(五)
夜間演習が行われている厩ヒルズ大演習場 |
厩舎に赴くとプアザン組頭が調教師、厩務員とともに一つの 馬房の前で待ち受けていた 「あっ? 組頭…」 「よし来たな こいつがこれからの貴様の相棒となる馬だ」 セライア直属の上司たる一番組頭は無表情、無愛想、 ぶっきら棒に用件を部下に伝える セライアは馬房をそろりと覗き込む、そこには背の高い 青銀色の鬣を持つブルームスタング種の雄馬が佇み、 覗き込んだ紫の瞳を見返してきた 一応、馬の扱いの作法は心得ている、馬上からの射撃経験もある セライアの馬の接し方を見て調教師が口を開いた 「どうだい?中々の色男だろ?名はゴーストーン 強烈な垂直念動波を放つ念力馬よ」 「へえ…」セライアの指がそっと馬に触れる 愛馬を宛てがわれて、目を輝かせる彼女に五番組頭が横から 声をかける 「馬との組み合わせで戦術バリエーションがかなり豊富になる 今までは、単独で弓の修練を行っていたが、これからは 白兵戦要員、中衛要員と組ながらの実戦訓練が主になる 敵は鬣だけじゃないからな、ロケットモグラはじめ大型魔物 昨今では北の沿岸に頻出してるゾンビも気になるところだ な?プアザン、おまえも仏頂面で突っ立ってないで 部下に何か言ってやれよ、まったく」 五番組頭の弓術先生は、隣で呼吸をしているのかさえ 疑わしいほどに、ぬぼぉと腕組不動の男を肘で突っついた 「弓の修練だけではない、格闘技能も身につけてもらう」 まるで口元のスイッチだけ入れられた機械人間のように 言葉が流れ始める 「矢が尽きた場合、さらに後方部隊とて敵の接近に 晒されることも有り得ることだ、 そのような場合の護身も行えばならぬ それなくして我が軍兵は務まらん、以上だ」 元正規軍人らしい堅苦しい物言いで、この場を締める プアザン組頭であった |
(六)
厩ヒルズ三階ラウンジの天井をアホ面でぼえぇと見上げる足の短い若者 |
(七)
…我は業の旅人と称す者 |
「わ! わ! はむぅ…」 男の顔面は女の薄ら青白い顔にぐんぐん接近してゆき 慌てふためく彼の口と女の冷やかに柔い口が むぐりと接着した …業の旅人としての使命…授けよう…… 突然の接吻にふぐふぐと息を荒げるジェロムの口の中に 冷涼な吐息が流れ込んだ …はるかな昔…忌まわしき前世代の目的達成がため、 塔を動かさんとする前世の防人にして武人の生き残りを 討伐せすがため、時の神域より世界へ男女が放たれた 旅の途上、幾世代を重ね、知識を伝え続ける業の旅人 我もその末裔 我が母は私のためにすべての知を注ぎ与え、 我が幼少のうちに命果てた 父は我を育てつつ、塔の番人にして、 古の武人を追い続けた しかし志及ばず、寿命尽きる時を迎える 父は我と交わり、そなたを設けた だが唯一の生き残りたる我が、かつての母のように 我のすべての知識の鍵をそなたに移譲して命果てる わけにはゆかず、さらに世を顧みぬ不屈の武人 その生き残りを討たんとする危うい旅に 幼きそなたを連れるのもまた偲び難く 我はそなたを人に預け、その成長を待つこととした 弟にして息子よ… 我もまた不甲斐なく、 武人を追い詰めるに力及ばず この寿命も尽きんとしている 一系の業の旅人の末裔として、そなたは使命を 果たさねばならぬ 塔の武人を討ち果たし、 この太古より続く不毛の旅、今渡こそ終止させよ …太古の知識と技…それを開ける鍵…それは我が内にあり さあ… 我が弟… 我が息子… 宿命の男子よ その身をもってして取りにくるがよい…… 唇を貼り付けたまま、彼女は彼の頭に声を流し込む ジェロムの動きに変化が起き始める 目つきが変わり、それまでの臆したような態様が消えた …業の…旅人… お、おれのしめい…… |
(八)
女は用件を言い終えるとゆっくりと咥えあった口を |
