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真・蜂女物語(4)

 翌日。緑川博士によって進められていた、本郷猛の改造手術が完了する日である。その完成を待たずして、死神博士は早朝、ヨーロッパ支部に向けて去って行った。緑川ごときが造る最強改造人間など何するものぞという、彼のプライドの現れだったのかも知れない。地獄大使は、とうの昔に東南アジア支部に渡っている。富士樹海の中に造られたショッカー日本支部のアジトは、大幹部クラスが不在になり、脱走にとってはまたとないチャンスであった。
 本郷の脳改造が始まる直前、気分が悪いと言って席を立っていた緑川博士により、改造手術室の主電源が落とされた。あわてふためく科学者たちがいなくなった隙をついて緑川博士と本郷猛は天井を破って脱出。兵器保管庫に停めてあったスーパーバイク、サイクロン号の前にたどり着いた。
 里沙とは、ここで落ち合う予定だった。だが彼女の姿は、どこにも見当たらなかった。
 「何をしてるんですか博士、早くここを脱出しないと!」
 「…いや…深町くん…深町くんの姿が見えんのじゃ!」
 「何ですって!? 深町…リサが、このアジトにいるんですか!?」
 本郷は驚いた。1月半前に突如蒸発し、必死に探し回った最愛の恋人が、こんなところにいるなんて!
 「そうじゃ。…君と同じ、改造人間になって…」
 「リサが!? リサも私と同じ、改造人間になってしまったんですか!?」
 「…すまん…わしのせいじゃ。わしさえしっかりしておれば、君も深町くんも、そんな身体にならずに済んだのじゃ…」
 その時、追手の足音が間近に近づいてくるのが聞こえた。
 「いけない、博士! ここはとりあえず逃げましょう。リサは、後で私が助けに来ます!」
 「わしはいいんじゃ。ここに…このまま置いていってくれ…」
 「何を言ってるんですか博士! 博士がいなければ、誰がショッカーの野望を世界に対して示せると言うんですか!」
 本郷は博士とともに、サイクロンにまたがってアジトを逃走した。


 里沙は、猛から逃避したのだった。
 猛に会いたい気持ちは変わりがない。けれども、この1月半の間に、自分はあまりにも変わり果ててしまった。人をこの手であやめてしまった。怪物たちとまぐわい、性の快楽に酔いしれてしまった。ゆうべも藍子が出ていった後、入れ代わりに入ってきた蜘蛛男によって、朝まで何度も犯されてしまった。もう、猛には会うことができない。私はもう、日の当たる場所には出られないんだ。もう、このままでいい。わたしはこれから、ショッカーの改造人間として生きてゆこう。里沙はそう考えて、猛たちが脱出するはずの時刻には、別の任務を果たすためにアジトを離れていたのだった。
 アジトに帰ってきた里沙は、猛と緑川博士が無事アジトを脱走できたことを知り、安堵した。だが、同時に悲しい知らせも彼女を待っていた。
 里沙の理解者であった、ラグーザ博士が服毒自殺をしていたのだ。さらに加えて、ゆうべから姿が見えなかった緑川藍子が、兵器庫に続く通路でバラバラに破壊された状態で発見された。猛たちが脱走した際の混乱に巻き込まれたらしい。藍子の頭部は大きく損傷し、脳漿がはみ出ていた。里沙は藍子の亡骸を抱いて、後悔の念に苛まれて激しく泣いた。
 翌日里沙は、本郷猛の追撃に向かった蜘蛛男と、緑川博士の死を知った。自分を辱めた蜘蛛男の死は正直嬉しかったが、緑川博士の死は、里沙に大きなショックを与えた。このアジトには、もはや里沙の味方はどこにもいなかった。里沙は独りぼっちになったことを悟った。
 もういい。人間だった時の想い出は、すべて忘れることにしよう。これから私は、蜂女として生きてゆけばいい。


