『夏/姉/誘惑』

「暑ーい」
 弟の彰がソファに座っているので、私はそう言いながら、その目の前にどでーんと寝転がった。
 もちろん、場所は彼のちょうど足下あたり。私の全身が視界に入るように計算した結果である。
 ……そうすると、彰からは私の肢体を余すところなく眺めることができるようになるのだ。
 次に、私はTシャツをお腹の所からめくって、ひらひらと内側に空気を送るようにした。自分で言うのもなんだけど、白くて綺麗なお腹があらわになって、全体で肌の露出がかなり多い状態になる。
 今の私は、非常に薄いシャツに、ホットパンツだ。だから脚部は太ももから足先まで見えるわけだし、今のようにシャツだってできるだけはだけさせている。そして女子学生という呼称にふさわしい、張りとつやのある、この肌!
 だから、今の私、中々ドキッとできるような状態なのではないだろうか。
 いや、っつうかできる。
 できないとおかしい。
 私がわざわざここまでやってんだから、そういう状態にならないほうが間違っている。
 だいたい、そのためにやってるんだし……。
 そう考えつつ、私はフローリングに寝転がりながら、シャツをびろーんと伸ばして、もう少しで胸が見えてしまうんじゃないかという程に、お腹を出した。
「ああ、暑い暑い。とても暑い。これはもう肌を出さざるを得ないわ」
 言いながら、もう体の向きを完全に彰の方に向けた。
 肌には玉の汗が浮かんで、時折それが伝って落ちるが感じられる。
 彰からすれば、目の前に、肌をたくさん見せて、色っぽく汗をかいている、中々可愛い女の子が見えている。……はずだ。私のスタイルはいいはずだし、髪もいつだか彰が可愛いと言っていたセミロングに固定している。彼の目には、魅惑的な女の子が見えている、そのはずだ。いやむしろそうじゃないとおかしい。
 ……だが彰は。
 私の方を、ちら、と一瞬だけ見た後、読んでいた本に視線を戻した。
 で、素っ気なく言う。
「姉ちゃん。お腹冷やすよ」
 それでまた無言。以上のせりふ無し。私への関心も無し。
 ……。
 私は思わず絶叫しそうになった。
 見ろよ! 
 私を見ろよ!
 女の子が目の前でほとんど半裸になってんだよ! なぜ見ない!? なぜ一ミリも欲情する様子を見せない!?
 はぁはぁと息を荒げながら、何とか平常心を保って、とりあえず床に座った。彰を見上げるが……もう私の存在など忘れたかのように、読書に没頭していやがる。
 必死で誘惑してる私がアホみたいじゃないか。
 いやもしかしたら本当にアホなのか?
「いやいやいや」
 首をぶんぶん振って、どうしたものかと、彰の顔を凝視する。
 その顔は整っていて、肌は女の子のようになめらかだ。髪は短いけどさらさら。全体的に愛嬌がある。見ていると、あー、かわいい、抱きつきたい、キスしたい……いやもう襲いたい、という思いがふくれあがってくる。
 しかし、その気持ちは抑えなくてはいけない。
 今必要なのは、慎重な行動なのだ。
 ……何とか、今日中に、上手く彰をものにしなくてはならないから。最低でも、既成事実は作らなくちゃ、いけないんだ。
 弟と家で二人きりという絶好のチャンスを前に、私はそんなことを思う。

 私が弟を誘惑しているのには理由がある。
 いやその、何というか、根本的な原因というと、私が彰のことが好きだから、ということになるんだけど……きっかけとして、次のようなことがあったのだ。
 二日前、高等部の授業が終わったあとの帰り道。
 私は友達と二人で帰っていたのだが……その、隣を歩いてた友達。同級生の女が何気なく言ってきたのである。
「よう子の弟、彰くんって言うんだっけ? 結構、かっこいいよね」
 私は最初意味がよくわからずに、はぁ、とだけ声を出した。
 そうだね……と言うのも変だし、他に何と言ったものか逡巡していると、その女……名前は舞というのだが、夢見心地な顔で続けた。
「この前、よう子の家に行ったときにも、お茶出してくれたよね。性格も優しそう。何か、いいよね」
 私は怪訝に思いつつも、口を挟む。
「いや、別に……お茶出すくらいは。普通でしょ? いやそりゃ、優しいのは優しいけどね、彰は……」
「やっぱり、優しいんだ。……印象通りだなあ。歳が一つ下、っていうのも、可愛くていいよね。言うこととか、聞いてくれそう」
「え? まあ、うん、言うことは聞いてくれるけど……」
 そのとき私は、舞の目に明らかに怪しいものが浮かんでいるのを発見した。この女、恋する乙女みたいな、甘ったるい……っていうかもう私から見たら限界まで気持ち悪い表情を浮かべていたのだ。
 私はけん制するように顔をのぞき込んで、言った。
「え? あの、舞? ちなみに、どういうつもりで、それ、言ってる?」
「――私、彰くんと付き合いたいな。よう子、私たちの間、取り持ってよ」
 ぐはっ、と私の口から呼気が漏れた。
 単にショックだっただけはない。猛烈な危機感と、それからこの女に対する殺意的なものもわき上がってきていた。
 この舞という女、百パーセント純度で彰を狙っていたのだ。
「ね? いいでしょ? よう子が彰くんによく言ってくれれば、上手くことが運ぶかも知れないし」
「え、えー? そ、そ、それは、難しいんじゃないかな?」
 もちろん、私はうなずかない。
 そりゃ、舞は仲のいい友達だし、普通に考えれば、その友達と私の弟が付き合おうが何しようが、構わないかも知れないけど。
 でも私は、構うんだ。
 彰は、私のものなんだよ。いや彰の方はそう思ってないかも知れないけど、私は彰が……ラブなんだよ。
 ――私はもう、ずーっと昔から、彰のことが好きだった。性格よさそうとかかっこいいとかそんな表層的なことじゃなく、もう彰の全てがラブなのだ。頭の中の八割は彰なんだよ!
