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序章
0-2 ファーストコンタクト
買い物に拉致された俺は、いつの間にか母さんが用意していた女物の服やスカート、さらに下着を着せられ顔を真赤にしながら道を歩いていた
ていうかいつの間にこんなの用意していたんだよ・・・
あの時母さんは・・・

「こんな事もあろうかと用意しておいたのよ♪」

と言っていたが、うちの母親はバケモノかっ!?
本当はニュー◯イプだ、と言われても信じそうになる
しかしこの女物の服というのはどうも恥ずかしい・・・
なんで男の俺がこんな物をって、今の俺は女なんだけどっ!!
しかもスカートはやたらスースーするし、なんかすれ違う人がみんな俺を見て笑っているような気がしてならない・・・
うぅ・・・恥ずかしい・・・

「あら?どうしたの?亜希ちゃん、下を向いて?
お金なんて落ちてないわよ?」

そんな俺の心を知ってか知らずか、母さんは見当違いのことを言ってきた
いつもならここでツッコむところだが、今の俺は恥ずかしさのあまりそれどころではない
早く買い物を済ませて帰りたい・・・
神様もし本当にいるのでしたら助けて下さい・・・今すぐにっ!!
そんな俺の祈りが通じたのか、それ以降は何事も無く目的地のデパートに到着した
しかしっ!ここからが俺にとって本当の地獄が待ち受けていたっ!!

「はーい、サイズを測りますから手を横に水平に上げてじっとしててくださいねー」

俺は今新しく通うことになる学校の制服を作るため、サイズを測ってもらっている
しかも相手は割と綺麗なお姉さんだ
普段ならこんなきれいなお姉さんにサイズを測ってもらえればかなり嬉しいのだが、今の俺は緊張している
特にやましいことはないはずなのだが、一種の背徳感のようなものを俺は感じていた
それもそのはず、今作っているのは女生徒の制服なのだからっ!!
サイズを測り終え、店を出た俺にさらなる試練が襲い掛かる
次に向かったのは婦人服売り場だ
そこで母さんは喜びながら服を選んでいた
山のように抱え込んでいるが・・・まさかアレ全部着ろとか言い出さないよな・・・
そう思っていたら案の定まるで着せ替え人形のごとく次から次に服を試着させられた


婦人服売り場で精神的にダメージを負った俺にさらなる仕打ちが待っていたっ!!
下着売り場である・・・
男が来ようものなら白い目で見られる禁断の領域(レイヤー)
まさに男にとっては領海侵犯のようなものだった

「あら?亜希ちゃん、何そこで固まってるの?ほら、いくわよ
下着は今亜希ちゃんが着ているものしか無いんだから、いっぱい買っておかないと洗い替えとかないわよ?」

「い・・・いや・・・もう勘弁して・・・」

そんな俺の気を知ってか知らずか、平然とした顔で母さんは俺の手を引くが、俺の心は明らかな拒絶反応を示していた
もはやレッドゾーン突入といっていいだろう
今なら警告音まで鳴り響いているような気がする
ああ、ブラ◯トさんの声が聞こえるよ・・・
そうですね、左舷の弾幕が薄いんですね・・・うふふ・・・(現実逃避中)
これから先俺の意識は途切れ、気が付いたら大量の下着と生理用品が入った袋を持たされていた
どうやら俺の心が焼き切れ、ブラックアウトしたらしい
母さんの話しによれば、その時の俺はまるで本物の女の子のようにはしゃぎながら下着を選び、柄なども真剣に選んでいたのだという
生理用品についても同様で、真剣に母さんに聞きながら選んでいたらしい
穴があったら入りたいです・・・(泣)
むしろ入らせてくださいっ!!(切実)


俺はまるで落ち武者のごとく精神的にズタボロになりながらデパートを後にした
今までデパートがこんなに恐ろしいところだとは思っても見なかった・・・
俺は敗走する兵士のごとく、重い心を引き釣りながら帰路についていると一人の女の子がいかにも軽薄そうな男に絡まれている姿を見つけた

「どう見てもあれはデート中じゃないよな・・・」

「亜希ちゃん、どうしたの?」

俺はその女の子と絡んでいる男を見ていると母さんが不思議そうにしていた
普段なら放っておくところだが、今の俺はデパートでの敗戦で行き場のない怒りを感じている
あの男なら八つ当たりしてもいいよね♪
知らない人だけど・・・
私女の子だし八つ当たりしても許されるよね♪
あの女の子困ってるし
大義名分と八つ当たり相手を得た俺はとりあえず荷物を母さんに押し付けると、その二人の元へと歩いて行った
・・・むしろスキップしながらと言っても良かったかもしれない

「なあ、いいだろ?彼女
そこにいい店があるんだよ、俺と一緒にお茶しようぜ?」

俺は二人に近づくと話し声が聞こえてきた
しつこくナンパしているのは明白だ
相手の女の子は困ったよな顔を浮かべ怯えているのだろう、何も喋ってはいなかった
そしてそれに腹を立てたのか男は女の子の手を取ろうとした瞬間俺は男の手を掴んだ