 蜘蛛男を倒した後、本郷は里沙を助けるために、富士樹海の中のアジトに再び戻ろうと試みた。だが何度探しても、かつてサイクロンとともに脱出したルートを、再び見つけ出すことはできなかった。
 「リサ! きみは一体どこにいるんだ! 改造人間にされて、どんなに辛い思いをしているだろう! リサ! リサ!!」


 それから里沙は、努めてアイグラスを装着し、蜂女としてふるまうことにした。今までは極力一人でいる時にはアイグラスを外し、深町里沙としての自我を保つように心がけていたのだが、不思議なことに今や自分の肉体が、自然とアイグラスを求めるようになっていた。アイグラスを着けていないと、不安で不安でたまらなくなるのだ。逆に蜂女の姿に変身すると、大きな充足感と至福感が得られた。里沙はもう、眠る時も蜂女の変身を解かなくなっていた。そしてショッカー改造人間としてのマインドコントロールも、当たり前のものとして受け入れるようになっていた。
 里沙はそれから、ショッカー改造人間として、多くの悪事に荷担した。美女の顔に変身できる能力を活かし、要人誘拐や暗殺、時限爆弾の設置などを次々とこなしていった。
 「ウフフフフ。私はショッカーの改造人間・蜂女。愚かな人間どもよ、偉大なるショッカーの前にひれ伏しなさい! オホホホホホ!」
 おりしも組織では、性慰安用セクサボーグの素体確保が大規模に行われていた。蜂女となった里沙は残忍な悪意を持って、素体狩りに積極的に参加した。うら若き女性が改造されてゆくさまを見るのは、里沙の密かな喜びだった。女子校の観光バスをそのままジャックし、アジトまで連れ帰った。集められた女子高校生たちは選別され、特に容貌の優れた5名がセクサボーグとして蜂女に改造された。残りの者は、戦闘員に改造されていった。
 セクサボーグ蜂女は、蜂女=里沙の改造過程を大幅に簡略短縮化し、約6時間での改造を可能にしたものであった。脳改造は行われず、その代わりに性交能力以外の力は与えられない、文字通りセックスのためだけに造られる、生きたダッチワイフであった。
 セクサボーグの素体確保は里沙だけでなく、夜の営みの相手を求める男性改造人間たちにとっても、愉快極まりないゲームであった。ある日サラセニア人間が、植物園で待機している時に一目惚れしたという女性を誘拐してきた。宮下雪絵というその女性は、改造されながら幼い弟の名をずっと叫び続けていた。
 「やめて!お願い!健ちゃん!健ちゃーんッ!!」
 蜂女の姿に改造された雪絵は、激しく泣きじゃくりながらサラセニアンの寝室へと連れられていった。
 またある日、セクサボーグの素体としてさらわれてきた娘たちの中に、里沙は見知った顔を認めた。緑川博士の次女ルリ子の親友、野原ひろみである。里沙は蜂女の変身を解いて、ひろみに近づいた。
 「お久しぶりね、ひろみさん。」
 「あ…あなたは、深町里沙さん!」
 「いいえ。私はもう深町里沙じゃないわ。私はショッカーの改造人間・蜂女なの。そしてあなたも今から、わたしと同じ姿に改造されるのよ。ウフフフフフフ。オホホホホホホ!」
 里沙はひろみの目の前で蜂女に変身した。恐怖におののきながらセクサボーグ蜂女に改造されたひろみは、やがてカメレオン人間の妻となるべく、どこかに連れ去られていった。


 こうして、本郷猛の脱走から、一月あまりの時が流れた。その間、正義の使者・仮面ライダーと名乗った本郷猛によって、アジトの改造人間たちが続々と倒されていった。いずれ、自分も本郷猛に悪の改造人間として倒される日が来るのかも知れない。里沙は漠然と、そんな不安を感じていた。
 セクサボーグがひととおり男性改造人間たちに行き渡るとともに、彼らの里沙に対する下卑た視線は徐々に和らいでいった。逆に里沙は、改造人間としての強い性欲に毎晩苦しめられていた。蛇姫メドーサとなった綾小路律子は、その後コブラ男をツバメのように扱い、よろしくやっているらしいが、里沙はとてもそんな気にはなれない。彼女の中では、未だに本郷猛の存在が大きな位置を占めていたのである。