 それを……こんな出会い系とかやってそうなチャラい女に取られてたまるか。と思ったのだ。
 でも、私はそこで何と舞に言ったらいいか迷った。
 普通に考えれば断る理由がないので、どうやって舞にあきらめさせたらいいか分からなかったのだ。
 一回くらいは彰にあわせてやろうか、とも思ったが、冷静に考えると、舞は結構な美人で男にもてるタイプだ。一回あわせただけでも、その場で彰をものにしてしまってもおかしくはない。
 なのでこの場であきらめさせるのがベストだが……その方法が分からなかった。
 だから、期待を込めたまなざしで見てきている舞を見て、私は一度、この女もう殺っちまおうか……などと考えたりした。
 だがさすがに犯罪はNGだ。
 だから、私はこんないいわけをしてしまった。
「あのさあ、彰はね、む、無理だと思うよ」
「え? どうして?」
「あのね、あ、彰はね……えーと、その。――ものすごい、シスコンなの」
「は?」
 我ながらアホな言い分だったと思うが、そこまで行ったら引き返せなかった。
「もうね。すごいんだよ。はっきり言って、気持ち悪いよ。彰の、姉大好きっぷりは。ていうか、私好きっぷりは。ありゃ病気だよ」
「……え? シスコンて、本当?」
「本当だよ。休日は私にべったりだし、好き好きうるさいし、一緒に出かけるだけでデートだとか言って喜ぶし、風呂のぞこうとするし、下着盗ろうとするし、間接キス狙ってくるし、やたら写真撮ろうとするし、触ろうとしてくるし」
 列挙した行動は、全部私の妄想の中での出来事だったが、とにかく言うしかない。舞はちょっと気味悪そうな顔で聞いていた。
「う……嘘ぉ。彰くんが? 信じられないけど……」
「いや、あれはもうガチ。ガチだね。私以外の女には興味なしだよ。ド変態としか言いようがないね」
 ちょっと言い過ぎた感はあったが、舞がドン引きしているのを見て私は満足していた。
 これで舞もあきらめてくれるだろう。普通の女には、シスコン男など耐えられまい。
 と思ったのだが。
 そこで舞は怪訝な目で見てきた。
「何か、よう子の言うこと、凄すぎて現実味がないな」
「え……? いや。現実だよ? ほんとだよ? 私、だって、昨日もベッドに忍び込まれたし……」
「やっぱり、信じらんない。……そうだ、明後日の休み、よう子の家に行ってもいいよね? そこで確認する。彰くんが本当にそんなシスコンならまあ、あきらめるよ」
「え……ええ?」
 私は焦った。だが舞は、本当に言うとおりなら、別に構わないでしょとばかりに、傲慢な表情を浮かべていたのだ。
 言うだけ言ってしまったのもあり、引き下がれなかった。
 私はその喧嘩を買ってしまった。
「い、いいけどぉ? 別に。明後日、ね。あ……彰のシスコンっぷりを間近で見るわけだから、覚悟しておきなさいよ。驚くから」
 うん、と舞はうなずいた。
 あまり信用してなさそうな顔だった。それどころか、体よく彰に会いに行く約束を得て喜んでいるようにも見えた。
 私は、明日中には彰をものにしておかないとマジでやばいかもしれん、と思った。

 それが、昨日のこと。
 そして今日、親が二人して出かけているので、もう今しかチャンスはない、とばかりに、私は朝っぱらからこういう行動をしているわけだ。
 場所は自宅のリビング。ソファで読書をしている彰の注意を何とか引きつけて……できれば彰が私のことを可愛いと思うとか、私の体を見てドキッとするとか、そういう状態にまでなって欲しい、と思っているのだ。
 そうしてそれをきっかけに、最終的には、ゴールまで……私と彰のカップルが成立するところまで、行きたい。
 いや、そうしなきゃだめなんだ。
 彰の目に私しか映らない、っていう状態にしておかないと、確実に彰は舞に寝取られる。
 ――だからこうやって、肌を露出して必死にくねくね動いているのに。
 彰は相変わらず、本に没頭していた。私の肢体など、見ちゃいなかった。
 私の攻撃が通用してるとかしてないとかいう次元じゃない。現状、戦いにすらなっていなかった。
 寝ていた体を持ち上げて、私はすっくと立ち上がる。このままでは、まずい。
 湿り気を利用してシャツをずりあげたままにしておきながら、私はそばの冷蔵庫に向かって歩いた。
 彰からは、ちょうど私の背中が見える状態である。そこで私は……足下にある冷凍室を開けて、アイスを漁る振りをしながら……思いっきり前屈状態になった。
「ああ、暑い暑い。アイスでも食べよ。彰も食べる?」
 そうして、彰の視線をこちらへと誘導する。
 これでどうなるかというと……私はお尻を突き出している体勢なので、まず彰の視界には、私の、ホットパンツに包まれた色っぽいヒップが飛び込んでくるはずである。
 それだけじゃない。ホットパンツはもう股下三センチくらいの短さなので……この体勢になれば、私のなめらかな太ももだけでなく、そのうえのお尻のお肉までちょっとは見えてしまうんじゃなかろうか。ほどよい太さの太ももがもろに見えるだけでも結構なことなのに、そのうえのむにっとしたお尻がちらと見えると、もう興奮しちゃうんじゃないかな。
 ――しかも、さらに、綿密に計算されたサービスがある。
 下着のチラリズムだ。ホットパンツはあらかじめ微妙に下げてあるので、私が前屈すると、それがさらにずり落ちて……ふっくらとしたお尻の上端で、ちょっとだけパンティーが見える! パンティーはもちろん、白の超薄いやつ!
