーは義理の年上妹の口の中で久しぶりの放出を
爆発させるのだった
「うっ! …ぷ …ごほ」一瞬咽せつつも、しっかりと
喉まで咥え込み、義理の兄となったかつての舎弟分の
男らしさを増した精の味をセライアはごくごくと受け止める
ぎゅっと唇で根元を揉むようにして、たっぷりと吸い出した
のち、ようやく彼を解放した
「…ふぅ、飲みきれないほど出しやがったね」
口から白いねばった涎を垂らしながらにやりと微笑む
そして彼の手を取って己れの胸に押し付けてみせる
「さて、それじゃ今度はあんたの番だ
…あれから、姉貴にどれだけ鍛えられたか
ちょっと、見せてみな…」
ぐっと腰を、長い脚を捩って見せる長身の肩の上で
真紫の瞳がぎらつくような淫靡な光を浮かべ、
その下でふふんと鼻を鳴らす
年上義妹は年下義兄を引きずり込むように妖しく誘った
|
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(七)
「うぅ… 姐さん… 俺は、俺はダメなやつだ…
ふぐ…んぐ」
夜の演習地、生い茂る牧草の上に投げ出された長大な女の裸身
若いやはり裸の男が、女の伸びやかに柔軟な胸の膨らみに
吸い付きながら情けない声をこぼす
「ふふ…ん? 何が…ダメなんだい?」
胸を吸われ甘い鼻息混じりの年上義妹の声が、
乳房に顔を埋める年下義兄の頭に吹きかかる
「け…結局、こんなこと… 二度と…浮気しないと
誓ったはずなのに… よりによって、妻の姉妹と…」
フィラーはかつて自分が顔を埋めたことのある代物より
明らかに一回りたわわさを増した柔軟な膨らみをしつこく
鼻と口で揉みくちゃにしつつ、その手はセライアの下半身に
取り付き太股から股間を撫ぜ回していた
「んん? 二度と? それじゃ、姉貴とくっついた後
誰かとやったのかい?」
あの時とは比較にならないほど上手くなったフィラーの
指使いにセライアは腰から下をもじもじさせながら
艶混じりの問いをまた彼の頭に吹きかける
「…うん… 二月前、聖堂の…看護婦と…
話が弾んで、つい… 速攻でママさんにバレて
怒られはしなかったけど… でも、眼は怒ってた…
それで、俺は…もう彼女を悲しませないと誓ったのに…
男として失格だ…」
縋り付き合う、本物の姉弟以上に瓜二つの顔の男女
一方の顔がようやく胸から離れ、締まった女の腹を舌先で
なぞりながら下へ降りていく、そして今度は股間へ潜り込んだ
「ふ… ふん、そ…そうかい、
それなら今男らしさを見せてくれればいいさ」
指使いだけでなく、女の啜り方もすっかり馴れたふうな
自分と同じ人相を持つ頭を長い脚で、ぐっと巻きしめながら
一段甘みを増した挑発的な鼻声を夜空に散らす
するとセライアの下半身からフィラーの上体が立ち上がった
「姐さん! 姐さんはそうやっていつもからかい口調!