 ある日、どうしても耐えられなくなった里沙は、一目だけでいい、猛の元気な姿を見ようと、彼が住んでいるマンションのそばにやって来た。アイグラスをはずし、季節はずれのコートをまとって、路地陰に隠れた彼女が見たのは、一人の少女と仲睦まじく歩く猛の姿であった。
 「じゃあルリ子さん、ここで。」
 「気をつけてね、猛さん。」
 その少女の姿に、里沙は見覚えがあった。緑川博士の次女、藍子の3歳年下の妹である、緑川ルリ子であった。
 里沙の心に、複雑な感情が渦巻き始めた。一方では、もはや人間の世界には戻れない自分を忘れて、新しい仲間を見つけた猛を祝福したい気持ちがあった。ルリ子は一人っ子の里沙にとって、言わば妹のような存在であった。そのルリ子になら、猛を託すことができる。悲惨な最後を遂げた父・緑川博士や、姉・藍子に代わって、ルリ子には幸せになって欲しいと里沙が願っていたのは確かだった。
  だがその一方で、自分も藍子も改造されてしまったというのに、一人だけ人間の身で幸せそうにしているルリ子に対して、嫉妬の感情を覚えたのも間違いない。この娘にも、自分と同じ苦しみを味あわせてやりたい。そういう残忍な気持ちが、里沙の中で少しずつ頭をもたげていった。その邪悪な感情こそ、ショッカーの蜂女としてふさわしいものだ。いっそこの娘を誘拐し、科学陣に引き渡してやろうか。
 だが、里沙はルリ子をその場でさらうことはしなかった。改造人間である里沙は、人間のルリ子に対して優越感を抱くことができたからだ。ルリ子がいくら猛を愛したとて、改造人間である猛は、ルリ子を抱くことはできない。もしも抱けば、彼女は壊れてしまうだろう。でも自分なら、猛と同じ改造人間である自分なら、猛と愛し合うことができる。その優越感が、この時は里沙をしてルリ子を見逃さしめたのだった。