よく熟れた女の肌肉に、男の指紋が擦りつけられ、 唾液の泡がまぶされていく 不自然に綺麗に手入れされた彼女の股間の三角形の部分に 遂に彼にたどり着かれ、雄の好奇に血走る目玉に 覗き込まれた 「おぁ… あふ…ぁ」指先と舌先で入念に密やかな 穴ぐらの中を探索されて喘ぐ女 さんざん、べとべとの蜜塗れにした挙句、彼の顔は むっくりと彼女の股間から立ち上がる いつの間にか、その下半身はむき出しになり、その股間で 凶暴な色を浮かべた雄ウツボが物欲しげにひくついていた 「ふひぃ… ふへへぇ…」飢えた面構えが美肉を覆う ひくつく雄ウツボが、やはりひくつく雌の穴ぐらの袂に 辿り着く 女の視線がじっと己の下半身を捕らえつづけていた 「ふぅ… ふぅ… ようやく… 手筈へはこぶか… さぁ…さぁ… 我が体内にて… 古の…知識を 取るが…… ひょ!ひ…」 彼の性急な興奮色に染まった体躯は彼女の口上が終えるのを 待つことはなかった その身深く侵し込まれた証の淡い悲鳴に変じた声色を 仰け反りゆく肉体から絞り出させられた ざっぱああん!! ずずず… つがいゆく二つ肉体を 波しぶきが叩き、やがて漂着美女の体にジェロムは深々と 己の形を嵌め付けた …おぉ… ぉ… ついに… ひと…ひとつに… さぁ… 取り…出せ お…弟よ… 我が…男…よ こ、この姉の中から… そ…そなたの母の中から… ひと…一紡ぎの…使命と…きお! 一かけらの… たいこのぉ…記憶を…おぉ… 肉体の奥まで入り込まれ、女はがちがち歯を鳴らす 広げられ、こじ開けられた己の肉体を、さらに深く 掘りさげるよう潤んだ瞳が促した ざぱん…ずず… ざっぱああん!! ずずずぅ…ん 狭苦しい岩場のてっぺんでへばりついて蠢く者共に 飛沫が打ち寄せまくる 潮風に揉まれながら、浅く、深く、 人の男女があられもない交わりを繰り広げる、 …はぁぁ……はふぅぁ… 上に乗った彼の腰が へこへっこと女の腰奥に打ち寄せる度、彼女の緩んだ 口元から動物的な喘ぎが吹き出して潮騒を遮る 折り曲げた女の尻を男の腰が叩きつける音色が次第に 熱していく 男女のまぐわう奥で水音絡めて練り込み合うように蠢く 両の器官が、結合の度が深まる度、敏感さが増してゆく …お… おとうと… わ、わが…むすこ…よ せ… 成長した… そなたに… いだかれる…この時 ど… どれほど… 待ち…わびた… こと…か 女の中から吹く茹だった潮濡れがいよいよぬるぬると 貼り合わさった二つの肌の間に広がり、 頑張る男の腰は、それに乗って威勢よく滑り込んで 女の臓物を彼の形に響かせ捲った 挙句、数度、彼の激しい打ち寄せが女の腹底を侵して ぐっと深く結んだまま留り、くぐもった男の声が 滴れこぼれた 「うおぉ! あね…ごぉお……」 |
女の腹底に深々と食い込む怒張がじんじんとその子宮に 迸る脈を伝え、痺れさせる …お…お… この…あねの… ははの…はらおく… あつく…ぬらす… なんたる… なんたる… りっ…ぱな …せい…ちょう…ぶり 幻想の中、神話的な禁断の婚はここに完全に再現 神秘の一族故の穢れの継承 同じ父を持つ女から産み出でた男が長じて、 血を分けた女に再び同じ血を注ぎ継ぐ …さぁ… おもいだせ… おもいだした…か? 一系の… 血の記憶… 姉にして… 母である わた…わたしに… 回帰… せし…めて…… 脳の奥底に眠るものを… よび… さ…ま…せ…… 男の腰は執拗に女の腰を割るように押し圧しを繰り返し 一滴も余さぬ思いで同族の血を貪欲に注ぎ込む ざぁぁぁ…ん ざぷ!…ぅ 彼女の身から潮が引くように抜け出ていく彼 体の奥から禁忌の限りを尽くされた証を垂れ流す女の、 甘い匂いに包まれた火照る体を潮風が滑り抜けていく 「宿命なる… 我が弟にして…息子… 遥か古代の知識… 思い…出したか?……」 問いかける女、それに対し問われたジェロムはむっくりと 起き上がった 「ふぅ…ふぅ… しゅくめいなるおとうと?むすこ? 何、わけわかんねえこと言ってるんすか そんなことより、でへへへ…もう一発…」 「え? な? あ! あぅ… こら… んぶ………」 美女は再び押し倒され、短足男の下劣な欲の波に 揉まれていった |
