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1章 4月
1-1 慶桜女学院
慶桜女学院(けいおうじょがくいん)・・・
パンフレットには確か学校自体が昭和の半ば、戦後に建てられたって書いてたかな?
なんでも日本も国際社会の一員として参加し、それにともない日本の女性にふさわしい教養を学ぶ場として設立されたらしい
慈悲と寛容をモットーとし、日本的な礼節・情緒教育なども行われているため、普通の高等学校としての教育機関とはいささか趣が異なる点があるようだ
早い話、おしとやかな女性を育てるお嬢様学校といったところだろう
普通に考えればこのようなお嬢様学校は私には縁もゆかりもないはずなんだけど・・・
なぜか私はこの学校に通う破目になってしまった・・・


そして女の子になってしまった俺・・・もとい私、風原 亜希は、今新しく通うことになる慶桜女学院の学生寮の前にいます
先日あった編入試験の時に少し見えたけど、こうして間近で見ると結構綺麗な建物だ
建物自体は木造の西洋風で、色は白を基調とした明るい感じの学生寮
この学生寮には入寮式というのがあるらしく、遅くともその日までには来て欲しいと連絡を受けていたのだが、
ギリギリに行くというのもちょっと気が引けるので、とりあえず始業式の前日に来てみた
私は玄関の横にあるインターホンを押すと、寮の中から「はーい」という返事が聞こえ、そして玄関が開かれた

「はーい、どなたですかー・・・
って、あれ?君は確か・・・先日あった子だよね?」

玄関から出てきたのは、編入試験の時に道を案内してくれた金髪でツインテールの女の子だ
改めてよく見ると背は私と同じくらいかな?瞳は右目が青く、左目が緑という変わった瞳をしている
やっぱり外国からの留学生なんだろうか?

「あ、先日はありがとうございました
今日からこの寮でお世話になる、風原 亜希と言う者です
よろしくお願いします」

私は先日のお礼と、今日からお世話になる旨を伝えるとペコリと頭を下げた

「あ、話は聞いてるよ
君が亜希ちゃんだね、確か3年生だったよね?ボクはこの寮の寮監督生をしているレナ・フローベル
亜希ちゃんと同じ3年生だよ、よろしくね♪」

レナさんは笑顔を向けながら右手を差し出した
どうやら握手を求めているらしい
さすが外国の人だ、お辞儀ではなく握手で挨拶をするんだなー、感心しつつ私はレナさんと握手を交わした

「それにしても思ったより早く来たんだねー
夕方くらいにくるかとおもってたんだけど」

「いえ、あまりギリギリに来るのも気が引けましたし、それに早くみんなとも打ち解けようかと思ったので・・・
ところでレナさん、この寮は私達しかいないのですか?」

レナさんはにこやかな表情をしながら私を寮の中に迎え入れてくれた
最初に感じた印象通り、明るくて優しい感じの人のようだ
私は玄関に目をやると、あまり靴がないことに気が付いた
他に寮で暮らしている人はいないのだろうか?
お嬢様学校だから寮よりも、自宅から通っている人のほうが多いのかもしれない

「ああ、今この寮にはボクの他に後もう一人、二年生の子がいるよ
あとは亜希ちゃんみたいに転入してくる3年生の子が一人と、新入生の子が2人かな?
最後の3人はまあまだ来ていないみたいだけど、その内来るよ
とりあえず亜希ちゃんの部屋を案内するね、付いて来て」

レナさんの話では後は私の他に後3人ほど来るらしい
どんな子が来るんだろうか・・・仲良くやっていければいいけど・・・
私はそんなことを考えながら、レナさんに自分の部屋へと案内してもらった


寮生の部屋は二階にあるらしく、階段を登ると幾つものドアが見えた
その内の一つの扉の前に止まった
ここが私の部屋なのだろう、確か荷物はもう届いているはずだけど・・・
そう思いながら部屋のドアを開けると、どうやら一人部屋のようだ
寮と言ってたから相部屋かと思ったけど違うようだ
やはりこれもお嬢様学校だからだろうか?
そんなことを思いながら割り当てられた部屋を見渡すと、ベッドや引き出し、本棚に勉強机といった家具に幾つものダンボールが鎮座していた
まずはこのダンボールを片付けないとゆっくりも出来ないだろう
そう思いながら片付けようとすると、レナさんが手伝ってくれようとしていた

「あ、あのレナさん、自分の荷物ですし、自分で片づけますので・・・」

私は流石に自分の片付けを人にも手伝わせるのは気が引けたのでやんわりと断ろうとしたが、レナさんの表情がやや不満気なものに変わっていた

「そう?でもいっぱいあるよ?
それと、基本的にここでは敬語は禁止っ!
この寮でみんなと暮らすんだから家族みたいなものだよっ!
だから変な遠慮とか、余所余所しい敬語はダメっ!!わかったっ!?
それにボクのこともさん付けじゃなくて呼び捨てでもいいよ
ちゃん付けならもっと大歓迎♪」