 本郷猛は、夜眠りにつくと、決まって改造手術の悪夢に悩まされていた。手術台に縛られた自分に向かってくる、幾つものメスや手術器具。絶叫しながら目を覚ましたことも一度や二度ではない。
 それと同時に、猛は里沙が改造されてゆく悪夢も見た。泣き叫びながら、猛から引き離されてゆく里沙。手術台に縛られ、無理やり改造されてゆくその華奢な肢体。必死に猛に向かって手を伸ばし、助けを求める里沙の顔。
 「リサァアアアッツ!!」
 猛は飛び起き、必死で里沙の腕を掴もうとした。気がつくと、猛の手は本当に何物かを掴んでいた。その物は…。
 「…リ…サ?」
 それは、本当に里沙の腕だった。マンションの猛の部屋に忍び込み、その寝顔を覗き見た里沙の腕を、夢にうなされた猛が掴んだのだった。
 「リサ、本当にリサなんだな。生きててくれたんだな。本当に…本当に良かった…」
 猛は里沙の手を両手で被ったまま、感極まって涙をこぼし始めた。
 里沙は動揺していた。せめて寝顔を見るだけでいいと思っていた。まさか、猛が本当に目を覚ますとは思わなかったのだ。
 「見ないで!」
 里沙は、猛の手を乱暴に振りほどいた。そして、自分の身体を見られまいと物陰に身を隠した。
 「どうしたんだ、リサ!」
 「見ないで! わたしの身体を見ないで! …お願い!」
 里沙は必死で、改造され蜂女となった自分の姿を隠そうとした。
 「…わたしはもう、人間じゃないの! ショッカーの改造人間、蜂女なのよ!」
 「それがどうしたって言うんだ。」本郷は優しい声で呼びかけた。
 「僕だって、改造人間だよ。」
 「違うの! .違うのよ!」里沙は首を激しく振った。
 「わたしは、この手で人をあやめてしまった。この身体も汚されてしまった。わたしはもう、普通の人間の世界に住むことは許されないのよ!!」
 里沙の瞳は、涙で濡れていた。猛は彼女の涙を指でそっとぬぐい、そしてささやいた。
 「そんなことは関係ないよ。君がどんな姿に改造されようが、悪の手先として操られようが、君は今でも、僕の大切なリサだ。君を愛する僕の気持ちは、今でも変わりは無い。」
 そして猛は、蜂女に改造された里沙の身体を、隅々までじっと見つめた。濃いブルーのボディを、背中に生えた4枚の羽根を、そして黄色と黒の同心円模様の、双つの蜂の乳房を。
 「…きれいだよ、リサ。とても、とてもきれいな身体だ。」
 「あ…あ…ワアッ!!」
 里沙は猛の胸に身を投げ、大声で泣きじゃくった。激情に流されるまま、猛に身を預けてワンワンと泣いた。猛は里沙の身体をやさしく抱きしめ、そして里沙の唇に、熱い口づけを交わした。
 「ん…ん…んッ」
 そのまま二人は、ベッドに倒れ込んだ。二人はお互いの身体を激しく求め、ひとつにからまり合って愛し合った。言葉は何もいらなかった。彼らは二人だけの世界で狂おしく交わり合った。お互いのすべてを求め合い、奪い合い、そしてすべてを与え合った。そしてひとつに結合したまま、猛は自分の愛情のすべてを、里沙の体内に放出した。里沙も、全身全霊でそれを受け止めた。
 気だるい身体を横たえながら、里沙は自分の胎内に注ぎ込まれた熱い粘液が、身体の隅々まで広がり染み込んでゆく幸せをかみしめていた。
 「リサ…このまま二人で生きよう。ショッカーから離れて。今からでも遅くない。どんな身体になっても、君はリサだ。僕だけの大切なリサだ。」
 「猛…ありがとう…。私も…あなたと一緒に生きてゆきたい。もう一度やり直せるのなら…あなたといつまでも一緒にいたい!」
 「リサ…愛してるよ。」
 「わたしもよ…猛。」
 猛は里沙の身体を背中から抱きしめ、二人はそのまま、深いやすらぎの眠りへと落ちていった。


 里沙は、ふと目を覚ました。
 何かが…何かが足りない。里沙は自分の額に手を当てた。
 そうだ、アイグラスだ。アイグラスが欲しい。どうしても身につけたい。蜂女にならなきゃいけない。私は深町里沙であってはいけないんだ。私は、ショッカーの蜂女なのだ。それ以外の者であってはならないんだ。
 里沙はベッドから転げ落ち、床を這いずりながら必死でアイグラスを探した。
 ああ、アイグラス! わたしのアイグラス! わたしを蜂女に変身させてくれる、愛しいアイグラスはどこ!?
 うんうんとうめきながら床を這い回る里沙に、猛が気付いて起き上がった。
 「リサ!? いったい何をしているんだ!」
 「蜂女に…蜂女になりたい! 変身…変身しなきゃ! わたしは…蜂女。偉大なるショッカーに改造していただいた、大首領の忠実なるしもべ、蜂女!!」
 里沙は、脱ぎ捨てたサッシュのわきに、アイグラスが転がっているのを見つけた。
 「あった!」
 「どうしたんだ! リサ! まるで麻薬中毒患者のようじゃないか!」
 猛の言葉に、里沙はハッとなった。思い当たるふしがあったのだ。
 思えば、あの性交実験の時から何かがおかしかった。アイグラスを身につけるごとに、快感が広がってゆき、はずすと喪失感に襲われるようになったのだ。里沙は目の前が真っ暗になった。このアイグラスに、何かの仕掛けが施されたのだろう。私はもはや、アイグラス無しでは生きてゆけない身体になっているのだ。そしてアイグラスを着けたら最後、わたしは身も心も、ショッカーの悪の改造人間になってしまう!
 里沙は煩悶した。介抱する猛の声も、もはや届かなかった。必死で、アイグラスを着けようとする内面の欲求と闘った。だが、それが限界だった。
 里沙は猛を振りほどき、アイグラスを装着した。
 「変・身!」
 とたんに里沙の肉体は、妖艶なショッカー改造人間・蜂女に変貌していた。
 「本郷猛! わたしはショッカーの蜂女。今に必ず、裏切り者のあなたを処分します!」
 「リサっ!!」
 里沙、いや蜂女は、猛に捨て台詞を残すとマンションのガラス窓を破って、いずこともなく去っていった。