 最高! きゃあ! 私、策士! と心の中でそんな歓声をあげつつ、ヒップラインを執拗に強調して見せる。
 もうここまできたら、彰、興奮して私を襲ってきちゃうんじゃないかしら。私、彰の心、鷲掴みにしすぎちゃったんじゃないかしら。
 やあもう、ほんとにだめよ、そういうのはシャワーで汗を洗い流してから……本当、私って罪な女、とか考えながら、ふとソファの方を振り向いてみると……。
「……」
 そこで彰が読書に没頭していた。
 もう明らかに、最初から最後までこちらを一ミクロンも見ていない。
「……」
 私は思わずぐわん、と前屈をやめて、その勢いでブリッジっぽい体勢になって叫んだ。
「見ろよおぉおおおおおぉおお! こっちを! おいいぃいい!」
「え? 何……うわっ! 姉ちゃん? 何でブリッジ? 体操?」
「違うよ! 体操じゃないよ……。体操じゃ、ないよ! その前だよ、見て欲しかったのは……」
 息も絶え絶えに言っていると、不意に彰が立ち上がる。
 私はそれに、え、何? とドキッとして、ブリッジをやめて仰向けに倒れ込む。そうして彰が近づいてくるのを、緊張して見守っていると……彰は、パタン、と冷凍室の扉を閉めてまたソファに戻って言った。
「姉ちゃん、あんまり冷蔵庫、開けっ放しにしないでね」
「……」
 尻とか下着をはみ出させたままで私は言った。
「何でよ……ホワイ?」
「え? 何が?」
「私のサービスシーン……ことごとくスルー……ホワイ?」
「サービス? よくわからないけど? 何?」
 私は自分のお腹をむにむにとつまんでみせる。
「私の薄着、というか、肌の露出の多い服装について、何か感想は?」
「え?」
 彰は眉根を寄せて、しばし考えてから言った。
「別に……。あ、だから、あんまり薄着してると、風邪引くよ」
「違うだろぉおおおおおお」
 あまりの回答に、私は地獄の底から響くような声をあげながら床をばんばんとたたいた。
 何なのこれ? 何で普通なの? 何で人がほとんど半裸になってんのに、そんな抑揚のない口調なの? 私の体は感動する要素ゼロなの?
 小一時間うめきたくなった……が、彰が気味の悪いものを見るような目で見てきているのに気づいて、私はぱっと立ち上がる。
 何事もなかったかのように、すたすたと歩くと、今度は、彰のすぐ隣に腰掛けた。
 肩同士がくっつく距離だ。
 私は、次の作戦に打って出ることにしたのである。
 つまり、肌を見せるだけの行動はもうやめだ。効果が得られない以上、いくら魅力的な肌とはいえ、それをはだけさせるだけでは無意味だと悟った。
 だから……次は、見せる以上のことをやるのだ。
 簡単に言えば、スキンシップ。
 見るだけでは何とも思わなくても……さすがにこの格好で迫ってこられたら、鈍感な彰でも男性の本能に目覚めざるを得まい。
 私はソファに深く座り込むと、彰の右腕にすり寄るようにした。私のほっぺと左腕が、ふにっと彼に密着する。さらに、微妙にすりすりと肌をこすりつけてみたりする。
 すべすべの肌触りと、フローラルなお姉ちゃんの香りが上半身を襲ってきてるはず。この二重攻撃には、若い男の子が耐えられるはずはあるまい。
「うわ、ね、姉ちゃん……」
 もぞ、と動きながらどこか照れたような声を出す彰。
 それを横目に、私はくくっと一人笑いをこぼした。ほら――私がその気になれば、男の子一人なんて、一発で仕留められるじゃないか。
 それにしても、そんなに照れちゃって……ちょっと、彰には刺激が強すぎたかな?
 と思ってると、彰が人一人分の距離だけ、私から離れた。
「姉ちゃん、暑いよ、もう。離れてよ」
「……ええ? 暑い?」
「暑いよ」
「ドキドキしない?」
「え? 何で? 何が?」
 その目は、暑いという割には大分、冷めていた。
 ……。
 ひょっとして、照れてたんじゃなくて、単にうざがってただけか。
 もしかして、本当に、みじんもドキドキしてないのか?
 いやいやいや、そんなわけはあるまい。き、きっと押しが足りなかったんだ。スキンシップが、不足していたのだ。
 そうに違いない。だって私、まだ本気出してないもの。
 思い直すと私は、彰が離れた分だけ、ずい、と近寄ると密着した。
 そして今度は、……もう、何だろうな。自分で自分が恐ろしくなるほどの秘技を、繰り出した。
 彰の右腕を抱きしめるようにすると……この、二つのふくよかな胸で、むぎゅっとその腕を挟んだのだ。二つの大きなマシュマロに、沈み込ませるように。
 彰の腕は、私の谷間に埋まった。白く柔らかい、且つ張りのある、玉のようなバストに、飲み込まれたのだ。
 弱くもない、強くもない、絶妙なお肉の圧力が、その腕にかかる。
 もう、これ、最強だろ、と私は思った。単純にして至高の、おっぱい攻撃。しかも、単に触らせるだけじゃなくて挟んじゃってるからね。男の子の本能、ド直撃だろ。最強過ぎるだろ。
 本当に、自分の才能が怖くなってくる。
 男の子がドキドキするって分かってこんなことしてる私、小悪魔? 小悪魔なの?