レナさん・・・もといレナは私をビシッと指さすと、この寮で生活する上での習わしという事だろうか、それを教えてくれた
確かに、少なくとも私は一年間この寮で暮らすことになるのだから、レナの言うとおりこの寮では家族の一員ということになるのだろう
そう考えると一人っ子だった私はどこか楽しく、そして嬉しく感じた
でもちゃん付けはやめておこう・・・

「うん・・・ありがとう、レナ・・・
私なんだか少し嬉しくなっちゃった
私一人っ子だったから兄妹とか欲しくって・・・」

「そうなんだ、亜希ちゃん一人っ子だったんだ・・・
じゃあ、ここではボクが亜希ちゃんのお姉さんになってあげるよ
これからはレナ姉ちゃんと呼んでいいから♪」

「いや・・・それは遠慮しとくよ・・・」

「えーーっ!?なんでーーっ!!
ボク妹とか欲しかったのに・・・ぶーっ!!」

「あはははは♪」

私たちは他愛もいないやり取りをしながら部屋の片付けを行なっていった


-かなたパート-

慶桜女学院からの合格通知を受けた僕は、今学園長室の前に来ている
それは先日学園側から電話があり、まずは学園長室に来て欲しいとの連絡を受けたからだ
僕は学園長室のドアをノックすると、中から返事が聞こえたのでドアを開けると、そこにはやや年配の女性の姿があった
彼女がここの学園の学園長なのだろう、優しそうな笑みを浮かべ学園長と書かれた札がついたデスクに着いている

「初めまして、あなたが御剣 かなたさんですね、話は伺っています
あなたが光子さんのお孫さんですね」

光子・・・それは先日亡くなった祖母の名前だ

「学園長は祖母のことをご存知だったのですか」

「ええ、彼女は私と同級生でこの学園の卒業生でしたから・・・
今でも目を閉じると光子さんとの楽しかった思い出が蘇ってくるわ・・・」

祖母はここの学園の卒業生だったのか
ひょっとしたら祖母が遺言で僕にこの学園に通うよう言ったことと関係があるのかもしれない・・・

「それにしても・・・ふふ・・・
あなたも大変なことになりましたね?かなたさん?ふふふ・・・」

学園長は僕の姿をみながらクスリと笑みを浮かべていた
自分でもこの学園の制服を来ている格好は情けないとは思うけれど目の前で笑われたらさすがにショックを受けてしまう

「学園長もお人が悪いです・・・
学園側で拒絶してくださればこういう目に会わずにに済みましたのに・・・」

僕はやや非難の目で学園長を見つめたが、彼女はクスリと笑いながら受け流していた

「なんにしろ、創立者の血縁であり、それに親友の頼みでしたからね・・・それに・・・
見たかったのですよ、光子さんの命が受け継がれていることをこの目で・・・
年寄りの我儘だと思って諦めてください」

「学園長・・・」

学園長は僕に亡くなった祖母の面影を見ているのだろう
まるで昔を懐かしむような目をしている学園長に僕は何も言えなくなってしまっていた

「年寄りというのは昔の思い出にすがって生きていくものなんですよ・・・
さて、リア先生・・・」

「・・・失礼します」

学園長が名前を呼ぶと、学園長室の横の扉から一人のスーツ姿の女性がやってきた
きっとこの人が学園長がおっしゃっていたリア先生という方なのだろう
銀髪の長い髪に、透き通るような白い肌が印象的な人で、優しそうな笑みを浮べている
一瞬外国の人だろうかと思ったが、日本語をしゃべっていたことを思い出すとリア先生は日本人・・・とまではいかないだろうが、少なくとも日本語は普通に話せるようだ

「こちらがあなたの担任となるリア・ヴィクトリア先生です」

「初めまして、御堂 かなた(みどう かなた)です」

リア先生は学園長の紹介の後一礼をし、僕も自己紹介をするとリア先生に一礼をした
ちなみに僕はこの学園では母の旧姓である御堂(みどう)を名乗ることにしている
それは創立者である御剣の名前を名乗り、そこから正体が露見することを避けるためである

「まあ・・・
ふふ・・・可愛いね君は・・・」

「あの・・・先生?」

先生はどこか獲物を狩る狩人のような笑みを浮かべながら、先生の赤い目が僕を見つめている
その笑みと視線に僕はやや冷や汗を流していた

「ん?ああ、ごめんなさいね、つい君が可愛くてね・・・
挨拶が遅れたけど私が君の担任となるリア・ヴィクトリアです
よろしくね、かなたくん♪」

「は・・・はい、よろしくお願いします」

先ほどの狩人のような目が嘘のようにおおらかな笑みを浮かべていた
さっきの目は僕の気のせいだろうか・・・?

「もし何か困ったことがあったらリア先生に相談しなさい。
私と教頭先生、それからリア先生以外あなたが男性であることを知りませんから
いいですね?」

「はい、分かりました・・・」

他の先生達も僕の正体を知らないのか・・・
大丈夫かなぁ~・・・

「それではお行きなさい、かなたさん」

学園長はそう言うと、僕は学園長室を後にした


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