 里沙は、自分がもう、二度と人間の世界には戻れないことを悟った。自暴自棄になってアジトに戻った里沙は、科学者に頼んでアイグラスを自分の顔に固定してもらった。もう二度と、里沙の愛らしい顔に戻ることがないように。里沙、いや蜂女は覚悟を決め、ショッカーの改造人間としての悪事を積極的にこなそうと決心した。
 ショッカー首領から蜂女に対し、毒ガス製造工場のチーフとして、労働用人間の確保をするよう命令が下った。科学陣が蜂女に対し、彼女の羽根から発する超音波を受信して人を操る、特殊なメガネが提供された。蜂女は戦闘員の一人に影村という名を与え、メガネ店の店長に仕立てた。メガネを買った客を超音波で操り、地下工場に導いて作業員にするためだ。
 それと同時に、蜂女は本郷猛を何とかして、自分のアジトにおびき寄せようと考えた。メガネで操られる客の一人を、わざと本郷の通り道で彼と出くわすように仕向けた。案の定、本郷はメガネの秘密に気がついた。これでよい。本郷猛はきっと、このアジトにやって来る。
 だが意に反して、メガネ店の調査に来たのは緑川ルリ子だった。まあいい。この娘を囮に使おう。蜂女はメガネを買ったルリ子を超音波で操り、アジトに導いた。
 『…ショッカーがお前を必要としているわ…さあ来なさい…ショッカーの元へ…』
 のこのことやって来たルリ子を見て、蜂女の頭にあるアイディアが浮かんだ。蜂女は影村に指令を出した。
 「いい? 本郷は必ずお前の後をつけてアジトにやって来るわ。わたしが命令するまで、閉店せずにメガネ店で待機していなさい!」
 そして蜂女は、科学者たちを呼び寄せた。
 「この娘を、わたしと同じ蜂女に改造しなさい。ただし変身スイッチを忘れずに。どれくらいかかるかしら?」
 「ノウハウが確立していますから、6時間もあれば充分です。」
 蜂女は、目の前でルリ子が改造されてゆくのを、残忍な気持ちで眺めていた。だがそれは、単に本郷とルリ子を苦しめたいという気持ちだけだったのだろうか?人間女性を抱くことができず、常に性欲処理に苦しんでいるだろう本郷に、生涯の伴侶を作ってやりたいという気持ちも無かったのだろうか?それは、蜂女自身にもわからなかった。
 6時間後、無事にルリ子の改造手術は完了した。
 「ご苦労でした。で、変身スイッチは注文の場所にセットした?」
 「もちろんです。この娘のクリトリスが変身スイッチになっています。変身前は全身が人間の姿ですが、クリトリスを刺激して、性的エクスタシーが極限に達した時、この娘は自動的に蜂女に変身するでしょう。」
 「よし、いいわ。で、変身解除スイッチは?」
 「肛門の中にあります。このスイッチを押さない限り、決して人間の姿に戻ることはできません。」
 蜂女は満足した。人間の姿になったルリ子に元どおり服を着せ、蜂女は失神したままのルリ子にささやいた。
 「あなたは自分でも知らないうちに、我々ショッカーの一員になってしまったのよ。あなたは本郷猛にとって、獅子身中の虫。いつか役に立ってもらうわ。」