始めての時と全然一緒だ! くそっ!許せない!」
セライアの体の上を滑り上がってきた彼女の液塗れの
フィラーの顔が挑発的な視線を潤ませたセライアの顔に
興奮の息を浴びせかけた
「許してくれなくていいよ、フィラー
さあ、もっと…来てみな」
興奮を宿した釣り上がった真紫の瞳が睨み合う
同じ顔の女の側が脚をわざとらしく開きつつ、
脱力してみせる
あの時よりもずっと筋骨隆々となった同じ顔の男の腕が
それをがっしりと組み伏せ、己れの堅く戦慄く屹立を
ぴたりと彼女の甘く解れた中心に突き立てた
ざわりと地べたに生い茂った牧草がその上で寝そべる人間の
肌の滑る動きで波打った
セライアを貫き始めるフィラー
ん…は… 二人して同じ調子の淀んだ息を吐き
義理の家族たる男女の肉体が結合の禁を犯してゆく
セライアの体の奥がずんずんとフィラーの戦慄きに
充たされていき、年下の義兄の逞しい怒張ぶりを
年上の義妹はその肉体の中に深々と受け入れていった
(八)
星光に濡れる牧草の上で、ざわりざわりと重なって蠢く
一対の男女の影
男にしてはきめの細かい肌が、しっとりと弾む女の
柔らかい肌と揉み合う
「いぃ… いいよぉ、フィラぁ… あっ… あぁ…」
かつて自分が男にした、今は姉の夫となった男との
あの時ぶりの抱擁をセライアは心の奥から享受する証の
甘く切なげな吐息を、自らに歓びを与える彼に吹きかける
「あ… 姐さん、どう…ですか? あの… あの頃と
比較… して」
「あ…ん う…ん いぃ… すごく
り、立派に… なりやがっ…たね …こいつ」
「そう… すか じゃぁ… もっと強く… 抱きます」
年下義兄の年上義妹を突き捏ね上げる力が一段熱を帯びる
「はぁ! あはぁ!…」不敵な妻の妹から吹き上がる
淫靡な喘ぎが己を抱く力強さに応えて甲高さを増した
全身を貫き、駆け巡る快感の波、うっとりと潤む
セライアの瞳に己を刻み捲るフィラーの顔が映る
彼女同様、性の快感に没頭しつつも、まだまだ余裕をも
感じさせる彼の表情
…あ! 姉貴と… こん! こんな…ふぅに
やっ! やってたん…だな…はぁ!…
セライアは腕を伸ばし、揺れ弾む己の胸にフィラーを
抱き寄せる、もっと強く烈しくするようせがむ合図
二人の散らす汗がさらに激しく混ざりあった
…んぁ! んは! ふが… ふはぁ!…
まったく同じ人相が、同じように髪を舞い飛ばし
紫の目玉をぐるぐる回すほど一心不乱に互いの肉体を
融け合わせる
セライアとフィラー、義理の兄妹は性の快楽に堕ちていく
「う! うぅ! かの…彼女にぃ! マ…マさんにぃ!
ば、ばれたら… ばれたら、こん、今渡こそぉ!
し、しかられ!… ちまうぉ!」
思い切り不義に至った不甲斐無さを案じつつ
フィラーの下半身はセライアとの密通の勢いを
緩められない
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彼女の内側は既に何度も歓喜の潮を溢れさせていた
体内に嵌り込んだ蜜塗れの男根を咥え込んで離さない
セライアの両脚はフィラーの腰に絡みつき
下から尻が振り上げられ、中にいる堅いものを締め包んだ
ぐんぐん上り詰めさせられるフィラー
「あ! あぅ… あねさ! いく! いぐよぉ!」
彼は遂に達する、セライアの中に深く入り込み、しっかりと
その子宮を突き上げた恰好で愉悦の塊を吐き出した
お…おぉぉ… 抱き締めあって戦慄く二人のくぐもった声が
夜の牧草地を吹き渡っていく
さんざん摩擦しあって爛れ切った不義密通の肉体の奥
年下義兄の精の濁流が、年上義妹の奥底を熱く焦がす
フィラーは女房以外に与えてはいけないものを、セライアの
子宮にぐりぐりと押し付けるようにして無我夢中で搾り出した
…ついにやってしまった… 快楽の余韻に浸る間もなく
押し寄せる後悔の念、放出しきって項垂れる股間の愚息より
頭を垂れながらフィラーはセライアの体をあとにする
「出しやがったねえ… うひゃあ、こんなに漏れてくるぞ
あたしも妊娠しちまうかあ?
そういえばあたし、薬飲んできてたかな?」
セライアはがに股で寝そべったまま、股の奥から溢れるものを
指で掬い上げてからからと笑う
「…姐さん、性格悪いっすよ…」
「なぁんて、冗談だよフィラー、さてもう一発楽しむ?」
にっ!と口を横に広げて楽しげに歯を見せるスケベな年上義妹
年下義兄は首が千切れそうなほどぶんぶん横に振るのであった
(2に続く)
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