「その辺にしたらどうだ?
その娘嫌がってるだろ?」

「ああっ!?なんだテメエはっ!?
・・・ひゅ~、きみ可愛いね、何なら君も一緒にお茶しない?」

いきなり腕を捕まれ、男は不機嫌そうな顔をしていたが、俺の顔を見るなり態度を変えナンパしてきやがった
神様コイツ殴ってもいいよね♪
すると心の神様が渋い顔をしていた
どうやら条件付きでOKとのこと
まずは睨んでそれでも引かなければ殴っていいよと言ってきた
とりあえず俺は心の神様に従い相手をおもいっきり睨んでやった
すると男は俺に恐れをなしたのか逃げていった
ふん、一昨日来やがれ

「あの・・・ありがとうございました」

俺は心の中でガッツポーズをとっていると、絡まれていた女の子が俺にお礼を言ってきた
よく見るとその女の子は腰まである黒く長い髪が特徴的な美少女と形容できる可愛い女の子だった
背は俺よりやや高いだろうか、線が細くとても華奢な感じだった
あのナンパ野郎の気持ちもわからんことはないが・・・顔が嫌いだったということにしておこう

「いいよ、気にしなくて
それより君は可愛いんだから気をつけなよ
じゃあね」

俺はそう言うと女の子に手を振り母さんの元へ戻った

「ふ~ん、どうしたのかと思えば亜希ちゃんなかなかカッコ良かったじゃない♪
でも女の子にいい格好を見せるのならもっと早くに見せるべきだったわね」

「はいはい・・・」

母さんは先程の一部始終を見ていたのだろう、俺が戻るなりニヤニヤとした顔を浮かべていた
俺は母さんに預けていた荷物を受け取ると肩をすくめながら家路についた


そしてこれが俺と御堂 かなた(みどう かなた)との最初の出会いだった・・・


-かなたパート-

僕は考え事をしながら街を歩いていた
もちろん考えていたことはさきほど僕を助けてくれた女性のことだ
背中まである長く綺麗な髪が印象的な、美少女と呼ぶにふさわしい女の子・・・
僕の脳裏にはその子の顔が焼き付いていた
あ、紹介が遅れたね、僕の名前は御剣 かなた(みつるぎ かなた)
現在高校二年で新年度から三年生に進級することになる
それは別にいいのだけれど、僕は今別のことで頭を悩ませていて、気分転換に街に出てきたのだけれど、あんな目に遭うとは思わなかった・・・
男の僕が男にナンパされるとは・・・
僕が元々女顔なのが悪いんだろうけど、それは僕のせいじゃない
それにしても・・・

「可愛いんだから気をつけなよ・・・か・・・
それはあなたのことだよ・・・」

僕は先程の女性から言われた言葉を頭に中で反芻していた
普段はそんなことは無いのだけれど、今回に限ってはなぜかそれが頭からはなれなかった
その時に見せた彼女の笑みで僕まで笑みがこぼれてしまうがそれもすぐに消えてしまう
なぜなら今僕の頭を悩ませている最大の問題があるからだ

事は昨日の夜に遡る・・・
両親に呼ばれた僕はとんでも無い事を言われたのだ

「かなた、突然のことで悪いのだが・・・来年度からは慶桜女学院(けいおうじょがくいん)に転校してくれないか?」

「・・・は?」

僕は突然父の言葉に耳を疑った
一瞬何のことかわからず、どうにか声に出せたのはその一言だけだった
僕の父御剣(みつるぎ) 隼人(はやと)はかの大企業、御剣グループの社長で冗談こそ言うが今回のようなとんでも無い事を平気で言い出すような人ではない
しかしそれでも僕は耳を疑わずにはいられなかった

「あの・・・父さん?もう一度聞いてもいいですか?
今慶桜女学院に入れと・・・?」

「ああ、私としてもこんなことは言いたくはないのだが・・・
私の母、つまりかなたの祖母からの遺言でな・・・」

僕は聞き間違いであることを切に願いながら、父に問いなおしたがどうやら聞き間違いではなかったようだ
しかもそれは僕の祖母の遺言らしい
僕は小さい頃多忙だった両親の代わりに、祖父母からかなりお世話になっており、祖母からの頼み、しかも遺言ともなるとそれを聞き入れたいとは思っているのだけれど・・・

「そ・・・そうは言われてもですね・・・来年は受験も控えていますし、なにより三年になって転校というのも・・・」

「それはそうなのだが・・・これだけはどうしても実現させて欲しいと遺言に書いててだな・・・」

あまりにも遺言の度を越しているため考えなおしてもらうよう説得してみるが、どうやら簡単には覆らないようだ
さすがに事が事のため、返事は保留とさせてもらったのだ・・・

「はぁ・・・どうしようかな・・・」

僕は昨日のことを思い出しながら何度目かのため息を付いた
返事は保留としてもらっているのだが、その期日が今日なのだ
なんでも今日に弁護士の人が来てその人が立会人となり、祖母の遺言が正式に伝えられるのだという

「なんで僕が女子高に行かないといけないんだろう・・・はぁ・・・」

僕は重い気持ちを引き摺りながら家へと向かった


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