 蜂女からの指令でメガネ店を閉店した影村の後を追って、本郷猛がガス地下工場に誘い込まれた。本郷はガス室の人体実験を目撃し、捕われの人々を解放しようと試みた。
 そこに、満を持して待ち構えていた蜂女が現れた。
 「リサ…リサなのか? どうしてこんな非道いことをするんだ!」
 「毒ガスがどうしてもいるのよ。世界征服のために!」
 その言葉で、本郷猛は里沙が身も心も完全に、ショッカーの手先になってしまったことを悟った。
 「そうか…そしてお前が工場長ってわけか。」
 蜂女は、影村に人質に取られたルリ子を指差した。
 「本郷猛。この毒針の注射を受けなさい。この人質の命と引き換えにするのよ。でも、あなたを殺すわけじゃない。」
 蜂女の声が、急に優しいものに変わった。
 「麻痺させて、あなたを完全な改造人間にするためよ。そしてショッカーのしもべとして、わたしのそばにいつまでも、一緒にいてもらうわ。」
 本郷は悲痛な思いにかられた。だがルリ子を救うために、彼は甘んじて毒針を受けることにした。
 プスッ!
 「うッ!ううう…うう…」本郷の意識は、次第に薄らいでいった。
 蜂女は、これで本郷猛が自分のものになったと信じた。
 だが自らを傷付けて麻酔の効果を薄くした本郷は、やがて自力で拘束を脱した。隙を見て捕われの人々を救出し、アジトの中で大暴れを始めた。
 あわてて駆けつけた蜂女は、落とし穴のスイッチを入れた。
 「うわッ!」
 だが本郷は、落下時の風を利用して仮面ライダーに変身した。蜂女をライダーキックが襲う。
 “やられるッ!”蜂女は覚悟を決めた。
 だがどういうわけか必殺のキックは、蜂女の肩を少しかすめただけだった。
 衝撃で倒れ伏した蜂女を尻目に、仮面ライダーはルリ子や人質を連れてアジトから逃走した。
 「なぜ…なぜ、わたしを殺さなかったの? 猛さん!」


 本郷猛に逃げられた蜂女の八つ当たりは、戦闘員影村に向けられた。
 「こんどのことは、せっかく捕らえた本郷をみすみす逃がしたお前の責任よ!」
 「畜生!お前だって失敗すれば…」
 「えいッ!」蜂女の毒針を受けた影村は、黄色い液体になって消えてしまった。
 蜂女は、もはや本郷が自分のものにならないことを悟っていた。万策尽きた蜂女は、いよいよ後の作戦を実行することにした。
 「ウフフフフフ。計画があるからこそ、あの娘を返してやったのよ! オホホホホホ!」
 こううそぶきながら、蜂女のマスクの下は、いつしか涙で濡れていた。