 そんなふうに思うくらいの手応え、というか胸応えはあった。それほどに、効果があるはずの攻撃だった。
 効果が……あるはずだったのに。
 彰はずぼっと腕を私の谷間から引き抜いた。
「暑苦しいってば。離れててよ、姉ちゃん」
 一瞬だけ私を見た目は、あり得ないくらいに興味薄だった。
 私はしばし呆然としてから、やっとの事で言った。
「おっぱい……」
「え? 何?」
「おっぱい、興奮しないの? 今、こう、挟んだでしょ。むぎゅって」
「ああ……」
「ドキドキした? むらむらした?」
 彰は本を片手にどこかわずらわしそうな視線を投げかけた。
「いや、何をしようとしてるのかは知らないけど……別に、姉ちゃんの胸で、興奮は……」
 がーーーん!! というショックがその瞬間、脳裏を襲った。
 思わずソファから倒れ込み、床に突っ伏す。嗚咽が漏れそう、というかもはや胃の内容物を全て吐き出すくらいの気分になった。
 もう、明らかに私の攻撃が通用していないことを、はっきり言われたのだ。
 リングにタオルを投げ込まれたくらいの決定的瞬間である気がした。
 ……試合終了? 試合終了なの? 私の体、そんなに残念だった? 逆わがままボディだった? 男の子を引きつける要素ゼロだったの?
 本当にもう終わり――と思ったところで、しかし私はぴたりと止まった。
「ふ……ふふ」
「姉ちゃん?」
 そこでゆらりと立ち上がると、高らかに笑い始める。
「ふふふ、ふふふふっ、あはっ、あーっはっはっは!」
「姉ちゃん、本当にどうしたんだよ? 何か悪いものでも、食べた?」
 のぞき込んできている彰を、きっと見据える。
 むろん、私は変なものを食べたわけでもないし、おかしくなったわけでもない。
 絶望しかけた今になって、気づいたのだ。
 まだ、行動の選択肢が、一つ残っていることに。まだ希望が消えていないことに。
 つまり、論理的に考えれば簡単なことである。
 肌をちょっと見せるだけではだめ。おっぱい攻撃もだめ。……となると、まだ試してないことは、一つしかない。私は頂点に近いテンションで叫んだ。
「お股か!」
「……え? 何?」
 耳を疑うようにしている彰を見ると、私はその顔にずいっと近寄った。
 そして思いきり彼の胸を両手で押して、無理矢理きちんと座らせた。
「どーん!」
「わ、痛っ。姉ちゃん、何すんだよ――」
「うん、うん。やっぱり、今の若い男の子は、薄着とかおっぱいだけじゃ、大して反応しないんだね。やっぱりね。知ってた」
「……何の話?」
 怪訝な顔の彰をそのままにして、私は、ソファに上って、そこで立った。
 座っている彼の大腿部を足で挟む形で仁王立ちしており……要するに、私の股間が、彰のちょうど目の前に迫っている状態だ。
 そこで息をつくと、ホットパンツに手をかけた。
「じゃ、じゃあ、脱ぎまーす!」
「え? 脱ぐ? ……脱ぐって何を? 姉ちゃん――」
 もしかしたら半分やけになっているのかも知れない。私は彰に有無を言わさず、ホットパンツをパンティーも一緒に、ずり降ろして見せた。
 ずさっ、という布の摩擦音が鳴ると同時に、女性器が彰の目の前に出現した。
「ほ、ほら! 彰ぁ、こ……これっ! 見よ! 注目!」
「!? え、いや……何! 姉ちゃん、何急に脱いでるんだよ!」
 汗に濡れた私の下半身がオールオープン状態。
 局部にある陰毛に囲まれた大陰唇のぷくりとしたふくらみとか、その内側のうす桃色の肉ひだがもちろん見える。私はかなり脚を広げて股間を突き出すような状態にしていたので、クリトリスも確認できたに違いない。
 そして、今までの冷静さが嘘だったかのようにとたんに焦り出す彰。
 激しく身じろぎのようなことをした後、私が彰の動きを封じるように立っているのを発見して、さらに驚いたような顔をする。続けて、前に視線を戻して、裸の股間を直視すると……わっと目を伏せる。
「ズボンはいてよ! 何なんだ、いきなり」
「み、見た? これ、私の、ここ! 見たの? ほら、お股」
「いや、それは……っていうか、本当に、何! どうして、こんなこと」
「さ……さすがにこれなら、これ見たら、興奮するでしょ? むらむらするでしょ!? するでしょ! するって言え!」
「わけわかんないよ!」
 必死で逃げようとする彰。
 しかし、誰が逃すかとばかりに、私は彼の顔を押さえつけて、無理矢理股間に向かせる。
「ほら……見ろ! な、なんなら、触ってもいいし! さ、触る? 触っちゃう?」
「さ、触らないよ! 何言ってるんだ……」
 彰は私の手を放そうとしてくる。
 ここまできても、普通にかたくなだな……。
 それで私は、冷静な状態に戻りかける。彰には本当にこういうことをやってもむだなんじゃなかろうか。
 ……ん? あれ?
 ちょっと待て。
 彰の顔を放して、彼の体を見下ろす。
 私はごしごし、と目をこすってからそれを確認して、目をうたがいたい気持ちに駆られた。
 つい、としゃがみ込んで低い姿勢を取ると、私はそれを確認するように、彰の下半身をのぞき込んだ。
「……。あれっ。彰。……お、お股、ふくらんでる?」
「えっ」
 彰は初めて気づいたというように自分の下半身を見下ろすと、慌てて手でそれを隠す。
 それからどこか気まずそうな調子で、私から視線を外してそっぽを向いた。
 私は、くわっと目を見開き、顔がくっつくほど彼に接近して言った。
「ね、ねえ、今、おっきくなってたよね。なってたでしょ? お、おちんちん?」
「……なってないよ」
「嘘! なってた! なってないなら、見せてみてよ! 絶対なってたじゃん」
「……しょうがないだろ! 姉ちゃんが、そんな格好してるからじゃないか!」
 涙目で、彰はそれを認める発言をした。そして私がいまだに下半身裸なのを見て、顔を赤らめた。非常に、可愛い顔だった。
「……」
 ごおぉっ。
 そんな自分の中の血流の勢いが聞こえるくらいに、一気に体が熱くなるのを感じた。
 自分でもあり得ないと思うような、すさまじい興奮の奔流が起こるのを。
 いや、っつーか、だって……彰が、私の体で興奮してる?
