北スパイの社長、映画さながら暗号駆使 防衛省は「京都大」自衛隊は「大阪大」

2013.01.11

 日本で生まれ育った男の裏の顔は、スパイ映画さながらに暗号を操る北朝鮮のエリート工作員だった。大阪府警が10日、北の工作員と断定した兵庫県尼崎市の運送会社社長、吉田誠一容疑者(42)。押収パソコンからは文書データを画像データに変換する北仕様の特殊暗号化ソフトも見つかり、北スパイが暗躍する実態が生々しく浮かんだ。

 平壌は「父」、北京は「母」、防衛省は「京都大」、自衛隊は「大阪大」…。吉田容疑者が北の軍関係者らとやり取りした英語のメール文面には、父母兄弟や大学名の名詞が不自然な形で使用されていた。

 いずれも本来の意味を置き換えた工作員間の隠語。およそ半年から1年の期間で隠語を変えていたとみられ、吉田容疑者のパソコン内に、複数の言い換え表が残されていた。

 吉田容疑者のパソコンにはデータ隠蔽技術「ステガノグラフィー」も搭載されていた。このプログラムを作動させると、文書ファイルが雪山などの画像データに“化ける”仕組みだったという。

 府警によると、吉田容疑者は兵庫県で生まれ、朝鮮大学校在学中に非公然組織「学習組(がくしゅうそ)」のメンバーに認定されたエリート中のエリート。捜査関係者は「学生のうちから学習組に入るのは珍しい。語学堪能で分析力がある」とみている。

 吉田容疑者は在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)機関紙の編集に携わった後、経歴を伏せて北朝鮮情報を取り扱う民間団体や国立大大学院などに潜入。脱北者情報や日本の軍事関連情報の収集にあたっていたことがすでに判明している。

 さらに、金正日総書記の専属料理人を務めた藤本健二氏=仮名=の身辺を調査し、安全な人物かどうか調べるなど、吉田容疑者の背後には常に北工作機関の影があった。

 府警はこうした吉田容疑者の経歴やパソコン内のデータに加え、中国や東南アジア方面への度重なる渡航歴を重視。北の軍関係者や朝鮮労働党関係者との接触を確認し、北のスパイと正式に認定した。