 蜂女の音波で操られるイヤリングを着けたルリ子が、本郷のコーヒーに毒薬を入れた。案の定、本郷は事前にそれに察知して難を逃れ、イヤリングが受信している超音波の存在にも気がついた。これは予定通りだった。もとより、改造人間が毒薬などで倒せるはずがない。イヤリングの存在に気付かれても、蜂女は羽根から超音波を発することをやめなかった。本郷猛が超音波をたどって、自分の元に来てくれることを期待して。
 蜂女が決戦の地として選んだ造成地に、超音波に導かれて仮面ライダーがやって来た。
 蜂女は、自分の配下の戦闘員たちに闘う命令を下した。自分のボディを見つめる下卑た目に我慢がならなかったため、無理やり去勢した自分専用の戦闘員たちだ。
 だが戦闘員ごときの力では、ライダーに敵うはずもない。あっという間に戦闘員たちは全滅し、ライダーは持っていた剣を投げて、木の影に隠れていた蜂女の羽根を一枚もぎ取った。
 「うう…う」
 羽根を奪われた激痛に苦しむ蜂女。
 「リサ! もう終わりだ。君は傷ついてもう闘えない。早く、どこかに去るんだ!」
 蜂女は渾身の力をふりしぼって、レイピア(細身剣)でライダーに斬りかかった。
 「えい!」
 「やめろ! リサ! やめるんだ! 君とは、君とは戦いたくない!」
 蜂女の攻撃に、やむを得ず応戦する仮面ライダー。だがライダーはふと、緑色の複眼状カバーに覆われた蜂女の目の中に、涙がいっぱい溢れていることに気がついた。
 “リサ…きみは!”
 互いの剣を打ち交わしながら、蜂女はライダーに、こうささやいた。“…わたしを、殺して!”
 “ばかな! リサっ!”
 “…あなたと一緒にいられないのなら、いっそあなたに殺されたい。早く! わたしがこれ以上の悪事に手を染める前に、わたしを、殺して!”
 激しく剣を交わしながら、蜂女はマスクの裏側で激しく泣いていた。そして、それと闘う本郷猛も、ライダーマスクの裏側で絶叫していた。
 “…どうして、どうして俺たちが、闘わなきゃならないんだ!!”
 ライダーの剣が、蜂女の剣をはじき飛ばした。
 “さあ、早く! わたしを殺して!”
 仮面ライダーは、覚悟を決め、涙をかみしめながら叫んだ。
 「蜂女! お前みたいに人間の自由を奪い、平和を乱す奴は、断じて許さん!!」
 蜂女も、ショッカー改造人間の矜持を込めて、こう応えた。
 「何を小癪な! 来るか!」
 溢れる悲しみを乗り越えて、ライダーは、高くジャンプした。
 “リサ! 許してくれッ!!”
 蜂女は両手を広げ、キックを全身で受け止める体制を取った。
 “さあ、来て、猛。愛してるわ。今でも、愛してるわ。”
 「ライダァーッツ! キイィーーーッック!!」
 必殺のキックは、蜂女の胸めがけて炸裂した。かつて彼女の、血の通った心臓があった位置に。
 「キャアアアアアアアーーーーーーーーッッ!!!!」
 蜂女は崖を転がり落ちた。そして、黄色い液体になって消えてしまった。
 消える直前に、蜂女、いや里沙の顔が、確かに微笑んだ。
 “ありがとう…猛…ありがとう”
 ライダーは、天に向かって絶叫した。
 「リサあぁぁーーーーーーッッッ!!!!」


 緑川弘博士の墓に並んで作られた、もうひとつの新しい墓標。本郷猛と緑川ルリ子はそこに花を供え、長々と祈りを捧げた。
 「可哀想な…人。」
 「ああ、運命がもう少し違っていたら、こんなことにはならなかったはずだ。」
 深町里沙の墓には、遺体は眠っていない。蜂女は屍体を残さずに消えてしまったからだ。代わりに墓の中には、本郷猛との記念の写真が眠っている。
 本郷は、里沙の墓に誓った。
 “リサ。君のような被害者がこれ以上出ないよう、俺はこれからもショッカーと闘う。そしていつか、君の墓の前に、ショッカー壊滅の報告をしにくるよ。”
 「さあ、行こうルリ子さん。おやっさんたちが待っている。」
 「ええ、猛さん。」
 二人は並んで歩きはじめた。だがルリ子の身体に施された、新たな悪夢の火種のことは、二人ともまだ知るよしもなかった。

 (おわり)
2008年05月04日(日) 01:47:38 Modified by ID:TvA0Nt+3bA




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