 私のを、見て……。
「う、う、う。うおお。おおおおお」
 な、なんか、それを考えると頭の中がぶわーっとピンク色に染まっていく感じがする!
 えぇっ、何だろう。し、幸せな感じと興奮が混ざり合ったような脳内物質が溢れてくるみたいな感じで……。
 えええちょっと待ってよ。顔がかーっと熱くなるのを感じながら、冷静になろうとする。
 落ち着け落ち着け。えっと、彰がそういう反応を示すのを期待してはいたけれど……それが実際に起こったわけだ。うん。まさにドリームワールド!
 いや、全然冷静になれてねえ。落ち着け……いや、でも、うう、やっぱ無理。
 私は彰の下半身に照準を合わせると、手を伸ばした。
「ね、ねえ、マジで? わ、私ので、興奮したんだ? わ、私ので!」
「ちょ、ちょっと、触らないでよ!」
「いいじゃん! 私の見て、そういう気分になったんでしょう。そ、それなら、いくらでも見ていいから。だから彰のも見せろ! そしたら、お、お互いにドキドキできて、二人とも得じゃん!」
「何その考え方!?」
 彰はそれなりに反論していたようだが、私は正直、聞いていない。手を伸ばすとそこに男の子の硬くなったモノがあるわけだから、それが事実を雄弁に語っている。
 あぁ、お股見せたのは成功だったんだね。
 これもう、ほとんど男女の仲になったも同然じゃないの。
 当然の権利を行使する気持ちで、無理矢理に彼のズボンを引っぱって、ずり降ろした。かなり力強い抵抗にあうも、そこは年長者の力で何とかねじ伏せる。
 で、トランクスも一緒に脱がすと……期待通りに、そこから男性器が顔を出した。
「痛……姉ちゃん、マジで、何なの」
 彰の言葉を無視して凝視する。そこには力強く勃起した陰茎。
 勃起してないときに比べてどうなのかはわからないけど、大きい。そして硬そうで、血管が浮き出ていて……。
 あああぁ見てると興奮してくるよもう。ごくりと生唾を飲む。
 こらえきれん。
 その硬い肉棒をがっしと掴んだ。
「えっ、ちょっと待って、それは、やめて」
 私の顔を必死で離そうとしていた彰が、さらにいっそう力を込めて逃れようとした。でも、私が離されまいとしておちんちんをぎゅうと握りしめると、彼はえらく痛がって力を弱める。
 私はここぞとばかりに、顔を思いきり陰茎に近づけた。
 視界を占めるいきり立ったペニスを、凝視する。
 うふぅ、と息が漏れてくる。
 ずーっと見たかったものが目の前にあるかと思うと、何だか、なくなりかけている理性が全部吹き飛ばされていく気がする――。
 私は自分のほっぺに、おちんちんをぺたりとくっつけた。
「これが、あ、彰のなのね……。すっごく、硬いじゃん。あぁ、これは、中々」
「わわ、何やってんだよ、離してよ!」
「あ、彰だって、興奮してるじゃん。これ、お、おちんちん、かちかちじゃん。かちかち、じゃん!」
 顔を動かして、ほっぺをすりすりすりとおちんちんにこすりつけた。
 ああぁ、たまらない。頭が、真っ白になりそうだ。
「ううっ」
 急に、彰がうめくような声をあげた。
 何か今までに聞いたことのないような、いやに蠱惑的な声だな……とそれを意識する。
 すると突然に、それが私の中の性欲に、ずどんと響いてくる気がした。
 私は突き動かされるようになって、おちんちんをさらに握りしめ、自分の顔にぐりぐりと押しつける。
 そうするとまた、呼応したように、亀頭のあたりがぴくぴくと動くような、充血していくような状態になっていく感じがするのだ。
 焼きごてでも顔に当ててるみたいだった。
 ――これはやばい。何か止まらない。
 私は興奮度合いが天井を突き破った状態で、本能の赴くままに、顔に当たる熱いものを、ひたすら摩擦し続けた。
 陰茎の下の玉が、きゅうっと収縮しているのが見えた。私は最初何のことか気づかず、ひたすらおちんちんを相手にしていたけど……すぐに、何の前兆なのかに思い当たる。でも気づいたときには遅かった。
 びゅっ! と勢いよく白い液体が、ほっぺに当てている亀頭の先から飛び出した。
 それはびたびたっと私の頬から顔の全体、手にまでかかってくる。熱した棒のようなおちんちんが震えるのにあわせて、さらにそれはどくどくと出続けて……粘っこさと温かさを私の顔にどんどん上乗せしていって……って。
「ふわ……こ、これ。精液?」
 脳を直撃してくるような、濃い匂いを放っている、私の顔面を覆う液体に触れた。
 ぬるっ、と滑って、一部が顔から下に落ちる。拾い上げるようにして見ると、半透明の白い液体が手についている。
 手でいじくると、強く糸を引いて……何とも卑猥な弧を描いて、また落ちていく。また触る。ぬるぬるする。いいにおい。
 ……ああ。あああ。
「せ、せせっ、精液か。これ、精液か! せ、せい、うおお!」
 思わず立ち上がって叫ぶ。
 いやちょっと待て落ち着け……と自分に言い聞かせてしゃがみ込み、また、そーっと顔のぬるぬるに触れた。
 こ、これが、これが精液か。あ、彰から出た、彰が射精した、エロミルクか。
 もう呼吸困難に近い状態になりながら、はぁはぁ言いつつ、両方の手のひらをほっぺに当てる。ぺちょっと、精液が手と頬の間で広がって、何とも言えない感覚。思わずそのまま、手のひらを円を描くように動かして、乳液でも塗るみたいに精液を顔に塗り込んだ。
 まるで彰が入り込んで来るみたいだな……と思うと、興奮が止まらない。ごく自然に、当然のことでもやるみたいにして、私は手の平の精液をれろれろれろとなめ回した。口の中に侵入してくる強い香りに、中毒症状のような気分を覚えて……さらに、顔に広がる精液も手でかき集めて、口に運んだ。
「くっふう」
 あえぎ声のような音がのどから漏れてしまう。エロい味もさることながら、これが彰が出したものだという事実がもう、どうしようもなくたまらない。
 彰を見ると、顔を赤くして辛そうな顔をしていた。
「姉ちゃん……ご、ごめん……」
「へ? な、何が……」
「俺、そんなつもりじゃ……」
 どうやら、射精したことを悪いと思っているみたいだ。その申し訳なさそうな顔も、可愛らしくて、ぞくぞくしてくる。だいたい、謝る必要などないのだ。私は興奮を抑えながら、顔を近づける。
「べ、別にいいし。だって、彰、よかったんでしょ? その、き、気持ちよかったんでしょ」
「そ……それは」
「すごく、こう、びゅっ、って出てたもんね。私の顔に。射精しちゃったんだもんね。私の、わ、私の顔に! 射精! しゃ、射精ッ」
 こらえられず大声を出すと、彰はいっそう縮こまるようになってしまう。
 どうしたんだ。
 あ、やばい、もしかしたら、ちょっと怖がらせてしまったのか……というか、少々私がリードしすぎだったのか?