(九)
「ふぅ… これは…どういうこと…よ ジェネリ」 |
「太古の証人とされる業の旅人は実在する、 私の母の遺言です ごく稀に彼らとの遭遇記憶がとどまる例があり、 その一人が母でした 彼女によれば、雰囲気からして異様な人物で 何というか、人のニオイのしない… そして大昔の出来事を見てきたかのように話す 彼女の当時の研究はその者の当時の常識ではとても 推し量れない助言により著しい進歩をみたという 母はその身を度々その男に投げ出してまでも、 さらに神秘の向こう側を覗こうとしたけれども、 結局それは叶わなかった …例えこの者が業の旅人でなくとも、 理解不能な現象が些少でも見られるなら、 取りあえずは注視し続けてみたい 特にこの方の場合、空間術の原因不明の制御不能を 引き起こしている もう少し観察に協力頂きたいものです ということでフスェ、このヒルズで彼に何かやらせられる 仕事は無いかしら」 |
「相当な執心ぶりね、もしこの彼に端緒があるようなら ジェネリあなたも、母君と同様の振る舞いを なさるおつもり?」 「あるいは… 必要とあらば」 そうしてるうちにジェロムがごそごそと目を覚ました むっくりと起き上がり、寝ぼけた面で周囲を見渡す やがて二人の女性が目に止まった 「あれ? 俺は一体… ん? んん? あれあれ? あ!そうだ! 俺、何だかわからんけど、故郷に戻って そこで、びしょびしょの女の人とセックスしちまった!」 ジェロムの視線が二人の女性をさらに注視する ぎょっとしたのはフスェのほう 「あ?! あんた! あんただ! 俺とイッパイやっちゃってくれちゃった美人さん! メガネかけてなかったけど、そおっすよねえ!! いやあ、はは… 夢の中みてえだったけど すげえ生々しくて、おっぱいの感触とか嵌めあってた時の 色っぺえ声とか、今でも手や耳に染み付いてるっす そんなわけで、ごちそうさんでやした!」 深々と頭を下げてみせるジェロムに対し、フスェの肩や 握った指は震えを起こし、眼鏡の奥の瞳に極めて冷たい 光が宿っていた 「ジェネリ…… アッサジについで二人目だわ… どうしてくれるのかしら……」 「ま… まあまあ… これからも彼には色々 実験にお付き合い願うわけだから…… そのつど、術のかけ直しを試みてみるから、 どうか彼をミイラにするのはやめてちょうだいね」 (十)
ここは厩ヒルズ地階、大水泳場 |
「ん? おい、じじい!!」 いきなりデブ娘は新入りのところから少し離れた場所で ぼんやりしてる古株の爺さま清掃夫のところへ跳んでいった 「てめえ!新入りが来たからといって、微妙にのんびり度 あげてんじゃねーよ!! 大体、なんで人が増えたのに、掃除にかかる時間が 今までと変わらないんだ!! いい加減にしろよ この役立たずどもお!!」 今度はいつも通り爺さまがエーズリの癇癪の餌食に されている、ジェロムはその様子をぼんやりと眺める 「…何だか、けたたましいところに来させられちまったな 宿の小間使いのほうがよかったよ…」 清掃主任デブ娘の視線がくるりとこちらを向く やばいと感じたジェロムは休めていた手を動かしはじめる どす…どす、どす!どす!! 接近してくる床を蹴立てる音 「休むなって、言ってんだろ! このド短足がああ!!」 怒声とともに炸裂する飛び蹴り、まともに腰に喰らうジェロム 「ぐわ!」ざっ!!ぽおおお……ん 転落したプールに沈んでいく新入り清掃夫 …よし、しめた…ちょっと…休もう…ぶくぶくぶ… 中々浮かんで来ないジェロムに、今度は慌てるエーズリの 声が水面の向うから滲むように聞こえていた (二十一話おわり) |