 彰から体を離して、考える。
 ……彰が私の体に興奮することがわかってからは、もう少し優しくしてもよかったのかもしれない。何せ……いきなりおちんちんに、こう、激しい愛撫を始めちゃったからな。刺激が強すぎたか。
 そうだ、そうに違いない。
 わ、私くらい魅力的な女の子になると……抑えめに行かないと、男の子を興奮させすぎてしまうんだ。いきなり射精しちゃうくらいに刺激を与えると、男の子からすると、萎縮しちゃうのかな?
 つまり、優しいリードが必要ということか。
 考えていると、彰がゆっくり口を開いた。
「姉ちゃん……、でも、その。どういう、つもりなの? こんなこと、してきて……」
「どういうつもり、とは……」
「だから、何で急に、こんなことするんだ」
 見ると、存外に彰はまじめな目で見つめてきている。
 私はほんの一瞬冷静になって考えた。
 そりゃあ、こんなことする理由なんてひとつしかない。彰のことが好きで、他の女に取られたくないからでしょう。
 そう口にしようとしたところで――しかし私は思い直す。
 ちょっと待てよ。ここで彰に告白するようなことを言って、もし、失敗したらどうする?
 俺は姉ちゃんのこと好きじゃない、とか言われたら?
 全て終了するだろ、それ。
 いやまあ、ここまできたのだからその可能性は薄いとは思うが、でももっとこう、完全な既成事実ができるまでは、告白みたいな冒険はしない方がいいんじゃなかろうか。どういうつもりだ、とかいう疑問が生まれなくなるほど彰が私の虜になったところで、初めて好きと言えばいいのだ。
 それに……さっきから視界の端をちらついているものを見ていると、そんな細かいことどうでもいいじゃん、という気分になってくる。
 彰の、おちんちんだ。射精したばかりのはずなのに、まだ立派に隆起していて、しかも精液でぬるぬる、てかてかになっている。もう、私のことを誘っているとしか思えない、魅力のかたまりみたいな状態になっていた。
 それから。私の方もさっきから下半身裸だったけど……実は、ずうっと、微妙に、きゅんきゅんと、あそこが感じ続けてるんだよな。股間の、真ん中の、おまんこが。
 何か、膣の奥の、子宮が、ほしがるみたいにして締め付けてるっていうか……うずきまくってるんだ。
 私は立ち上がって、自分の陰部を確かめてみた。すると、光が反射してまぶしくなるくらいに、濡れていた。
 つうか、びっしょびしょ。知らないうちに、お股から愛液が垂れまくっていたらしい。太ももを伝って、フローリングに小さい水たまりができているほどだった。
 それを感じると、あらがいがたい衝動が出てくる。
「あ、彰……どういうつもりか、っていうとね……」
 ぺと、と彰の陰茎を握りしめる。
「わ、ね、姉ちゃん、ちょっと」
「い、今、暑いじゃない?」
「それが何か……」
「あ、暑いとこういうこと、したくなるよね」
 自分でも何を言ってるのかちょっとわからないけど、でも彰には私の行動が読めたらしい。少し身を引こうとしてきた。
 けど、私は優しくリードするように、彰を抱きしめつつ、そのおちんちんを、自分のお股に持って行った。彰の態度は逃げるようなものだけど、おちんちんの方はがっちがちだからね。明らかに、まだ精液を出したそうな感じだからね。その意思をくみ取って、且つ今度はゆっくり優しくしてあげよう。
 陰部同士をにゅる、と触れさせた。
「あう」
 すると、彰が感じた……かどうかはわからない。私は自分の声と、突如襲ってきた快感に脳内を占拠されて、一瞬意識が飛びそうになってしまったから。
 まだ、触れただけだけど……あ、あそこが。あり得ないくらい。気持ちえぇ……。
「あ、あ、彰。お、お姉ちゃんがあ、や、優しくー、し、してあげるからー」
 やっとの事でそれだけ言うと、私は続けて、膣口を押し広げるようにして、おちんちんの先っぽをまずはねじ込むようにした。
 するとまた、ちかちか、と視界がかすんでくるくらいに、電気みたいな快感がほとばしった。痛いんじゃなく、苦しいでもなく、何かもう、ごあああ、みたいな。感覚。
「あぐ、ぐ」
 よだれが垂れてきた。止めようと思ったけど止まらん。意識を保つのがやっとだった。
 あー。あああー。こんなに気持ちいいのかよお。どうにかなるだろぉ、これ。
「ふぐ、ぐ。お股、熱い……」
 何とかそれに耐えて、とにかく、彰の様子を一度うかがった。私の胸の中にある顔を掴んで、こちらに向かせる。
 もしかしたら感じてないのかも知れない、と思ってのことだったけど……それは違った。
 彰も、顔を赤くして切なそうな、感じてそうな顔をしていた。快楽を感じてそうな、顔。
 それを見ると私はたまらなくなった。陰茎を握りしめて……その全体を膣内にぶち込んだ。
 じゅぽっ、という大きな音を立てて、私のお股の中に姿を消したおちんちん。瞬間、ぱんぱんに張ったそれが、膣内の肉壁全体を強烈に刺激した。まるで私のおまんこにあわせておちんちんが作られたみたいに、性器同士がぴったりと収まり、これ以外にはないというくらいの快感を運んできた。
「あ、あああ。あええ。ま、まずい、かなっ。これ。やばい、よ、ね」
 直後に、膣から突き抜けるような感覚が這い上がってきて、思わず、びくびくん! とけいれんしてしまう。
「ふぐぐぐ。ぐっ、ぐ! あ!」
 声が漏れると共に、かゆみとも痛みともつかない感覚がしばし、私の全てを支配した。時間と共に、それが明滅するように現れては、消えていく。これまでに味わったことのない、絶頂だった。
 全身を力ませて、何とかその快感に耐えきる。かなり長い戦いだった……もう少しでどこか別の世界に飛んでいくところだった。
「うふぅ、ふ、ふ……。へ、えへ。さ、最高すぎる……」
「ね、姉ちゃん……」
「あっ、彰。ご、ごめんね、お姉ちゃん、先いっちゃった。ふ、うふ。あんまり気持ちよくて……。あ、でも、だいじょうぶよ。ちゃんとしてあげるから……」
 そう言って、腰を動かし始めることにした。私だけ気持ちよくなるのは悪いからね。彰も優しく、絶頂に導いてあげないとね。
 そうして、おちんちんが抜ける直前くらいになるまで腰を持ち上げてから、一気にまた落とした。たぽん、と湿った音が響く。
「おぐっ」
 私は一度、予想外の気持ちよさに動きを止めてしまう。絶頂した直後って結構やばい。
 荒波が立っている海を、さらに超巨大なオールでかき混ぜるみたいな、快感の連鎖。
 でも、違う違う、これは彰を気持ちよくさせてあげてる行為なんだ。そう自分に言い聞かせつつ腰を上下させる。
「は、はぐっ。う……、あ、彰っ? どう? どうなのっ? あ、うぐ。……き、気持ちいい?」
「うぅ……」
「お、お姉ちゃんの、おまん、こ。う。ぜ、絶頂したおまんこっ、きっ、気持ちいい? 気持ちいいのっ!? あっ! 気持ちいい! 気持ちいいっ! ああっ!」
 じゅくじゅくと上下させてるうちに、また頭が真っ白になってきた。
 あああもう、わけわかんない。気持ちいいぞおお。
「ふぐううう」
 たぽたぽとやってると、膣内で、おちんちんがいっそうふくらんだような気がした。それは、すごくいいものが到来している前兆なのだと確信した。
 あの、精液が……あのエロい液体が、中にぶちまけられたらどうなるんだろう。そう考えると、もう彰が何事か言葉を口にしているのも耳に入らない。獣のように腰を上下させまくった。
 そのときはすぐにやってきた。
 彰が何かを叫んだ直後に……私が現在進行形で動かしまくっている膣の中に、何かがどびゅっ! と漏れ出てきたのがわかった。それは中を焼き焦がすみたいな熱さをもって、子宮口まで流れ込んでくる。洪水のように膣内を浸食していき……私のおまんこの中身は、全面が精液によって犯された。
 そして精液を飲み干す動作をするみたいに、子宮口がぎゅううううと半端ではない締め付けをした。それが直接、爆発のような快感に取って代わって、溢れた。
「あああぁあ。い、いぐうぅう、う! うぅ! おおぉう」
 叫んで、しばらくがくがくと下半身を震わせた後、飛びかけた意識のまま、前に倒れて彰にもたれかかった。
 本当にわけがわからない、という感じ。気持ちよさと幸せな気分がひたすら交互に襲ってきていた。
 ほんの少し、精液が膣内を流動したり、まだ入ったままのおちんちんがぴくぴくと動くたびに、ショートしたように、快感の残りが寄せては返す。それがあまりにも長く続くので、私はしばらくの間、彰をぎゅうと抱きしめたままでいた。
 腰がけいれんするのと同時に、やっとおちんちんが膣から抜けると……それを追うようにして、中を満たしていた精液がだらだらと、膣口から垂れてきた。それもまた肉壁を刺激して、気持ちいい。
「あ、あぅ、ふう、う。い、いった。いっちゃった。気持ち、よすぎ……」
 ずっとそのままでいたかったけど、とりあえず上体を起こして、彰を確認する。
「あ……彰も。気持ちよかったよね。これ。こ、こんなにいっぱい出しちゃって。ね。せ、精液。へへ。お、お姉ちゃんとのえっち、よかったでしょ?」
 ぼとぼととこぼれ落ちる精液を見ると思わず顔がにやけてきたが、構わず同意を求める。
 と言っても、彰の言葉を聞く前から私は内心で、すでにガッツポーズを決めていた。
 だって、彰ってば、あんなに気持ちよさそうな顔して、しかも私に、な、中出ししちゃったんだもの。気持ちよくないわけがなかっただろうし……となるともちろん、心はもう私の虜になっているはず。
 つーことは。私と彰のカップル、成立していると言っても過言じゃない。
 だいたい、もろにセックスしちゃったんだもの。もうほとんど、私と彰はちぎりを交わしたと言っても間違いじゃないだろう。
 ……だから、私は得意な気持ちで彰の言葉を待っていたんだけど。
 彰は――なんか、よくわかんないけど、私の期待しているような言葉を発さなかった。
 それどころか、そのときも、その後も終始……非常に微妙な表情をし続けていた。
 えっちが終わった後、片付けとか掃除とかしたけども、なんか、あからさまに私を避けるようにしていた、気がした。
 ……えっと。どういうことだろう。

 そして翌日。
 約束通り、友人の舞を自宅に招いたところ……。
 その後、私はあり得ない光景に出くわすことになった。
 ――まず始めに言っておくと、私は結構、というかかなり自信に満ちていた。つまり、今更、彰を狙って家にやってきたとしても、舞では彰をオとすのは無理だと確信していた。
 だって、私と彰は前日にセックスまでしたんだぞ。今になって部外者の女がやってきたところで、彰がそんな女に関心を示すはずはないじゃないか。そういうふうに、思うじゃないか。
 だけれども……。
 その日、舞は昼過ぎに家の門をたたいてきた。私が出迎えると、早速部屋に上がってきた。
 で、その後。
 私が別に何でもないような、大して時間の空きを作らないような用事で席を外した直後である。
 ――部屋に戻ると、舞と彰が、抱き合っていたのだ。
 意味不明。いきなり、想定していた中で最悪の事態が起こっていた。
 いや、抱き合っていたというか、舞が一方的に抱きしめていたような感じだったが、とにかくそういう風な雰囲気になってたのだ。
 私はぐぎゃぁああああ! と悲鳴を上げて二人を引っぺがそうとした。
「お、おんどりゃ! 何やっとんのじゃい! は、は、離れろ! こら、舞!」
 しかし舞は離さない。というか、彰があまり抵抗している感じも見せていないのだ。
 私は、なぜ!? と思いながら、二人に詰問した。
「これ何! どういうことよ! ワッツハプン!?」
「ねえ、よう子、あんた、彰くんと無理矢理セックスしたんだってね?」
「……へ?」
 汗がたら、と垂れるのを感じつつ、彰の方を見る。
 すると……何やら、彰が怖がるような目で私を見ているのに気づいた。
「へ……え? いやあの。私たち。別に、無理矢理ってわけ、じゃ……」
「でも、彰くんがやめてって言ってもやめなかったって」
「……あ。え、まあ。その。それは。だって。いやよいやよも好きのうち、というか……」
「何よそれ? 結局、無理矢理、したんでしょ。よう子、それ、犯罪だよ?」
 どうも否定できないような気がしてきて、猛烈な焦りが生まれてきた。
「ち、違……犯罪じゃないよ! 彰、わ、私たち、こう、合意の上だったよね!? ラブラブセックスだったよね!?」
「よう子。何がラブラブよ……。だいたいあんた、彰くんが好きとも何とも、一言も言わなかったんでしょ? セックスしたいからしようとか何とか言って、無理矢理したっていう話よ」
「……」
 そう言えば、と思い出す私。
 彰に好きと言おうか迷って、結局何も言わなかった……。
 ええと、私、何か、いろいろ失敗した?
 舞の言い分が事実としては正しくなってしまいそうで、私は慌ててすがりつく。
「ち、違いますう! 私、彰のこと、す、好きだし! それに、彰だって、あのときは私にちゃんと欲情してたはず! 誰がどう見ても合意の上だよ! カップル成立してます!」
「何か、よう子の言い方、ガチで性犯罪者くさいんだけど……」
 舞が冷めたような目で見ているのが怖くなって、彰の前にひれ伏した。
「あ、彰。彰ならわかってくれるよね。私の底なしの愛情……」
 しかし彰は舞からは離れようとしなかった。
「姉ちゃん。その……俺、舞さんと、付き合うから。もう俺にはあんなこと、しないで」
 があぁぁん! と私は衝撃を受けて、そのまま倒れ込んだ。
 私の夏、終了。エンドロール。そして閉幕。
「じゃあ、よう子。あんたには悪いけど……私たち、これから、デートに行ってくるわね」
「で、デヱト?」
「うん……ほら。彰くんとあんたを二人きりにしとくと、いろいろ心配だから」
 すっくと立ち上がる二人。部屋から出て行こうとする二人。
 私は信じがたい気持ちで見た。
「ね、ねえ。ちょっと、マジで? 置き去りっすか?」
「ごめんネー」
 あまりにも軽い捨て台詞を最後に……舞は彰を連れて、本当に出て行ってしまったのだった。
 想定外の出来事に私は放心してしまった。
 悲しすぎる幕切れである。ひどすぎないか?
 私は、このあとどうすんのこれ……と部屋でぼーっとした。それしかしようがなかった。
 で、もうどうでもいいかな、と思って、自暴自棄になりかけたところで、窓の外に、遠くに歩いて行く彰と舞が見えた。
 深く考えずに窓を開けると……私は自分でも知らないうちに、叫んでいた。
「彰のことほんとに好きだから! ぜ、ぜぇったい、お姉ちゃん、彰と付き合うんだから!」
 全くの本能だ。わけもわからず、大声で言っていた。
 近所に聞こえたかも知れないけど……そんなの、どうでもいい。
 だって、彰が遠くで振り返って、ちょっと顔を赤くするのが見えたから。
 それは私のアホな行動を恥ずかしいと思ってのことかも知れないけど、でもそうじゃない可能性もある!
 つまり、私にはまだ望みがあるってことだ。
 だから彰のことをあきらめる必要はない。今回は失敗だった、でも次に成功すればいい、そう思うことにすればいいのだ。
 窓の外を見ながら思った。
 うん、私がこれからすることはもう決まっているな。
「よし! 次は合意の上でセックスをするぞ!」
 何か違うという気もしたが、わからなかったのでとにかくその計画を練ることに決めた。
(終)